第51話
自由時間を得た頃には出店はほぼ閉店。辛うじてクレープが買えた。チョコバナナのクレープを齧りながらクラスに戻る。話によるとあの後も順調に売り上げを伸ばして驚異的な黒字になっているそうだ。クッキーも完売したらしい。良かった。大赤字とかだったら大変だよ。
片付けに精を出して、後夜祭。
後夜祭では何故かキャンプファイヤーをやる。文化祭で作った飾りなどを盛大に燃やしている。生徒は周りで踊ったり歌ったりしているようだ。私は里穂子ちゃんと一緒に燃える火を見ながら会話している。ウィッグとコンタクトはそのままだが、白い服だと汚れるので制服に着替え済みだ。里穂子ちゃんは文化祭でお化け屋敷に行ったり、文芸部の作品を読みに行ったり、縁日に行ったりと楽しんだようだ。如何に楽しかったか身振り手振りで教えてくれる。本当なら私も里穂子ちゃんか、雪夜君と一緒に周れるはずだったのに…羨ましい。来年こそは委員長なんかにはならないぞ!私は固く心に誓った。
一条先輩がそっと取り巻きから離れて中央校舎前の花壇に向かうのを桃花ちゃんが追う。というのを視認した。彼らはこれからイベントなのだ。自信が不安定になっている一条先輩を今回の文化祭の成功は一条先輩の力ですと桃花ちゃんが励ますイベントだ。暗い中でのイベントなので抱きしめたり耳元で囁いたりする甘いイベント。
ついでに告白でもして桃花ちゃんに振られたりしてくれないだろうか?このままじゃ桃花ちゃん逆ハールート一直線なんですけど。
「あ、朝比奈、ちょっと…」
同じクラスの篠原君だ。篠原君は文化祭実行委員で、今回の文化祭では協力して事を行う事が多かった。彼が呼ぶという事は文化祭の後片付けで何かあったかな?
「行ってきなよ?」
里穂子ちゃんがにこにこしている。まあ、行くけど…
「じゃあ、ちょっと行ってくるね?」
「戻らなくてもいいんだよ~。」
里穂子ちゃん。それは私が居ても居なくてもいいってことかい?ちょっと傷付いたぞ。
篠原君に付いていくと西校舎に隣接している駐車場のあたりまで行った。ふむ。文化祭に関するようなものは何もないようだが?
私は首を傾げる。
くるりと篠原君が振り返った。その表情には緊張が走っている。
「朝比奈、朝比奈は…その…」
パッと目を伏せ言い淀む。なんだ?
「その、あれだ。…今好きなやつとかっていんのか?」
……
……
……
は?
「いないけど。」
篠原君は残念なようなホッとしたような複雑な表情を浮かべる。
「じゃあさ、じゃあ、俺どう?」
漠然とした質問だな。
「どうって?」
「彼氏に。試しでいいから付き合ってみない?」
唐突な申し出であったが私の心は決まっていた。
「里穂子ちゃん。お待たせ。」
私は里穂子ちゃんの隣に腰を下ろした。
「あれ?戻って来ちゃったの?」
里穂子ちゃんは意外そうな顔だ。私はじろっと睨む。
「里穂子ちゃん、呼ばれたのがどういう意味か知ってて勧めたの?」
「そりゃーわかるよ。いくら鈍くても。」
グサッ。
胸に来たぞ。
全然気付きませんでした。私って結構鈍いのかなあ…
「彼氏彼女の関係になった?」
里穂子ちゃんの顔は興味津々だ。
「ならない。」
残念ながらそんな浮いた話にはならないのだよ。里穂子ちゃん。
「勿体無いね?篠原君結構格好良いのに。」
まあ、クラスでも結構イケメンに分類されるな。性格だって悪い方ではないし。しかし私の心は一ミリたりとも動かなかったぞ。
「だからって急に好きにはなれないよ。」
「じっくりならいいのかな?」
里穂子ちゃんが上げ足を取る。じっくりアプローチされる…ううん。想像つかない!
「恋をする気にはなれないよ。当分ね…」
そう。私は恋なんてしない。
後日、私と謎の美少年と二宗君が三角関係にあるというとんでもないデマが飛び交って度肝を抜かれた。
出処は焼き菓子追加部隊の手勢らしい。勘弁してくれ。
結衣ちゃんは陰では結構モテてるけど表立った告白は高校に入ってからは初めてです。
なんかいつも同じメンバーで固まってるのでアプローチしにくいようです。
イケメンからの告白。
だが断る。(キリッ