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第50話

次は学園祭演劇だ。題目は親指姫。地味というなかれ。これでも手芸部の一大舞台なんだぞ。特に蓮の茎を切ってくれる魚と、蓮を引いてくれる蝶の服は美麗。燕の服は燕尾服だ。学園祭演劇は演劇というより演劇を利用した手芸部のファッションショーである。演劇部は違う時間帯に違う場所で普通に演劇してる。今回の舞台も手伝ってくれているが。因みにお察しの通り親指姫役は桃花ちゃんだ。王子は五十嵐先輩。燕は雨竜先輩。舞台が進んでいく。

バタンと背後で音がした。魚役の富樫とがしさんが倒れたのだ。顔色が真っ白だ。これはまずい。


「私は保健医を呼んでくる。」


二宗君はさっと飛び出した。


「大丈夫なのか?顔が真っ白だぞ。」

「二宗が保健医呼びに行った。」

「舞台どうするよ。代役なんていねーぞ。」

「演劇部、誰か、舞台出れるか?」

「駄目、衣装に体格が合わない。」


ざわめいている。委員会の連中には体格の合う子もいるがセリフを覚えていなかったり舞台度胸が出なかったり名乗りを上げる者がいない。

しっかたないなー。


「私でよければ。台詞もト書き部分もバミリも覚えてる。体格も近いよ」


前世での演劇経験、活かしてみようじゃないの?


「マジか、朝比奈。」

「やってくれる?もう時間が無いから早く着替えて。」


急いで魚の衣装に着替える。ぶっちゃけマーメイドっぽいビキニにぴっちりとしたマーメイドラインのスカートだ。スカートにキラキラ光る鱗のラメが入っている。

観衆の中舞台に出る。腹から声を出すのは久しぶりだ。この感覚。懐かしい。桃花ちゃんは役者が違うので驚いた顔をしていた。

魚が茎を食いちぎる部分をこの学園演劇では魚が鋏で切り取ると解釈している。私は張りぼての大きな鋏を持たされている。シュール。

出番は終わり舞台袖に引っ込んだ。


「朝比奈よくやった。」

「有難うね、朝比奈さん。」

「富樫さんは?」


心配なので聞いてみる。今回の演劇関係者の女生徒がそっと私の耳に唇を寄せる。


「彼女アレで重い日だったみたい。心配はないそうよ。」

「成程。」


良かった。しかし倒れるほど重いとは大変だなあ。私も腹痛頭痛くらいはするけど。


「朝比奈君。綺麗だった。まるで人魚だな。」


大道具を運んでいる二宗君が感心したように衣装を眺める。練習で何度も見ただろうに。今更珍しくも無いだろう。


「泡になるのはごめんだよ。」


笑っていなした。私は泡になるくらいなら王子を刺殺して人魚に戻ると思う。

私は着替えて小道具の収納などを手伝った。場面はどんどん変わって燕が親指姫を春の国へと連れてゆく場面になった。雨竜先輩と桃花ちゃんが手を取りあい、舞台を進む。春の国で五十嵐先輩扮する王子との出会い。私は固唾を飲んで見守る。


「姫、どうか私のお嫁さんにな「嫌だ!」」


雨竜先輩が五十嵐先輩の台詞を止めた。


「親指姫、傷付いた僕を癒してくれたあなた。あなたが他の人のお嫁さんになるのなど嫌です!どうか僕についてきてください。ずっと僕のそばに居てください。」


このシナリオは雨竜先輩の心そのままだ。傷付き埋もれていた繊細な雨竜先輩の心を拾い上げ、大切に癒してきたのは桃花ちゃんだ。

しかし舞台袖は騒然となる。何せ筋書きにはない台詞なのだ。普通なら舞台が滅茶苦茶になる。落ち着いてるのは元の筋書きを知ってる私と桃花ちゃんくらいだ。桃花ちゃんがそっと握りしめられて震えている雨竜先輩の手を取った。それを見て我に返った五十嵐先輩が芝居を続行する。


「親指姫、もしあなたの気持ちが本物ならツバメと共に行くがいい。ああ、だが、もうこの春の国には立ち入らないでおくれ。あなたを恋しがる私の心が疼いてしまうから。」


アドリブの台詞とは思えないくらい気障な台詞だ。五十嵐先輩ノリノリだな。


「王子さま。ありがとう。私ツバメさんと行きます。」

「どうかお幸せに、私の愛おしいマイア。」


『マイア』は親指姫がエンディングで貰える名前だ。

ツバメと親指姫が退場して幕は下ろされた。本当は春の国の人々の台詞とかもあったんだけどね。全部ポシャッた。これは雨竜先輩お説教コースだね。



私は次のミスコン、ミスターコンの準備に追われる。二宗君は推薦でミスターコンの方に出るので別行動だ。メールが来た。雪夜君からだった。『さっき親指姫で魚役やってたよね?もしかして代役?驚いたけど、綺麗だったよ』雪夜君は本当にマメだなー。将来モテるんじゃない?あれ?聞いたこと無いけど現時点でも結構モテてるのかも?『有難う。役者の子が倒れちゃって代役だよ。失敗しなくて良かった。次はミスコン、ミスターコンあるよ。良かったら投票して行ってね』とメールしておいた。マメな雪夜君の事だからきっと投票していってくれるだろう。月絵先輩か桃花ちゃんに投票していってくれると思うんだけどどっちかな~。



ミスコン、ミスターコン。

……滅茶苦茶人が集まった。男も女も押すな押すなの人だかり。痴漢に置き引きが考えられるため警備の風紀委員もピリピリしている。こんな中、雪夜君に気軽に『良かったら投票していってね』とかメールしちゃったのか。申し訳ない。こうなると分かっていれば来なくていいってメールしたのに…私、読みが甘すぎる。

ミスコンが始まった。

結構レベルが高い美少女ばかりだ。中でも月絵先輩と桃花ちゃんは群を抜いていた。月絵先輩は白いアオザイ姿。輝かんばかりにお美しい。桃花ちゃんはエメラルドカラーにホワイトレースのドレス姿。ハイウェストの位置にエメラルドグリーンのリボンがある。可愛い。ついでに妖精の羽とティアラをつけている妖精ルックだ。親指姫だとラストで白いハエの羽根が貰えるんだよね。でもさ、ハエの羽って綺麗なイメージないよね。他にも煌びやかな衣装の美少女達がずらっと並んで壮観だ。

投票用紙に記入する時間を設けた後、ミスターコンだ。

男子は比較的そのままの衣装で出る者が多いようだ。二宗君なら執事服、五十嵐先輩は王子服、雨竜先輩は燕尾服、晴樹先輩も雨竜先輩とお揃いの燕尾服、四月朔日君は浴衣。三国君は上下スゥエット、一条先輩は一目でブランド物と解るスーツだった。こういう日くらいネタに走ってくれてもいいのに。私は一条先輩が着ぐるみを着てきても温かく迎え入れるよ?他にもイケメン達がずらっと並ぶ。生徒の為のコンテストなので残念ながら八木沢先生の出番はない。

ステージ終了後投票用紙を回収した。ちゃっかり私も投票した。自分で自分の仕事を増やしてる。マゾいよね。

そこからが戦争だ。委員たちが鬼の早さで集計する。

私も手元の投票用紙を捲る。ミスターコンは一条先輩が優勢なようだ。ミスコンは案の定月絵先輩と桃花ちゃんの人気が拮抗している。投票用紙を捲る中で見つけてしまった。ミスコンの欄に『1年4組の学級委員長』……これ雪夜君だろ?ありがたいけど無効だよ。他の委員長から声が上がった。


「なんか『1年4組のアッシュブラウン、ロングウェーブヘアの天使』ってやたら具体的に書かれてるのがあるけど、誰に投票すればいいの?」


……春日さんかな?もう。無効票が増えるじゃないか。

3時間後上位3名の名前と写真が中央校舎1階のコーナーに張り出される。

女子1位七瀬桃花

2位七瀬月絵

3位藤田理恵(一条先輩のファンクラブの子である)

私が思うに四月朔日君が女装して紛れ込んでたら3位以内に食い込んでたと思う。四月朔日君は女性扱いされるのをひどく嫌うのであり得ない話だが。

男子1位一条誠

2位五十嵐蓮

3位二宗数馬

二宗君は四月朔日君と僅差だったけれども、どうやら大いに執事服が持て囃されたようだ。夏美ちゃんグッジョブ。二宗君に夏美ちゃんは来ているの?と聞いたところ母親と一緒に来ているはずだと答えた。二宗君の母。見てみたい…

ふと廊下を出ると王子姿の五十嵐先輩がいた。王子って割には軍服っぽいいで立ちなんだけど、それが妙に似合っている。


「五十嵐先輩。2位ですよ。おめでとうございます。」

「あーりがと。結衣チャンは誰に投票したのかな?」


私は言葉に詰まった。実はミスコンは桃花ちゃんに、ミスターコンは五十嵐先輩に投票していたのだ。だって軍服風王子姿滅茶苦茶様になってるんだもん…性格はアレだけど見た目だけはいい男だよ。


「私は投票していません。」

「ふーん。で?ホントは?」

「してないったら!」

「結衣チャンが投票用紙に記入してるとこ見たけど?」


あうあう。見られてた…


「…その、七瀬さんと…五十嵐先輩に…」


私は真っ赤になった。


「俺かあ~。あーりがとね。結衣チャン」


五十嵐先輩はにやにや笑っている。


「因みに投票用紙に記入しているとこなんて見てないよ。」

「なっ!」


カマかけてたのか~!!!!この野郎!


「見事に引っかかっちゃう結衣チャン可愛いね?」


五十嵐先輩が私の髪を弄ぶ。


「ふん。知りません!」


私はその手を払ってどすどす去って行った。

本当に性格が歪んでるんだから!顔はいいのに!!


結衣ちゃんは五十嵐先輩の顔は結構好きです。性格はアレですけど。

そして踊らされているw

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