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第48話

「委員長、マジックとボール紙と糊とセロファンテープとガムテープが足りません。」

「ええい、いっそ、何もかも足りないと言えー!!」

「サー、イエス、サー!」


事前準備はしたが全然足りないらしい。足りない物を片端からメモしていく。

買い出しに行く必要があるな。


「誰かー、自転車貸してー。」

「私の使っていいよ。案内する。」


島津さん(覚えているかな?お菓子調理実習で桃花ちゃんの班に居た子だよ)が名乗り出てくれた。有難う。


「私も行こう。」


何故か二宗君が付いてきた。二宗君が漕ぎ手。私は荷台に乗った。片手で背中につかまりながら買い物メモを読む。二宗君の背中におでこをピッとつけているのでなんだか鼓動が速くなっているのがわかる。


「二宗君はこの辺詳しい?」

「ある程度の店の場所は把握している。心配無い。」

「じゃあ、品物の安い文房具店。」

「サー、イエス、サー」

「いや、二宗君までやんなくていいから。」

「…ちょっと楽しそうだと思ったんだ。」


耳が赤い。照れておるな。赤くなってる耳を引っ張ってみたいという衝動を抑え込み、前を見る。行きは上り坂が多いので漕ぐのが大変そうだ。


「漕ぐの代わる?」

「いや、大丈夫だよ。」


二宗君は息切れもしてない。大丈夫そうだ。

メモした品物をしこたま買い込み、ついでに頼まれていないが綺麗な折り紙を見つけたので買っていく。きらきらしてるしテーブルに置くメニューとかに綺麗に型抜いて貼ったら可愛いんじゃないかな?一瞬で小型な動物の形に型抜きで切るステーショナリーも2種類買った。そんなに高くないので予算で下せるだろう。ダメなら自腹切ってもいい。

帰りは下り坂だ。


「はやーい!」


自分では漕いでないのでちょっとしたコースター気分である。楽しい。二宗君は更に漕ぐスピードを上げる。本当にコースターみたいだった。風を切って走るってこんな感じだね。二宗君も楽しそうだった。ちょっと青春。



文化祭な訳で結構大掛かりな飾りつけをする。こういうのって作っても文化祭以降は使い道ないんだよね。最終日にキャンプファイヤーで燃やしてるみたいだけど。花火のように短い命だよ。その時そんな事を考えながら、私も委員長として副委員長の二宗君と資材運びを行っていた。二宗君は私の二歩前くらいを歩いていて、二人して階段を下りていた。私が踊り場に差し掛かった時、後ろを歩いていた大きな横長の飾りを抱えていた男子生徒が上階から声を掛けられて振り返る。横長な飾りがぐるんと半回転して私の背中を押しだした。

あれ?

私の体は勢いよく宙に浮いた。

あとは自由落下だ。顔面から落ちる!一瞬のうちにそう思った私の二の腕を掴む者がいた。

二宗君だ。二宗君は荷物を放り出し、私の二の腕を掴んで抱き抱えると、足場を蹴って空中に踊り出した。器用に空中で体を半回転させると、二宗君の背中から落下して着地した。

二宗君が痛みに呻く。


「二宗君!」

「朝比奈君…怪我はないか…?」


私は二宗君に抱きかかえられていたので特に怪我はない。


「私は大丈夫!大丈夫だよ。それより二宗君が…」


私は動転した。

飾りを抱えていた男子生徒も慌てて降りてきた。


「ヤッベ!大丈夫っすか!?」

「痛い。が、きちんと受け身がとれていたようだ。体にそこまで支障はないように思える。」


半身を起して体の調子を確かめている。階段を蹴って思い切り遠くへ飛んだのが良かったのだろう。私達が転がったスペースは階段の段ではなく、もう一つ下の踊り場だ。


「二宗君、助けてくれたのは嬉しいけど、無茶はしないで!二宗君が大怪我なんてしたら私…」


とても耐えられそうにない。それにどう責任をとっていいかわからない。突然、二宗君が大切な人だと自覚した。入学からの短い間に、私にとって二宗君はとても大切な友人になっていたんだと理解した。


「良いんだ。私は君に怪我をさせたりしたら、一生悔やむ。君が大切なんだ。」


未だ二宗君の足の上に乗っている私をそっと抱きしめた。

抱きしめられた体が温かい。


「に、二宗君。重いでしょ?どくよ。」

「もう少し、このまま…」


そう言うと私の首元に顔を埋めた。

うう。なにこれ。どうなってんの。恥ずかしい。

周りでは飾りを持っていた男子生徒がペコペコしながら荷物を拾ってくれている。私にはとても長く感じられたが、ちょっとの間、私を抱きしめていた二宗君は私を解放する。足の上からどいて二宗君が起き上がるのに手を貸す。


「本当に大丈夫?」

「大丈夫だ。そこの男子生徒、大きな荷物を運ぶ際は周りに気を配った方が良いと思うよ。」

「すいません。」


男子生徒は平謝りである。

とりあえず無事という事で資材運びに専念した。資材が機械類じゃなくて良かった。機械だったら確実に破損してたよ。




必要な内装の手配はした。羽と角は届いた。驚いたことに天使の羽根は本当に羽毛で出来てるっぽい。悪魔の羽根も合皮っぽい蝙蝠型だ。この仕上がりであのお値段は驚異の価格だ。これは少量取引する分にはいいが、大量取引は雑貨屋泣かせなんじゃなかろうか。私達は得したけれど。

バザーで出す品物も作った。編み物で編んだ毛糸の作品をいくつか出品。当日のローテーションも決まった。ローテーションは部活との兼ね合いがあるので結構苦労した。不足はない。と思う。肝心の衣装はお互いが驚きを味わいたいため当日まで全員秘密だ。

桃花ちゃんは学園演劇の練習に精を出している。練習を通してじっくり雨竜先輩と向き合い、雨竜先輩の心の影を取りはらうイベントだ。日に日に雨竜先輩の自分に対する意識が改善されていくのが傍目から見てもわかる。雨竜先輩は自己を確立して兄に対する劣等感から逃れられそうだ。それは純粋に嬉しいと思う。ソフトに自分をさらけ出すように誘導して、心の一番弱っている部分を掬いあげる。正直桃花ちゃんの手腕には舌を巻く。



前日は戦争だ。選抜しておいた調理班でお菓子を焼いて焼いて焼きまくる。他の喫茶営業のクラスも家庭科室に集まるので、第一、第二、第三家庭科室もすごい騒ぎになっている。調理班以外の者は教室の清掃、飾り付け。カップと皿は紙製だが、それ以外の小物は各家庭から持ち寄ったりしている。目が回りそうに忙しい。しかも急遽、出口付近で持ち帰り用のクッキーを売ることになり、作り手はてんてこ舞い。プレーンとココアのアイスボックスクッキーだ。ココアの方にはスライスアーモンドが入っている。プレーンの方は雪夜君が作ってきたクッキーに近い物ができる予定。卵、牛乳、バター不使用の一品。とにかく焼きまくる。出口横には二宗君が倉持君から誕生日に貰った特撮フィギュアのメモスタンドが教卓の上で値札を掲げてくれる予定。有効活用されてるな。



教室の飾り付けも完成に向かってスパートをかけている。テーブルクロスや花瓶、時計にミラー持ち寄った道具が次々に配置されている。壁にも動物をかたどった折り紙が貼られて、入口には色鮮やかなビーズカーテンが下がるポップなお店だ。天国と地獄には全く関係ないがお洒落な感じで可愛い。

学校から叱られるぎりぎりの時間帯まで働いてようやく完成を見た。

ホント疲れた。特に腕が。バター捏ねすぎて筋肉痛になりそうだよ。

校門から出るあたりで二宗君に会った。二宗君は副委員長の仕事で学園祭演劇の舞台装置を作っていたようだ。私は焼菓子製作の主要メンバーなので舞台装置の作製は免除された。


「朝比奈君、今帰りか?」

「うん。二宗君も?」

「ああ。」

「じゃあ駅まで一緒に帰ろうか。」


二宗君の家は私の家とは逆方向へ向かう電車に乗るので駅までしか一緒に帰れないのだ。

お互いに仕事の進み具合などを語りつつ帰る。明日の予定も話し合った。やはり二人とも自由時間はほぼ取れなさそうだった。クラス展示見たり出店で買い食いとかしたりしたかったんだけどな。今年は2年1組のお化け屋敷がすごいという噂。ちょっと行ってみたかったな…

ああ、なんでこんなことに…学級委員長は貧乏籤だった。来年は勘弁だよ。

空には大きな満月が。


「月がきれいだね。」

「……。」


私が言うと二宗君は言葉を詰まらせた。もう暗闇に包まれて判別できないが顔が赤い気がする。気のせいだろうか。


「…君は月が好きなのか?」

「まあ、好きって言うか思い出ではあるね。」


私が死んだ日もこんな満月の夜だった。

大したことは無い。月を見上げながらの帰宅途中車に撥ねられただけだ。後ろから撥ねられたので、もしかしたらバイクだったかもしれないけど、それは解らない。私が前世の最後で見た物は車でも道路でも両親の顔でもなく、月だ。


「うん、でも、まあ私の物にしてしまいたいくらいには好き、かな?」


星を欲しがる子供みたいな事を言って笑う。


「…それではクリスマスには君に月をプレゼントしよう。」


二宗君が生真面目に言った。クリスマスには学校主催のパーティがある。恐らくそこで持ってきてくれるのだろう。どういう形で月をプレゼントしてくれるつもりなのかは分からないが。


「私も何か贈るよ。何がいい?」

「君に貰えるものならば何でも。」


何かやたら甘い台詞に聞こえるな。耳が病気なんだろうか。


「期待しないでね?」

「それは無理というもの。」


誕生日にブランド物贈るような二宗君に期待されたらそれこそこっちが無理!だよ。何を贈ればいいやら。ちょっとした難題が発生しつつ駅に着いた。


「気をつけて帰ってくれ。…やっぱりもう暗いし家まで送ろうか?」


私的にはバイト終わる頃よりちょっと遅いくらいで、別に問題ない。


「いいよ。電車から降りたら徒歩10分だし。気にしないで。二宗君も気をつけて帰ってね?」


私達は改札入ったところで別れた。

あとは電車に揺られるだけ。寝過ごさないようにしなきゃね。


相変わらず無邪気な二宗君^^


結衣ちゃんを大切な人だと自覚して二宗君の気持ちは急加速。スタートダッシュの差やいかに。


結衣ちゃんの何げない言葉を夏目漱石流に受け止めてしまった二宗君。二葉亭四迷流に返せばいいのに。

月は結衣ちゃんの前世最後の思い出です。

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