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第45話

私は西校舎の近くにある薔薇園に立ち入っていた。ただの散策だ。色とりどりの薔薇が咲いている。美しい。今年の夏は雪夜君の家に行くのに薔薇の形のクッキーを持っていったが、チョコレートかマジパンで薔薇を模ったデコレーションケーキなんかも作ってみたい。薔薇は造形が美しいよな。お菓子にすると見栄えがいいので大好きだ。薔薇の上にチョコレートの蝶をとまらせるとかもいいな。カワイイ。イメージが湧いてくる。たまにはこういう散歩も大切だね。

ふと見ると一人の人物がはながらや枯葉を取っている。私はその姿を見て回れ右しそうになった。薄汚れた作業着姿の四月朔日君だった。作業着は薄汚れてても本人は花のように美しい。四月朔日君は私を目に留めた。


「キミは…傘の?」


ちっ。イベント妨害失敗の件をしっかりと覚えていやがる。


「あの時はごめんね。急に声掛けて。」

「別にいいけど、薔薇を見に?」

「うん。」

「薔薇は良いよね。」


四月朔日君がバラを見つめてうっとりと溜息をついた。薔薇と四月朔日君。恐ろしいほど絵になるな。汚れた作業着姿だけど。


「良いよね。チョコレートとか使うと綺麗に作れるし。この薔薇農薬使ってる?」

「は?使ってるけど?」


四月朔日君は意表を突かれたような顔をした。


「残念。無農薬なら薔薇ジャムとかも楽しめたのにな。」

「…キミ、ちょっと花の楽しみ方が変わってる。」

「そうかな?」


普通だと思うけど。


「花より団子って感じ。」


悪かったな。


「あなたが花を育てるのが趣味なように、私はお菓子を作ることが趣味なんです。」

「なるほどね。桃花ちゃんは薔薇にうっとりして声も出ない様子だったのにな。」


もう薔薇園イベントはこなしたらしい。まあ、私は桃花ちゃんじゃないので全く関係ないが。というか女の子を前にして別の女の子と比較するのって失礼じゃない?


「私は七瀬さんじゃないから。比べるの失礼だよね?」

「それもそうか。ごめんね。」


素直に謝ってくる。まあ別に怒ってる訳じゃないからいいけど。


「いいけど。どうせ花の真価なんて分からないと思うから。でも綺麗な花を咲かせるために四月朔日君がものすごく手間をかけてる事は分かる。」


優雅な水鳥が水面下では必死にバタ足してるみたいだよね?

四月朔日君がちょっと驚いた顔をした。


「…みんな綺麗な花にはうっとりするけど、その影の努力に気付く人はなかなかいないんだよ。気付いてくれて有難う。」


四月朔日君が綺麗な微笑みを浮かべる。この笑顔にやられる女子は多そうだな。


「いいえ。」

「キミ、薔薇なら何色が好き?」


桃花ちゃんはこの問いに「白」と答えるんだよな。白い薔薇の花言葉は『尊敬』『無邪気』『清純』『純潔』『私はあなたにふさわしい』だと言われて白い薔薇をプレゼントされるイベントだ。本数も1本の薔薇で、これは「あなたしかいない」という意味を込められている、という蘊蓄を語られる。薔薇か私なら…お菓子にして一番見た目が綺麗なのはピンクかな。ホワイトチョコに食紅を混ぜたやつとか。苺クリームとか。


「ピンクかな。」

「ピンクの薔薇の花言葉は『上品』『温かい心』『しとやか』だね。ちょっと意外だったよ。」


それは私が上品にも淑やかにも温かい心を持ってるようにも見えないってことかい?失礼な男だな。と言うか花言葉みんな覚えてるの?四月朔日君流雑学?ちょっと微妙だぞ、それ。


「四月朔日君は私が何色を選ぶと思ってたの?」

「そうだな。キミなら…オレンジとかかな?」


私のビビットカラーな眼鏡フレームを見ながら言った。私のアイデンティティは眼鏡ですか。そうですか。


「因みに花言葉は?」

「『無邪気』『さわやか』『信頼』だね。これもそんなにイメージじゃないかな?」


無邪気にも爽やかにも見えないってことですね。分かります。


「薔薇じゃない括りだと何の花が好き?」


薔薇じゃない花か。花にはあんまり詳しくないぞ?花には害虫がつきものなので普段はあまり近寄らないのだ。幼いころ遊んだ記憶を導き出す。


「うーん。白詰草かな。因みに花言葉は?」


よく輪にして遊んだな。四つ葉探したり。


「『私を思って』『幸運』『約束』『復讐』だよ。」


私は自嘲した笑みを浮かべた…復讐…か。


「イメージ通りかもね。」


四月朔日君は首を傾げている。


「僕はどんな花が似合うかな?」


四月朔日君が聞く。四月朔日君なら色んな花が似合いそうだ。なんたって少女漫画で言えば背景に花背負ってるような人だもの。


「…ストレリチアかな。」


四月朔日君はキョトンとした。

ストレリチア、極楽鳥花ともいうが、それは派手派手しい極彩色の大ぶりの花(?)。可憐な四月朔日君にはとても似合わないだろう。

花言葉は『すべてを手に入れる』


「キミって面白い人だね?」

「そう?私、もう行くから。」


私は四月朔日君に手を振って薔薇園を通り抜けた。

ストレリチアのもう一つの花言葉。

『気取った恋』

『恋する伊達男』とも言われるね。四月朔日君にはぴったりじゃない?


四月朔日君流雑学。花言葉。

四月朔日君は気障です。


結衣ちゃんにも美意識はある。ただ発揮される場はデコレーションケーキとか。

白詰草の花言葉。「私を思って」とか結構ロマンチックだと思うけどね?結衣ちゃん。

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