第42話
今日は私の誕生日である。ケーキを箱に詰めていた私は、日付が変わってすぐに妹に「誕生日おめでとー」とプレゼントを貰った。鞄だった。最近私が鞄乞食をしていたのを知っていた模様。よく鞄借りてたからな。両親は夜祝ってくれるそうだ。私はゆっくり睡眠を取ってから学校へ出かけた。ケーキも忘れない。要求する訳じゃないが、きっとみんな祝ってくれるだろう。ちょっと楽しみ。
そんなにペラペラ喋って無いので今日が私の誕生日だと知る者は少ない。というかあの4人以外にいない。昼食の時間になると里穂子ちゃんの音頭で特別教室に集まった。
「おうおう。朝比奈のケーキが食える日だな?」
林田君がはしゃいでいる。
「誕生日おめでとうでしょ。勝手な事言わない!」
里穂子ちゃんにチョップされていた。
「それでは~結衣ちゃんっ」
「「「「誕生日おめでとう」」」」
「有難う。」
皆がそれぞれの誕生日プレゼントを渡してくれる。
「開けていい?」
皆がいいと言うのを聞いてから一つずつ包みを開ける。最初は里穂子ちゃんのだ。とても薄くて平たい。なんだろう?包みを開いて出てきたのは西陣織のブックカバーだった。文庫サイズと新書サイズ。布が丈夫でとても綺麗だ。
「有難う。里穂子ちゃん。」
「お勧めの本あったら教えてね。」
里穂子ちゃんも趣味は読書だったな。次は林田君だ。包みを開けなくてもパッケージでわかる。某有名石鹸ショップの石鹸だ。林田君によると石鹸とシャワージェルとバスボムのセットらしい。匂いは蜂蜜だとか。私はお風呂大好きっこで長湯なのでバス用品は結構嬉しいな。お風呂入るのが楽しくなりそう。
次は倉持君。長細い箱に入っている。開けるとゴシックパンクな二連クロスの付いたシルバーのグラスコードである。超お洒落。正直滅茶苦茶嬉しい。倉持君センスいいな。私は改めてお礼を述べる。
最後は二宗君だ。二宗君のプレゼントセンスは監督する者がいないとかなりのジョーカーなのでちょっと不安。物はかなり小さいようだ。適当なビニール袋に入れて持ってきたらしい。袋を開けて硬直した。
袋の中には更に、私の尊敬する有名女優がショーウィンドウを見ながら朝食のドーナツ食ってるシーンが印象的な映画の題名にもついている、あのブランドの包装があったからだ。
しっかりした有名ブランドだ。
正規店で買ったらチャームだけでも1万3千円は固いシロモノだぞ。ただの友達に贈る?私達高校生だよ?そんなに金銭に余裕あるの!?太っ腹すぎやしませんか?
「ちょっ、二宗君、これ、貰えない…」
「気に入らなかっただろうか?」
二宗君は不安げな面持ちだ。いや、気に入る気に入らないじゃなくて。
「値段が高すぎるよ。」
「何貰ったの?」
里穂子ちゃんが尋ねるのでビニールの袋から出してみた。
「…二宗君やるぅ…」
何がだ。
「そんなに高かっただろうか?夏美に聞いたらこれがいいと言われたので決めたのだが。」
夏美ちゃんェ…
やっぱり二宗君のセンスじゃなかったか。二宗君のセンスからすればお洒落すぎるブランドだ。ニンヒドリン反応実験キッドとか贈られた方がまだ違和感が無い。
「夏美ちゃんにはきちんと金銭感覚の指導入れた方がいいと思うよ?」
でないと将来浪費を繰り返す困った女性になってしまう。金銭感覚は大事。小さな頃から躾けてあげないと。
「それはわかったが、やはり貰ってもらえないのだろうか?」
「貰えないよ。」
返品できるかどうか分からないけど、出来なかったら二宗君のお母さんにでもあげるべきだ。二宗君は目に見えて肩を落とした。
「そうか。夏美が『朝比奈さんに貰ってもらえなかったら私が責任もって捨てる』と言っていたので、これは廃棄される運命にあるということだな。」
ええええええぇぇぇぇぇぇ!?
こんな高級品を廃棄だとぅううう!?
な、夏美ちゃん何考えてるんだ。
「まさか、本当に捨てたりしないよね?」
「?夏美は約束を違えた事はないが?」
ををををぉぉぉぉい!あり得ないだろ。なんなのその制限。夏美ちゃんが責任もって使うなら解るよ。何責任もって捨てようとしてるの!?お姉さんもう理解できない。
「結衣ちゃん諦めて貰ってあげたら?」
里穂子ちゃんが言う。
「だって…」
「プレゼントは値段が全てじゃないでしょう?二宗君と夏美ちゃんが贈ってくれたっていう気持ちをちゃんと受け取ってあげなきゃ。」
別に高級品じゃなくて、本当に祝ってくれる気持ちだけでいいのに…
「そうだぜ、朝比奈。こんなことで二宗を情けない男にしてやるなよ。」
倉持君の援護射撃だ。確かに誕生日プレゼントを贈って拒否されるなんて相当屈辱だよね。マナー的にあり得ない。そのへんは私が間違ってた。プレゼントは普通相手の喜んだ顔が見たくて贈るものだと思うし、二宗君は物はちょっと常識とはずれていたが、やはり気持ち的には私に喜んでもらおうとしてたのだろうし。
「ホントに貰っちゃっていいの?」
何か訳のわからない胃の痛みが…素敵なアイテムを贈ってくれた気持ちは素直に嬉しいけど、ちょっと重い気がします。私、貧乏性だから自分如きにお金かけられるとちょっと恐縮しちゃうんだよ。
「君に貰ってほしくて買ったものだ。」
二宗君は真顔だ。
「じゃあ、ありがたく貰う。」
「貰ってくれて有難う」
二宗君は嬉しそうな顔になった。里穂子ちゃんがにまにましている。
「開けてみようよー。何が入っているのか楽しみだね!」
包装を開けてみるとそこから出てきたのはブランド名が彫り込まれてるハートプレートからチェーンが伸びているキーリングだ。可愛い。でも私の持ってる鍵につけるだなんて勿体無いな。素敵すぎて。
「わあ、可愛い!良かったね、結衣ちゃん。」
里穂子ちゃんは自分が貰ったわけでもないのに嬉しそうだ。
「使ってもらえると嬉しい。」
二宗君が言うので私の家の鍵をつけてみる。うう。絶対鍵なくせない…でもプレゼントくれたっていう気持ちは純粋に嬉しい。
「有難うね、二宗君。」
私は微笑んだが多分その笑顔は引きつっていたと思う。素直な嬉しさと相手の金銭的負担に対する慄きで。
「よし。プレゼントコーナーおしまい!ケーキだケーキ!」
林田君が騒ぎ始める。私は鍵をしまってケーキを出した。今回のケーキはスフレチーズケーキだ。クリームチーズをたっぷり使った豪勢な一品。ふっくら膨らんだし表面も割れてない。
「おお、旨そう!」
前回と同じように紙皿とプラスチックフォークを配る。各自の紙皿の上に順番にチーズケーキを乗せていく。
「どうぞ、召し上がれ。」
「結衣ちゃん、主役が一番先に食べるもんだよ。」
つい、いつもの流れで促してしまった。そうか今日は私が主役だった。一口口に放り込む。うむ。美味しい。しゅわっとした空気をたっぷり含んだ柔らかなくちどけ、濃厚なチーズのコク、程よい甘み。私的にはいつもの味ながら満足いく出来。
「美味しい…と思うんだけど。」
他の人の評価が下るまで何か安心できない。私の味覚だけが美味しいって言ってるのかもしれないし。
「いっただきま~す。」
各々がケーキを口にする。
「すごく美味しい。私が今まで食べたどの店のチーズケーキより美味しい。しかし君の誕生日なのに君にケーキを作らせてしまってすまないな。」
二宗君が感想と詫びを言う。
「お菓子作りは趣味だからいいよ。美味しいって言って食べてくれるのが一番嬉しい。」
「そうか。本当に美味しいよ。有難う。」
二宗君と二人で微笑み合うと、周りが何かにやにやしてるな。
「マジで旨いよ。朝比奈すげーな。」
倉持君も褒めてくれる。有難う。林田君はがつがつ食べている。そのペースで食べると一番先に食べ終わって、物欲しげに他人の皿を覗き込む羽目になるぞ?里穂子ちゃんは頬を押さえて悶絶している。言葉も無い。好評だったようで何より。
その後、次の倉持君の誕生日はどんなケーキがいいかとか、今まで貰った誕生日プレゼントで嬉しかったのは何かとか、色んな会話をしながら昼食を食べ終えた。
ご存知でしょうか?ティファニーで朝食を。
結衣ちゃんはオードリーのファンです。
本当はオープンハートとか贈りたいところだけど、現在交際しているわけではないから…と夏美参謀も妥協点を探した一品です。
スフレチーズケーキって美味しいですよね