第41話
今日は雪夜君とお出かけだ。春日さんの真似をして「おねーさんとデートしないかしら?」と誘ったら雪夜君らしからぬ、ちょっと動揺した反応を見せた。およ?
時刻はお昼過ぎごろからお出かけ。ふわふわの白いブラウスに、ピンクのポケットがリボンデザインになってるキュロット。キュロットはタック大きめだ。目元はコンタクトで足元はブーツ。全体的にちょっと甘めのデザイン。駅で待ち合わせるとトリプルレイヤードカットソーにグリーンのパーカー、ベージュのチノパンの雪夜君が待っていた。足元はお洒落なスニーカー。
「今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「ふふっ。ナイショ。」
雪夜君には行き先は内緒にしてあるのだ。電車に乗って目的の駅で降りちゃうと気付かれちゃうかもしれないけど。私は雪夜君にばれないようにチラチラ行き先を目で確認する。
行き先は日本で一番高い塔だ。
最寄り駅で降りて塔まで行く。下から見上げた図が凄い。でっかーい。雪夜君とすごいねーと話しあった。下からのアングルで写メとってみちゃったりして。まずはショップで買い物を楽しんだ。この塔にしか売ってないアイテムもあって、特別欲しくないのについ手が出てしまう。お土産もちょっと買った。自分用にハート型の限定ラスク。里穂子ちゃん達の為に塔の絵入りマカロン。あと興味本位で塔を模ったボトルに入った蜂蜜を購入してしまった。紅茶に入れて飲もうかな。雑貨なんかも可愛いが私の部屋の内装に合わないので断念した。雪夜君も色々買ってた。私と同じくマカロンと、瓶に入ったとてもカラフルなキャンディだ。
「んー。記念にこれも買っちゃおうかな。高くないし。」
雪夜君は塔の絵が描かれたミントタイプのタブレットを手に取っていた。
「そうゆうの好き?」
「息がスースーするのが好きかな。」
雪夜君の息はミント風味なんだね。爽やかでいいと思うよ。
「下の階にガラス床があるみたい。見てみようか。」
ガラス床ってーと床面がガラスになってて下が見えるアレ?えー…ちょっと遠慮したい。
「結衣お姉ちゃん、怖いの?」
雪夜君がにこにこしながら聞いてきた。いじわるだ!
「怖くないもん!」
うっかり挑発に乗ってしまう。私のおバカさん―――!!
ガラス床のある位置まで移動する。うひゃー…ホントに下まで見えるよ。怖すぎる。
「乗ってみたら?」
「えっ。それはちょっと。」
「手、繋いでてあげるよ。」
雪夜君は私の手を取ってガラス床の上に乗った。私も乗ったが、下を見るなりへにょっと腰が砕けた。ぎゅうと雪夜君に抱きついて足がプルプル震えている。雪夜君が支えてガラス床の外に連れ出してくれる。雪夜君はちょっと困った顔だ。私がこんなに怯えると思ってなかったのだろう。
「ごめんね。意地悪しすぎたかな?もうしないよ。」
優しく髪を撫でてくれる。
「うん。」
もうしないでね。
夕焼けの風景も少し見たが、良い感じに日が暮れたのでメインは夜景。まずは展望デッキ。凄く広い。でもショップやカフェが入ってるので周り全部が展望できる訳ではない。
「ここまで来たんだから展望回廊も登るよね?」
「勿論。」
展望回廊はぐるりと周り一面が見渡せた。建物の明かり、車のライト、橋のライト、遠くに見えるライトアップされた観覧車、光が凝縮されている。この光の数だけ人がいるんだと思うと感慨深いものがある。星の明かりにだって劣らない。キラキラと輝く夜景。
「すごく綺麗だね。」
「本当だね。よく見える。街の明かりがキラキラしてる。」
雪夜君が灰色がかった目を細めた。
「まるで空中散歩みたいだね。」
雪夜君がうっとりと夜景を眺めた。
雪夜君と手を繋いでゆっくりと回廊をめぐる。確かに空中散歩だ。私は特別高い所が好きなわけではないので、昼間に来たらちょっと怖いかもしれない。夜景は好きだけど。ゆっくりゆっくり、時々立ち止まって夜景を見たりしながら順路を辿る。
「…ねえ、今日なんで夜景見に連れ出してくれたの?」
雪夜君がポツリとこぼすように聞いてきた。
「ファンタジアランドでね、雪夜君がピーターパンのアトラクションで夜のロンドンの街並みの所とか好きだって言ってたから、いつか見せてあげたいなって。ロンドンの夜には劣るかもしれないけど、今はこれで我慢してくれる?」
私は小首を傾げた。
私も雪夜君を喜ばせてあげたかったんだ。雪夜君が普段私に優しくしてくれてるみたいに。
雪夜君はふんわりと私を抱きしめた。
「ううん。今見てる夜景が世界一…。」
優しく囁く声が耳朶を擽る。なんかどきどきする。胸の鼓動が早い。少し顔が熱い。でも嫌な感じではなくて…
「…うん。」
雪夜君はすぐに抱きしめていた手を解いてくれた。雪夜君は割とスキンシップ多い子だよね。
順路の先にはガラスと光の不思議な空間が設けられていた。これはこれで綺麗というか、なんか楽しい。じっくり堪能してしまった。
塔の中には飲食店も入っているが、ディナーはちょっとお高め。ランチは手が届きそうなんだけど。それはまあ大人になった時の楽しみに取っておいて、夕食代わりにカフェでカレープレートを食べた。星型のライスが可愛い。言うまでもなく、眺めは最高。私はうっとりだ。
帰りはちょっと遅くなってしまったが、私は楽しいデートだった。
雪夜君からも『夜景綺麗だったね。結衣お姉ちゃんがオレのこと考えててくれたのが凄く嬉しかった。ありがとう。最高のデートだった。』とメールが来た。えへへ~。企画した甲斐がありました。雪夜君に喜んでもらえて、私も嬉しかったよ。
雪夜君とわくわくデート。
二人で手をつないで夜景とか見ちゃって…
雪夜君は結衣ちゃんが自分の事ちゃんと考えてると知って、たまらなくなってハグ。