第4話
誤字訂正しました
月絵先輩は3年生です
五十嵐先輩の名前は蓮です
申し訳ありません
今日は身体測定、簡単なスポーツテストを終えた後、昼食を終え、部活紹介の時間をとる。その後がオリエンテーションだ。お忙しいこと。
まずは体操着に着替えて身体測定。
「結衣ちゃん、朝食どうした?私抜いてきちゃった!」
里穂子ちゃんがおなかをさすりながら言う。彼女は別段太って見えないが、やはり体重は気になるのだろう。私は食べても殆ど太らない体質なので普通に食べてきた。でもこれを正直に言うと周りの女生徒から呪われそうなので聞かれた事だけを答える。
「食べたよ。里穂子ちゃん別に太ってないからいいじゃない。」
「違うの!見えないとこにぽっこり来てるの!やばいの!」
彼女の言うところの『見えないとこ』を隠そうと体を掌で覆う。
「またまた~嘘ばっかり。」
こういうときのテンプレ文章を口にする。他に何が言えるってんだい。乙女の悩みは繊細なんだよ。
「あーっ!身長高くなってませんようにっ!」
遠くから長谷川さんの悲痛な叫びが聞こえてくる。高身長は彼女の悩みの種である。中三の時幾つだったか知らないがノートの通りなら現在は172cmである。これは攻略対象である三国君より高い身長である。三国君は苦々しそうに長谷川さんを眺めていた。
「身長高いの格好いいよ?」
桃花ちゃんが無邪気に笑っている。彼女は平均身長なので(それ以前にパーフェクトスタイルなので)長谷川さんの悩みは理解しえないのだろう。でも考えてみてほしい。彼氏が自分より身長低かったら?並んで歩く度にお互いのプライドをゴリゴリ削ってゆくものであろう。第一ショッピングの時になかなか体のサイズに合う服がないだろう。
因みに身体測定では胸囲は測るが、スリーサイズは測らない。私のスリーサイズなんてみんなどうでもいいだろうから敢えて言わない。
なんだかんだで身体測定は終わった。特筆すべき点はない。
お次は遺憾ながらスポーツテストである。私はスポーツ全般に置いて全く才能がない。当然のごとく平均を大きく下回る結果だった。見た目からして同じ仲間かと思われた里穂子ちゃんは短距離でかなりの好成績を収めており、満足げな笑顔だった。私はそれどころでなく長距離で根こそぎHPを奪われて五体投地状態だった。横腹痛いよう。え?桃花ちゃん?知るかそんなもん。
昼食は里穂子ちゃんと一緒にお弁当。
午後の部活紹介は運動部を主としたプチデモンストレーションが体育館で行われた。私は帰宅部のつもりでいる。
「里穂子ちゃんは部活入るの?」
「考えてはいるんだけどねえ。文芸部とか入っても創作する気はないし、読む専なら一人で本読んでろって感じだよねー。結衣ちゃんは?部活とか入ったりするの?」
部活ねえ。前世では結構頑張ってたけど、ちょっと燃え尽きた感がある。もうあの情熱は出せない。だって私の精神年齢○○ですもの。
「私は帰宅部。代わりにアルバイトに精を出そうかなって思ってる。」
「バイトねー。私もした方がいいのかな?お金欲しいし。」
てな感じであった。
オリエンテーションは手っ取り早く言うと新入生に対する2,3年との親睦会である。おそらく桃花ちゃんは今日、2年生の攻略対象と対面することになる。校庭に置かれた広くてやや高い台の上で生徒会長が挨拶を述べる。
「良く来た新入生。本日はオリエンテーションだ。在校生と交流し、良き学園の礎となってもらいたい、内容はこれから説明する。」
して本日のオリエンテーションとは。生徒会長のお話をまとめると2つ。校則クイズ大会と学園肝試しだ。校則クイズ大会は読んで字の如くだが、上級生が校則についての○×クイズを出し脱落形式で新入生を絞っていく。最後まで残っていた生徒たちには学校より学食無料券5枚が配布されるとのこと。学園肝試しは上級生と新入生が二人一組になる。夕暮れ時になった学校の中を上級生が学校にまつわる怪談をしながら一緒に回るというもののようだ。上級生は大量に余るので、その中の一部が脅かし役に回ると私は睨んでいる。まあ肝試しは学園の校舎案内を目的としているようだ。生徒会長の話が終わると拍手と黄色い声が起った。生徒会長のファンクラブの子たちだな。生徒会長こと一条誠には公式ファンクラブが存在する。ファンクラブ会員には一般の生徒が知り得ない一条先輩の情報が流れたりするらしい。
「さーってさてさて!校則~」
「○×クイズでぇ~す!」
双子が揃って壇上に上がってきた。
「司会進行は~六崎晴樹と~」
「六崎雨竜で~す」
二人揃ってニパっと笑う。顔体つきもそっくりだが動きも笑顔もユニゾンしている。攻略対象『六』の二人組だね。どちらかじゃなくて二人とも攻略対象だ。
「生徒会長も格好いいけど、双子もかっわいいねー。ソックリ!」
里穂子ちゃんが目を輝かせている。ありゃ?結構ミーハー?
「ホントだねえ。」
曖昧に頷いておく。確かに双子は可愛い。小さめの身長に元気よく飛び跳ねている茶髪。目はくりくりだ。ノートで内面を知っているだけに素直に頷けないが。
それから上級生たちが一人ずつ壇上に上がって基本的な校則からマニアックな校則まで1人1問ずつ問題を出していく。新入生たちは校庭に石灰で書かれた大きな○と×の上を移動する仕組みだ。正直6クラスもの生徒を捌ききれなくて問題がマニアック寄りに傾いている。しかもここぞという時に上級生がいらん煽りを入れてくるので新入生たちはがっつり数を減らしている。最終問題まで残ったのは20人くらい。
「でわでわ~最終問題です。」
徐に双子は壇上を下りて上級生の壁に隠れる。そしてにゅっと出てきてまた壇上に上がる。
「「僕たちどちらが晴樹と雨竜でしょうか~。正解者様には僕たちと握手してもらいま~す。不正解者様には上級生さん達からありがたーいデコピンを贈呈しま~す。」」
校則関係ないやんけ!
いや、そういうイベントなんだけども。桃花ちゃんもしっかり残ってるけど。私も何故だか残ってるけどね。里穂子ちゃんは5問目で脱落してた。
「それでは僕が晴樹だと思った方は○へ~。僕が雨竜だと思った方は×へ~。」
双子のうち一人が前に出た。握手もあんまりしたくないが、デコピンはご免こうむるっ!私は双子の手を凝視した。前に出ている方の手の方が若干いかつい。雨竜だ。つまり×!今まで常に前には晴樹が先に出ていた事を考えるに、それはミスリードだろう。
×側へ移動する。桃花ちゃんも×側へ移動してきた。この辺は黒歴史ノートのイベント項目に書かれてるのでオートだ。
「正解は………雨竜でした~。不正解者の皆さん精進するようにっ!」
何をだ。何を。
正解者は8名。双子が4人ずつ握手をしている。私には晴樹先輩が回ってきた。桃花ちゃんには雨竜先輩だ。桃花ちゃんは握手できゅっと手を掴まれ頬を染めている。
次はいい感じに日も傾いてきて学園肝試しだ。因みに私はお化けは全く怖くない。むしろ深夜にネットで怪談を調べるのがマイブームだった事すらあるほどだ。因みに桃花ちゃんの弱点はまさにお化け。極度の怖がりである。まあこれもイベントの一部ですので我慢しなっせ。
「こんにちは。始めまして、あなたを担当することになった七瀬月絵よ。3年。よろしくね。」
ストレートロングの栗色の髪がさらりとなびいた。すっきりとした切れ目のクールビューティーが目の前に居る。
「あ、宜しくお願いします。朝比奈結衣です。七瀬先輩は七瀬桃花ちゃんのお姉さんですか?」
「そうよ。よくわかったわね。あんまり似てないのに。」
まあ設定したの私だし。名前聞いてすぐにわかったよ。麗しいお姿も黒歴史ノートから飛び出てきた感じですし。
「えーと、なんていうか、二人ともオーラが違うというか。」
「ふふ。何それ。紛らわしいから月絵って呼んでくれると嬉しいわ。」
「はい。月絵先輩。」
月絵先輩も人の目を引く才色兼備のチート野郎なのである。しかもクーデレというギャップ萌え。慌てると特に可愛いと黒歴史ノートには書いてあったが、実際慌てたところを見てみたい。
チラリと桃花ちゃんを窺うと、そちらも先輩から自己紹介されているところだ。私の目線を追って月絵先輩が言う。
「五十嵐君と桃花が気になる?」
「五十嵐君っていうのは?」
ホントは知ってるけど聞いてみる。五十嵐先輩は脱色した金髪の髪(生徒指導されないのだろうか?)で前髪を緩くねじり上げて頭の上で留めていた。校則違反のピアスも堂々としており、なかなかに浮薄な男を演出している。顔は美人と言って差し支えないほど整っている。攻略対象『五』の人である。
「五十嵐蓮。2年生よ。見かけはアレだけどなかなかの狸だから注意した方がいいわ。ああ見えて成績も優秀よ。もしかして好みのタイプ?」
「いや、全く。」
それだけは否定しておく。
全力否定したのがおかしかったのか月絵先輩はくすくすと笑っていた。
私たちの組も出発して先輩に引率されながら学園内を周る。出発時間を少しずつずらすのと通るルートも各個全く違うらしい。手が込んでるな。とはいえ廊下を歩いてるとあちらこちらから悲鳴が聞こえる。案の定脅かし役も何度か出てきた。
「全く怖がらないわね。語り手としての自信なくしちゃう。」
月絵先輩がため息をつく。
「いえいえ。語りはお上手でしたよ。ただ私幽霊は全く怖くない派なんで。」
私たちにとってのゴールの西校舎の裏口から出ると続くように五十嵐先輩と桃花ちゃんが出てきた。桃花ちゃんが五十嵐先輩にお姫様抱っこされているという状態で。
「あらあら。五十嵐君達も今ゴール?」
月絵先輩が目を丸くしている。
「いんや~途中退場ってヤツ?ほら、このこ腰抜かしちゃってさ。」
「月姉~」
桃花ちゃんはぐすぐす泣いていた。こんな子供だましな肝試しが、腰抜かすほど怖かったのか。ああ…でも妙に狡猾な五十嵐蓮の語り口での肝試しはちょっと怖いかもね。少なくとも私は担当されたくない。桃花ちゃん…ゴメンよう。こんなイベント作って。
「まっ、オレは役得だけどね~。カワイイ子を抱っこできて?」
五十嵐先輩はにまにま笑っていた。
「まあいいけど私の妹に手出すんじゃないわよ。」
「我慢できたらね?」
食えない男である。
後に聞くところによると、里穂子ちゃんは適度に驚き、時に怖がり、十分この学園肝試しを楽しんだそうな。学園生活エンジョイしてるね。