第37話
楽しい夏休みも終わって9月になった。
私は桃花ちゃんに放課後の特別教室に呼び出された。さてはてどんな要件でしょう。私と桃花ちゃんってそんなに接点多くないはずだけどな。桃花ちゃんは教室に入ってももじもじして、なかなか話を切り出せないでいる。辛抱強く待つ。
「あのさ、朝比奈さんってその…乙女ゲームとかってやる方?」
桃花ちゃんが緊張した面持ちで尋ねてくる。上目遣いが可愛い。普通なら「これって桃花ちゃんに乙女ゲー仲間だと思われてる!?」って勘違いしそうな質問だが、あいにく別の心当たりがある。これは本格的に前世の乙女ゲーム関係者説を疑われてるな。何を疑ってるんだろう?バイト?勉強会?プール?二宗君との夏祭り?それとも雪夜君の家にお邪魔したのがばれた?
「1作品だけやったことある。青春学園物。」
本当は前世ではもっとやってたけど朝比奈結衣に転生してからはそれしかやったことない。青春もので面白かったな。小さい頃の約束を守ってくれる素敵な幼馴染。甘酸っぱいよね。私はツンデレキャラに弱いけど。現実でいたら確実にうぜーと思うタイプだ。あんなめんどくさいタイプの友達はいらないよ。
「そ、そうなんだ?」
「七瀬さんは乙女ゲーム好きなの?」
「わ、私はやったことないかな。」
「3次元の男子にモテモテだもんね。でもなんでそんな事を?」
桃花ちゃんは狼狽した。駆け引きとか向いてないタイプだ。桃花ちゃんの聞きたい事は平たく言うと「朝比奈さんって前世の乙女ゲームの知識を持っていて、ヒロインポジション狙ってるの?」ってことだと思うが。
「ほ、ほら。この学校乙女ゲームにしか出てこないような美形の先生とか学生とかいっぱいいるし…」
「まあそうだね。」
「あ、あの、同じバイト先に来たり、梅雨の時期、下駄箱前で四月朔日君に話しかけてたり、二宗君との勉強会の時一緒に来たり、ユキとプールに行った時現れたのは偶然?夏祭りで二宗君とデートしてたって聞いたけど…」
直球だな。駆け引きできないにもほどがあるよ。そこが可愛いんだけど。
雪夜君のお宅にお邪魔した事はばれていないようだ。良かった。
「デートじゃないよ。一緒に迷子の林田君探してただけ。偶然以外に何かあるの?」
しれっと嘘をつく。プールは偶然だが。
「な、ないよね…」
しゅんとした。
「もしかしたら私が彼らを狙ってるんじゃないかと聞きたい?」
桃花ちゃんがびくっと震えた。図星ですね。
「狙ってないから安心して。」
にこっと微笑むと桃花ちゃんは安心したらしい。桃花ちゃんが逆ハーレム狙ってるなら阻止しようと思ってるけれど、私自身が彼らを狙っているとか、そういうことはないよ。私は恋とかしないし。
「そ、そっか…」
「そういう話題を振るっていう事は七瀬さんには気になる男の子がいるのかな?誰誰?七瀬さんイケメン達と仲良しだよね?」
ついでにあわよくば本命を聞きだしたい。11股の逆ハーレムとかあり得ない事は止めて欲しい。是非とも本命を教えてくださいませ。
「き、気になる男の子なんて…恥ずかしいし…」
頬を赤らめる。くっはーかわいい!私が男だったら襲ってたかもしれん。桃花ちゃん、男子生徒と密室で二人っきりにならないようにね?美味しく食べられちゃうよ。
「どんな子が好きなの?」
「わかんない。自分で自分がよくわかんないんだ。」
「そっか。」
収穫なし。いい男が多すぎて選びあぐねているのか、本当にわからないのか分からない。
「朝比奈さんは恋愛しないんだよね。」
「うん。」
「そっか…強いね。朝比奈さんは。」
桃花ちゃんは寂しそうに言った。
でもホントはね、強くないよ。
「私はそう言いきる自信は無いよ…」
桃花ちゃんならノートの事が無くても素敵な恋愛できると思うけどな。「恋愛しない」なんて言いきる必要ないと思う。
それから桃花ちゃんは素直に気を許したらしく、攻略対象の事を色々教えてくれた。あんな事があった、こんな事があったと。色んなイベントをこなしてる。そのイベントの内容を喋っている様子は、さっきまでのネガティブが嘘のように楽しそうだ。
やっぱり桃花ちゃんには笑顔が似合うよ。これからもその笑顔が曇らないように、さっさとノート問題を片付けられるように頑張るよ!
桃花ちゃんはもっと疑い深い心をもった方が良いと思います。
でも素直なところが桃花ちゃんのいいところでもあります。