第36話
「だから二宗君とはそんなんじゃないって。」
ただ今絶賛言い訳中。INミルククラウン
雪夜君が二宗君の事をいやに気にしているのだ。一緒に委員会やってる事とか、体育祭でお弁当分けてあげた事とか、二人三脚した事とか、調理実習で交換を申し出られた事とか、勉強会乱入とか、夏祭りとか…あれ?結構接点多い?でも別に付き合ったりとかはしてないよ。これは誕生日の事とか七夕の事は言わない方がいいよね?なんか良からぬ方向性で誤解を生みつつあるし。
雪夜君はじっと私の目を見る。雪夜君の灰色がかった瞳はとても綺麗だ。宝石のようで一瞬見惚れる。
「ま、大丈夫か…」
一応誤解は解けたらしい。
「でも結衣お姉ちゃん、二宗が桃姉の攻略対象だからって気を許しちゃダメだよ。」
晴樹先輩の時に注意されたもんね。
「うん、ちゃんと異性として認識してるよ。」
「それはそれで微妙。」
何が気に入らないんだか、雪夜君は晴れやかな顔を見せない。
不満げにチョコムースケーキをフォークでつついている。雪夜君の好きなチョコレートなのにな。私がそれを見ている事に気付いたのか雪夜君が「食べたい?」と聞いてくる。実はちょっと美味しそうなんだよね。チョコムースケーキ。私が「うん。」と頷くとケーキを一口千切ってフォークに乗せて差しだしてきた。ぱくりっとそれをくわえる。うむう。ちょっとほろ苦くて美味しい。ムースがふわっとしていてチョコレートのコクがある。今度自宅でも試してみよう。チョコムースケーキ。
「結衣お姉ちゃんも気にしなくなってきたね。」
「なにが?」
「間接キス。」
私は噎せた。
「だ、だって雪夜君が…」
食べさせようとしたんじゃん。私悪くない!
「相手がオレだけなら何も問題ないんだけどね…」
雪夜君は何か呟いたが聞き取れなかった。聞き返してもはぐらかして教えてくれない。なんだいなんだい。雪夜君のケチ!
私は大人しくカスタードタルトを食べる。うむ。美味しい。
「…結衣お姉ちゃんはオレにくれないの?」
えっ?食べさせろという意味だろうか?私はカスタードタルトを一口分千切ってフォークに乗せて差しだした。雪夜君はぱくりと食べる。
「ん。うまい。」
それは良かった。私はちょっと照れるんだけど。頬が熱い気がする。
言い訳タイムが終了してからは雪夜君と買い物に繰り出した。秋服が必要な季節だよねー。色んな店を見て回る。雪夜君は結構服のセンスが良くて、秋物のワンピースとか見立ててくれた。ビジュー付きの花柄ワンピとか可愛い。生地はちょっとベロアっぽい。ビジューが付いてるので洗濯するのに気を使いそうだけど。カラータイツとブーツとかと合わせたら可愛い気がする。
さっきから頬が熱い気がしていたが、照れているだけではなかったようだ。歩いてると徐々に体調が悪くなってきた。
「結衣お姉ちゃん、もしかして体調悪い?」
雪夜君に聞かれてしまった。
「ちょっと。なんかさっきからぽーっとする。」
雪夜君が私の額に手をあてる。
「熱っ!熱あるよ。」
やっぱり熱あったか…なんか体がだるくなり始めてるもんね。
「気付かなくてごめんね。」
「ううん、一緒に買い物するのが楽しくて私も気付かなかったんだ。ゴメン。」
はしゃいでて全然気づかなかった。折角一緒にお出かけなのに体調管理なってないとか…申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。寒気がするのに熱っぽくて、だるい。
ふらっと壁に寄り掛かる。あー…壁冷たくて気持ちいい…
そこで私の意識は途絶えた。
次に気がついた時は知らないベッドの上だった。天井を見つめる。
「ココどこ?」
「私の部屋よ。」
声をかけてくれたのは月絵先輩だった。あれ?私さっきまで雪夜君と買い物を…
「ユキが大慌てで家に連絡してきたのよ。朝比奈さんが気絶しちゃったって。それで母さんが車で迎えに行ったの。ここは私の部屋よ。流石にユキの部屋のベッドって抵抗あるかと思って。ユキはさっきまで熱心に額のタオル変えてたんだけど…」
確かに額の上に濡れタオルが乗ってる。起きあがって周りを見回す。モノトーンでまとめられた部屋はまさに機能美を表している。ここが月絵先輩の部屋か…イメージ通り。
トントンとノックがして月絵先輩が返事をすると扉が開いた。雪夜君が洗面器を抱えて入ってきた。起きている私を見て吃驚した顔をしている。
「結衣お姉ちゃん、気がついたんだ。良かった。救急車呼ぼうか迷ってたんだ。」
オーバーな。
雪夜君が傍に来て床に洗面器を置く。洗面器の中には氷と水が入っていた。これで濡れタオルを冷やしていたんだろう。
「迷惑かけちゃってごめんね。」
「ううん。もっと早く体調悪い事に気付くべきだった。オレが悪いよ。ゴメン。義母さんが、結衣お姉ちゃんが気が付いたら家まで車で送るって言ってたけど…歩けそう?」
「うん。なんかすっきりした。大丈夫そう。」
「朝比奈さんの事は車から私のベッドまでユキがおんぶしてきたのよねぇ~。」
月絵先輩がからかうように言う。お、おんぶですか…今日ショートパンツで良かった…スカートだったら悲惨な事に。
「雪夜君、本当にごめんね。」
「いいんだよ。気にしないで。でも家に帰ったらちゃんと安静にするんだよ?」
雪夜君は優しい。ヨシヨシと頭を撫でてくれる。
雪夜君が耳元で「桃姉は外出中だから安心して」と言ってきた。良かった。雪夜君と一緒に外出なんかしてるの知られたらライバル認定されてしまうからな。
雪夜君が良く冷えたスポーツドリンクを飲ませてくれたので水分補給。
その後、私は典子さんに車で送ってもらって家に帰った。夏風邪は馬鹿がひく。私のようなな!
ケーキの食べさせあいっことかしたけど、雪夜君にうつってないと良いんだけど。
あまりにも無防備だと安心できないけど、異性として意識されるとそれはそれで安心できない。微妙。
ナチュラルに食べさせあいっことかしてます。笑。
結衣ちゃん、ちょっとは雪夜君にも危機感を持て。