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第31話

「学校の屋上でペルセウス座流星群を見よう!」


そんな企画が持ち上がったのは田中君と林田君からだった。あの二人は普段は別に仲良くないが二人ともイベント好きという共通点がある。即座に自分たちの仲間を誘った。林田君は倉持くん、里穂子ちゃん、私、二宗君を。田中君は桃花ちゃん、長谷川さん、三国君を。三国君はあまり乗り気ではなかったが、田中君の熱意に押されて了承した。夜の学校、わくわくするよね?私も了承した。もちろん夜の学校なんて許可が下りなければ入れない。二人は抜かりなく引率に八木沢先生を引っ張りこんでいた。そして私が学級委員長として「天体観測の許可」を生徒会及び教師陣に求める。あくまで真面目な天体観測を行うことで深まる科学的探究心を説明した。結果、許可は下りた。なんと一泊の宿泊許可付きである。流星群を見た後、自宅に帰宅する方が夜道が危ない、という治安的観点からである。ただし天体観測に参加した全員が簡単でも良いから何らかのレポートを提出する事を義務付けられた。その辺はちょっとめんどいが何のデメリットも無く、自分の思うままにはいかないもんだと諦める。

そしてここで意見が割れた。夕食の調理を私がするか、桃花ちゃんがするかである。林田君曰く「絶対朝比奈の飯の方が旨い」であり、田中君曰く「七瀬さんの清らかなる手によって作られた料理には何物も及ばない」である。正直どうでもいい。

「二人で作ったらいいのでは?」と二宗君が提案する。二人っつーか、みんなで作れば?なんで私らだけに料理任せようとするの?長谷川さんはこの提案に食い付いた。


「そうよ二人で別々の料理を作ればいいのよ!それで腕がわかるわ!」

「そ、そんな、綾ちゃん、私は二人で一緒に…」

「いーい、桃花、これは女のプライドの問題なのよ!」


桃花ちゃんは全く乗り気ではなかったが長谷川さんに押し切られた。桃花ちゃんちょっと顔が青いぞ。


「あ、朝比奈さんは何作るの?」


桃花ちゃんが必死、というふうに聞いてきた。


「ん~、やっぱりこういう時はカレーかな?」


合宿(?)といえばカレーは定番。王道は求められるからこそ王道なのだ。カレー美味しいし。

桃花ちゃんはホッとしたようだった。


「桃花は何作るの?」


長谷川さんがずいっと聞きこむ。


「えーと、私もカレー…」


結局二人ともカレーやないか。これは空気を読んで別の物作った方が良い?カレーは好きだが別に私は別のものでも構わない。


「いいわね!敢えて同じ物を作ることで腕を競うのね?」


あ、いいらしい。

というか長谷川さん、桃花ちゃんが勝つの前提で話してない?どこからその自信が来るの?桃花ちゃん料理得意なのかな?そんな設定してないけど。設定していない部分は不確定だから、もしかしたら得意なのかもしれない。


「ちょっと待てよ!俺は朝比奈の飯だけで良い。他の食ってらんねえ」


林田君は私の料理だけで良いそうです。林田君にはまだお菓子しか食わせた事無いのになあ?どこに惚れこんでるの?


「いっつもどれだけあの弁当を物欲しげに見てたと思うんだ!」


あ、ソースは弁当でしたか。確かに私のお弁当は私のお手製ですな。いつも頑張って作ってますよ?味も彩も良くなるように工夫して。


「俺も七瀬さんの料理だけで良い。あの清らかなる手で作られた料理だけで腹を満たしたいんだ!」


逆に田中君は桃花ちゃんの料理だけで良いみたい。田中君は熱狂的な桃花ちゃんの支持者だからね。憧れの桃花ちゃんのお料理をお腹いっぱい食べたいのだろう。


「そうねえ、そう言われると私も2食は食べられない気がするし…じゃあ、料理は桃花班と朝比奈さん班で別れてジャッジは八木沢先生に託しましょう。」

「えっ、俺か!?」


今まで黙って聞いていた八木沢先生が目を剥いた。まさかそんな女子の名誉を争う個人的競争に駆り出されるとは思ってもみなかったって顔だ。私の班に名乗りを上げたのが里穂子ちゃん、倉持君、林田君、二宗君。桃花ちゃんの班に名乗りを上げたのが田中君、長谷川さん。三国君はどっちでもいい派だったが人数の都合上桃花ちゃんの班に組み込まれた。とりあえず材料費はその班での割り勘となった。八木沢先生のみどちらの班にも生徒と同じだけの金額を出すことになっている。流石にこれだけの人数奢ってはくれないが、ちょっとは融通してくれるらしい。調味料とかは沢山使わないくせに値段がするので、割り勘ではなく自宅から持ち寄るつもりだ。お風呂は運動部のシャワールームを借りられることになった。布団も運動部の合宿で使用している物を借りられるそうだ。更に更に何と天文部の天体望遠鏡が一台借りられるそうだ。これの管理は八木沢先生にしっかりお願いする。流星群を肉眼で見るのが主な予定だが天体望遠鏡があれば他の星も観測できるだろう。良かった良かった。



来たる天体観測日。晴れている。良しっ!私はお風呂用品などの私物の他に調味料と食事の材料(夕食と翌日の朝食分)を持ち込んだ。鶏肉は既にヨーグルトに漬けてある。

昼過ぎ頃に集まった私達はとりあえず係分けをする。調理する桃花ちゃんと私。寝床を清掃する倉持君、林田君、田中君。天体望遠鏡の設置にかかる八木沢先生、二宗君。それらを写真に収める長谷川さん、アシスト里穂子ちゃん。三国君はどうしてもバイトが外せないのでバイト終了後に合流である。

お米を研いで炊飯器にセット。

それから私はトマトたっぷり、玉ねぎたっぷり、ヨーグルトたっぷりのサラサラなチキンカレーを製作だ。辛いの苦手なメンバーはいなかったはずなので辛口に作ろう。苦いものに続いて、辛い物も苦手な三国君がいたら思いとどまったが。

横目で見ると、桃花ちゃんは具材も普通の市販ルーを使ったカレーのようだ。夏なんだし夏野菜カレーとかにすればいいのに。まあ、そんなことは口には出さないが。

カレーを煮込んでいる間、リンゴとアボカドをサイコロ状に切ってまろやかめのヨーグルトで和える。手抜きだけどこれがサラダだ。カレーが辛口なのでまったりめ。更にデザートにアイスクリームを作る。


「朝比奈さん、それは何を作ってるの?」


桃花ちゃんがサラダを作りながら聞く。


「アイスクリームだよ。」

「アイスクリーム…」


その発想はなかった…の顔だ。流石にそこまで作らないだろうと考えて、一応桃花ちゃんの班の分も作ってるんだが。


「一応桃花ちゃんの班の分も作ってるんだけど、迷惑だったかな?」

「ううん。助かる。ありがとう。」

「いいよ、後で材料費は請求しちゃうけどね?」


流石に生クリーム全員分自腹は高いから。夏場のカレー最高だよね。そしてカレーの後のアイス。最高だよね。私は食に関しては欲求のままに生きる!

カレーが上手に出来たので写メした。雪夜君に写メの添付メールを送る。『ペルセウス座流星群を見るぞ的な合宿中です。今夜だよ。雪夜君も見るのかな?夕食はカレーです。七瀬さんと私が作ったよ。こっちは私作。』と。雪夜君とはよくお喋りもメールもする。毎晩電話でお喋りしてるけど、今夜はお喋りできないので代わりにメールだ。『すごくおいしそう。いいなー。ペルセウス座流星群見てみるよ。でも今日はお泊りか。結衣お姉ちゃんと電話できないね。声が聞けなくてちょっと寂しいよ。』と返信が来た。雪夜君って意外と甘えん坊なのかな?『そうだね。明日は帰ってくるからお話ししようね。』と返しておいた。

カレーとアイスが出来上がる頃、全員が家庭科室に集合した。三国君もちゃんと合流できたようだ。器にサラダとカレーを盛って配る。

全員でいただきますだ。


「うぉぉぉぉおおおおおぉ!マジうんめー!!」


林田君の絶叫が走る。対照的に倉持君は無言でカレーを食べている。それがまずいからではないというのは彼の表情とスプーンの進みの早さが物語っている。


「私が今まで食べたカレーの中で最も美味しいと思う。やはり朝比奈君はとても料理上手だな。君のご家族が羨ましい。」


二宗君にも好評だ。そんなに喜んでくれるとちょっと照れるではないか。


「将来夏美ちゃんが作ってくれるかもよ?」


照れ隠しに言う。夏美ちゃんの性格設定まではしてないので、将来どういうふうに育つのかよくわからないが。


「そうなるととても嬉しい。」

「夏美ちゃんてだあれ?」


里穂子ちゃんが首を突っ込んで来た。


「私の妹だよ。まだ小学生だが。」

「へえー。」


里穂子ちゃんが相槌を打つ。皆美味しそうにカレーをもぐもぐ食べている。

田中君も負けてはいない。


「流石七瀬さんの奇跡の手。平凡な具材たちがこんなにも輝きを帯びて…まるで皿の上が宝石箱のようだよ。そしてこの味。俺の平凡な人生に彩りを添えるかのようにスパイシーだ!得も言われぬ艶やかな辛みが俺の舌を絡め取って離さない。甘みのある玉ねぎ、まだウブな固さの残るニンジン、七瀬さんの心の温かさを示すようなほっこりとしたジャガイモ、しっかりとした歯ごたえのジューシーな肉、それらが合わさる事によって生み出される絶妙なハーモニー。七瀬さんの奇跡に舌が感動で震えているのが分かる。旨い!それしか言えない俺のこの口が悔やまれる。」


いや、すげーいっぱい言ってるよ。何なのこの人。『平凡』ってこんな人の事を指すの?田中君なんかキャラ立ってるよ。桃花ちゃんの事についてのみ。田中君が一番ノートから逸脱した感じのキャラだと思う。


「美味しいわ~。桃花、アンタ良いお嫁さんになるわよ!」


長谷川さんからも絶賛されてる。私は食べてないからわからないが、桃花ちゃんのカレーも中々良い出来みたい。


「そ、そうかな?」


桃花ちゃんは照れているようだ。可愛い。

里穂子ちゃんも安定の食べっぷりだし、八木沢先生も二種類のカレーをパクパク食べている。あれ?三国君は食が進んでいないようだ。どうかしたのかな?……。あっ!


「七瀬さん。カレーってもしかして辛口で作った?」

「うん。そうだけど?」


桃花ちゃんは何故突然そんな事を問われるのか分からないような顔をした。それからハッと気付いたようだ。


「み、三国君!辛いの苦手だったよね???ど、どうしよう。ごめんねごめんね?」


三国君が辛いのダメだという情報はあるのに、うっかり辛口で作ったらしい。ドジっ子属性やなあ。


「あ?なんで俺が辛いのダメだって知ってんだ?」

「え?あっ、えっと、その、そう!普段の食事見てて気付いたの!」


さすがドジっ子。口を滑らすのにも定評がありますな。


「あれ?朝比奈さんはなんで気付いたの?」


桃花ちゃんの顔は疑念に満ちている。


「…勉強会のときだって、ユキの時も現れたし、朝比奈さんってもしかして……」


ゲームの関係者だと疑っているようだ。ヒロイン乗っ取り的な。しかし本格的に疑っている訳ではないようにも見える。ここはしらっばっくれるのが最良の答えだ。


「今、見てて食が進んでないから、もしかして辛かったのかなって思っただけ。」

「そ、そう。」


桃花ちゃんはまだ私を気にしているようだが、一応納得の色を見せた。


「三国君、辛すぎるようなら生卵でも入れて混ぜてみる?ちょっとはマシになるかもよ?」

「おお。悪ぃな。頼む。」


私はカラザを取った生卵をカレーの上に落としてあげる。三国君はそれをよく混ぜて食べ始めた。あんまり美味しそうな顔はしていないが、食の進みっぷりを見るに、何とか大丈夫になったみたいだ。おかわりが続出して、多めに作ったカレーもきれいに無くなった。


「それで先生、どっちが美味しいですか?」


気追い込んで長谷川さんが尋ねる。桃花ちゃんは必死と言う顔で八木沢先生を見つめている。大きな目から涙が零れそうだ。八木沢先生の目は泳いでいる。


「いや。どっちも旨かったよ。どっちが旨いと感じるかは主観によって左右されると思うぞ。」


引き分けのジャッジ。妥当なところだろう。先生、お疲れ様。


「八木沢先生はどっちが美味しいと感じたんですか?」


里穂子ちゃああぁぁん!どうしてあなたは地雷を踏みに行くの!?ここはなあなあで済ませるところでしょ!?ああ、桃花ちゃんが泣きそうな顔で八木沢先生を見つめている。その視線に狼狽えている八木沢先生。ここは本当はどっちが美味しかったか知らないが、とにかく桃花ちゃんのカレーを選ぶのがベストアンサーだ。私のプライドにはお気遣いなく!八木沢先生に視線で語りかける。


「俺は、その……あ、朝比奈のカレーの方が好みだったな。だが、これは俺だけの主観であって、七瀬のカレーを選ぶやつも沢山いると思うぞ。十分旨い。嘘じゃない。」


『視線で語りかける』は通じなかったか。桃花ちゃんはあからさまにショックを受けている様子だ。他の誰かに美味しいと言われるより、攻略対象に美味しいと言われたいんだと思うよ、多分。


「センセー、サイテー」


ショックを受けて涙ぐんでる桃花ちゃんを見て長谷川さんが言った。理不尽だ!どう考えても理不尽ではあるが、時々理不尽な言い分もまかり通ってしまうことがあるものではある。

先生、ご愁傷様。


「まあ、まあ。それはともかく、デザート食べようよ。」

「デザート?」


長谷川さんがキョトンとした。


「アイスクリーム作ったんだ。あ、材料費は後で徴収するよ。」


ただのバニラアイスだけど。私は小皿にアイスを盛っていく。因みに三国君の好物は、ハンバーグ、ラーメン、アイスである。典型的な子供舌だ。三国君は嬉しそうにアイスを食べている。


「カレーの後のアイス。最高だね!」


里穂子ちゃんには大いに喜んでもらえたみたいだ。良かった。

ピリッとした舌がアイスの冷たさとまろやかさで癒される。カレーの後には定番だよねえ。


「むむむ。流石朝比奈さん、気が利くわね!美味しいわ!」


長谷川さんにも好評。皆でアイスを食べた後、食器を洗い、片付ける。それからのんびり屋上に上った。



イベントではないイベントが発生。

流れ星いいですよね。

桃花ちゃんVS結衣ちゃんのお料理対決です。

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