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第28話

里穂子ちゃんに海に誘われた。ああ、だがノン!海は波打ち際で足元だけちゃぷちゃぷやる分にはいいのだ。だけど本腰を入れて海に入ると、砂が水着に入り込んできてじゃりじゃり不快。しかも水飛沫が塩辛い。そもそも日本の海の多くは灰色の砂浜、海自体もなんだか濁って透明度の低いシロモノである。よって私は海より断然プール派だ。海は青く、砂は白くなってから出直してこい!というような事を力説すると「じゃあ、もうプールでもいいよ…」と疲れた声が返ってきた。よほど日常に疲れてるんだな。可哀想に。

とりあえずそのままの勢いで、おニューの水着を入手するべく私たちはショッピングデートへと縺れ込んだ。

威勢よくショッピングモールの水着コーナーに足を踏み込む。シーズンだけあってかなり多種多様な水着が取りそろえられている。


「結衣ちゃんはどんな水着買うの?」

「うーん、特に決めてないなあ。とりあえず自分に似合うやつ。」

「なるほど、セクシー系か。」

「ちょっとコラ、待て、何故『私に似合う』がセクシー系とイコールで結びついているんだ。」

「だって結衣ちゃん眼鏡レスの顔が小悪魔系なんだもん。」

「えーい!フリルとかリボンとかついてるヤツ買ってやるっ。」


めっちゃぶりっ子路線追及してやる!キュンキュンしちゃうようなプリチーな水着にしてやんよ!


「ふっふっふっ、結衣ちゃんマジック。しかと見させてもらおうぞ。」


里穂子ちゃんが悪い笑みを浮かべる。


「そういう里穂子ちゃんはどんなの買うの?」

「うーん、ボディラインに自信ないからお腹隠せるやつ。これは絶対。」


私は里穂子ちゃんのお腹に目をやる。特別太っているようには見えないんだけどなあ?


「や、ガチだから。見ないで…」


じゃあとりあえず試着。勿論下着の上からだが。上はピンクの可愛いタータンチェック、胸元にちっちゃいリボンがついている。下はデニム地のタンキニを試着。鏡に映る姿を見る。

うーん。私、中学生みたいじゃない?


「里穂子ちゃんどう思う?」

「ダメ。全然ダメ。子供っぽ過ぎる。」


ピンクボーダーのワンピースを着てみる。ビキニとの3点セットだ。なんて言うか、黒髪が浮いてるな。色彩的に。


「どうかな?」

「非常に言いにくいんだけど、その系統のピンクじゃない方がいいと思う。」


やっぱりか。なんていうかピンクらしいピンクというか、主張激しめのピンクだよね。似合う子もいるのだろうけれど、私には似合わない。


「あとさ、」


ん?


「結衣ちゃんスタイルいいからビキニだけで着た方がいいと思う。」

「えーそんなにスタイル良くないよ。それに恥ずかしいし。あんなの下着と変わらない露出度ですぞ。」


特に腰回りが心もとなくて嫌だ。露出度で言ったらビキニなんて下着と変わらないじゃん。露出狂じゃないよ、私は。


「結衣ちゃんの言葉とは思えないよ。私を大改造した時の自分をよーく思いだしてごらん。」


うう。確かにあのときは結構好き勝手言った記憶がある。じゃあいっそビキニでセクシー系選んでみるか。ゼブラプリントのバンドゥビキニを選んでみる。うん。無理。


「これはちょっと。ねえ?」

「大人っぽ過ぎるね。もしくはギャル系の子なら似合ったかもしれないけど。第一結衣ちゃん胸が大きめだからきつきつに見える…」


そこで軽快な音楽が流れてきた。里穂子ちゃんの携帯の着信だ。


「はい。もしもし?うん、うん。え―――――っ。私今友達と用事が。だって。そんなぁ。もうっ!お兄ちゃんの馬鹿っ!まぬけっ!」


里穂子ちゃんは携帯を切ってこちらに向き直った。


「ごめん!結衣ちゃん!アホで間抜けで自己中心的かつ横暴なお兄ちゃんが鍵忘れて行って家から閉め出されてるって。もうすぐ雨が降るかもしれないから早く帰って来いって煩いんだ。悪いけど水着選びは各自でってことで。」


里穂子ちゃんは申し訳なさそうに目の前でパチンと手を合わせた。それは仕方ないねえ。玄関先に屋根くらいあるだろうけど地面は濡れるし、家の前で立ちっぱなしもつらかろう。


「ん。分かった。早く帰ってあげて。当日の水着楽しみにしてるよ。」

「ありがとーう!!ホントごめんね!今度なんか埋め合わせするからっ!」


里穂子ちゃんはそそくさと去って行った。全く似合わないバンドゥビキニを着た私が試着室に一人残された。勢いだけで水着コーナーに来ていたテンションが下がった。む、むなしい。帰ろ…

着替えて試着室を出る。水着コーナーを出たところでちょうど晴樹先輩と出くわした。別に親しくもないが無視するのも感じが悪いのでぺこりと一礼した。


「さようなら。晴樹先輩。」

「さようなら~ってうちの学校の子か。よく僕が晴樹だってわかったね?」


何か前にも雨竜先輩に同じ事聞かれた気がするぞ。晴樹と雨竜は見た目はそっくりだが実はそんなに似ていない。晴樹先輩は基本的に楽天的で朗らかな性格(能天気ともいう)。雨竜先輩はネガティブで兄である晴樹先輩に強いコンプレックスを持っている。表面上は兄の晴樹先輩と同じ表情、同じ言動を取るが、目が違ってくるのだ。雨竜先輩の目の中にはいつも卑屈な影がある。その影が全く見当たらないということはこいつは晴樹先輩だと思っただけだ。あとよく観察すると手の大きさも違うけど。どちらにせよそれを暴露して興味を持たれても面倒臭い。六崎兄弟はしつこいのだ。


「ただの勘です。」

「はははっ、勘か~。ところで君、今水着売り場から出てきたけど、水着買ったのっ?」


全身から「見せて見せて!」オーラが出ている。うざい。


「買ってません。買おうとしたんですが水着選びに心が折れました。」


最悪去年の水着でもいい気がする。上迷彩下ベージュのシンプルなタンキニだが。どうせ私みたいな地味顔が何着たところで変わるまい。里穂子ちゃんも去年の私の水着は知らないはずだし。


「そうなの?じゃあ僕が選んであげるっ!」


満面の笑顔です。まぶしうざいです。


「お断りします。」

「えーなんでぇ。新しい水着買わないの?お洒落をサボるとどんどん枯れてくよ?干物女になっちゃうよ?」


うっ。痛いところを突いてくる。前世の私は干物女だったかもしれません。晴樹先輩のセンスってどの程度か。センスがいいなら選んでもらうのも悪くないかもしれない。黒歴史ノートに『ファッションセンスが良い』と明記されているのは春日さんだけなのだ。他の人間においては『ノートに書かれていない部分は不確定要素』の法則が適応されているはず。五十嵐先輩なんかは趣味良さそうだが。私はちょっと悩んだ。


「…購入するかは明言できませんが、選ぶの手伝ってもらえるなら手伝ってもらいましょうか。」

「そうこなくっちゃ!えーと、名前なんて言うの?」

「朝比奈結衣です。」

「結衣ちゃん!どんな水着着たいとかある?」

「出来ればフリルとかリボンがついてるやつが良いです。」


一応里穂子ちゃんに言ったのと同じことを言ってみる。別に強いこだわりがあるわけではないが漠然とした希望。可愛く見えるのがいいな。


「フリルとかリボンか…」


水着コーナーに入ってあれこれ手に取って見ている。


「じゃあこれとこれとこれとこれ試着して?」


ええ!?マジで?そんなにたくさん試着するの!?どっさり水着を渡された。水着ファッションショーの開幕である。



色々着てみて似合うだろうと思われるのも何点かあったが晴樹先輩はピンとこないらしい。私は大量に試着してちょっと疲れている。


「そう言えば結衣ちゃん、海かプール行くんだよねえ?眼鏡とかってどーするの?」

「使い捨てコンタクトにします。」


私は今、CとミラーになっているCのロゴのバッグとかが有名なブランドの、焦げ茶のセルフレームをかけているのだ。形はやや骨太で、セルの内側には特徴的なCとミラーになっているCの連なったロゴが綺麗な模様になっている逸品だ。


「そうなんだ。じゃあちょっと眼鏡外して見せて。」


私は言われるまま眼鏡を外した。その瞬間晴樹先輩が天啓でも受けたかのような顔をした。


「まさかの小悪魔系…まてまて!それなら…」


ぶつぶつ言いながら一着の水着を手に戻ってきた。


「これ着てみて!ぜーったい似合うと思う!」


センターリボンで胸の部分がティアードフリルになっている三角ビキニだ。腰の両サイドはリボンで蝶々結びの飾りになっている。色は無地の黒。フリルやリボンが良いと言った私の注文を見事にクリアしている。若干露出が多いのが気になるところだが、

着てみると恐ろしく違和感がない。今までの子供っぽいとか色が浮いてるとか大人っぽ過ぎるという事が全くなかった。我ながらすごく似合ってると思う。


「どう…ですか?」


自分ではいいと思うのだが一応晴樹先輩に聞いてみる。


「小悪魔系イエスイエスッ!可愛い&セクシーですっごいいいよ!やっぱり睨んだ通りだった。色の白さと艶やかな黒髪が黒の水着をひきたててる!フリルとリボンを用いる事でセクシー系に偏りすぎないようになってるし。眼鏡かけてる時は顔立ちがかなり真面目そうだったからデザインが可愛い系過ぎるかなって思ったけど、眼鏡してない状態だと凄く自然!これなら彼氏もイチコロだよ!」

「かっ、彼氏…?」

「あれ?彼氏と行くんじゃないの?海だかプールだか知らないけど。」


晴樹先輩は可愛い系と称されるあのくりくりの目をさらに真ん丸にしてキョトンとした。


「友達とです。彼氏なんていません。」


どうやら重大な誤解をされていたようだ。私が誰か彼氏を作るなどありえないことだ。


「へー。フリーなんだ?ふーん。へーえ。」

「なんです?何か問題ありますか?」


イラっときて上目遣いに睨んだ。


「別にないよ。……ところで一緒に水着選んだりするのって恋人同士っぽいと思わない?」

「ちっとも、全く、これっぽっちも、ミジンコほどにも思いません。」


きっぱりすっぱり切り捨てた。


「ちぇっ。言ってみただけだけど」


迷惑なご仁です。大体あなたは桃花ちゃんに籠絡されてしまう人なんですから、こんな道端の石ころに気安い事言わないでください。


「でもいい水着が選べたことは感謝してます。晴樹先輩、ありがとうございました。」

「どういたしましてっ!こっちもカワイイ女の子の色んな水着姿見れたことに感謝してるよっ。ありがとー!」


……一気に感謝の念が薄れました。


眼鏡はコーチのセル。

結衣ちゃんはエロかわボディです。本人に全く自覚がありませんが。

プールと言えば、次誰が登場するか、皆さんお気づきかと思います。予想は裏切られません。

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