第27話
期末考査も終わって晴れ晴れとした気分だ。里穂子ちゃんが冷房の近くに陣取って下敷きで顔を扇ぐ。私もそれに倣って扇子で顔を扇ぐ。扇子も最近は安い物が沢山ある。私はいつ壊れても、無くしても後悔しないように安い扇子を持ち歩いている。扇子の柄は流水に金魚で涼しげだ。
「もうすぐ夏休みだねー。」
最近暑さが尋常じゃない事になっている。思いっきり水風呂とかに入りたい。真昼間っから水風呂に浸かりながら読書とかしたい。
「そうだねー。いっぱい遊ぼう!」
里穂子ちゃんはウキウキだ。
「宿題大丈夫?」
「だ、大丈夫、多分…」
本当に大丈夫か?夏休み最終日のSOSとかこないだろうな?
「この夏の為にいっぱい色んな事を我慢して経費を稼いだんだもんねー。散財するぞー!祭りもあるしー!」
「あ、夏祭り?一緒に行かない?」
「えっ!?一緒に?!…ああ、そっちの夏祭りか。いいよー」
勝手に驚いて勝手に納得しないでもらいたい。
「そっちのって、他にどんな夏祭りがあるの?」
「私が祭りと言えば夏と冬の逆三角形だけど…結衣ちゃんにはピュアなままでいてほしい気もする。しかし逆に穢してみたい気もする。うう~ん!!」
結果。穢されました。里穂子ちゃんの「趣味は読書」には結構ディープな意味があったようです。ベーコンレタスであれがおいしいこれがおいしいと熱弁されました。超小声で。うん。ここ教室だからね。夏と冬の逆三角形か。噂には聞いていたけど中々熱いお祭りらしい。因みにコスプレもするそうで。へーすげー「見せてー」と言ったら「結衣ちゃんが同じようなコスしてくれるならね」と言われて迷い中。メイドコスプレするのに躊躇はないが二次元キャラのコスプレするのはまた別の恥ずかしさがあるな。
ルティにやって来た雪夜君にBLの事は伏せて報告したら「へー…コスプレしたらオレにも見せて」と言われた。うーん?するべき?しないべき?でもコスプレするとなると衣装作りがあるんだろうなあ。めんどい。しかしメイド服の事といい、雪夜君は結構コスプレ見るの好きなようだ。ルティでは季節に合わせて衣装を替えたりするそうなので、衣装を替えたら教えてあげよう。
「雪夜君は夏どうするの?」
「うーん、花火大会に祭りかー。プールはイベント回避したいところ。海も行きたいけど子供だし、足が無いからねー。電車だと遠いし。」
雪夜君には桃花ちゃんとのプールデートイベントがあるのだ。因みにもう家庭内で起こるいくつかのイベントは消化している。回避には成功していないらしい。
「七瀬さんの水着姿かー。見てみたいなあ。」
「桃姉の?なんで?」
雪夜君がキョトンとする。
「だって可愛いじゃん。凄くスタイルいいし、髪もふわふわで、睫毛ばしばし。目なんてすっごい大きくて、色白で、指なんてこーんなに細くって…」
私の黒歴史ノートに描かれた、私の好みの可愛らしさをぎゅっと濃縮した女の子。絶対可愛い!可愛い女の子の水着姿!オバちゃん、興味あります!!
「結衣お姉ちゃんだって、スタイルいいし、髪の毛つやつやで睫毛長くって目も大きいし、色白で指細いじゃない。指なんてこんなに細くて折れちゃいそう…」
雪夜君が私の指を取って眺める。雪夜君の手はまだまだ子供だけど結構大きい。私の指なんてぽきっと折れそうだ……というか、そうやって手を握られてじっくり見られるのはちょっと…私は照れた。雪夜君は気付いたようで「あ、ごめんね?」と言って手を放してくれた。
「コホン。雪夜君は宿題大丈夫?」
里穂子ちゃんに尋ねたのと同じ質問をしてみる。
「七瀬家では7月中に終わらせることになってるよ。」
流石七瀬家。しっかりしてる。でも
「7月中って観察日記とかはどうするの?」
「もうこの年では、流石に観察日記は無いよ。」
雪夜君が苦笑する。うーん、私、もう小学生の頃の事なんて覚えてないよ。観察日記とかいつ頃やったっけ。朝顔の花がオーソドックスだよね。朝顔の花で色水とか作ったような記憶もあるようなないような。
「低学年の頃は……まあ、想像力で?」
捏造していたようだ。流石七瀬家…ちゃっかりしている。
私は夏休みの間ルティでのバイト時間を増やしてもらえるよう春日さんと交渉した。夏は遊びに行きたいから、逆に長時間働きたくない人もいるんだとかで好都合だ。17時~22時だったのが15時~22時に。7時間勤務である。出来れば普段もこれくらい働ければいいんだけど。15時頃はやっぱりおやつの時間帯らしく、スイーツを求めてやってくるお客さんがいて結構忙しいらしい。あんまり普段忙しい経験を積んでないので初体験だ。でも夏はいっぱいお金使うと思うしね。頑張んなきゃ。聞くところによると桃花ちゃんは5時間勤務のままだそうだ。春日さんとの触れ合いは狙ってかないの?桃花ちゃんはイベント尽くしでこの夏忙しいだろうなあ。
里穂子ちゃんは貴腐人。
雪夜君はコスプレ好き。
結衣ちゃん、お手々ぎゅうは慣れてください。




