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第22話

ふっと思いついたので今日はちょっとした実験をしてみようと思う。『ノートに書きたした事は反映されるのか』である。私は気軽な気持ちで、くるくる手の上で回したシャーペンでノートに『6月24日、2限と3限の間に廊下で五十嵐蓮とぶつかり廊下に倒れそうになったところ、五十嵐蓮に抱きとめられる。』と書いた。わくわくしながら桃花ちゃんを見つめる。2限と3限の間彼女は席を立たなかった。う~ん、上手くいかないもんだ。ノートさえあれば操り放題かとちょっと黒い事を思ったのに。各ページに書いてある字面を指でなぞって一番新しい書き込みで指を止める。色が薄い。そういえば前世の書き込みはシャープペンシルじゃなくてボールペンで書いたんだったっけな。もしかして…と思って筆箱からボールペンを取りだして『6月24日、3限と4限の間に廊下で五十嵐蓮とぶつかり廊下に倒れそうになったところ、五十嵐蓮に抱きとめられる。』と書きこんでみた。とりあえず3限が終わるのを待つ。桃花ちゃんが廊下に出て行った。すかさず後をつける。と、正面から五十嵐先輩がやってきたではないか。

急いでいた桃花ちゃんが廊下を小走りに進むすれ違いざま五十嵐先輩とぶつかった。倒れそうになる桃花ちゃんを五十嵐先輩がぎゅっと抱きとめる。


「あっ、ご、ごめんなさい。」

「大丈夫?怪我してなーい?」


桃花ちゃんをぎゅっと腕に抱いたまま五十嵐先輩が軽い口調で尋ねる。


「だいじょうぶです。あの…」

「なになに~?」


腕の中で真っ赤になる桃花ちゃんに顔を近づけながら五十嵐先輩がにやにや笑っている。照れてアワアワしている桃花ちゃんの様子を楽しんでいるようだ。


「あの、もう大丈夫ですから離してください…」


語尾が小さくなってもじもじしている。


「え~、聞こえなーい。」


五十嵐先輩が桃花ちゃんを抱き寄せる。

桃花ちゃんはあわあわしながらちょっと大きめの声を出した。


「は、離してくださいっ。」

「仕方ないな~。桃花ちゃん、たまにはおにーさんと遊んでね。」


あっさり腕を離した五十嵐先輩はニコニコしながら去っていく。

桃花ちゃんは顔を真っ赤にしながら進行方向へ消えて行った。あっまー。砂吐きそうなイベントに進化してんなよ。ふう。尾行はここまででいいだろう。つまりノートに『ボールペン』で書きたした事だけ反映されるのだ。前世と現在では使っているボールペンは違うのでボールペンの種類は問わないようだ。『消せない』という点においては誓約にも似ている。もしかしたら『消せない』事が条件なのかもしれない。ということは万年筆でも木版でも構わないのかもしれない。これに新たに朝比奈結衣という人物ページを加えて『朝比奈結衣は成績上位である』と付け加えれば成績上位者になれるのかも。いやそこまで人間腐っていないつもりだ。それより雪夜君に連絡だ。これは有効な情報のはず。

そわそわした一日が終わり、私は足早に帰宅した。自室にこもると速攻で雪夜君に電話をかける。数コールした後繋がった。私は早口で今日の実験とその結果について告げる。


「このノートの雪夜君の欄に『桃花に惹かれていたが心変わりする』って書けば完璧だよ!」

「誰に心変わりするの?」

「それは限定しないでおけば『ノートに書かれていない部分は不確定要素』って法則が適応されると思う。」

「うん。いいかもしれない。でも今はまだ待って。まだ心変わりする候補が見つかってないんだよ。ある程度目星がついてからにしてほしい。」

「わかった。雪夜君が良い時期に言って。」

「りょーかい。でもオレはそれでいいとして残りの10人どうするの?全く同じ方法適用する?でもそんなに都合よく心変わりの相手なんているのかな?期間は来年の3月14日までなんでしょ?」


そこまで考えてなかった。心変わりはあくまで相手がいなければできないのだ。心変わりしたくても相手がいない。でも『設定』で『心変わりする』と書かれている。その矛盾はどうなるのか。期間が無期限ならいずれは自然と心変わりするだろうが期間は来年の3月14日までしかない。非常に歪められた日常なのだ。


「どうしよう。どうしたらいいかわからない。」

「もうちょっと考えた方が良さそうだね。そもそも桃姉の本命まで心変わりしちゃったら困るし。」


そうだった。それもあった。あれだけのイケメン達にちやほやされながら最後には結局全員心変わりする。それは非情に惨めなエンディングではないか。桃花ちゃんにはちゃんと素敵な相手と結ばれてほしい。

アレ?


「ね、もし桃花ちゃんの本命が雪夜君だったらどうする?」


その可能性もあるのだ。


「……。」


雪夜君は答えなかった。


「…やっぱりもうちょっと様子を見た方が良さそうだね。桃花ちゃんの本命探っておいてね」

「わかった。また何かあったら電話して。それと、実験はいいけどあんまり桃姉で遊ばないようにね」

「はあい。ごめんなさい。」


しっかりした雪夜君であった。

ついでに最近あったことなどを話し合ってしまった。小学校でも調理実習があってプレーンオムレツを作ったんだってさ。雪夜君の作るプレーンオムレツ食べてみたいな。「美味しかった?」って聞いたら「普通」と言っていた。雪夜君のプレーンオムレツの腕は普通らしい。作ってみてくれないかなあ…



ノートの法則がひとつ明らかになりました。

解決できるといいですね。


雪夜君のオムレツ。食べてみたいですね。

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