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第21話

調理実習である。授業は三、四限目。丁度お腹が空いた頃だ。今回のお題目はお菓子。腕が鳴りますな。しかしここで沢山食べてしまうと昼食が食べられないというスイートトラップ。無論これもイベントであり、今回作ったお菓子を桃花ちゃんが献上すると献上した相手の好感度が上昇するというイベント。誰に献上するのか見極めねばならない。因みにメニューはバナナマフィンであると雪夜君からリークがあった。家で練習してるらしい。練習分をたらふく食わされた雪夜君は本番のバナナマフィンは辞退するとのこと。調理実習以外の日に作った菓子では好感度は上がらないのだろうか?と疑問に思って雪夜君に尋ねてみたところ『最初の一回だけは嬉しかった。』と答えてくれた。むむ。普通の反応。というか相当バナナマフィンに飽きているようだ。正直バナナマフィンのどこに練習する要素があるのかさっぱり分からない。全部混ぜて焼くだけだろうに。おかげで失敗はほとんど心配しなくていいメニューだが。バターを捏ねる重労働とあまり短くない焼き時間なので私ならお勧めしない。


「ねえねえ。桃花、誰かに差し入れたりするの?」

「ふふふ、秘密。そういう綾ちゃんは~?」

「あたしもヒ・ミ・ツ」


さっそくガールズトークに花を咲かせている。

大体の班分けは四~六人班で桃花ちゃんは田中君(覚えてるかな?攻略対象だよ?)、二宗君、三国君、桃花ちゃん、長谷川さん、島津しまづあかりちゃん(クラスメート)の六人班だ。どうやって誘ったのかは分からないが男子全員攻略対象で埋めるという荒技。班で試食もするはずだが、これも『献上した』というふうにカテゴライズされるのだろうか?


「島津さんは?」

「え、えーと。上手く出来たら彼氏に……」


島津さんはクラスでも大変おとなしい子だ。結構可愛い。彼氏がいたとは…


「かっ、彼氏ィ!?いるの!?ちょっ、誰誰?羨ましいんですけど!!」


長谷川さんの食い付きは半端ない。


「えへへ。違う学校なの。」


はにかむ顔は大変可愛らしかったです。ハイ。

可愛いと言えば桃花ちゃんのエプロン姿がものすごく可愛い。エプロンは白地に赤いストロベリーが沢山プリントされているもので、各所にフリルがついている。桃花ちゃんの容姿の良さも相まって滅茶苦茶可愛い。思わずじろじろ見ちゃうほど可愛い。


「結衣ちゃん見すぎ。」


ハッと我に返る。目の前にはシンプルなデニムのエプロンをした里穂子ちゃんが半眼になっている。


「ご、ゴメン。ぼーっとしてた。」


慌ててエプロンを着る。私のエプロンはグレーに細かい白のドット。裾にフリルのついたAラインのエプロンだ。右の肩紐に小さな黒いリボンが二つ縦に並んでつけられているのがアクセントになっている。その可愛さに思わず衝動買いした逸品。似合ってるかどうかは知らないが。

因みに私たちの班は私と里穂子ちゃん。クラスメートの倉持君、林田君の四人班だ。里穂子ちゃんの誕生日にも協力してもらったが、倉持君は特別整った顔立ちではないが爽やかな雰囲気イケメン。林田君というのは調子のいいクラスのムードメーカーだ。倉持君、林田君ももうエプロンを着用して、私が書いたレシピを熱心に見ている。林田君は上半身は大きなハート、肩紐とスカート部分にふんだんにフリルをあしらった薄ピンクのエプロンを着ているが、ツッコんだら負けだと思っている。それはうちの班の共通の意思でもあるようで、林田君のエプロンについて言及する者はいない。


「なあ、朝比奈。これ作るの大変じゃないか?」


倉持君が難しい顔をしている。


「まあ、制限時間があるから忙しくなるのは間違いないね。」


作るのはコーヒーダックワーズとシュークリームの二品。ダックワーズだけだと卵黄が余るのでシューに入れるカスタードを作って消費するつもりだ。ダックワーズもシュー皮もそんなに焼き時間は長くない。私以外のメンバーは調理初心者なのでカスタードに至っては電子レンジ使用のお手軽レシピだ。ただし二品作るので調理場は急回転だ。


「二品作ることになるけど、どっちも生地作って絞って焼くだけだから簡単だよ。」

「なら指示は任せた。朝比奈は菓子作りが趣味だって言ってたけど、伊藤も料理とかよくするのか?」

「え?私は、そのう。たまにだけ…」


嘘だッ!

私は里穂子ちゃんが一人で作れるお菓子はホットケーキだけ(ホットケーキミックス使用)という情報を掴んでいる。里穂子ちゃんは赤くなっている。本人の名誉のため何も言わないでおこう。


「結衣ちゃんは誰かに差し入れするの?」


木べらで鍋の中身をかき混ぜながら里穂子ちゃんが言う。

おお。テンプレのガールズトークか?しかし応戦の意思はないぞ?

余計なことは言わず事実のみを述べる。


「うん。一応。」


雪夜君に差し入れする約束になっているのだ。夜電話で色々話していたらそういう流れになっていた。雪夜君は話し上手というか人を乗せるのが上手だ。因みに最初は桃花ちゃんに対する傾向と対策を練るためによる電話していたわけだが、最近は結構関係ないこともお喋りしている。


「誰誰?」

「内緒。」


クラスメートの弟さんに…とか言えない。里穂子ちゃんの追及は止まない。


「何年生?実習終わったら届けるの?」


小学六年生です。学校終わったら届けます。とか言えない言えない。


「だから内緒だって。同じ学校の人じゃないから学校終わってから届けるよ。」

「おお、学校外の彼氏か!?」

「彼氏じゃありません。里穂子ちゃん、そこから液卵ちょっとずつ加えて。滑らかになったらOK」

「あっ、うん。滑らかにね。」


里穂子ちゃんが慎重な手つきで卵を混ぜていく。


「滑らかってこれくらい?」


目で生地を確認する。ちょっと固いかも。


「もうちょっと。緩くなり過ぎないよう気をつけてね。林田君、バターはクリーム状になった?」

「うだあああ。腕疲れるー!大体クリーム状になってきた。」


んー。バターがまだちょっと冷たかったかなあ?申し訳ない。

私はメレンゲに粉類を数回に分けて混ぜ入れる。泡が消えないようにするのにちょっとコツがいる。ゴムべらでメレンゲを切るように混ぜながら桃花ちゃんの班を見ていた。

男子達を力仕事に回して、早くも生地ができている模様。桃花ちゃんがいち早くオーブンに突っ込む。

ん?桃花ちゃん予熱してたっけ?

うちの班はしっかり予熱してある。最初にダックワーズを焼くので170度だ。ええい、忙しいところに!

私はメレンゲをしっかり混ぜ終えて桃花ちゃんのところに行った。


「七瀬さん。余計なことかもしれないけど…きちんと予熱した?」

「えっ?……ああ!?忘れてた!ど、どうしよう!!」


ハプニングに慣れてないのかわたわたしている。


「大丈夫、まだ入れたばっかりでしょう。一回出して予熱しよう。幸い生地はすぐだれるようなタイプじゃないし。」


すぐだれるのはうちの班のメレンゲだ。早くマイスイーツ(作りかけ)の元へ帰りたい。


「そ、そうだね。ありがとう。朝比奈さん。」


慌ててオーブンを開ける。


「落とさないようにね?」

「うん。」


桃花ちゃんが慎重に鉄板を取り出すのを確認して作業に戻る。


「七瀬結構ドジなんだな」


三国君に言われて桃花ちゃんが赤くなった。


「ちょっと、力任せにバター混ぜてただけの分際で人の上げ足取るんじゃないわよ!」


ぷりぷり怒ってるのは長谷川さん。


「んだと?調子のんなよてめえ。」


三国君は性格は悪くないがガラは悪い。


「なによ?」


班の空気が険悪になりかける。桃花ちゃんはおろおろ涙目だ。赤くなったり青くなったりと大変忙しそうだ。だがこれ以上のフォローはするつもりはない!他人の人間関係マジめんどい!


「あ、綾ちゃん、ホントの事だから…」

「ホントの事だからって…大体予熱するの忘れてたのは全員じゃない!」


確かに六人もいて誰も気づかないのもすごい。普段からお菓子作りとかしないメンバーなんだろうなあ…高校1年生だもの。そういうこともあるよね。


「言い争っていても仕方あるまい。オーブンが温まるまで後片付けをするのが建設的だと私は思う。」


二宗君は喧嘩(?)には我関せずで洗い物を整理整頓している。田中君と島津さんが続いて手伝う。


「なんか七瀬さんの班大変そうだね?」

「調理実習ってこんなもんでしょ。」


私は丸口金のついた絞り出し袋でオーブンシートの上に楕円に生地を絞り出していく。男子達にはコーヒークリームとカスタードクリームの制作を指示している。カスタードクリームは電子レンジ使用のお手軽レシピだ。カスタードクリームの風味付けでバニラエッセンスかラム酒か迷ったが、ダックワーズのクリームにラム酒を使用しているためバニラエッセンスをチョイスしてある。(他班員はレシピに関わっていないのでこういうものだと思っている)バニラエッセンスの方が一般的だし。


「そっか。流石結衣ちゃんはお菓子作り慣れてるね。みんなのお母さんって感じ。」

「せめてお姉さんにして。」


こんなたくさんの子供たちを孕んだ覚えはない。



オーブンを使う生徒が沢山いてぎりぎりだったが何とか時間内に制作を終了できた。


「おいしそー!!」


生地が焼きあがってから里穂子ちゃんのテンションは上がりっぱなしだ。


「必要分先生に提出しちゃおう。」

「うん。うん。」


私たちは提出分を皿に載せて持ってゆく。その頃には桃花ちゃん達も無事にバナナマフィンを焼き上げ、提出し終えていた。

試食では各所で甘い匂いが漂っている。


「たべよっ。たべよっ。」

「伊藤落ちつけよ。」


倉持君に注意されて里穂子ちゃんはみるみる真っ赤になった。


「まーいいじゃん。俺も早く食いたいしよ。」


林田君もテンションが高い。


「朝比奈。もう食っていい?」


何故私に許可を求める?私は君らの指導員ではないよ。お菓子作りの指示は出したけど。


「いいんじゃない?」


私が許可を出すと一斉に食べ始めた。擬音語をあげるとすれば『ガツガツ』だ。お前ら欠食児童か?まあ好きなだけお食べなさい。たっぷりあるし。ただしお弁当は残しちゃだめだ。お姉さんとの約束だぞ!


「んめー!!」

「おいしーい!こんなの食べたことない!」

「確かに初めて見る菓子だな。シュークリームも旨い。皮がサクっとしてる。」


市販のビニール入りのふにゃふにゃ皮のシュークリームも美味しいが、手作りの醍醐味はやっぱりその歯触りだよね。概ね高評価を得て私は満足である。私が何をしているのかというとダックワーズのラッピングだ。メレンゲがしけらないよう一つずつセロファンで包んでいく。


「結衣ちゃん。ラッピング?ふーん、そんなに外の彼氏さんに綺麗なの渡したいんだ?」

「だから彼氏じゃないって。それより里穂子ちゃんこそ差し入れしたい人とかいないの?」


私はわかりきった答えを聞く。里穂子ちゃんの目は泳ぎ頬は赤い。


「私はその。もう目的完了っていうかゴールっていうか満足っていうか…」


赤くなった頬に手を添え、いやいやしている。それを不審そうに見ている男子二人。

桃花ちゃん達も試食を始めている。聞きたくなくても田中君の高らかな声がこちらまで聞こえてくる。


「七瀬さんの繊細な白い手!白魚のようなその指先から作られている菓子を今俺は口にしている。至福。このまま天国に召されてしまいそうだ。」


召されるなよ。


「一口口に含めばふんわりと広がる濃厚なバターのコク、バナナは柔らかな甘み、胡桃の香ばしい風味、何を取っても七瀬さんの優しさが舌を奏でる天上の調べ!」


何を言っているのか分からないぞ。


「こんな幸せな事があっていいのだろうか。俺は今人生の最大の運を使いきった気がする。だが、ああまだこの時間よ、続いてくれ。この七瀬さんと食卓を囲むという幸せな時間よ!」

「いいから黙って食え。」


三国君がこめかみに青筋を浮かべている。


「あっ。三国君。ほっぺについてるよ。」


三国君の頬に付いた食べかすを桃花ちゃんが取ってあげたようだ。


「おお。悪ぃな。」


桃花ちゃんの指先にある食べかすを迷いなく口にした。桃花ちゃんの指先と三国君の唇が触れる。桃花ちゃんがかあっと赤くなった。というか三国君と二宗君を除く班員が赤くなった。


「ちょ、ちょ、み、三国君。桃花に何してくれてんの!?」

「はあ?」

「三国君!七瀬さんの清らかなる指先に唇で触れるなんて破廉恥だぞ!!」

「……」


三国君も自分が何をしたか思い至ったようで頬を赤らめた。


「…わ、悪ぃ。」

「くーっ!今の一連の流れを動画にしておきたかった!!何故携帯構えてなかったし!!私!」


それは試食中だからだよ、長谷川さん。長谷川さんは激しく悔いているようだった。


「綾ちゃん!そんな動画撮らなくていいよ!やめてね?やめてね?」


聞くともなしに聞いているとにゅっと目の前にマフィンが差しだされた。なんだ?


「良ければ交換しよう。弁当であの味を作り上げた君がどんな菓子を作るのか興味がある。」


真顔の二宗君だった。


「きゃー!二宗君が交換だって。どうする結衣ちゃん!ねえねえ、結衣ちゃん!」


里穂子ちゃんは大喜びである。


「まあ、沢山あるしいいよ。好きなの食べて。あ、セロファン巻いてあるのはダメだよ」

「ちょっと!結衣ちゃん反応がドライ過ぎない?年頃の男の子が調理実習で自分の作ったお菓子を交換しに来てるんだよ?もっとときめきを持とうよ、ときめきを!」


と言われても。


「どうみても特別な意味はないと思うよ?」


二宗君は目の前のやり取りをスルーする方向だ。その表情には恋愛関連を匂わせるような照れや恥じらいはない。完全なる平常心。明らかに特別な意図はなさそう。あっても困るからなくていいんだけどね。

二宗君は私たちの班のダックワーズを手にとって齧る。


「ふむ。かなり良くできた菓子であるように思う。生地部分は甘いがコーヒークリームが適度な苦みを出している。私が提供できるのはマフィンだけだがシュークリームもいただいて良いだろうか?」

「いいよ。」


私も渡されたマフィンを齧る。うーん。味はまあまあ。胡桃はちょっと細かく刻み過ぎてるみたいだな。もうちょっと大きめでもいい。加えて言うなら一度ローストしておけばもっといいと思う。


「シュークリームもいい出来だな。歯触りもとてもいい。クリームもだまがなくて滑らかだ。」

「ありがとう。シュークリームはちょっと手抜きしちゃったけどね。」

「私は気に入った。うちの班のマフィンはどうだろう?」

「うん。美味しいよ。」

「そうか。なら良かった。交換してくれて有難う。」


二宗君は満足げに去って行った。さて桃花ちゃんの観察を…とめっちゃ桃花ちゃんと目合ったわーやだわーこんなドッキリやめてほしいわー

多分私と二宗君の会話に聞き耳を立てていたのだろうと予想される。桃花ちゃん二宗君に気があるのか?桃花ちゃんの好意矢印本当にわかんない。



いよいよ差し入れコーナー。ドンドンパフパフー。桃花ちゃんは誰に差し入れするのだろうか。因みに担任の八木沢先生は「できれば和菓子が良い」とリクエストしていたので違うだろうと思われる。因みに現実では情報がオープンにされていないが、八木沢先生の好物のお菓子は大福類である。オーソドックスな豆大福が一番好きだが、色んな味のクリームを包んだ変わり種の大福も好き。今回作っていた人はいないようだ。マフィンをラッピングした袋を二つ抱えて桃花ちゃんが廊下を小走りに去っていく。気付かれないように後をつける。んん?2年の校舎?桃花ちゃんは目当ての人物を手早く見つけたようだ。


「晴樹先輩!雨竜先輩!調理実習でお菓子作ったんです。良ければ貰ってくれませんか?」

「わーい、お菓子ー」

「お菓子ー」


双子はお菓子がもらえると知って喜んでいる。この双子はお菓子はどの種類もおおむね好物である。

しかし二人同時にあげた場合好感度ってどうなるんだ?両方に加算されるのか?

謎だ。

とりあえず行き先を確かめただけで深追いはせずに去る。



「―――というわけだったんだよ、雪夜君。」


一連の流れを包み隠さず話す。因みに場所はミルククラウンから少し離れた場所にある公園だ。喫茶店の方が何かと都合はいいが、今回は私が作った菓子を渡すため(恐らくその場で食べるだろうと思われるため)公園にした。


「ふーん?結構満遍なく好感度上げにかかってる感じだね?オレも桃姉にさりげなく好きな人いるか聞いてみてるけど『私はユキと月姉がだーい好きだよっ』とか言ってなんか嘘っぽいし。」


雪夜君はベンチに腰掛けてミネラルウォーターのペットボトルをペコペコ押しながら考えている。


「七瀬さん、今回二人にお菓子渡してたけど、その場合好感度ってどうなるんだろう?」


隣に座ってへこんだり膨らんだりを繰り返しているペットボトルを見ながら言う。


「うーん、これはオレの予想になるけど、オレは初めてマフィン貰った時は嬉しかったよ。多分これはゲームであると同時に現実でもあると思うんだ。だから当然今回マフィン貰った二名も好感度が上がると思う。ただ上がり幅が…たとえば双子がいて片方だけにマフィンを渡したとするでしょ?そうしたら特別扱いされた方の一人はかなり喜ぶと思う。逆に貰えなかった方の一人はかなり桃姉に対する好感度を下げると思う。両方にあげるという事は『特別扱いされてる』という優越感も無ければ『自分だけ貰えない』という劣等感も無い。結果二人の好感度はただ微上昇するだけだと思う。全部想像だけど。」


ゲームシステム的に考えると混乱するけど現実的に考えればそれもそうだ。


「そっか。そうなのかも。今回二宗君と三国君と田中君はただ同じ班だったってだけで、特別何かアクションを起こされた訳じゃないから好感度は上がってないのかな?」

「それはどうかな?ただ同じ班だったって言うけど、その前に数あるクラスメートの中から『自分を誘ってくれた』っていう前提条件があるだろ。それって普通嬉しい事なんじゃないかな?」

「あーー!そっか。もーイベントじゃないところで好感度が上がったり下がったりわけがわからないよ。」


頭を抱えてる私を見て雪夜君が苦笑した。


「それこそ『ノートに書かれていない部分は不確定要素』ってことなんじゃない?」

「なるほどね。」


不確定要素が多すぎてお話にならない。大体今回の三国君の行動だってイベントじみてたし。私はふくれっ面だ。

雪夜君は指で私の頬をつついた。


「それで?結衣お姉ちゃんはオレに渡すものがあるんじゃないかな?」

「むぅ。雪夜君。これ私たちが作った分。貰ってくれる?」


私は鞄の中からいくつかの包みを取りだした。しけらないようにラッピングされたダックワーズと潰れないようにラッピングされたシュークリームである。落とさないようにそうっと渡す。


「ありがと。結衣お姉ちゃん。今食べてもいい?」


そのつもりだ。やっぱり作ったからには食べた反応が見たいとこである。雪夜君は鋭いので察しているようだが。


「いいよ。美味しくなかったらごめんね?」


雪夜君は丁寧にラッピングを捲ってコーヒークリームを挟んだダックワーズを口にする。ゆっくりと咀嚼して飲み込んだ。


「おいしいよ。コーヒー味だね?もしかしてオレの味覚に合わせてくれた?」


ぐっ。実はそうなのだ。コーヒー党の雪夜君に合わせたチョイスだ。だけど面と向かって指摘されると私は恥ずかしくて顔を上げられない。

雪夜君がふっと笑った気配がする。


「シュークリームも食べちゃうよ?」

「うん。」


ガサガサとラッピング(箱状)を開けている音がする。あ、多分今口に入れた。顔を上げれずに気配だけで動向を探る。


「こっちもいいね。俺シュークリームって普段あんまり食べないけど生地がサクッとしてておいしい。クリームも香りが良いし。」

「そう。良かった…」


ホッと胸をなでおろす。ちらっと顔を上げる。雪夜君は微笑んでいる。


「結衣お姉ちゃんはお菓子作り上手だね。」


実を言うと雪夜君が私の作ったお菓子を食べるのは2回目だ。1回目は自宅でメイド服撮影会をした時。その時は日本茶と手作りの道明寺を出したが、多分市販の道明寺だと思われたのだろう。美味しそうに食べていたので私は何も言わなかった。


「実はお菓子作りが趣味なんだ。」

「へー。家庭的。……あれ?もしかして前に結衣お姉ちゃんの家行って出してもらった和菓子も手作りだった?」


あ、気付いたか。


「うん。一応。美味しかった?」

「うん。凄くおいしかった。あんまりきれいに出来てるからお店で売ってあるやつかと思ってたよ。気付かなくってごめんね。…オレ鈍いなー」


鈍くないです。逆に「お菓子作りが趣味」の一言から即座に気付く事がすごいです。


「ううん。美味しく食べてもらえたなら良いんだ。」

「お菓子じゃないけど、体育祭で作ってきてたお弁当っていうのもすごく興味あるな。今度オレにも作ってくれる?」


うむむう。なんておねだり上手なんだ。私は機会があればお弁当を作ってくることを約束した。


結衣ちゃんのメイド服撮影会は、結衣ちゃんの家族のいない日に、結衣ちゃんの家の居間で行われました。

雪夜君は照れてる結衣ちゃんが面白くて結構いっぱい写真を撮ってたりします。

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