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第2話

式が終わるとそのまま誘導され教室へ行く。そこで初めて顔合わせだ。緊張!

机の右上に名前が張ってあってその通りに席に着く。名前の順なようで私は教室の一番前、廊下側の席だ。周りをキョロキョロ見回してみる。さっそく交流を始めている生徒たちもいる。

ひと際目を引くのはものすごい美少女だ。ふわふわの栗色の髪をミディアムにしていて大きな榛色の瞳をしている。色も抜けるように白く肌はきめ細かい、頬はちょっと興奮して桜色に染まっている。唇なんて綺麗な桃色で赤ちゃんみたいにぷるぷるだ。めっちゃかわいい!私の理想とするカワイイをぎゅっと詰め込んだみたいな美少女ぶりだ。

周りの人も声をかけたそうにチラチラ見ている。


「ね、ねえ、私、伊藤里穂子いとうりほこ。里穂子でいいよ。よろしく。」


私が美少女に見惚れていると後ろの席の子が声をかけてきた。


「あ、私、朝比奈結衣。結衣でいいよ。よろしく。」


「仲良くしてね。」と微笑む顔は緊張でガチガチなようである。そんなに緊張しなくても私は怖い人ではないよ(多分)


「うん。ねーあの子すっごい可愛いよねっ」


小声で話しかける。私の理想を凝縮した少女が現れたことで私のテンションは鰻登りだ。しかしどこかで見たことあるような顔でもある。不思議だ。


「可愛いよね~。七瀬桃花ななせももかちゃんって言うらしいよ。」

「へー名前知ってるんだ。…ってぉおおい!」

「え!?な、何、急に。どうしたの!?」


どうしたもこうしたもあるかい!『七瀬桃花』その名前は記憶を呼び戻す。あの例の黒歴史ノートに書かれていたヒロインの名前じゃないか。容姿も設定ノートから抜け出してきたような人物だ。そういえばこの学校の名前は光ヶ崎学園。かのヒロインが通う学校…何故学校名を見て思い出さなかったし…私。あの黒歴史ノートが突然私の机に乗ってたのってこれに備えてだった!?少なくとも見た目と名前はノートのまんまだ。ノートに書いてあることが実際の彼女だったとすると彼女は『前世のゲームの知識を持った転生者』という位置づけになる。しかし実際にはそんなゲームは存在しない。ということはもしかしてもしかして『自分を、前世のゲーム(架空)の知識を持っている転生者と思い込んでいる娘』ということか!?

アイター!痛いよ!お母ちゃん痛いよ!痛すぎるよ!

厨二病真っ盛りじゃないか。もう高校生なのに!

私は一気に可哀想な子を見る目つきで彼女を見つめた。

まあノートと違ってて全く前世の事なんて知りません!って子だという可能性もあるけど。


「ねえ、どうしたの?具合悪いの?」


あ、里穂子ちゃん忘れてた。


「い、いや、ちょっと知り合いに同姓同名の人がいたからさ。」

「そうなの?珍しいね。ちょっとビックリしすぎだと思うけど。」

「ゴメン。」


私が正気に戻るとともに教室に教師が入ってきた。もう驚きません慌てません。


「入学おめでとう。君たちの入学を心から歓迎する。俺は八木沢譲やぎさわゆずるだ。このクラスの担任だ。科目は物理。陸上部の顧問を務めている。俺もまだ新人だからな。君たちとともに成長できることを努力したいと思う。」


茶髪ですらりとした長身。全体的に甘いマスクで、見た目はちょっとホストっぽいが、喋るとハキハキとしていて爽やかな二枚目だ。ハイ、こいつ攻略対象です。ごめんなさい。聖職者の皆さん、私の黒歴史ノートは小児性愛者的犯罪者を生むかもしれません。と言うか俺様生徒会長にホスト教師とかテンプレすぎる。発想に豊かさが無いね。

因みに個別の名前は忘れたが確か苗字にそれぞれ一から八までの数字を入れた気がする。七瀬さんが七なのは彼女の義理の弟さんが攻略対象だからだ。


「まずは自己紹介から始めてくれ。」


八木沢先生は特に質問コーナーなどを設けるつもりは無いらしい。設けたところで既婚者か、彼女はいるのか、とかそんなテンプレが飛び出すだけだろうから別にいいけど。最悪ノリの悪いクラスの場合質問者無しということもあり得る。入学式初日から沈黙するクラス。うん、嫌な感じだ。


「廊下側の…朝比奈からな。」


ちょっとこの席嫌な席だよね?廊下側で窓の外は見えないし、一番前の席だから授業中の内職もしにくい。それにこうやってファーストを指名されたりする。自己紹介の初めって何言っていいのか分からないんだよね。中盤になってくると無難な形式文章が出来上がるんだけど。とりあえず立ち上がって自己紹介する。早く席がえしないかな。


「はい。朝比奈結衣です。趣味は読書とお菓子作り。得意教科は国語です。苦手教科は体育。真面目そうに見えて真面目じゃないのが私です。皆さん、騙されてはダメですよ。」


因みに苦手な物は台所とか水周りとかに出るGのつく害虫だ。あと恋バナとかも苦手だな。…まあそんなことはいいか。私が着席すると里穂子ちゃんが立ち上がって自己紹介する。彼女も趣味は読書らしい。いい友達になれそうだ。どんな小説読むのか後で聞いてみよう。延々と続いて桃花ちゃん(彼女には姉弟がいるため心の中では名前で呼ぶことにした)の番だ。


「七瀬桃花です。趣味はアクセサリー集めかな?皆とたーっくさん仲良くなりたいです。学校の事も友達の事も全然知らないから良かったら教えてくださいっ。あっ、噂話なんかも教えてくれたら嬉しいな。よろしくお願いします。」


桃花ちゃんが着席して次の女生徒が立ち上がる。


長谷川綾はせがわあや。広報部志望!現代は情報が命よっ!七瀬さんにもしっかり教えてあげるから安心してね。よろしく。」


長谷川さんは桃花ちゃんにウィンクする。女子にしては背が高くて凛々しいタイプの美人なので様になる。名前は覚えていなかったが多分あれだろう。ヒロインの情報役。なんか設定した気がする。

順繰り一巡りして攻略対象と思わしき人は2人。一人は二宗数馬にそうかずま。入学式で私の隣の席に座った眼鏡イケメンだ。もう一人は三国翔太郎みくにしょうたろう。身長は長谷川さんより小さい。体つきもそんなに逞しくはない。ツンツン逆立った短髪にちょっと三白眼気味のイケメンである。黒歴史ノートの設定が有効ならば彼はこう見えて無敵の喧嘩番長だ。


七瀬桃花と長谷川綾は意気投合したようだ。二人で熱心に話し込んでいる。その周りを桃花ちゃんとお近づきになりたい生徒がうろうろチラチラしている訳だ。どうも2人が親密すぎて間に割り込めない様子。私も里穂子ちゃんと話しながら時折チラリと桃花ちゃんに目を向ける。確かノートの予定ではこの後に出会いイベントがあったはずだ。それが実際に起こるか確かめてみたいのだ。2人は何やら話しながら話していたが「じゃあ、あたしは広報部に見学に行くから、桃花、また明日ね。」と言って長谷川さんが去る。もう二人は名前で呼び合うようになっているのだ。因みに広報部とはまあ情報伝達部のようなものらしい。校内における放送、学校新聞、イベントにおける情報の開示をする。また、広く写真などを扱う場合の人員であるとか。長谷川さんがいなくなって、ここぞとばかりに桃花ちゃんに人が押し寄せるが、桃花ちゃんは「ちょっと行くところがあるの」と申し訳なさそうに謝罪して教室から去った。私はこっそりと後をつけ始める。桃花ちゃんが行った先はやはりというか、中央校舎に面する花壇である。

花壇では色とりどりの春の花が咲いている。


「わー!きっれーい!!」


桃花ちゃんはきゃっきゃと無邪気に喜んでいる。私は大量の花の匂いでちょっと気分が悪い。ぐったりとした足つきで桃花ちゃんの後を付けていく。桃花ちゃんが小さな鈴蘭のような白い花のついた木の前でしゃがみこむ。


「この花なんて言うのかな?」

灯台躑躅どうだんつつじだよ」


涼やかな声が響く。可憐、と表現できてしまいそうな美少年がそこには居た。色素の薄い髪がさらりとなびいて薄茶色の澄んだ瞳が花を見つめている。


「僕も好きだな…」


指先で灯台躑躅を慈しむ様子は儚げでもある。来ました。攻略対象です。間違いありません。この美人度。


「わー…きれーい…」


桃花ちゃん、花を見たときとまったく発言が変わっとらん。


「うん。綺麗だよね」


薄茶色の瞳が楽しげに細まる。違う。違うぞ、美少年。今の「きれーい」は君に向けられて発せられた言葉だぞ。


「ね。この花はなんていうの?」

「松葉菊だよ。大体8月末ごろまで咲く」

「詳しいんだね。」

「花が好きだから…。僕園芸部に入ろうと思ってるんだ。」

「へえ。ね、これは?」

「これはね…」


二人は結構な時間花壇で春の花について語り合っていた。二人がそろって花を見つめる様子はまるで絵のように美しい。思わず見惚れてしまう。


「ねえ、あなた、名前はなんていうの?」


桃花ちゃんがそっと尋ねる。

そういう時は自分から名乗るべきだと思うよ、桃花ちゃん。

でも美少年は特に気にした様子はなく、同じくそっと答えた。吐息が花弁を揺らす。


四月朔日理人わたぬきりひとだよ」

「どんな字を書くの?」


「こう」と少し花壇から離れた固い地面に枝で文字を書いていく。


「変わった苗字だね。」

「由来は『四月一日に綿入れの着物から綿を抜くから』と言われてるよ。」

「ふうん。面白いね。」


桃花ちゃんがくすくす笑う。

「君は?」と四月朔日少年が問う。桃花ちゃんは自分も枝を取って地面に字を書きながら返す。


「七瀬桃花だよ。」


四月朔日少年はちょっと驚いた表情をした後、嬉しそうに微笑んだ。美麗だ。


「知ってる?桃の花言葉はね、『天下無敵』『チャーミング』そして」


微笑んだ顔を真っ直ぐ桃花ちゃんに向ける。


「『私はあなたのとりこです』」


桃花ちゃんは湯気が出そうなほど赤くなった。


「君にピッタリだね。」

「そ、そんなこと…」

「ううん。よく似合う。桃の花みたいに可憐な君には。」


うーん、四月朔日少年、可憐なのは君もだぞ。そして見かけによらずプレイボーイなのかい?意外なことだ。二人は初めて会ったのにもかかわらずイチャイチャしながら花について語っていた。私は近くの自販機で缶コーヒーを買って飲みながら長々と会話する二人を観察する。



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