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第19話

体育祭当日。

程よく曇り。雨が降りそうなほど雲は厚くないが、これくらいなら日射病はぐっと抑えられそうだ。気温はちょっと暑めなので熱中症患者は出そうだが。一応日焼け防止で日焼け止めとジャージ姿である。暑い。


「ちょうどいい天気だね」


里穂子ちゃんがニコニコしている。彼女は短距離に出場することになっている。自分に最適な種目を割り当てられたため体育祭に関して不満はなさそうだ。


「そうだね。長谷川さんは不満そうだったけど。」


ちょっと苦笑する。長谷川さんは広報部として、行事記念の写真係を任命されているのだ。先程も「晴れてた方が絶対写真が映えるのにー」とぶつぶつぼやいていた。行事記念の写真と言うのは係が撮った写真が現像されると中央校舎の一階に張り出され、選んだ写真を有料で焼き増ししてくれるというサービスだ。意中の人やら美男美女やらの写真をゲットできるおいしい機会らしい。係の取る写真は偏らないように指示されているようだが大体美男美女の写真に偏るとの噂。特に一条先輩の写真はファンクラブから絶大な人気があるらしい。

開会式が終わって、2、3競技も終了する。私はプログラムに目をやる。そろそろ短距離だな。


「短距離頑張ってね」

「うん。行ってくる」


最初の方の競技な彼女はさっさと準備を済ませてスタートの集まりに合流するようだ。私は水分を取ってテントの陰でちょっとうとうとする。うう、しっかりと里穂子ちゃんの雄姿を目に焼き付けなければ…しかし早起きしたのでマジで眠い。里穂子ちゃんは3位と大きく差をつけて2位をゲットしてきた。俊足である。


「イェーイ!」

「イェーイ、おつかれ!」


戻ってきた里穂子ちゃんとハイタッチした。

桃花ちゃんのパン食い競争は堂々の1位だった。すごい活躍だけど惜しい。いくら美少女でもパンくわえて走ってる姿はちょっと絵にならない。行事記念の写真出回るかなー?いや、重要なのはそのパンを誰に持っていくかだ。観察しているとテントに戻ってきた桃花ちゃんは三国君の近くに移動しておもむろに袋を開ける。


「ねえ、三国君。パンおっきいから半分食べない?」

「んお?いいのか?」

「うん。良かったら食べて」


エンジェルスマイルである。クリームパンを半分ちぎって渡すと、三国君は2、3口でペロッと食べてしまった。「うまい。サンキュ」とか言っている。

んん?桃花ちゃんの好意矢印は三国君に向かっているのか?心のメモに留めておく。

二人三脚まで競技がないと高をくくっていた私は借り物競走で突然呼ばれた。


「朝比奈さん、悪いけど一緒に来て!」


誰かと思えば田中一郎君ではないですか。


「私?」


きょとんとする。

田中君がぺらりと借り物競走の用紙を見せてくれた。当然のことながら「好きな人」とか書いてないよ!堂々とした筆跡で5文字「学級委員長」と書いてあった。

チックショゥゥウウウウ!!!

ゼエゼエ言いながら走る。私が比較的早く見つかったにもかかわらず順位は5位だった。

チックショゥゥゥウウウウウ!!!

疲労困憊の私に田中一郎氏が声をかけてくる。


「朝比奈さんゴメンね。運動苦手なのに…。」

「しょうがないけどさあ!これって他のクラスの学級委員長でもよかったんじゃないの!?もっと運動得意そうなの連れてけば良かったじゃん!」

「あっ!」


田中君は考えもしなかったらしい。疲労困憊でいらいらと田中君に食ってかかる私を里穂子ちゃんがどうどうと宥めている。

風のように素早く流れ込んできた噂によると、借り物競走での「好きな人」は一条先輩ファンの子が引き、一緒に走るというその子にとってのご褒美イベントとなったらしい。順位は1位。

私の二人三脚はまさかの4位と言う奇跡の好成績をあげた。誰が何と言おうと運動音痴の私には奇跡なのだ。ポイント入るの3位までだけどね。てへぺろ。


「結衣ちゃんイェーイ!」

「イェーイ」


里穂子ちゃんとハイタッチした。4位でもハイタッチしてくれる。友情っていい!じぃいいーん。

午前の部最後は応援合戦だ。チームごとの応援団がそれぞれ応援合戦をし、審査員による投票で上位2チームまでにポイントが入る仕組みだ。

今年の目玉は五十嵐先輩中心のチーム、六崎兄弟中心のチーム、一条先輩と同じチームの一条先輩ファン率いるチアリーダーズ(一条先輩自身は応援団員ではない)である。

チアの一糸乱れぬダンスと動きはすごかった。特に応援合戦前に一条先輩自らチアを鼓舞しに来たというのが効いていたらしい。そしてなんと!知らない間に桃花ちゃんがチアに加わっていたのだ。桃花ちゃんは一条先輩のファンクラブ員ではないはずだけどいいのだろうか。っていうかいつの間に練習してたんだろう。チアの衣装滅茶苦茶可愛かったです。これは写真が飛ぶように売れる予感。あと五十嵐先輩の長ラン&白手袋&長鉢巻での応援は凄かった。いつものにやにや顔じゃなくきりっとしていて、声も校庭中に響くほど低く大きく張り出していた。正直に言おう。格好良かった。写真あったら買おうかな?それに比べると六崎兄弟中心のチームはちょっと見劣りしていた。惜しいね!



実は今日はせっかくの行事なので里穂子ちゃんの分もお弁当を作ってきている。

お重に入ってるメニューは稲荷寿司、出汁巻き卵、鮪の竜田揚げ、アスパラと鶏ムネ肉の梅和え、野菜の肉巻きを煮たもの、ピーマンとエリンギの炒め物、ポテトサラダ、プチトマトのベーコン巻き、エビとブロッコリーのバジル炒め、である。稲荷寿司の上には錦糸卵ときぬさやの細切りと紅ショウガが乗っていて彩りも鮮やかだ。稲荷寿司の中身は五目ちらしが入っている。全体の味付けは和風寄り。2人分のつもりだったが、ちょっと調子に乗って多めに作ってしまった。到底二人分の量じゃない。残ったら今日の夕食にしよう…


「わーおいしそーう!本当に手作りなの!?」


里穂子ちゃんの顔が輝いた。


「早起きして作りました。」


保存がきくのは昨日の夜作ったけど。


「すっごーい!食べていい?食べていい?」


因みに里穂子ちゃんは料理は苦手らしい。すっごいわくわくして箸を蠢かせながら聞いてくる。目線は既に獲物を狙うハンターだ。しっかり野菜の肉巻きをロックオンしている。


「どうぞ召し上がれ」

「いっただきまーす。んー(もぐもぐ)おいしーい!」


私も五目稲荷を口に運ぶ。うん。美味しい。

二宗君が通りかかる。


「ずいぶん盛り上がっている様子だな?」


幾分羨ましげな視線が弁当に注がれている。里穂子ちゃんが大盛り上がりで味の感想を言いながら弁当に舌鼓を打っているのだ。二宗君の手には固形栄養食品(チョコレート味)が。まさかまさか。


「二宗君、まさかそれが昼食とか言わないよね?」

「昼食だ。朝母から手渡された。おそらく寝坊でもしたのだろう。」


うう、悲惨。今日体育祭だから購買も学食も開いてないし。

三国君でさえコンビニ弁当くらい用意してたぞ。数は三つだったが。よく食べるなあ…じゃなくて。


「良かったらちょっと食べる?」


いくら何でもここで放置するほどの人でなしではない。ちょうどお弁当も多めに作ってきたことだし。


「いいのか?」


意外そうに首を傾げる。


「嫌じゃなければ。」

「ありがとう。いただくよ」


予備の割りばしを手渡してあげた。手を合わせて「いただきます」と言った後、ちょっと迷ってから出汁巻き卵に箸を伸ばした。遠慮することないのに。出汁巻き卵は二宗君の好物だ。


「朝比奈君の母は料理が上手なのだな。」


きちんと口の中のものを飲み込んでからそう言った。お口に合ったご様子。


「結衣ちゃんが作ったんだよっ」


何故か里穂子ちゃんが自慢げに胸を張る。二宗君が驚いた表情を見せる。


「そうなのか?朝比奈君は料理上手だな。」


まあ、下手ではないと思う。他人様に自慢できるほど上手いとも思わないが。二宗君は次々と箸を伸ばしている。


「ふっふっふっ。そうだろう。そうだろう。だが私を倒さなければ嫁にはやらん!」


里穂子ちゃんの謎発言頂きましたー

昭和の頑固おやじか。


「朝比奈君の婚姻と伊藤君を打倒することの因果関係がわからない。」


二宗君は真顔だ。二宗君天然だから真に受けてるよ。ボケたのにツッコミ無しも切ないね、里穂子ちゃん。私も突っ込まないけど。


「その辺はあんま真面目に考えない方がいいよ。二宗君は長距離も出るんだっけ?」


私は話題を変えた。


「ああ。長距離は比較的得意だ。問題ないだろう。」


黒歴史ノートによると二宗君はランニングと筋トレを欠かさないのだ。過度な筋力を必要としている訳ではないが、健康体でいなければ意味がないと考えている。


「頑張ってね。」

「ありがとう。」


二宗君の目線がチラリと私の足に行く。


「傷、残らなかったようだな。良かった。」


ん?ああ、二人三脚の練習で負った傷か。意外とすぐ直ったよ。瘡蓋も剥がれて、今はつるりとした膝小僧だ。あとが残らないのは嬉しいね。


「手当が良かったからだと思うよ。あんなに血が出てた割にはすぐ良くなっちゃったよ。ありがとうね。」

「いや。私が言いだした練習で負わせてしまった傷だ。責任を感じていたんだ。綺麗に治って良かった。」

「んん!?結衣ちゃんをキズモノにした話だとぉう!?」

「里穂子ちゃん落ち着け。怪我して手当てしてもらっただけだよ。」

「あー…あの結衣ちゃんをお姫様抱っこして廊下を歩いたって言うアレ?」


やっぱり噂になってたか。二宗君、話題沸騰のイケメンだもんなー。女生徒お姫様抱っこして廊下を練り歩いたりしたら、噂にもなるよなー。私は全然お姫様じゃなかったけれど。


「お、お姫様抱っこ…?」


二宗君が愕然とした様子で聞き返す。


「したんでしょ?お姫様抱っこ。」

「されました。お姫様抱っこ。」


二宗君絶句。徐々にその白い顔に朱が差していき、最終的に真っ赤になった。どうやら彼にはお姫様抱っこしているという自覚がなかったらしい。改めて指摘されると恥ずかしいものがあったのだろう。しかも噂になってるし。


「……す、すまない。朝比奈君。」


だいぶ動揺しているようだ。


「ううん。助かったよ。ありがとうね。」


確かに恥ずかしかったがな!むしろ死にたいくらい恥ずかしかったのは私だ!

そんなこんなでわいわい言いながらお重はすっかり空になった。

その後二宗君は比較的得意と言っていた長距離で学年1位を取っていた。涼しい顔で。ノートで書かれている以上に体力があるようだ。

三国君は騎馬戦で鬼神のごとき強さで無双していた。ハイ、想定内です。総合してみると我がクラスはなかなかチームに対する貢献率が高かったようだ。

優勝したところでトロフィーが授与されるだけだけどね。オリエンテーションの時みたいに学食の無料券とかつけばいいのに。まあ私は毎食お弁当(自作)だけどね。オリエンテーションの時の学食無料券もまだ使ってない。お弁当忘れた時にでも使おうといつもお財布の中に入っているんだけど。


最後はフォークダンスだ。一応言っておこう。体育の授業にフォークダンスなんて言う項目はない。つまりぶっつけ本番だ。無論小、中学でちゃんと習った子もいる。一応新入生は上級生がパートナーとなるように仕組まれている。パートナーの上級生がダンスの指導をしてくれるようにだ。因みに私は小、中学では習っていません。運動音痴のため当然踊れません。ポイント入らないしばっくれようかな?いや、ここでばっくれても2、3年でも結局ダンスする羽目になる。ここはおとなしく先輩の指導を受けるか。最初の曲の相手が私の前に来た。おや?雨竜先輩だ。


「雨竜先輩。私運動音痴でダンスとか壊滅的なジャンルです。どうぞご指導をお願いします。」


雨竜先輩は驚いた眼を向けた。


「あ、うん、いいよー。がんばろうねー」


コロブチカを教えてもらう。私は必死に覚え込もうとする。

集中している私に雨竜先輩が声をかけてきた。


「…ねえ、なんで僕が雨竜だってわかったの?」


いや、ダンス覚えるのに必死だからあんまり話しかけないでほしいんだけど。


「どうしてって言われても。あんまり似てませんよ?」

「やっぱり僕晴樹みたいに明るくないし…違うか。」


私は苛々する。今それどころじゃないんだって!


「みんなに晴樹は好かれてる。僕じゃダメなんだよね。」


誰がいつそんな事言ったし。ウジウジした男だな。あ、回転逆だった。


「晴樹に似るように頑張ってるのに…やっぱり違うよね。」


ええい!集中できないじゃないか!!ダンスは壊滅的って私自白したよね!?聞いてなかったの!?


「違って何が悪いんです!雨竜先輩は雨竜先輩でいいじゃないですか。『個性』って言葉を知らないんですか!?」


言い過ぎちゃったかな…?

雨竜先輩を見ると目を丸くしていた。


「そっか、違っていいのか…ゴメンね。つまらないこと言って。」


と言ったところでパートナー交代になった。フォークダンスはペアになってる一人当たりの時間帯がとても短いのだ。隣の人と交代した後だが雨竜先輩は「また、君と踊りたい」と言ってきた。パートナー以外の人に話しかけるのはマナー違反じゃないですかい?

結局雨竜先輩と再び踊る機会はなかったけども。


雪夜君にメールで『七瀬さん体育祭においての行動。パン競争イベント、相手三国君。一条先輩ファンクラブ主導のチアの一員に。(一条先輩ファンクラブ員ではない模様。)』と報告しておいた。

後日行事記念写真で長ラン姿の五十嵐先輩と何故か撮られていた私と二宗君の二人三脚の写真を買った。それを知った雪夜君が写真を見たいと言うので、一緒に喫茶店に行った時に披露した。その際聞いたのだが、雪夜君は学校でフォークダンスを習ったとのこと。そうと知っていれば最初から雪夜君に習ったのに!


結衣ちゃんはお料理も得意。

いろんな人の胃袋掴んでます。

でも今回は寝不足でちょっと苛々しちゃってます。だめだめね♪


桃花ちゃんのチアと五十嵐先輩の長ラン姿の写真はめちゃくちゃ売れました。


次回はイベント妨害にレッツゴー♪



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