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第18話

体育祭。それは悪夢の響き。か弱い村人のHPを根こそぎ奪い、魔王の元へ差し出さんとする呪いの儀式の日である。私はそんな呪いの日のための計画を話し合うためのクラス会議の司会進行をしている。議題は種目出場枠についての人選。人気がある種目は人が殺到するため、くじ引き、あみだくじ、じゃんけんなどで人選する。ごく稀に推薦などもあり、今回は三国君が騎馬戦にと推薦されていた。三国君にそれでいいかと尋ねたら、机に突っ伏していた状態から何とか顔を上げて、半開きの目で「んぁ?ああ?なんでもいい…」ともにゃもにゃ言っていた。どうやら彼の中で会議と睡眠時間はイコールで結ばれるようだ。私は玉入れ希望。因みにテンプレである借り物競走での「好きな人」の用紙は当然と言わんばかりに存在する。毎年それでくっついたカップルがいるとかいないとか。黒歴史ノート曰く「好きな人」を引いて選んだ人物の好感度は上がり、選ばなかった人物の好感度はかなり下がるらしい。このイベントは任意であり結末が書かれていなかった。この種目を桃花ちゃんが選択すれば桃花ちゃんの本命がわかるかもしれない。私は意気込んだ。が、桃花ちゃんが選んだ種目はパン食い競争。因みにパンは衛生上の問題で袋に入ったままです。確かめると、この『パン食い競争』はノートの端にメモのように書かれていたもので、取ってきたパンを攻略対象と半分こするものである。パンを分けてあげた攻略対象の好感度は微上昇。それ以外の攻略対象の好感度は変化なし。パンをあげない場合のリスクがないので、そこまで正確な桃花ちゃんの好意矢印はわからないが、方向生くらい見えてくるだろう。私はと言うと玉入れ落選、大玉転がし落選、綱引き落選、最終的に人数調整のため二人三脚にぶち込まれた。リアルラックェ…

ペアは二宗君。二宗君はイケメン君なので大変羨ましがられた。しかし代わってくれる玉入れもしくは大玉転がしもしくは綱引きの人物はいなかった。これらの競技に出るような人物は総じて運動が得意でないもしくはやる気がないので当然である。長距離走なんかと代わられても嬉しくないので辞退した。

放課後二宗君が私の机の前までやってきた。なんだ?


「朝比奈君。二人三脚の事だが、少し練習をしておいた方がいいと思う。」

「えっ、ヤダ!」


何を言ってるんだいこの子は。私がそんなのに参加するわけがないじゃないか。


「しかし私は他者に合わせる事が苦手だ。加えて私たちの歩幅はかなり開きがある。とても体育祭当日に上手く走れるとは考えられない。選ばれてしまったからには義務を全うするための努力をすべきだと私は思う。」


しかし二宗君は真面目だ。しかも言っていることは間違っていない。二宗君は高身長だけあってかなり足が長いのだ。歩幅なんて全然違う。反論の余地は…ない。憂鬱なため息が漏れる。


「わかった。私は運動苦手だから、何とか形になるまでしか付き合わないからね。」


何も優勝を狙っている訳ではないのだ。


「では明日の放課後から練習を始めよう」

「りょーかい。」



私たちの練習が始まった。放課後体操着に着替えてから校庭に出る。二宗君もジャージ姿。組み紐を持って出てきたようだ。


「これで足を縛ろう。」

「じゃあ私やるよ。」


組み紐を取って私の左足と二宗君の右足を揃えて縛った。

うーん。圧倒的に二宗君の方が身長高いな。


「私は二宗君の腰に手をまわすから、二宗君は私の肩に手をまわしてくれる?」

「あ、ああ、了解した。」


と言ったものの二宗君は私の肩に手をまわすのを躊躇しているようだ。私はさっさと二宗君の腰に手をまわした。


「二宗君。早く。」

「…すまない。」


二宗君は戸惑った顔をしたがそっと私の肩に手をまわした。


「じゃあ二宗君は右足から、私は左足からスタートしよう。声かけは、いち、に、ね。」

「そうだな。」


それからしばらくいっちに、いっちにと練習を続ける。やはり歩幅を合わせるのに苦労する。なかなか揃わない。こけることもしばしば。何度か続けているうちに、あっと思った時には私は地面に膝を擦りつけていた。

思いっきり擦りむいた。いったああ。


「っつぅ…」

「大丈夫か?怪我をしているようだが。」


ハーフパンツから覗いた膝からは血がだらだら出てきている。


「駄目だな。今日はここまでにして保健室へ行こう。」


二宗君は組み紐を解いた。

二宗君に肩を借りて水で傷口をよく洗う。かなり痛い。傷口は綺麗になったがまだ血が止まらない。保健室まではそんなに近い距離ではないし、このままじゃ廊下に血痕を残して行ってしまう。後から掃除するのが大変だ。めんどい。かと言って傷口をハンカチで押さえながら歩くというのは中々苦労する体勢だ。私はため息をついた。


「私が君を運ぼう。君はハンカチで傷口を押さえているといい。」


私の返事は聞かずに二宗君が私を抱き上げた。お姫様抱っこである。

ちょ、はずいんですけどおぉぉぉ―――!!


「いや、歩いて行くよ。降ろして」

「そのままでは廊下に血液が付着してしまうだろう。私の言うとおりにした方がいい。」


どうやら似たような事を考えていたらしい。私は渋々ハンカチを取り出して膝に当てた。廊下ですれ違う人々が無遠慮に私を見ている。いい注目の的だぜ。ああ恥ずかしい。お願い、もういっそ誰か私を殺して。

二宗君の羞恥心は麻痺しているようだ。二人三脚を始める時は肩に手を置くのも躊躇したくせに今はしっかり膝裏と背中に手をまわしている。

保健室に着いたが、肝心の保健医が居なかった。職場放棄かあ?や、でも放課後だから居なくても不思議はないか。いや、部活の怪我とかあるんだし、やっぱり居ろよ。


「困ったね。」

「勝手に物色するしかあるまい。」


二宗君は私を椅子に座らせると棚を物色し始めた。それからワセリンとラップと包帯を持ってやってきた。なんでラップ?


「君は座ったままでいい。私がやろう。」


二宗君がワセリンを手に取り傷口に塗りつける。


「消毒するんじゃないの?」

「消毒すると傷口の再生に必要な細胞まで殺してしまう。ワセリンで乾燥を防ぎ、ラップしておく湿潤療法が最良の選択だよ。ラップはきちんと交換するように。」


ラップを切り取って患部を覆うようにする。次は包帯だ。


「テーピングがあれば良かったんだが。見つからなかった。すまない。」

「ううん。いいよ、ありがと。」


器用にくるくると包帯を巻いていく。


「しかし君の足は細いな。」

「…褒めてるの?」

「…ただの感想だ。」


二宗君の目元はちょっと朱が差している。

包帯を巻き終わって片付けに入る。私は座っていていいらしい。手伝おうとしたら手で制された。

私たちはそれからもしばらくの間放課後練習を重ね。何とか歩幅が合うようになった。



結衣ちゃんお姫様だっこ初体験。

しかもそのまま校舎内を歩くという公開処刑(笑)

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