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第13話

つまり私はお金がないわけで。遊びに行きたい新しいお洋服欲しい新しい本欲しい化粧品も買い足したい美味しいもの食べに行きたいお菓子の材料買いたい。特にクリームチーズが高い。ありとあらゆる欲望は大抵金銭で解決される。中学生の私にはお小遣いしか金銭の入手ができなかった。だが高校生になったら違う。アルバイトへの道が開かれるのだ。

私は意気揚々と、ファミレスの一角から取ってきた無料のアルバイト情報の小冊子を開いた。業種は何にするか。事務は数が少ないし資格が必要だったりする。力仕事はもっての外。工場勤務はいいかもしれないけど希望時間帯が合わない。一番妥当なのは接客業だろう。コンビニとかか?あ、でもコンビニ結構時給安い…もう少し高いところが良いな。デモンストレーターは日給になるけどなかなかいい給与。しかし勤務地がバラバラで勤務日の主が土日。没だ。コールセンター?それクレーム処理の仕事じゃないだろうな?アパレルか飲食店かー…

ん?この店名どっかで見たぞ?どこだ?

私は記憶のページをめくり出す。

黒歴史ノートだ!隠しキャラの春日奏多かすがかなたがオーナーの喫茶店じゃなかったっけ。黒歴史ノートを隣に開いて読み比べる。

メイド喫茶『ルティ』お洒落な制服での落ち着いた雰囲気の接客業。お洒落なインテリアのアットホームな職場。

多分これだ。逆ハーレム辺りを狙ってるなら桃花ちゃんもここでバイトしてそうだが、私は別に桃花ちゃんをつけまわす必要性はない。つけまわしたからってノートのことが解決できるとは思えないし。よってわざわざ同じバイト先を選ぶ必要もない…って時給1100円か。これは中々。春日さんの人格についてはノートが保証してくれてるし行ってみようかな。

私は思いっきり時給につられた。

一応雪夜君に『七瀬さんってバイトしてる?してたらどこでバイトしてるかわかる?』とメールしてみた。返信は速攻で返ってくる。『4月の終わりくらいからルティってメイド喫茶でアルバイトしてるよ。そう言えばノートにもそれっぽい事が書いてあったね。隠しキャラだっけ。それがどうかした?』あちゃー。やっぱり居るか。長時間一緒に居ると観察できる半面、ぼろが出そうで怖いんだけどな。雪夜君にはちょっと迷ったが正直にメールする。『私もルティの面接受けてみようかと思って。一応七瀬さんがいるかどうか確認しただけ』返信が早い。『採用されたらお客さんとして行ってみるよ。採用、不採用を後で教えて。』うっ…見に来るのか。働きづらいぞ。雪夜君。

オーナーである春日さんから簡単な面接をされて、研修を受けることとなった。


私は圧倒されていた。目の前の男に。年の頃は20代半ば、艶やかな黒髪を片目側に流している美男子。黙って立って居ればちょっとアンニュイな雰囲気が漂う。体も大きく男らしい見た目。なのに…


「結衣ちゃんっていうのね~。可愛いわ~。特に涙黒子がチャームポイントね!うちの制服はメイド服なんだけどその綺麗な黒髪オカッパは和装も似合いそうだわ!創作意欲湧いてきちゃう。」


相好を崩してるこのお方はお察しの通り隠しキャラの春日奏多です。春日さんは喫茶店のオーナーの他にファッション系の仕事をしている。創作意欲が湧くとそのまま突っ走るお方である。面接時には普通の口調で普通のテンションだったので実際本性を見せられるとギャップにギョッとなる。まあ私は制作者だから春日さんのキャラクターは把握していたわけだけれど、ここは一つしらばっくれてフツーのリアクションを…


「失礼ですが、春日さんって…オカマさんなんですか?」

「違うわよ!アタシはオネェなだけよっ!」


びしっとと指さされる。

人を指さしちゃいけないと言われなかったかね?まあ私もほぼ初対面の相手に同じくらい失礼な指摘してるが。

春日さんは上に四人お姉さんがいる家で育ったため、女性言葉がデフォルトで染み付いているのだと仰られている。まあ知ってたけどね!小さい頃は女装までさせられてたって知ってるよ!言葉はオネェ言葉でも心は男なのでオカマではないというのが本人の弁。春日さんは言葉遣いに気を取られなければ実に陽気なお兄さん体質で、気遣いもできるし、何というか、いい人だ。

中々にインパクトがある。因みに隠しキャラについては特にイベントが設定されていない。地道に好感度を上げていくしかない仕様である。最も田中君は既にデレデレだけど。春日さんはどうかなー。ちらっと見る。


「?とりあえず結衣ちゃんの先輩の麗香れいかちゃんがマニュアル教えるから、わからないことがあったら質問してくれるかしら?」

「あ、ハイ。」


先輩であるメイドさんがシンプルな銀縁眼鏡をくいっと上げる。


櫻井麗香さくらいれいかです。新人さんね?よろしくお願いします。」

「朝比奈結衣です。宜しくお願い致します。」


櫻井先輩はきりっとした真面目そうな先輩だ。メイド長って感じ。

ノートには簡単に『制服がお洒落』としか記入しておらず、詳しく設定してはいなかったが、春日さんのメイド喫茶はメイド喫茶といってもヴィクトリアンメイドだ。フレンチメイド服でご主人さまに萌え萌えキュンするわけではないらしい。制服もクラシックなロング丈のメイド服にホワイトブリム。生地もバイトに着せるとは思えないほど上等だし、イミテーションパールを銀細工で縁取った飾りボタンが可愛らしい。どう考えても洗濯するのに特殊な技術が必要とされるので、制服は家庭に持ち帰って洗濯する方式ではなく職場からクリーニングに出される。室内のインテリアも質が良いアンティークで、とても綺麗だ。ランプのフレームさえ繊細。配置されてるセンスもいい。因みに口調は一応形式的に男性客には「旦那様」女性客には「お嬢様」と話しかけるらしい。これはどんな若年の男性がきても「旦那様」どんなご高齢の女性がきても「お嬢様」で固定である。

フロアには常時2~3人のメイドが待機しており、厨房の中には専門の調理師がいる。制服の見た目と料理の味の両面から勝負している喫茶店だ。

アルバイト初経験なので断言はできないが、マニュアルは概ね普通の喫茶店と同じだと思われる。常時メニューの他に季節のメニューの説明などを暗記しなくてはいけないところがちょっと大変そう。

新入りプレートを付けながら働く。そんなに客入りの多い店ではないが、人数こなせば慣れてくる。因みに研修期間は2日間らしい。その期間は時給が900円だ。シフトの相談で私は月、火、木の17時~22時の5時間入る事になった。長期休暇には時間帯の延長応相談らしい。ありがたい。


「櫻井先輩はここどれくらい務めてるんですか?」


客の切れ目に会話を試みる。


「麗香でいいわよ。私は11ヶ月ってところね。ここまだ新しい喫茶店だし、一番長い人で1年半だって言ってたわ。」

「そうなんですか。あ、良ければ私も結衣って呼んでください。」

「ところで結衣ちゃん、その眼鏡素敵ね?」


おっ。同じ眼鏡仲間か。私が今かけてるフレームはGのロゴが特徴的なブランドのナイロールだ。カラーはブラウン。細いテンプルの部分にGのロゴが模様になって入っている。


「ありがとうございます。ブランド物の割には1万8千円のセット(最下級のレンズ、加工料込)で結構お安かったです。」


最近流行りのセット眼鏡ショップなら別だが、昔ながらの(?)普通の眼鏡屋でちょっと良い眼鏡を買おうとすれば3~6万はする。特にレンズが高いわけだが。私は度が低いのでレンズにそんな厚みが出るわけでもないので最下級の球面レンズを使っている。


「そうなの?ブランド物の眼鏡って案外安く買えるのね。私も買い替えようかしら。」

「いいわねえー。お洒落だわ。眼鏡メイド二人。なかなか様になってるわよ。」


春日さんが乱入してきた。


「結衣ちゃん眼鏡はこだわり派?いくつくらい持ってるの?ブランド物しか掛けないの?」


ばんばん質問してくる。春日さんはファッション関係の話題は興味津々だ。

私は言われて指折り数える。


「そうですねー。現在度が合ってるのは3千円セットのやっすいのからブランド物も含めて12本くらいでしょうか。」

「あらー。お洒落ね?コンタクトはしないの?」

「私的外出の時はコンタクトです。カラコンとかも持ってますよ。」


コンタクトで遊ぶのは前世からの趣味だ。カラコンはいい。廃版になったワンデータイプも廃版間近にまとめ買いした程だ。


「素敵だわー。お洒落の幅が広がるわね。麗香ちゃんはコンタクト興味ないの?」

「目に異物を入れる勇気が出なくて…それに乱視の関係で使い捨てはツーウィークからしかないと言われていて。」


一応入れようと試みた事はあるらしい。私もコツが掴めなくて最初は苦戦したなー。ちょっと目に触っただけで「痛っ!!」とか大騒ぎして。今考えると大騒ぎしすぎて恥ずかしい思い出だ。

麗香先輩がツーウィークからしかないのは多分乱視の入ってる角度が問題なんだろうな。


「角度が90度とか180度じゃないんですね。ずっとコンタクトなら意外とハードが良いかもしれません。」

「角度?よくわからないけどハードコンタクトは目の中で割れたら怖いじゃない!」


確かにそれは怖い。顔面にいつどんな悲劇が降りかかるか分からないからな。私はハードは試着として入れてみたことはあるが、長時間使用した経験はない。ハードを使ってる子曰く「結構曇る…」とのことだったが。


「あら、お客様が来そうだわ。」


扉の向こうから人の話し声が聞こえて、春日さんがカウンターの後ろに引っ込んだ。


「「おかえりなさいませ、旦那様。」」


予想どおりでした?

結衣ちゃんの容姿を考えて和装喫茶とメイド喫茶どっちにするか迷いました。

でも萌えを追及して王道を選んでしまいました。

結衣ちゃんと桃花ちゃん侍らせて「お嬢様!」とか言われてみたいもんです。

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