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第10話

いよいよゴールデンウィークである。私はこのゴールデンウィークに一つの計画を立てていた。『里穂子ちゃん改造計画』である。里穂子ちゃんははっきり言うと垢抜けないタイプである。勿論ノーメイクだし眉すら整えていない。背中まである髪は梳いておらず首の後ろで一本に結んであるだけだ。しかも微妙に癖っ毛。桃花ちゃんみたいにふわふわの可愛い癖っ毛ではないストレートの髪と癖っ毛が入り混じってるのだ。しかし磨けば光ると私は睨んでいる。


「というわけだよ、里穂子ちゃん。」

「どういうわけなの?」


私の内心を知らない里穂子ちゃんが首を傾げている。


「いや、なに。里穂子ちゃんを魔改造しようと思ってるだけだよ。里穂子ちゃん、ゴールデンウィークデビューしてみない?」


高校生デビューのゴールデンウィーク版みたいな?


「え…っと。私は別にこのままで特に支障は無いというか…」


そりゃそうだ。支障があると思ったらもっと早くに改善されてる。


「ただ単に生きてるだけなら支障は無いかもしれないけど、人間、見た目を磨くのも重要だよ。第一印象が全然違うからね。特に里穂子ちゃんは可愛いんだから今のままじゃ勿体無い。ついでに言うと女を磨くのは女の宿命みたいなもんだよ。だって大切な人には可愛いって思われたいでしょ?」

「うーん。七瀬さんくらい可愛ければ磨く気にもなるけど。」


里穂子ちゃんはいまひとつ乗り気でない模様。里穂子ちゃん結構可愛い方だし、素材を手入れせずに放置するのはオバちゃん勿体ないと思うんよ。


「里穂子ちゃんも絶対可愛いって!ねっ、変わってみよう。」

「わ、わかった…そこまで言うのなら。でも絶対期待しないでね。絶対だよ。」

「よし、ショッピング&お食事で行こう。美容室とショッピングモール行くよ。お財布の中に軍資金を入れて駅に集合ね!」


ショッピングデートな訳で、私は眼鏡からコンタクトに換えた。もう春なので服装はピンクの色のドルマンスリーブのカットソー。裾にタックが入っている。首元が寂しくないようちょっと大きめの紐の長いペンダント。下はスカラップカットになっているオーガンジーフラワーのショートパンツだ。色はホワイト。髪にもリボンのついたカチューシャを付ける。

駅まで迎えに行くと時間に遅れることなく里穂子ちゃんは来た。

UFOのワンポイントが胸に付いたほぼ無地のTシャツに黒のカーディガン、下はスキニーデニムである。


「あ、結衣ちゃん眼鏡してないんだね?コンタクト?」


開口一番の質問がそれである。私のアイデンティティは眼鏡で固定なんだろうか。眼鏡というアイテムは結構好きだけどね。


「私的外出の時は大抵コンタクトだよ。」

「そうなんだ。可愛いね。」


里穂子ちゃんがじろじろ私の服装を観察する。


「私服も似合ってるし。」

「そう?とりあえず美容室行こうか?私が行きつけのところでいい?」


まずはあの重たい髪をなんとかせねばなるまい。毛先もばらばらだし。


「うん。私美容室苦手なんだよね。」

「美容師さんが話しかけてくるから?」

「うん。」


うんうん。気持ちは痛いほどわかるよ。よく知らない他人と話すというのは結構なストレスになるもんね。勿論お喋りを楽しんでるお客さんも沢山いるけど。私もあまりお喋りは楽しまない方。延々と雑誌を読んでいるか、切っているところをじっと見てしまう。多分美容師さんはじっと見られているのは切りづらいと思うけど。雑誌は向うで勝手に用意されるから趣味に合わない雑誌だと読んでも面白くないんだよね。


「今から行く所はあんまり話しかけてこないから大丈夫だよ。ところで里穂子ちゃん、結構髪長いけど伸ばしてるの?」


伸ばしてるんだとしたらあんまり切るのも悪いだろう。少々長すぎるようなイメージではあるけれど。


「ううん。美容室行くのサボってたら長くなっちゃったんだよ。」


なら切るのは問題なさそうだ。


「どんな髪型が良いとか希望はあるの?」

「やっぱりショートは抵抗あるかな。ロングで出来れば縮毛矯正かけてみたい!」


ヘアアイロンによる直毛を提案しようと思っていたけど本人が縮毛矯正かけるつもりならいっか。因みに校則でパーマによる巻き髪が禁止されているのに対し、縮毛矯正は禁止されていない。不思議。でも縮毛矯正って結構お金かかるんだよね。


「きっと似合うよ。」


里穂子ちゃんはストレートヘア似合いそうな顔をしていると思う。

私たちは私があらかじめ予約しておいた美容室に入って、ちょっとの待ち時間の間にヘアカタログを見た。ややイメージ通りのものがあったらしく、里穂子ちゃんはそれを持って美容師さんの元へと旅立っていった。私もいつもの前下がりのおかっぱ頭を維持するために美容師さんに手をひかれていった。私は現状維持な為さほど時間はかからなかったけれど、里穂子ちゃんは縮毛矯正をかけているため結構時間がかかった。


「おまたせ。」


声がして、私は雑誌から顔を上げる。美容師さんに送り出されてきた里穂子ちゃんは可愛かった。肩甲骨よりちょい下くらいの長さのロングストレート。やや毛先重めの今風スタイル。


「うん。里穂子ちゃん、すっごい可愛い!」

「え、えっと。そうかな?」


里穂子ちゃんは照れているようだ。

私達は一旦そこで食事にした。本当は懐に余裕があれば良かったんだけれど、二人とも結構金銭的には厳しいらしくうどんチェーン店で手を打った。温たま冷製うどんうまあー。

まず行く先は100均だ。眉毛を整える用のコーム、ハサミを買ってもらった。あと軍資金が足りないのでなく泣く泣くアイブローも100均だ。甘皮処理用のウッドスティックも購入。次にドラッグストアだ。甘皮処理用のキューティクルリムーバーとキューティクルオイルを買う。それから薄化粧に必要な化粧品を下地から仕上げまで一式とフェイスシェーバー。この辺りで里穂子ちゃんは半泣きだ。軍資金が尽きたらしい。だが一応ショッピングモールにも行く。いろんな服をとってはあれが似合う。これが似合う。とやっている。正直な感想、里穂子ちゃんの趣味は地味寄りである。春なのになぜかモノトーンばかりを選ぶ。

ふと見ると桃花ちゃんが二宗君と見知らぬ子供の手を引いて歩いている。ああ、イベント中だな。確か一緒に迷子の親を探すやつ。現実的に言えば館内放送してもらえ、と思う。真剣に服を見比べている里穂子ちゃんには二人を見かけた事は内緒にしておいた。

結局里穂子ちゃんは私の勧めで紺の(私はピンクを推していた)フロッキーのドットブラウスと数種類のシュシュを、私はレースアップ透かし編みのトップスを買ってきた。

この時点で結構な時間が経ってしまったので甘皮剥きと化粧の仕方を里穂子ちゃんに伝授するのは翌日に回された。


「あああああ。予算オーバーだよ。しばらくは新刊買えない…」

「まあまあ、一度買っちゃえば割と長く使えるものだし。」


疲れた感じでショッピングモールを後にして電車に揺られていると、学校のある駅から生徒一団が乗ってきた。


「あら、朝比奈さんじゃない?」


声をかけられて振り向くと月絵先輩と一条先輩と名前は知らないが生徒会メンバーがいる。

因みに月絵先輩は生徒会の副会長を務めている。委員会で顔を合わせて仕事風景を見る限り、月絵先輩は一条先輩と対等に付き合えそうな人物だが、敢えてそれを避けているようだ。

理由はわからないが。


「月絵先輩。こんにちは。生徒会のお仕事ですか?」

「そうなの。6月になったら生徒総会があるからね。そっちはお友達?」


里穂子ちゃんは私の陰に隠れていたがおずおず出てきて頭を下げた。


「1年4組の伊藤里穂子です。結衣ちゃんの友達です。どうぞよろしくお願いします。」

「丁寧にありがとう。私は3年2組の七瀬月絵よ。あなたたちと同じクラスの七瀬桃花の姉よ。よろしくね。」


にこりと笑う顔は美麗だ。


「七瀬さんの…」


里穂子ちゃんは感心したように月絵先輩をしげしげと観察する。月絵先輩は妹に恥じない美貌なのだ。見たければ好きなだけ見ろとでも言うかのように堂々とした態度だ。これで姉が美人じゃないと、実は愛らしい妹に強いコンプレックスを持ってて…とか要らん設定が付きそうだが、その心配はなさそうだ。美人に設定して良かった。月絵先輩は誤った選択肢を選び続けると一条先輩ルートでのライバルになり(和解イベントあり)、雪夜君ルートでは心強い助っ人になると設定されている。ノートのまま進むと逆ハーがデフォなので、桃花ちゃんは上手く調整しなくてはならない難しいキャラクターだ。


「俺様は生徒会長の一条誠だ。勿論覚えてるだろうな?」


聞かれても無いのに自己紹介する一条先輩。


「も、勿論覚えてますっ」


里穂子ちゃんが慌てて答える。


「ならいい。」


なにがいいんだか。

桃花ちゃんに知らないと言われたのがショックだったのかもしれない。

月絵先輩は私を見ている。


「?どうかしましたか?」

「朝比奈さん普段とだいぶイメージ違うわね?なんていうか…可愛いわ。」


学園きってのクールビューティー月絵先輩に言われてもなあ。一応曖昧にお礼を述べる。私も月絵先輩くらい美人だったら毎日鏡を見るのが楽しいだろうに。ギリィ…ハンカチ噛んじゃうよ。


「そうか?ちんちくりんじゃないか。桃花より酷いぞ?」


一条先輩の評価だ。確かに私はちんちくりんだが一条先輩にけなされるいわれは無い。

と言うか桃花ちゃんと比べるな。桃花ちゃんと。桃花ちゃんに比べたら大抵の人間は不細工だ。


「一条先輩が七瀬桃花さんを気に入ってるのはわかりましたから、いちいち比較しないでください。」


うざいから。


「き、気に入ってなんか…」

「どうでもいいです。それより一条先輩が電車通学だったなんて意外ですね。」


運転手が高級車で迎えに来るイメージがあったが。


「今日はこいつらに誘われたからだな。普段は車だ。」


どうやらイメージ通りのようだ。

キッと電車が急ブレーキをかける。私は勢いのまま一条先輩の胸にもつれ込んだ。一条先輩は私に体当たりされてもちょっとふらついただけで倒れたりはしなかった。広くてしっかりした胸板だ。安定感がある。って落ち着いてる場合じゃない。電車が停止すると私は慌てて一条先輩から離れた。こんなとこファンクラブの方々に見られたら袋叩きにあう事確定。車内アナウンスが人身事故を告げる。長くなりそうだな。私は疲れてため息をつく。


「お前、何かいい匂いするな。」


一条先輩が何気ない感想を述べる。

密着状態でそんなこと考えてたのか!


「へ、変態…?」

「…無礼者。」


ぺしんと頭上にチョップが繰り出された。


後日私は無事爪のケアとメイク法を里穂子ちゃんに伝授した。あと髪は括るなら首の後ろではなくポニーにと勧めておいた。うちの学校ではシュシュやリボンは禁止されていない。髪紐扱いなのだ。薄化粧を施した里穂子ちゃんは大変可愛らしかった。私の目に狂いは無いと確信した。眼福。

ゴールデンウィーク明け、里穂子ちゃんは多くのクラスメイトを驚かせた。それで覚醒したのか、以降里穂子ちゃんの性格までガラッと変わってしまったようで私は大いに戸惑うはめになる。


GW後半はあの人とデートです

誰かな〜ww

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