嫉妬
「騒がしい季節」の少しあと。
恋愛というゲームに長けているつもりだった。
遊びなれた相手とだけ関係を持ち、後腐れのない終わりを迎える。その中に本気という要素を持ち込むことほど滑稽なことはなく、そんな感情を抱くこと自体馬鹿にしていた。
それが今ではどうだろう、自分でも呆れるほど本気で恋愛にのめり込んでいる。
始めはただの興味本位から意図的に目で追い、気がつけば自然にその姿を探すのが当たり前になったと気づいたのはいつのことだったか。
いつも隣にいる聡里と笑いあうその姿に胸の内で何かが爆ぜ、それが嫉妬だと理解した瞬間、和意は自分がなぜ昶を意識するのかに思い至った。
まさか、というのが素直な感想だ。
たった一人の人間に囚われることがあること自体、想像していなかったのだから。
正直、ここまで、小泉昶という存在にはまるとは自分でも想像していなかった。
昶よりも長い付き合いの聡里にすら嫉妬をするほど、彼の存在が大きくなっている。
相手の言葉に、態度に、全てに翻弄される。
理性が働かなくなるなんて、初めての事態だ。
初めてだからこそ加減がわからないこともある。自分が抱いている気持ちを嫉妬だと認めるまでに時間がかかり、それを昶に伝えることも儘ならなかった。
「先輩のことだから、徹底的に排除するのかと思った」
自分をよく知る後輩の言葉に、和意は肩を竦める。
「仕方がないな。俺にとっては邪魔者でも、あいつにとっては付き合いのある後輩だ」
「でも桧原もそうそうやめないと思うよ、あれ」
聡里の指が示す先には、じゃれ付こうとする桧原と何とか逃れようとする昶がいる。だがそれも桧原の勝利で終わった。
「覚えるまで何度でも言うさ。ペナルティは付けさせてもらうがな」
「……昶が耐えられるくらいにしておいてよね。フォローするのは僕なんだから」
「一応覚えておく」
あっさりと頷くものの、和意は一向に昶たちから視線を外そうとしない。
近い将来起こるだろう事を想像し、聡里は一人溜め息をついた。