サクラ
掲載日:2012/03/16
下を向いた。
ハタハタと雫が零れて、地面を湿らせていく。
視界はぼんやりと朧気になるばかり、一向に晴れない。
胸がぎゅうって締め付けられる。
頭の中がぐしゃぐしゃになる。
目頭がジワリと熱くなる。
瞬きをすると、再びハタハタと雫が落ちた。
でも下を向いていると、歩けなかった。
先に何があるのかわからない。
見えるのは、雫で湿った地面と転がる小さな小石だけ。
ふと視線を移すと、花弁が落ちていた。
一枚の花弁。
儚いようで、確かに在る。
鮮やかな薄桃色。
ヒラリヒラリと地面に転がるように飛ばされる花弁を見つめ、少し気になって上を見上げた。
「わ・・・」
無意識に声が漏れる。
あの薄桃色が、視界一面に広がった。
更に視線を左右に動かせば、眩しいほどの光と、背景の息を呑むような青い空。
肌に感じるのは、太陽の光の心地よい温かさ。
――――――・・舞い散るのは、雪にも見える桜の花びら。
ジワリとまた目頭が熱くなった。
何も見えなかったのは、下を向いていたからだ。
上を向かなかったのは、先を見据えるのが怖かったからだ。
世界はとうに――――・・
進み始めていると言うのに。
握りしめた拳で、強引に涙を拭った。
前を向こう。
前を向いて、笑い飛ばそう。
大口開けて、馬鹿みたいに。
そうしたら今のこんな悲しさだって
笑って話せるようになるから。




