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七章 憑依

 キャンパス内で一番大きな棟の前で、水実は携帯を片耳に当てながら、目を見開いていた。

「二人が……、いないのよ」

『……えっ?』

 正義の声は、間抜けだった。

『ど、どういうこと? だって、一緒にそこにいるんでしょ?』

「さっきまではね。……悪いけど、ゆっくり電話してる場合じゃないみたい。一旦切るわよ」

『あっ、ちょっと待って……』

 制止を無視して、彼女は電話を切った。すぐさま、頭を回す。

(あたしの前は通っていない。建物の中に戻ったのかしら)

 視線の先にある、さっき出てきた校舎の出入り口を睨んだ。ただ自然に閉められているだけの扉が、他人の侵入を拒んでいるように見えた。

「……嫌な感じしかしないわね」

 引きつった笑いを浮かべて、彼女は校舎の中へと戻っていった。

 まだ四限が終わるまで時間があるとはいえ、うまいこと人影がなかった。音も、たまに教室から漏れ聞こえる授業のもの以外は、耳に入ってこない。気を張るが、霊力も感じられなかった。

「ヒントがなさすぎよ。まったく。もう少し、優しくしてほしいわね」

 一人ごちる。そんな言葉に反し、余裕なく首を左右に回す。どこに進めばいいのか、皆目見当がつかなかった。

「……もう!」

 予想外の事態と、自分への不甲斐なさから、彼女は脇腹を叩くと、

「村叉!」

 依り代を手に取り、式神を呼び出した。現れた鬼は、いつになく焦っている主人を目にして、首をひねる。

「どうしたんだい、水実。そんなに取り乱して」

「詳しい説明はしてる隙がないの! とにかく、あの栗色髪の女と、存在感欠けてる男を探して!」

「有紗と大幸かい」

「そっ! 私は右から行くから、村叉は左に行って!」

「あいよ」

 尋常ではない主の口調に、無駄話は不要と判断した鬼は、素直な返事をして、姿隠しを施してから、さっそく指示の実行に移った。

「頼むから、間に合ってよ……!」

 祈るような口調でつぶやき、水実もその場を後にした。




 今、水実と村叉が動き回っているのは、第二棟と言われる、主に授業用の教室が多い場所だった。なので、当然部屋数も多い。建物は三階建てなのだが、全階合計で、ざっと三十弱はあった。一階の部屋はやや多く、他の階は十部屋だった。

 まず一階の部屋を確認していく。授業中の場所にいるなら問題ないので、そういうところは中を一度見るだけで飛ばしていく。確かめるべきは、何も行われていない教室だった。

 結果、一階では二人を見つけられなかった。反対側に向かった村叉には、見つけたら霊力を使うように言ってあるのだが、その気配も現れない。

「……次ね」

 唇を噛んで、階段を見上げた。一秒にも満たない間の後、水実は駆け上がった。村叉には二階を頼んでいるため、三階へと向かう。

 上がりきったきたところで、ようやく村叉ではない人外の気配を捉えた。

「当たりはあたしか……」

 つぶやき、気を引き締めなおした。今の時間、三階では授業を行っていないらしく、不気味に沈黙している。閉ざされた空間の外には、そうそう影響は及ばないと知っているものの、それでも息を潜めてしまう。

 一つ、二つと、端から順々に教室を確認していく。四つ目に向かおうとした時点で、それをやめた。どの部屋かが、確定できたために。

「あそこね……」

 次に開けようとしていた場所の、隣の扉。媒体から飛び出した“あの少女”の霊力が、わずかづつに漏れていた。正面へと足を運ぶ。他と同じ形状で、変哲ないものの、半端ではない重圧を水実は感じた。ノブに手をかけることすらためらってしまうほどの。

 ただ、

「ずいぶんと、雑な結界ね」

 入ると決心さえすれば、開けるのは容易そうだった。

 村叉を待とうかとも思ったが、事態は一刻を争う。腹をくくり、右手に霊力を込め、結界破壊を発動しつつ、扉を思い切りよく開け放った。

「ぐぅ!?」

 すると、彼女の身体はまるで磁石に吸い寄せられるかのごとく、内部へと引っ張られた。誰の手も借りずに、扉が閉まる。

「いたっ!」

 引き込まれた水実は、机の間の通路に投げられた。顔をしかめて、身体を起こす。

 異様な空間だった。電気は消えていたが、窓から日が射していてさほど暗くないのに、空気が重たい。整然と置かれている机とイスも、どこか不気味だった。

 立ち上がる途中で、黒板がある方に、二人分の影を捉えた。見えている位置から、水実は自分が彼らがいるのとは逆側の扉から引きずり込まれたことを理解する。

 二つの影は、なんとも不可思議な構図になっていた。有紗は腰を抜かしているようで、首から上だけが机の合間から覗いており、大幸は今にも襲いかかろうかというようように、彼女を見下ろしていた。表情は、影がかかっていてよく見えない。

「み、水実ちゃん!」

 飛び込んできた人物が誰かに気づき、有紗が震える声で叫んだ。

 一方の大幸は、ゆっくりとこちらを向いた。いつもの儚げな雰囲気がない。嫌な予感しかしなかった。

「やっぱり間に合わないか」

 発せられた声は確かに彼のものだったが、いつものように穏やかで消えてしまいそうな調子ではない。はきはきしていて、しっかりとしたものだった。そして何よりも違っていたのは、言葉に刺々しさがあることだった。

「せっかく大幸の身体を借りて、ここまで連れてきたのに、あなたがちょこまか逃げるから、邪魔が来ちゃったじゃない」

 顔を有紗の方に戻す。完全に“女性”の口調だった。

「あんた、そいつの元彼女ね。名前は……、忘れたけど」

「池田あかりよ」

 緊張感に欠ける水実の言葉に、再びそちらへ目を向け、大幸は、いや、あかりは肩をすくめた。

「あと、一つだけはっきりさせておくわ。私は元彼女じゃない。今も、私は大幸の恋人よ」

 そう付け足す。それは、大幸を過去に縛り、彼女を現世へ留めている鎖だった。

「はあ……。典型的な悪霊なことね。想いが強すぎて、歪んでるわよ、あんた」

 ため息をついて、手のひら頭を乗せる。生前であれば、あかりの感情は清いものだっただろう。しかし、死後となった今では、誰かの命を脅かす邪念でしかなかった。

「歪んでなんかいないわ。私は純粋に大幸を愛しているだけ。だから、悪い虫は潰さなきゃいけないのよ。この子みたいな虫をね」

 なので、続けて彼女が口にした言葉に、清潔さなどというものはない。本人は気づいていないかったが、愛情の強さゆえに、憎しみに包まれいた。

「……イカレてるわね」

 水実は、一言吐き捨てた。

「まあ、あなたに私の感情の理解は求めていないから、なんとでも言うといいわ」

 そこまで言ってから、あかりは水実の方へ歩み出してきた。水実が、どこからともなく御札を手に持ち、構える。

「ただ、邪魔はしないで。従わないのなら、まずあなたから殺すわよ」

 距離が詰まったことでようやく見えた、大幸の身体を借りた少女の表情は、優しくも妖しい笑顔だった。

「……遠慮願うわ。あたしは、生きることには貪欲なの。そう簡単に死ぬのは御免よ」

 対する水実も笑ってみせた。こちらは、挑発的なものだった。

「前みたいな失態はしないから、覚悟しなさい。あいつの助けなしでも、あんたごときには負けない」

 御札に霊力が注ぎ込まれる。正義がいたならば、その大きさに目を丸くしただろう。

「行くわよ、馬鹿女!」

 威勢よく声を上げ、黒の陰陽師は御札を投げた。霊力に誘導されたそれは、正確に大幸の身体を奪っているあかりへ飛んでいく。

「効かないわ、こんなもの」

 しかし、その御札は腕を軽く振られただけで、風に負けたかのように、勢いを失って床に落ちた。一応、何枚かは腕に触れたのだが、ダメージは与えられていないに等しい。

「まだまだ!」

 怯むことなく、次の攻勢へ移る。手にはまだ御札が残っていた。

 だが、それは投げずに新しい御札を出す。軽い霊力を込めて、また投げた。

「無駄よ」

 いとも簡単に落とされる。水実の思惑通りに。

「そんなもん分かってるわよ!」

「なっ!?」

 声を上げた水実は、いつの間にか、眼前とも言えるほど、あかりに近づいていた。

「くらえ!」

 あかりの腹部へ水実が腕を伸ばす。手には、“一番最初に大量の霊力を込めた御札”があった。今まで投げていたのは、さほど集中しなくてもいい、霊力の小さいものだけで、威力を増加させたのは残していたのだ。

 あかりが両腕を腹部の前で交差させた。かまわず、その上から水実は御札を突きつける。白い閃光がはぜ、あかりが後方へ吹き飛ばされた。

「くう……」

 止まってから、うめき声を上げる。攻める手を休めず、水実は踏み込んでいく。

(もう一押し!)

 無尽蔵なのではないかと疑ってしまうほど、彼女はどんどん御札を投げつけた。一度、大きな衝撃を受けたためにあかりはすぐに反応できず、微細ながらも確実にダメージを溜めていった。

 今の水実の目的は、大幸の身体からあかりを追い出すことだった。常に取り憑いている霊なら、身体を奪わせたまま助霊するという手段も考えるのだが、あかりは単体でも活動できる。遺骨という媒体を見つけださなければ、どうにもならないのだ。なので、ともかく今は一旦、大幸を取り戻す必要があった。

「はあっ!」

 二枚目の高威力の御札を投げた。まだ目的の達成には不十分だが、流れを掴むくらいなら事足りた……、はずだった。

「調子に乗るんじゃないわよ!」

 投げつけられた御札にあかりの右手が伸びた。再び、強い光が走る。しかし、今度は吹き飛ばされていなかった。霊力を多く込めたはずの御札は、あかりの手の中で煙を上げて、握りつぶされていた。大幸の身体は、火傷で傷ついている。

「なっ……」

 掴まれた御札からは、霊力の気配が消えていた。威力までも、完璧に打ち消されていたのである。

「私の番よ」

 あかりが、無慈悲に宣言した。ダメージをしっかりと負っているはずなのに、足取りはしっかりとしていて、余裕がある。

「これはどうも、想像以上に効いてないみたいね……」

 冷や汗が、頬を伝う。敵は、ゆっくりとこちらへ歩みだした。

「ねえ、知ってる? 大幸ってこう見えて、男の子だからそれなりに力があるのよ」

 不気味に明るい声だった。

「……まあ、やろうとしてることは想像がついたわ」

「そう。見かけによらず、頭は回るみたい、ね!」

 言い終わるが早いか、“大幸”の男の拳が水実の顔へ飛んできた。かろうじて右に避ける。そのまま後ろに下がって、距離をとった。

「でも、やめといた方がいいわよ。陰陽師っていうのは、こういう事態も想定して、ちゃんと訓練してるの。あんたみたいな素人じゃ、返り討ちが関の山よ。男の身体を奪っていたとしてもね」

 水実が涼しい顔で告げた。

 その言葉に対し、

(言わなきゃ、有利に戦えるんじゃ……)

 密かにそう思ったのは、有紗だった。腰を抜かしたままなので、まだ位置は変わっておらず、教室前方の机と机の間に身体を沈め、顔だけを出して常識はずれの戦いを見ていた。

 水実のことだから、今の発言は真実に違いない。もし、それを隠しておけば、隙を見て大技を当てられたかもしれないのだ。言ってしまった今となっては、警戒されてしまうので意味もないが。

「前言を撤回させてもらうね。あなた、馬鹿だわ」

 早々に手の内をバラした水実に、敵のことながらあかりも軽く頭を抱えた。

「はあ? なんでよ」

 水実一人だけが、自分の失言を理解していなかった。口を尖らせる。

「気づいていないなら、そのまま気にしていればいいと思うわ」

 面倒臭そうに頭をかいて、あかりは問いを受け流した。続けて、

「それより、殴り合いは得意なのよね。なら、こんなのはどうかしら」

 悪意をにじませて、目を細めた。昨日の有紗の部屋を再現するかのように、教室内のものが続々と重力を失い、浮遊していく。黒板消しやチョークのような小さいものから、椅子や机といった大物まで、様々。

「これをよけつつ、私の攻撃もかわせる?」

「……さすがに、ちょっと分からないわね」

 水実は、引きつった笑みを返した。

「じゃあ、実際にやってみようよ」

 明るく、冷徹という、まったく噛み合わない感情が混じった言葉が放たれた。同時に、複数の浮遊物が水実に襲いかかる。

(本当、バカみたいな霊力ね!)

 心中で悪態をつきつつ、寸前のところでかわす。しかし、気は抜けない。攻撃は、彗星のごとく次々と降り注がれる。完全には避けきれず、いくつか身体をかすめた。

 さらに、足下からあかり自身も攻撃を加えてきた。寸前でかわす。

「くっ!」

「下も見ないと、足を掬われるよ!」

 楽しそうに甲高く笑う。状況は、最悪に近かった。

(なめんじゃないわよ!)

 それでも、驚異的な集中力で回避を続ける。ダメージが蓄積されていくが、敵の霊力も確実に減っていっていた。

「……ずいぶんとしぶといもんね」

 どのくらいの時が経ったか、あかりの猛攻が弱まり始めていた。霊力を失った机や椅子が、乱雑に転がり出していたのも、その証拠だった。

「はあ……、はあ……。これくらい余裕よ」

 左上からきた机を見切りながら、水実が強がりを吐く。

「ふん。よく言うわね。けっこう、堪えてるくせに」

 あかりは鼻で笑ってみせたが、彼女もそこまでの余裕はない。霊力の多さは目を見張るものがあったが、それでもかなりの割合を消費していた。

「別に、そんなことないわよ。あんたを負かすくらいの力はちゃんと残してるっての」

「どうだか。もう虫の息に見えるけど」

「そりゃ、あんたの目が節穴なのよ」

 敵同士ながら、テンポのいい会話を交わす。端から見ていた有紗は、

(生きてたら、ちょうどいい喧嘩友達になってそうだなあ……)

 のんきにそんなことを考えていた。しかし、ただのんびりと二人を見守っているわけではない。足に力が戻ってきていたので、霊力で封じられているであろう扉を、どう開けるかを思案してもいた。

 彼女は今、教室の一番前にある、黒板の下まで下がってきていた。さっきまでいた場所の机も持ち上げられていたし、なにより端に寄った方が安全そうだった。教室内では、常識を忘れてしまいそうなほど、大量にものが飛び回っていたのである。

「だいたい、攻撃パターンが単調すぎ。一つのパターンの中でいくらバリエーションを作ったところで、しょせんは同じ性質。決定打には欠けて当然だわ」

 水実としては、自分が優位であるのを示そうとしての言葉だったが、実際のところは、ただ相手に別の手段を考えさせてしまう、余計なものでしかなかった。

「本当、あなたって……」

 そして、あかりはそれを思いついた。今までで一番の悪意を込めた笑顔を浮かべる。浮遊させていたものを次々下ろし、数個だけを残した。ますます部屋の中が散らかる。

「バカよね」

 言葉と共に、机を一つ飛ばした。しかし、狙いは、水実ではなかった。

「なっ!?」

「えっ……」

 机は、有紗に向かって飛んだのである。

「くそっ!」

 水実は御札を机の軌道に向かって投げた。加えて、当たるかどうかの確信を持てなかったので、

「避けなさい、有紗!」

 命令口調で叫んだ。

 有紗は返事をしなかったものの、しっかりと指示に従い、左へ急いで動いた。ただ、いかんせん座った状態なので、速度が足りなかった。

 御札が、なんとか机に届く。霊力は消されたが、机はそのまま有紗のいる方へ突っ込んだ。

「きゃあああああ!」

 悲鳴が上がる。同時に、大きな衝突音が響いた。

「有紗!」

 彼女の名前を叫んだ瞬間、水実は頭部に衝撃を受けた。

「がっ……!?」

 水実は声にならない声を出して、うつ伏せに倒れた。さらに、彼女の頭部を襲った机が、追い討ちとして背中の上に落ちる。

「あああああ!!」

 痛みに耐えかね、悲鳴を上げた。

「あはははは! バカ! 本当にバカ! 何も言わなきゃいいのに。あなたが単調だって言うから、少し考えてみたらすぐに思いついたわ。そうよね。あの子を守ろうとしてるんだから、あっちを狙えば、私への警戒は疎になるに決まってるわよね!」

 目論み通りに攻撃が決まり、あかりは高らかに笑った。さらなる追い討ちをかけようと、背にものを浮かせて、這いつくばっている少女に近づいていった。

「この……っ」

 なんとか机を身体の上からどかし、あかりを睨みつける。立ち上がろうとするが、痛みのためか動作は遅かった。

「まだやる気なんだ。無理しないで、死んどきなさいよ。どれだけ粘っても、あの子を守りながらじゃあなたに勝ち目はない」

 まだ戦う姿勢を見せる水実を、見下しながらあざ笑う。お遊びの気分で、黒板消しを水実の腹部に飛ばした。

「ぐはっ!!」

 避ける気配すらなく、彼女はそれをもろに受けた。勢いで後方に飛ばされ、呻き声を上げる。

「水実ちゃん!」

 と、誰かが名前を呼んだ。目をやると、有紗だった。なんとか机をかわしていて、無傷だったのである。

「あっちも生きてたか。素直に死んでれば、あなたも楽に戦えるのにね」

 横目で有紗を見ながら、あかりはわざとらしく肩をすくめて見せた。

「……それじゃだめね」

 水実が、つぶやいた。

「あたしはね、一つ陰陽師として決めてることがあるの」

「へえ……。何かしら?」

 目を細めながら、あかりが尋ねた。面白がっているのは明らかだった。それでも、水実は大真面目に続きを口にする。

「討伐対象に、誰も死なせないことよ。死霊相手だろうが妖怪相手だろうが、あたしの目の前では死なせない。もちろん、あたし自身もね」

「……っ!?」

 まだ床に座ってしまっている体勢ながら、言い切った彼女の剣幕には、鬼気迫るものがあった。圧倒的有利な状況下であるにも関わらず、あかりが気圧されるほどに。

「……はっ! そんな決まり、ここで破れてあんたの人生も終わりよ! 死になさい!」

 自分が気圧されたという事実をかき消そうかというように、形相を変えて攻撃に出た。水実と有紗両方に、机を飛ばす。

「有紗、“もう一回だけ”避けなさい!」

 そう叫ぶと、いつの間に込めていたのか、水実は霊力をたっぷり込めた御札を二枚出し、自分と有紗に向かう机に投げつけた。さっきとは違い、霊力がぶつかって机の勢いを止めようとしていた。

「なっ!?」

 先ほどは、自分の支配から解放しただけだった御札の効果の違いに、あかりは目を見張った。

 と、

「いけないねぇ。背中、がら空きだよ!」

 ハスキーな声が聞こえ、霊力の込められた何かが身体を通り抜けた。あかりが、声の正体へ顔を向ける。

「あなたは……!」

 そこにいたのは、昨夜もいた小鬼だった。こちらに視線に気づき、ニヤリとする。

「いい加減、そいつに身体を返してやるんだね!」

 言い終えるが早いか、大幸の身体が強烈な拒否反応を起こし始めた。あかりの支配が、効かなくなる。

「ぐううう……! ああああああ!!」

 雄叫びのような声を上げ、もがき苦しんだ後、“大幸”は床に倒れた。

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