転移魔法のご利用は計画的に ~穴入って穴に入りたい思いをした勇者の話~
転移魔法やマジックバッグ、異世界物ではよく出て来るけど時空を曲げるほどの魔法って物凄い魔力がいるんじゃない? と思い、1本書いてみました。
第8作目
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「ついに習得したわ!」
王都広場に、女勇者アメリアの誇らしげな声が響き渡った。
苦節三年。
寝る間も惜しんで古代魔法書を読み漁り、解読の末に手に入れた高位魔法。
《空間転移》。
これさえあれば大陸中どこへでも一瞬で移動できる。
広場を埋める観衆から歓声が上がった。
「勇者様ばんざーい!」
「歴史的瞬間だ!」
「魔王もびっくりだな!」
アメリアは満面の笑みで詠唱し魔力を練り混ぜ始める。
「見てなさい! これが新時代の移動手段よ!」
青白い魔法陣が空中に浮かび上がった。
光の輪が広がり、やがて地面と平行に巨大な円が現れる。
空中にぽっかり開いた穴。
まるで宙に浮く井戸の入り口だった。
「おぉぉぉーっ!」
歓声がさらに大きくなる。
しかし隣で見ていた魔導士ハンナが首を傾げた。
「アメリア。」
「なに?」
「少々小さくありませんか。」
アメリアの笑顔がぴくりと固まる。
「……大丈夫よ。」
「本当に?」
「大丈夫だってば。」
「本当に本当?」
「うるさいわね!」
アメリアは助走をつけた。
走る。 走る。
そして跳ぶ。
美しいフォームだった。
飛び込み競技なら満点を取れそうな勢いで、両足を揃えゲートへ飛び込む。
足が消える。
膝が消える。
太ももが消える。
「おおっ!」
歓声が上がる。
腰が通過する。
ここまでは完璧だった。
アメリアは勝利を確信した。
「ほら見なさい!」
その瞬間。
ガシッ。
「へ?」
止まった。
ぴたりと。
見事なまでに。
空中で。
完全停止。
「……え?」
広場が静まり返る。
下半身はゲートの向こう。
上半身はこっち。
アメリアだけが中途半端な位置で浮いていた。
「……え?」
もう一度言った。
「え?」
原因はすぐに判明した。
背負っていた勇者の剣。
その立派な鞘が、ゲートの縁に絶妙に引っ掛かっていたのである。
斥候のキースが吹き出した。
「ぷっ。」
「笑うな!」
「いや無理だろ!」
「無理じゃない!」
戦士ディックがやってくる。
「動くな。」
「動けないわよ!」
「それもそうだな。」
ディックは片手でアメリアの腕を支え、もう片手で剣帯を外した。
がちゃり。
鞘が外れる。
アメリアの顔が明るくなった。
「ありがとうディック!」
「礼はあとだ。」
ずるっ。
アメリアの身体が少し沈む。
そのまま通過するかと思われた。
だが。
ぐっ。
再び止まった。
「……」
「……」
「……」
空気が凍る。
アメリアも固まった。
「いや今度は何?」
キースがゲートを覗き込む。
「胸?」
ハンナも覗き込む。
「違いますね。」
「じゃあ何よ!」
「というか。」
キースは真顔で言った。
「ゲートが少し縮んでないか?」
全員が見る。
確かに。
ほんのわずかだが。
さっきより小さい。
「……え?」
アメリア。
「……え?」
ディック。
「……え?」
ハンナ。
満場一致だった。
その頃には野次馬が百人を超えていた。
「あれ勇者様だ。」
「引っ掛かってるぞ。」
「また新しい魔法?」
「違うと思う。」
「かわいい。」
「見ないでぇぇぇぇ!!」
アメリアの悲鳴が広場に響く。
さらに最悪な事態が発生する。
びりっ。
びりびりっ。
ゲートが揺れ始めたのだ。
ハンナの顔色が変わる。
「あっ。」
「その『あっ』やめて!」
「まずいです。」
「何が!?」
「魔力が切れかけています。」
「それはどういうこと!?」
「ゲートが閉じそうです。」
「早く何とかして~~!」
「閉じる途中で物が挟まっている場合。」
「場合?」
「理論上、上下に分離します。」
「どうして、今言うのよぉぉぉ!!」
広場が大混乱になった。
ディックが叫ぶ。
「総員! 勇者救出作戦開始!」
兵士たちが走る。
「了解!」
「引けー!」
「押せー!」
「引くのか押すのか統一しろ!」
ハンナが杖を掲げる。
「ゲートを拡張を心みます!」
魔力が流れ込み、穴がほんの少し広がる。
「今です!」
ディックが腕を掴む。
キースも掴む。
ぐいっ!
「痛い痛い痛い!」
ぐいぃぃっ!
「おっおおしりが痛いぃぃぃ!」
キースが言った。
「油でも塗るか。」
「塗るな!」
「石鹸は?」
「どこから持ってくるの!」
「バターなら向かいの食堂に。」
「料理じゃないのよ!」
時間がないディックが再び叫ぶ。
「兵士全員、引けぇぇぇぇ!!」
兵士がディックを引っ張る。
別の兵士が兵士を引っ張る。
さらに後ろからまた兵士。
列はどんどん長くなる。
ハンナがぽつりと言った。
「なんだか某童話みたいですね。」
「言うなぁぁぁぁ!」
「準備はいいか!」
「おおーっ!」
「せぇぇぇーの!」
ぐいぃぃぃぃぃ!
だめ。
「もう一回!」
ぐいぃぃぃぃ!
だめ。
「もう一回!」
ぐいぃぃぃぃぃぃ!
だめ。
アメリアが半泣きになる。
「私のおしりそんなに大きくないわよぉぉ!」
キースが即答した。
「いや結構立派だぞ。」
「後で覚えてなさい~~~!」
そして運命の最後の一回。
ハンナが叫ぶ。
「私の魔力がまもなく切れます!」
ディックが吠える。
「全員全力!!」
「おおおおおおおおお!!」
ぷるぷる。
ぷるぷる。
ぷるるるるるるる。
そして。
ずぼっ!
ぽーーーーーーん!!
アメリアが栓のように射出された。
十メートル。
二十メートル。
三十メートル。
空中で三回転。
「いやぁぁぁぁぁ!」
どぼーーーーーーん!!
見事に噴水へ着水した。
静寂。
やがて噴水の中からアメリアがゆっくり立ち上がる。
髪と鎧はずぶ濡れ。
パンツはズリ落ち、下着姿。
プライドは沈没。
しかし命だけは助かった。
広場から大歓声が上がる。
「やった~救出成功ー!」
「勇者ばんざーい!」
「感動した!」
ハンナは目元を拭った。
「みんなで力を合わせることの大切さを学びましたね。」
アメリアは遠い目をした。
「私は別のことを学んだわ……」
「何をです?」
アメリアは静かに答えた。
「転移ゲートは、余裕を持って作ること。」
少し考えてから付け加える。
「特に、おしり周辺の余裕は大事。」
後に魔法学校では、この事件は
『勇者の空間転移おしり事故』
として教科書に掲載されることになる。
なおアメリア本人は、掲載差し止めを最後まで訴え続けたという。
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そろそろ、ネタ切れ感が。展開が思い浮かばす、某童話に頼ってしまいました。
今回合わせて計8本書いてみましたが、連載書いてる作家さん達って凄いな~とつくづく感心しました。




