こうして王子様は幽閉されました
ライラ・エルフィータはこの国の王子、リチャードの婚約者だった。
幼い頃に決められた婚約。
幼い頃の二人は自分たちの婚約の意味など知らず、無邪気に笑いあってさえいた。
だがそれが変わってきたのは、二人が年頃になってからの事だった。
幼い頃からずっとそうだった関係であるからこそ、リチャードはその関係が変わる事はないとでも思っていたのかもしれない。だからこそ、自分が何をしたところでライラが婚約者である事は変わらず、いずれ結婚しなければならない女とでも思ったのかもしれない。
リチャードは学園で出会った男爵令嬢ミラと恋に落ち、ライラを疎み始めた。
リチャードの心変わりにライラが傷つかなかったか、と問われれば、傷つきはしたのだと思う。
そうでなくとも今後国を背負っていく存在だ。
苦楽を共にすると同時に、同世代の者たちの手本となっていかねばならぬ立場。
だからこそ誤解をされるような行動は慎んでほしい、とライラとしては至極真っ当な忠告をしたつもりだった。
しかしそれが結果的にリチャードの心を更にミラへ傾ける結果となってしまった。
最早何を言ったところでライラの言葉がリチャードに届く事はない。
王子と男爵令嬢、身分を越えた関係。真実の愛。
そんな風に一部が持て囃したのもリチャードの行動を止められなかった原因の一つなのかもしれない。
一部の者たちの中で、ライラはいつの間にかそんな二人の愛を邪魔する存在――悪役令嬢として囁かれるようになった。
ライラがリチャードに恋をしていたのであれば、ここで傷つきどうにかしてリチャードの目を覚まさせようだとか、あの邪魔な女を消せば……だとか、ともあれそういう風に考えて行動したかもしれない。
だがしかし、ライラは自分が邪魔者と扱われるようになった時点で、確かに心が傷つきはしたものの、それも僅かな時間だけだった。
私の事を好きじゃない殿下なんて必要ないわ。
そんな風に秒で興味を失って、秒でリチャードへの好意的な感情も消失した。
切り替えが早すぎて誰もライラの内心の変化に気付けなかったに違いない。
そうはいってもこの婚約は王命であった。
だからライラから婚約の解消を願い出たところでそう簡単に話は進まないし、ましてや人前でリチャードがライラに向けて婚約破棄だっ! なんて宣言したところで意味がない。
ライラはわかっている。
リチャードがそれを理解しているかは定かではない。
何故なら恋に溺れたリチャードは、自分がするべき執務などをライラに押し付けまくっていたからだ。
いずれ王を支える妃となるのだから、とライラもそれなりに頑張っていたけれど、正直蔑ろにされて自分の存在を軽んじてくる相手のために尽くしてやる義理はない。
だがこのままでは、面倒な事になりそうね……と考えたライラは迷う事なく証拠を集め、現状を訴えた。
誰にって、この婚約を決めるに至った大人たちへである。
ライラの両親にリチャードからの仕打ちを訴え、リチャードの両親にこの婚約を軽んじてるのはそちらの息子さんですけれども? というのをそれはもう整えまくった体裁ですら覆い尽くせないような言葉の棘を滲ませつつ知らしめた。
いくら王命で結ばれた婚約で当人が望んでいなかったとしても、だからといって互いを蔑ろにしていい理由にはならない。
そも、この婚姻に関する話は一つの契約でもあるのだ。
その契約を軽んじるような男が次なる王になる、と考えるとそれはなんと恐ろしい話だろうか。
王も王妃も最低限理解しているはずだと思っていた息子のあまりのやらかしっぷりに、思わず天を仰いだ。
だがお年頃の王子様に、今から親がせっせと婚約者を大事にしろだとか、王家の人間としての自覚を持てだとか、責任だの契約だのといった堅苦しく真面目な話をしたところで、恐らく素直に聞き入れてはくれない。
聞き入れる事ができていたのなら、そもそもこんな事態になっていない。
ライラが悪役令嬢みたいだと周囲が囁いている時に、そもそも悪いのは婚約者以外の相手を好きになった自分だと言える気概もない男が、今からあれこれ言われたところで両親が口うるさく叱ってくる、くらいにしか思わないだろう。
「大勢の前で婚約破棄なんて茶番をさせるわけにもいきませんし、かといってわたくし、王家の機密に関する情報を知ってしまいましたが……それだって王妃となるべくして知ってしまったものであって、王家の情報を盗もうとしたわけでもありません。
それに、婚約者以外の相手に現を抜かしているのがこちらなら、処罰されるのも致し方なし……と思えますが浮気をしているのはあちらですもの。
それでこちらが処分される、というのはあまりにも道理が通らぬというもの」
「まったくですわね。一体どこで育て方を間違えてしまったのかしら……」
眉間に皺を寄せた王妃と、深い溜息を吐く国王の表情は最早今後を決めたものであった。
ここでライラを犠牲にしてしまえば、言うまでもなく彼女の両親――公爵家が黙っていない。
ライラにこそ非があるのならまだしも、悪いのはどう考えてもリチャードなのだ。
仮にライラの人間性に問題があってどうしても結婚したくない、と思ったとしても、やり方が不味すぎる。
ライラはあくまでも忠告をしただけで、リチャードの想い人であるミラに対して何かを仕掛けたわけでもない。
勿論友人たちを煽動して……なんて事もしていない。
どこまでも真っ当にリチャードに対して忠告をしただけである。
だというのにその結果が悪役令嬢扱いでは、むしろライラがその場の勢いでリチャードとミラを害したとしても、まぁそうなるよな……となってしまう。
真実の愛だのなんだのと持て囃していた面々からすればそちらの方こそが理不尽だとなるかもしれないが、事情を把握している大人たちからすればそりゃそうなる、としか言えないのだ。
それにだ。
いくら若気の至りであったとしてもやっていい事と悪い事がある。
もしミラと結ばれたいがためにライラを噂の通り悪役令嬢として――悪事をしただとか、何かそれらしい罪を押し付けたとして。
そんな事をして罰として婚約破棄、なんて宣言したところで、王も王妃も息子の選択をよくやったと褒めてやるつもりはない。
自分の意思で掴み取った未来が輝かしいものであるのなら、誇りに思えたことだろう。
だがしかし、もしそんな事をやろうものなら間違いなく公爵家は敵に回るし、更にその一門、派閥も王家への不信を抱くだろう。
むしろ公爵家と違う派閥であっても不信感しか抱けない。
そしてもしそんな事実が周辺の国々に知られてみろ。
最早この国と関わる意味は無し、とされて関係を断ち切られてしまえば交易による流通は停止し、互いに協力関係にあった国も間違いなく距離を取る。
約束が守れない男が王になった時点で、国同士の契約もいずれ反故にされると思われたって否定できないからだ。
リチャードが仮にそんな事はしない、と宣言したところで、婚約破棄などの茶番をしてしまった後では何を言ったところで今更になってしまう。
結婚するのはライラとリチャードであっても、その婚約を決めたのは王家であり、当人だけの話ではなくなっているのだ。
少し考えればわかりそうなものなのに、恋に浮かれてその部分が見えていないのだろう。
落ち着けば、あるいは……と思いたくとも、自分の執務として割り当てられているものをライラに押し付けてミラと恋愛を楽しんでいるようでは落ち着いたところで最早……と思われても仕方のない事。
「あいわかった、すぐさま対処しよう」
故に、王の判断はあっさりと下されたのである。
放置した結果国が滅びるかもしれないのだ。我が子可愛さに国を滅ぼし後世に愚王と伝えられるのは流石に王も避けたかった。
――リチャードは違和感を覚えて目を開けた。
白……くはあるがくすんだ色の壁は間違っても自室ではない。
自分の部屋の壁とは異なるどころか、室内は日当たりがあまりよくないのか薄暗かった。
そもそも寝台だって自分がいつも使用しているものではないからか、身を起こそうとした時点で身体がやけに軋んだ。目覚めは最悪、とまではいかなくとも、まぁご機嫌になれるはずもない。
重く鈍い痛みのようなものが頭からしているが、しかし殴られたわけでもなさそうだ。
鈍痛。けれども外傷はない。
なんだかまるで話に聞いた二日酔いのような――と、そこまで考えたところでそういえば昨夜、食前酒として普段は出ない珍しいワインがあったな、と思い出す。
味は悪くなかったと思うが、普段から飲みなれているわけではないからか、そのせいで酔ってしまったのかもしれない。
そう思いながら、ゆっくりとベッドから下りる。
ともすれば引きずってしまいそうになる足をのろのろと動かして、ここが一体どこなのかを探ろうとする。
誰か、と呼んだところで人が来るようには思えなかったからだ。
もしかして、賊が城に忍び込み誘拐した……? などと考えてしまえば、下手に物音を出すのは得策ではないようにも思えた、というのもある。
しかし特にこれといった手がかりもないまま、リチャードは恐る恐る部屋唯一のドアに向かい、ドアノブに手をかけた。開いていない可能性の方が高いな、と思いながらゆっくりと開けてみれば、予想をあっさりと裏切ってドアは簡単に開いた。
それと同時に、隣の部屋から物音が聞こえて思わず身体を強張らせる。
誰かが、自分以外の誰かがここにいる。
同じようにここに連れてこられた被害者か、はたまた自分をここに連れてきた賊か。
取るべき行動を間違えたら死んでしまうかもしれない……そう考えると、リチャードはますます身動きが取れなくなってしまう。
だが、聞こえてきた声に。
リチャードは咄嗟に隣の部屋のドアノブを掴んでいた。
「ミラ! 大丈夫か!?」
「その声……リチャード? リチャードなのね!?」
リチャードがドアを開ければ、そこには愛しいミラの姿が。
簡素な室内着だった。普段は学園の制服姿を見る機会の方が多いくらいだったし、それでなくとも男爵家の経済事情から豪華なドレスなどは持っていないと言っていたので、外出用の服のいくつかをリチャードはミラに贈ったりもした。
だからこそ、ここまでシンプルな服を着たミラというのはなんだか新鮮というよりは違和感しかない。
わけがわからないまま、とにかく二人はどうしてここにいるのかを話し合ったが、正解には至らなかった。
情報がなさすぎるのだ。
ただミラも昨夜はいつものように過ごしていたと言うし、特におかしな事があっただとか、変わった事をしただとか、そういうのはなかったらしい。
二人がそれぞれ昨日の事を振り返っても、今に至る情報が何もない。
そもそもここがどこなのかさえ、二人にはわからなかった。
「とりあえず、出口を探そう」
「え、えぇそうね」
ミラ以外の人の気配はない、ように思う。
生憎離れた場所にいる誰かの気配を察知できるような達人みたいな事はリチャードにはできない。けれど、あまりにも静かすぎた。
誘拐犯がいたとして、それが自分たちをここに運んだとしても。
見張りが誰もいないというのも妙な話だ。
万が一バッタリそんな犯人と出くわしたとして、ミラだけは守らなければ……! と内心で決意を固めつつ、リチャードはミラを背に庇うようにして歩き始めた。
部屋の数はそれなりに多いようだが、しかしそのほとんどには鍵がかけられて入れないようになっていた。
ドアが開くかどうかを確認したらそのまま廊下を進むだけ。
やっている事はシンプルでとてもわかりやすい。
けれども廊下を進むだけなので、進展と言えるものはなかった。
そうして玄関に続くであろう廊下を進んでいたものの、途中に作られた扉によってその先に進む事は叶わなかった。後から作られたのだとあからさまにわかりやすいその扉には鍵がかけられている。
廊下には窓があるにはあるが、リチャードたちの手が届かないような高い位置に、明かり取り用の小窓しかない。窓をぶち破って脱出、というのは不可能だった。
リチャードがミラを抱え上げても届かない高さだし、仮に道具を使って届いたところでそもそも頭が出るかどうかも微妙な小窓だ。
脱出手段としてはこれっぽっちも期待できない。
自分たちが寝かされていた部屋の窓なら……と思ったが、しかしそういえばあの窓は外に格子があった。窓を割ったところで外に出る事はどのみち無理そうだ。
当初懸念していた自分たちを攫ったであろう賊との遭遇は、一切なかった。
というよりも、人の気配がなさすぎるのだ。
自分たちが移動する際に出している物音以外、聞こえてくる音もない。
そうしてあちこち行ける範囲を彷徨っているうちに、どうやら厨房へと辿り着いていた。
そこにはすっかり冷めてしまった料理があった。二人分。
柔らかくはあるがパサついたパンとサラダ。それから冷めて脂が固まった肉。スープもあるがこちらもすっかり冷めてしまっていた。
ぐぅ、と腹が鳴るのを感じる。
そういえば、起きてから今の今まで何も食べていない。
ミラも同じように空腹を自覚したらしく、仕方なしに冷めた料理を食べる事にした。
毒が盛られているかもしれない、と考えたのは一瞬だった。
どちらにしても食べないという選択肢はなかったので、その考えは無理矢理頭の片隅に追いやってしまった。
冷めていても問題のないサラダだけがマシに思えたが、しかしドレッシングすらかかっていないただの野菜にリチャードは内心うんざりして、肉を口に運んだ。冷めて固くなって、あまつさえ白い脂がついていて美味しいとはあまり感じられない。
それはミラも同じだったようで、彼女はパンを二つに割ってそこにサラダと肉を挟んで噛り付いていた。
そうする事で味を混ぜ、食感を誤魔化そうとしたのだと気付いたリチャードもまた同じようにしてみる。
……別々に食べるよりはマシかもしれない。けれど、城では決してやらない食べ方だった。
ミラと一緒にいると、自分の思いもよらない事態に遭遇する。
それがやけに新鮮で、だからこそミラに惹かれるようになっていったのだと思い出す。
こんな場所で改めて再確認して、彼女のためにもどうにかしてここから脱出しなければと決意しなおしたものの。
その決意はあっさりと崩れた。
二人が寝かされていた部屋以外に開いている部屋は、そこだけだった。
その部屋の机の上には手紙があり、そこには王家の証とも言える印があった。
何故このようなものが……と思いながらも開封してみれば、そこにはリチャードの今後についてが記されていた。
ライラとの婚約はリチャード有責で破棄となった事。
王命の意味を理解せず他の女と結ばれようと画策していたことから、リチャードに次の王の座を与えるわけにはいかないという事。
それだけならリチャードから王位継承権を剥奪し、爵位を与えるなりしてミラと結婚させればよかったのだが、よりにもよってリチャードはライラに自分の執務をまるなげしていたからこそ、ライラは国の機密に必要以上に触れる結果となってしまった事。
リチャードの浮気が原因なのにそのせいでライラが処罰を受けるような事になれば、王家の威信は揺らぐ一方。
故にライラを罰する事はできない、が、しかし同時に彼女を王家から解放する事もできなくなってしまった事。
結果として次の王の座は王弟へ譲る事が決まったし、ライラは王弟の妻となる事が決まった。
これならば今までライラにかけた教育も無駄にならずに済む。
では何故リチャードがこのような場所に閉じ込められたか。
ただ他の女に現を抜かすだけなら、こんな事まではしなかった。
しかしリチャードは軽率に機密が書かれた書類ですら、ライラに押し付けていたのだ。本来それは王子自身が処理しなければならないものだったというのに。
機密を機密と扱わず、軽率に情報を漏洩するような男を外に出せば、いつうっかり王家の秘密を周囲に明かすかわかったものではない。城の隠し通路の位置なんて冗談でも外に漏らされようものなら、他国のスパイがそれを利用してしまうかもしれないのだ。それ以外の情報だって扱い方次第ではとんでもない事に繋がるかもしれない。
故に、危機感も何もあったものではないリチャードの事は今は使われていない離宮へ幽閉すると決めたようだった。一人では寂しいだろうし、ライラとの婚約を破棄しようと画策までして結ばれようとしていたミラも一緒であれば少なくとも寂しさからは逃れられる。
愛する者と二人きり。
それはリチャードが望んでいた事でもあったが、こんな形で望んでいたわけではない。
けれども既に決定事項となってしまったそれに、リチャードは手紙を持つ手が震え、顔色も真っ青になっていた。その様子からただ事ではないと感じたミラも不安そうにリチャードを見上げている。
食事に関しては運ばれるとあるものの、どの時間に運ばれるかは記されていなかった。
それは運が良ければ温かい食事にありつけるが、そうでなければ今回のように冷えた食事であるかもしれないという事だ。
服に関しては最初に寝ていた部屋のクローゼットにそれぞれ用意されているとも。
着替えに関しても定期的に用意するとはあったが、外に出る事は許されないのでいざ確認してみれば用意されていた服はどれも質素で、まるで平民が着るようなものばかりだった。
使用人の手を借りずとも着替える事ができそうではあるが、今まで王子として育ってきたリチャードからすればこれを服とは思いたくなかった。
いくら王子であろうとも仕事をしない王族と、王族でなくとも王族の仕事を押し付けられた分全てをこなした有能な令嬢となら、王は有能な方をとる、とも記されていた。
それでなくともライラは公爵家の者で、何代か前に王族が臣籍降下し嫁入りをしている家でもあるので、王家の血が少しとはいえ流れているのだ。王が彼女を選んだのはそれも理由だったはずだ。
どちらにしても国を傾ける可能性のある王子に王冠を与えるわけにはいかないとも。
離宮の中にいる限りは、最低限の生活を認めるがもし外に――脱走した場合は即座に処すとも書かれていて、リチャードは思わず手紙をぐしゃりと握りつぶしていた。
しかしそんな事をしたところで、書かれている内容が変わるわけではない。
今更そんなつもりじゃなかった、と言おうにもそれを聞いてくれる者はこの場にはいない。
確かに思い描いた未来は、ライラとの婚約を破棄し、愛するミラを王妃とし、そうして国を導いていくというものだった。
だがその未来を王は望まなかった。そんな事にすら気付けなかった。
いや、言えば反対されるとはわかっていたのだ。
だから、そうするしかないような状況で周知させて強引に物事を運べばいいと――浅はかにも思っていた。
王家の重要そうな手紙だから、自分が見てはいけないかもしれないと思って手紙の内容を覗き込むような真似をしなかったミラが、何が書かれていたのかと聞きたそうにリチャードを見ている。
ライラとの婚約はなくなった。
リチャードにしてみればその事実は喜ぶべきものだが、しかし同時に幽閉された事実がついてくる。
愛するミラと結ばれる事を許されはしたが、それが許されるのはこの建物の中だけで、外に出る事は叶わない。
もう二人で市井を歩く事もできなくなってしまったという事実を、果たしてミラはどう思うだろうか。
けれど言うしかないのだ。
これからはずっと一緒だ、という言葉だけなら喜んでくれるかもしれない。
だが外に出る自由を失い、既に王族という立場からも抹消されているであろうリチャードと死ぬまで幽閉される事になったというのなら。
怒るだろうか。
泣くだろうか。
二度と顔も見たくないと嫌われてしまうかもしれない。
本来ならば望んでいたこれからはずっと一緒、という言葉を、こんなにも重苦しい空気の中で言わなければならない事に、リチャードの喉はまるで張り付いてしまったかのようで。
そうでなくとも、運ばれてくる食事の中にいつか毒が仕込まれるかもしれないのだ。
そうして病気で没した、とされる可能性は普通にある。
幸せでいられるはずもない状況。
ある日突然殺されるかもしれない可能性。
そんな中、たった二人きりでこのロクに何もない場所で過ごしていかなければならない事実を――
「ミラ」
「なぁに、リチャード」
彼女を呼ぶ声は、どこか掠れていた。
告げて、ミラの反応がどういうものになってしまうのか。
まるで死刑執行される囚人のようだな、なんて思いながらも。
「実は……」
どうにか震える声で事実を告げるまでの数秒が、まるで永遠のようだった。
普通に考えるとあんたのせいで! ってなるパターンだけどいつ殺されるかはさておきそれまでは働かなくてもご飯は食べられるニート生活って事ね! で受け入れられるパターンももしかしたらあるかもしれない。王子への好感度次第ですかね……(すっとぼけ)
次回短編予告
リリアの所へ元婚約者が訪れた。
何故婚約を解消してしまったのか。そう問われても、リリアとしてはこう答えるしかない。
婚約を決めたのも、解消を決めたのもリリアではなく父と、元婚約者の父であるのだと。
そこに至る切っ掛けがリリアの言葉によるものだとしても、原因を作っていたのは元婚約者だ。
次回 お友達の距離感
リリアはただ一つの事実を隠したうえで、本当の事しか言っていなかった。




