第2話:死の淵の逆転
かずやとさきの邂逅から数日間、2人は普通の学校生活を送れるわけもなく、ただただ今後の身の振り方を考える時間を作ることにした。
「で、今後はどーすんだよ、その…なんとかウォームみたいなやつらのことをよ!」
かずやは不機嫌な顔でさきに尋ねる。
「エクリプス・スウォームよ。組織全員が身体に欠けた月の紋章を刻印されてるから、見える箇所なら見分けがつくかしら。ほら、わたしにもここに…」
そう言うとさきは制服のボタンを2つ開けながら胸元にある刻印を見せる。
「…ってバ、バカヤロー!!急にお前…」
「何をって、一度確認しておいた方がいいと思ったからじゃない。あんた、本当にガキね…」
「まぁそりゃそーなんだけどよ…なんと言うか…ありがとうございま…」
---キィィィン---
「裂くよ?」
さきの右手の鎌はかずやの首筋をかすめる。
微動だにできずただただ冷や汗を垂れ流すかずやを横目にさきは語り出す。
「エクリプス・スウォームにはわたしのようなインセクト・コードを与えられた実験体が数多くいるわ。その中でも卓越した能力の持ち主が最高幹部として君臨しているの。それが『五傑虫』と呼ばれる5人の化け物。その配下には『十戒虫』と呼ばれる処刑執行部隊の精鋭10人、その他の雑兵…ゲル・インセクト。組織のピラミッドは大体こんな感じね。で、それらを率いる首領…みなその名を『ゼノ』と呼んでいるわ。最高幹部でも姿を見ることはほとんどない、謎に包まれた人物よ。」
かずやは額から出る冷や汗を拭いながら、いつになく真剣な表情になる。
「…すまん、カタカナばっかで覚えられねぇ…。」
2人の間に静寂が訪れる。
「…ふふっ、まぁ無理もないわ。わたしの知る情報なんてこんなものだけど、本当に恐ろしい組織だってことは覚えておいて。」
「まぁとにかくそいつらがいつ襲ってくるかもわかんねぇ!組織を裏切ったお前と、セブン・スターを持つおれのことをな!その時はお互い助け合って行こうぜ!相棒!」
相棒、という響きにさきも口元がゆるむ。自由のない組織の孤独感に慣れていたさきも、この日常であり非日常な時間の流れにどこかくすぐったい気持ちになった。---その時だった。
地響きと共に巨大な影が降り立つ。全身を黒光りする甲殻で包んだ怪人、五傑虫の一角・鉄岩。その頭部にある巨大なクワガタの顎は、校門の鉄柱を飴細工のように噛み砕いた。
「……見つけたぞ、七星の器。そして裏切り者のハナカマキリか」
「…まさかッ!こいつ…、五傑虫!!最高幹部よ!!」
さきが神速の連撃を放つが、鉄岩の甲殻には傷一つ付かない。逆に、鉄岩の放つ重厚な一撃がさきを吹き飛ばす。
「あぶねぇ!おいっ、大丈夫かッ…ってうわぁぁ!!」
庇おうとしたかずやを巨大な顎が捉える。
「……フン、正義感か? 数年前、おれの邪魔をしたバカな警察の野郎も、お前と同じような顔をして泣き叫んでいたな。家族もろとも、まとめてこの大顎で噛み砕いてやった時の感触、今でも忘れられんよ。」
鉄岩の顎に締め上げられ、骨が軋む音。
「…くっ、ちっくしょう…はなしやが…れ…ッ!!」
死の恐怖が極限に達した瞬間、かずやの右目の「第2の星」が赤く明滅した。次の瞬間、かずやの鼓動が止まり、体温が急激に低下。生体反応が完全に消失する。
「……チッ、ショック死か。つまらんガキだ」
鉄岩は「死体」となったかずやをゴミのように投げ捨て、標的をさきに変えて背を向ける。だが、これこそがテントウムシが外敵から身を守るために行う「擬死」の能力の真骨頂だった。
第2星、『擬死』---覚醒!!
心停止しているはずのかずやの右目が、カッと見開かれる。「擬死」によって完全に気配を消した状態で、鉄岩の背後、その無防備な足元へと滑り込む。
(……今だ、白咲!)
さきがかずやの意図を察し、正面から捨て身の突撃を仕掛け、鉄岩の意識を前方へ釘付けにする。その刹那、かずやの右目で第1星『天道』が爆発的に発火した。
『擬死』による静寂からの、爆発的な身体能力の向上が起きる…!
「死んでたまるかッ! 飛べっ、白咲!!これがおれたちの……仲間の力だーッ!!」
かずやが鉄岩の巨体を真下から突き上げ、重心をずらす。足が地面を離れ、宙に舞った鉄岩の腹部――柔らかい腹が剥き出しになった。そこへ、上空から急降下してきたさきの白色の鎌が、深々と突き刺さる。
「……散りなさい、毒虫!!」
「ぐおああぁぁぁぁ…!!」
鉄岩の巨躯が、衝撃と斬撃によって爆ぜる。
能力を解除したかずやは、激しい疲労でその場に倒れ込んだ。「死」を疑似体験した反動で、視界はかすみ、右目からは一筋の血が流れている。
「……無茶苦茶な作戦ね。でも、助かったわ。」
さきがかずやの肩を貸す。夕闇が迫る校庭に、2人の戦士は倒れ込む。
「勝ったな…おれたち…ごけっつー?だっけか?2人なら、なんとかなるよなっ!なっ、白咲!!」
「…さき、でいい。認めるわ、わたしにもあなたが必要みたい。あなたのその器としての潜在能力。
セブン・スターの覚醒、ちょっと驚いた。頼りにしてるわよ、かずや?」
夕暮れの空を見上げながら、2人は力無いハイタッチを交わした。形になり始めた絆がお互いに見えた気がして、2人は照れ臭くもその表情は清々しいものだった。
鉄岩を退けた2人だったが、その様子を遠くから見つめる銀色の瞳があった。
「…まさかテツイワ様が……さき、あんたが連れているその『星』……あたしが刈り取ってあげるわ。」
左手の銀色の鎌をしならせながら、十戒虫の一人、ルナ・ブレイドはつぶやいた。
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まさかのいきなり最高幹部登場&撃破というスタートを切ったかずやとさき。その背後に忍び寄る新たな刺客がどんどん登場します。ご期待ください。




