5 死の恐怖
投稿する際、この話の原稿のデータを、誤って消してしまい、もう一度最初から書き直しました。(涙)急いで書いたので、設定に矛盾が生じたら、後で少し手直しするかもしれません。
【大陸歴1415年5月2日】
2度目の戦闘を終えた俺は、早速集落に向かって、緑の立方体を配置することにした。
集落までの距離は正確には分からないけれど、おそらく1km以上は離れていないと思われる。
立方体一つは5mくらいだから、まずは200個並べればいいということだ。
途中、魔物が出るかもしれないが、作業自体はアイコンをポチポチするだけの単純作業。さっさと済ませてしまおう。
そう思い、波のように起伏のある砂の上に真っ直ぐ、立方体を並べていく。
ところが、合計5個並べたところで、アイコンがグレーアウトして、反応しなくなってしまった。
『迷宮領域設置限界に達しました。迷宮領域を広げるために、迷宮レベルを上昇させてください。』
ナビさんが、何やら言っている。相変わらずまったく分からないけれど、多分、これ以上はダメだよと言っているのだろう。
これから先に行くためには、何か条件が必要なのかもしれない。そう思い、視界の中のアイコンをいじっていると、またナビさんのアラートが鳴り響いた。
『迷宮領域が拡大したことで、魔獣誘引効果が増大しました。核の安全を確保するため、早急な守護者の設定を行ってください。』
慌てて周囲を見回すと、遠くの方からこちらに向かってやってくる、アリの化物たちの姿が見えた。
前回より1匹多く、3匹の群れになっている。1回毎に敵が増えていく仕様なのか、これ。
前回の戦いもギリギリだったのに、今はこちらの戦力が低下している。すぐに味方を増やさないと!
俺は焦りながら、魔物を召喚するアイコンを開いた。すると、前回までグレーアウトしていたアリ太郎の召喚アイコンが、元に戻っていた。
理由は分からないけれど、ラッキーだ。俺は敵が接近してくるまでの僅かな時間をすべて使って、呼べる限りのアリ太郎を呼び出した。
呼び出されたアリ太郎たちは、勝手に敵に向かって突進していった。その数、5体。
戦略も作戦もあったもんじゃない。こっちも2体やられてしまったが、とにかく数の力で、敵を撃退することができた。
戦闘が終わるとすぐに、俺はまたアイコンを操作して、魔物たちを呼び出した。
限界まで呼び出し、戦力を整える。合計アリ太郎11匹、スナハンド3匹の軍団を揃えることができた。
相変わらず、スナハンド以外は、俺の言うことをまったく聞いてくれない。それでも、これだけ数が揃うと、ちょっとだけ安心感が増した気がする。
その後も敵の襲撃は続いた。数は多かったものの、出現する敵は、すべてアリ太郎たちだけだったので、何とか撃退することができた。
俺は戦いのたびに減っていく戦力を補充しながら、変わり映えのない戦いを続けた。
やがて、砂漠の太陽がゆっくりと西へ傾いて行く頃、変化が訪れた。
戦いで生き残ったアリ太郎の一匹が、急に光り始めたのだ。光が消えたとき、そこには一回り大きくなったアリ太郎の姿があった。
『砂漠アリ・ワーカーが、砂漠アリ・ソルジャーに進化しました。』
『迷宮レベルが上昇しました。迷宮領域設置上限が25エリアになりました。』
同時にナビさんの声が響く。詳細は分からないが、どうやらアリ太郎がレベルアップしたのだということは分かった。
すぐにアイコンを開いて確認してみると、呼び出せる魔物のアイコンが一つ増えていた。
『砂漠アリ・ソルジャーを召喚します。この魔獣の召喚には50DPが必要です。よろしいですか?』
何度も聞いているから、ナビさんが俺に確認を求めているのだということは、予想がついた。
俺が「YES」と答えると、すぐに魔法陣が描き出され、その中から一回り大きくなったアリ太郎が現れた。
大きくなったアリ太郎は体長70cmくらい。チビアリ太郎よりも巨大な牙と、立派な触角を持っている。
夕日を反射して黒光りするその体は、ものすごく強そうだ。
なるほど、進化させた魔物は、こうやってアイコンで呼び出せるようになるらしい。
ふと見れば、緑の立方体を置くアイコンも再び使えるようになっている。アリ太郎が進化したことで、俺のレベルが上がったのかもしれない。
魔物を強くし、自分の領土を広げていくのが、このゲームの目的なのだろうか? うーん、まだまだ謎だらけだ。
とりあえず、緑の立方体を、集落に向かって並べていく。合計25個並べたところで、またアイコンがグレーアウトして使えなくなった。
これ以上並べるなら、戦ってレベルを上げろということなのだろう。ちょっと、このゲームの進め方が分かった気がする。
領土を広げ終わった俺は、大きくなったアリ太郎たちを次々と呼び出した。
デカアリ太郎たちが合計12匹になったところで、アイコンは反応しなくなった。領土の広さと呼び出せる戦力の上限にも、関連があるようだ。
今の戦力はデカアリ太郎12、アリ太郎10、スナハンド3。
デカアリ太郎たちがずらりと並ぶと、無敵感が半端ない。
実際、この後、数回、敵のアリ太郎たちの襲撃があったが、デカアリ太郎たちが一体の被害も出さずに蹴散らしてくれた。
散発的な動きをしていたアリ太郎たちに比べ、デカアリ太郎たちはかなり統率された動きで、敵を攻撃している。
スナハンドやアリ太郎たちの出番は、完全に無くなってしまった。そういえばさっきから姿が見えないけど、あいつらどこに行ったんだろう?
そう思った途端、俺の真下の砂から、スナハンドたちがぴょこんと姿を現した。
どうやら、隠れて俺のことを守ってくれていたようだ。よしよし、愛い奴め。
じゃあ、アリ太郎は? と思って探してみたら、彼らは全員、俺の作った砂のかまくらの中に引きこもっていた。しかも、勝手に砂を掘って、地下にトンネルを作っている。
一心に砂をかき出す様子を見ていると、小さなアリにそっくりだ。これが彼らの本来の姿なのかもしれないな。
俺は彼らをそっとしておくことにした。
やがて太陽が沈み、夜がやってきた。太陽と入れ替わるように姿を現したのは、巨大な青い月。そしてその後ろをついていく、小さな緑の月だ。
満天の星が広がる夜空に、2つの月が昇っていく様は幻想的で、現実とは思えないほどの美しさだった。
まあ実際、ゲームの中だから、現実じゃないんだけどね。
日が暮れるまで、あんなに続いていた敵の襲撃は、夜になった途端、パッタリと無くなった。きっと、アリ太郎たちは昼行性の生き物なのだろう。
こういうゲームって、夜になると強敵が出るってイメージだったけど、このゲームはそうでもないらしい。
遠くに見える集落の方を見ると、チラチラと光のようなものが見える。あれは建物の明かりなのだろうか?
砂漠に吹く冷たい風が砂をさらっていく。サラサラと流れる砂の音がはっきり聞こえるほど、辺りは静まり返っていた。
敵の襲撃がなくなり、ゆとりが出たことで、俺は自分が一人ぼっちであることを改めて強く感じた。
なんで俺は、こんなところにいるんだろう? 俺の家族、美南や友里は今、どうしているんだろう?
いくら問いかけても、返事をしてくれる相手もいない。ナビさんもさっきから、黙ったままだ。
話し相手もいないまま、過ごす夜は長すぎる気がする。せめて、魔物でも襲ってきてくれたら、気が紛れるのに。
そんな嫌なフラグを立ててしまったせいか、直後、脳内にアラートが鳴り響いた。しかも、これまでにない、強く切迫感を感じさせる音だった。
『強力な敵性魔獣が急速接近しています。速やかに退避してください。』
視界いっぱいに広がるメッセージに、ナビさんの声が重なる。
言葉も文字もまったく理解できないけれど、とてつもなくヤバいことが起こりそうだということだけは、はっきりと分かった。
直後、夜の静寂を恐ろしい獣の雄叫びが切り裂いた。声の方に目を向けた俺は、無いはずの全身がゾッと総毛立つのを感じた。
近づいてくる巨大な影。おそらく体長10mは下らないだろう。これまで見てきた魔物とは、比較にならない化物がすごい速さでこちらへやってくる。
月の光に照らされ、やがてその姿がはっきりと見えた。砂をかく八本の足、トゲのある長い尾。そして、牙の間から見え隠れする紫の舌。
そこにいたのは、見上げるほど大きなトカゲだった。もしかしたら、これがドラゴンて奴かもしれない。
こいつはヤバい。絶対に戦ってはいけない。俺は瞬時にそう判断し、砂のかまくらの中に隠れた。入口の辺りで、こっそりと外の様子を伺う。
俺を守るため、デカアリ太郎軍団がトカゲの前に飛び出した。それを見たトカゲは一瞬、動きを止め、赤い瞳のある巨大な頭をゆっくりとデカアリ太郎たちに向けた。
俺の視界が白く染まり、風景がホワイトアウトする。トカゲの瞳から、フラッシュのような強い光が発せられたのだと理解したのは、すべてが終わった後だった。
俺のデカアリ太郎軍団は、トカゲの放った光によって、すべて石に変えられてしまっていた。
トカゲはその巨大な足で、石になったデカアリ太郎たちを踏み砕き、俺の方にまっすぐ突進してきた。
俺はすぐに入口から離れた。その直後、凄まじい衝撃とともに大量の砂が俺の上に覆いかぶさってきた。
トカゲの猛烈な体当たりによって、砂のかまくらが崩壊したのだ。砂に埋もれた俺は身動きが取れなくなってしまった。
ザクザクと砂をかく音が聞こえる。視界は塞がっているが、トカゲが俺を探しているのは火を見るよりも明らかだ。まさに絶体絶命。
死への恐怖が、苦い液体のように『胸』の奥から湧き上がってくる。その途端、俺の脳裏に見たこともない光景が次々と流れていった。
白い廊下。悲鳴。血に塗れた俺の両手。そして、鳴り響くサイレンの音。
これはきっと走馬灯ってやつなのだろう。でも、俺はこんな光景を見た覚えが無い。これは一体、何なんだ!?
俺はこのゲームから脱出したかった。きっとこのまま死ねば、ゲームオーバーになって、強制的にゲームは終了するはずだ。
それなのに俺は痛烈に「もう死にたくない!」と思ってしまった。一体なぜ・・・!!
混乱する俺に構うことなく、トカゲは俺に近づいている。巨大な爪が砂を切り裂く音は、もう間近に迫っていた。
ついに砂のベールが剥がされ、俺の姿が露出した。巨大な牙を持つ奴の口が、はっきりと見えた。
もうダメだ。俺はまた・・・!!
そう思った途端、俺のすぐ横の砂の中を、何かが飛び出していった。
「アリ太郎!!」
かまくらの下、地下のトンネルから飛び出してきたのは、アリ太郎たちだった。砂から飛び出した彼らは、トカゲの顔めがけて、一斉に茶色い液体を吐き出した。
じゅうという音に続き、トカゲの凄まじい咆哮が響いた。直後、アリ太郎たちに爪の一撃が加えられた。
一瞬にして蹴散らされるアリ太郎たち。しかし、かろうじて生き残った一匹は、トカゲを置いて、全速力でその場を離れた。
怒りに燃えたトカゲは、逃げたアリ太郎を追いかけていった。
砂の起伏を巧みに利用しながら、アリ太郎は遠くへ遠くへ逃げていき、やがてトカゲの脅威を俺から遠ざけてくれた。
『敵性魔獣が迷宮領域から離れました。』
ナビさんの声を、俺は痺れた頭でぼんやりと聞いた。
俺は生き残った。
命を賭けて、俺を救ってくれたアリ太郎たち。恐ろしい敵が去っていった遥か彼方の砂原を見つめながら、俺は彼らに深い深い感謝を捧げたのだった。
種族:迷宮核
名前:澤部十四郎
迷宮レベル:2
総DP:4752
獲得DP/日:250
消費DP/日:3
【砂漠大アリ・ソルジャー】
種族:昆虫魔獣族
属性:土属性
召喚コスト:50DP
保有スキル:〈溶解液噴射〉〈酸耐性〉〈熱耐性〉
砂漠大アリは砂漠に住む社会性昆虫魔獣。ソルジャーはその中で、兵士としての役割を持つ。戦闘では常に、尖兵として最前線で活躍する。体長は70cmほどで、ワーカーよりも頑強な顎を持っている。また、触覚から微弱な魔力を発し、周囲の個体と意思疎通を図ることができる。そのため、敵を攻撃する際には、集団で一糸乱れぬ行動を取ることが可能である。
【石化蜥蜴】
種族:幻獣族
属性:土属性
召喚コスト:10000DP
保有スキル:〈石化の邪眼〉〈猛毒付与〉〈斬撃ダメージ軽減〉〈魔法無効化(中)〉〈土属性魔法完全無効化〉〈石化無効化〉〈毒無効化〉〈炎被ダメージ増加〉〈冷気被ダメージ増加〉
八本の足を持つ巨大な蜥蜴。極めて強い大地の精霊力を有する、幻獣の一種。体長は10〜15m。岩のように硬い鱗は、ほとんどの刃による攻撃を弾いてしまう。また、全身に強い魔力を帯びているため、中位までの魔法攻撃をほぼ無効化する。さらに、土属性の魔法は、一切効果がない。彼らの体液は致死性の猛毒であり、触れただけで命を失う危険がある。彼らのもっとも恐ろしい能力は、赤い瞳から放たれる光線で、これを浴びた生き物は一瞬で石に変えられてしまう。極端な温度変化に弱く、強い熱に晒されると鱗が乾いて剥落し、強い冷気に晒されると行動が鈍くなってしまうという弱点を持つ。バジリスクは主に砂漠や毒の沼地に生息するが、砂漠に住む種は夜行性、沼地に住む種は昼行性と、その生態に大きな差がある。そのため、研究者の間では、この2種は別の魔獣ではないかという論争が長年続いている。
お読みいただいて、ありがとうございました。




