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4 初めての戦闘

しばらくは人間でてきません。

【大陸歴1415年5月2日】


 俺が移動できるのは、アイコンを使って出した、立方体がある範囲だけ。ということは、あの立方体をたくさん出して、集落までの道を作ればいいということだ。


 俺は立方体を作るために、再びアイコンに目を向けた。ところが、不意に脳内に鳴り響いた警報音アラートとナビさんの声で、それは中断されてしまった。


『迷宮領域に、敵性魔獣が接近しています。核を退避させるとともに、防衛のための魔獣を配置してください。』


 ナビさんの言葉は、相変わらず全く分からなかったけど、警報の理由はすぐに分かった。俺の作った砂山に何者かが近づいてくる気配がある。


 俺は気配の正体を確かめるために、砂山のてっぺんに移動した。


 そこにいたのは、体長40cmくらいのバカでかいアリの化け物だった。動きといい、見た目といい、ゲームとは思えないほど、めっちゃリアルだ。


 中型犬くらいあるアリの化け物は、俺の方に、長い触覚のある顔を向けると、前足を振り上げて威嚇してきた。


 鋭い牙のある顎がすげえ怖え。会社帰りとかに、道端でこいつに出会ったら、全力で逃げ出す自信しかない。


 化け物は六本の足を器用に使って、俺の方にすごい勢いで近づいてきた。でも、そんな奴の前に、こん棒を振りかざしたスナハンドが、砂の中からぴょこんと飛び出してきた。


 驚いて動きを止めたアリの顔めがけて、スナハンドがこん棒を振り下ろす。メシャっという嫌な音とともに、アリの頭がひび割れた。おお、強いぞ、スナハンド!


 頭を割られたアリは、ブルブルと頭を震わせた。動きが鈍くなっているし、かなり弱っているように感じる。スナハンドは、更に一撃を加えようとして、こん棒を大きく振り上げた。


 しかし、アリは目の前のスナハンドに目もくれず、俺の方に頭を向けると、顎を大きく開いて、口から赤茶色の液体を、俺めがけてビュッと吐き出した。


 咄嗟のことで避けることもできず、俺はその液体を、正面から浴びてしまった。


「(いってえええええええええっっ!!)」


 ジュウという音に続いて、全身を焼け尽くすような痛みが俺を襲う。


『迷宮核に深刻なダメージが加えられました。速やかに退避し、核の防衛を行ってください。』


 視界いっぱいに広がる赤い文字と、ナビさんの声が重なる。だが、俺は全身を襲う激痛で、それどころではなかった。


 とてもゲームとは思えないほどの痛みを受けたことで、俺は一瞬意識を失いかけた。しかし、何とかその場から後退し、アリから距離を取った。


 慌ててその場を離れた俺を、アリはすごい勢いで追ってきた。奴は再び顎を俺に向け、口を大きく開いた。


 やばい、またあの攻撃が来る! そう思った瞬間、奴の顎の下からぴょこんと飛び出したスナハンドが、大きく開いた顎めがけて、思い切りこん棒を振り下ろした。


 アリの牙とこん棒が激しくぶつかり、甲高い音が響く。こん棒は、奴の牙を見事にへし折った。しかし、同時にこん棒も砕け散り、元の砂に戻ってしまった。


 怯んだアリの口に、スナハンドのきつく握った拳が炸裂する。ヒビの入っていたアリの頭は、その一撃で弾け飛び、赤茶色の液体を撒き散らしながら爆散した。


 赤茶色の液体を浴びたスナハンドは、ドロドロに溶けて、砂に戻ってしまった。あいつ、身を挺して俺を守ってくれたのか。なんていい奴なんだ。本当にありがとう、スナハンド!


 スナハンドが消える瞬間、俺は自分の体が焼けるような痛みを感じた。ただ、自分が直接あの液体を浴びたときに比べたら、その痛みは大分軽かった。多分、俺とスナハンドは、ある程度感覚を共有していたのだろう。


『核が深刻なダメージを負いました。回復させるためには、5000DPが必要です。よろしいですか?』


 ナビさんが俺に何か問いかけている。言葉の意味は分からないが、何度も聞いたフレーズが入っているから、多分また確認メッセージだろう。


 俺が「YES」と念じると、ズキズキと痛んでた体の痛みが嘘のように消えていった。その代わり、俺の胸(?)の辺りから、何かがごっそりと失われたような感じがした。


『DPが0になると、核を維持できなくなります。』


 ナビさんが俺を回復してくれたようだ。俺はまた脳内で、「ありがとうナビさん」と彼女に礼を言った。


 それにしても、このアリは酷い相手だった。いくらなんでも、あの液体攻撃は、反則だろ。


 この手のゲームで最初に出会うのってたいてい、スライムみたいなもっと弱い相手じゃねえのか。なんとなく思ってたけど、もしかしてこのゲーム、クソゲーなのだろうか?


 あのアリに出会ったとき、実は一瞬、「ゲームオーバーになれば、強制ログアウトになるのでは?」なんて考えていたけど、あれは絶対ムリだ。


 身体を焼き尽くす激痛と同時に、心の底から湧き上がる死への恐怖。ゲームとは思えないほど現実感を伴っていた。


 あんな痛い思いをするのは、ゲームであっても二度とゴメンだ。もっと、穏当な方法で脱出ログアウトする方法を見つけよう。


 きっと、これからもこんな感じで、モンスターが襲ってくるに違いない。さっきの戦闘で分かったが、俺自身にはモンスターから身を守る力はないようだ。スナハンドを呼び出して、敵と戦わせるしかない。


 俺は早速、新たなスナハンドを呼び出すために、メニューを開こうとした。その時、突然、目の前にあったアリの死体が薄い光を放ち始めた。


 やばい! もしかしてこいつ、復活するのか? 今、襲われたら、ひとたまりもないぞ!?


 ところが、警戒する俺の前で、アリの死体は光に溶けるように消え去っていった。


『魔獣の吸収が完了。20DP及び以下の素材、スキルを獲得しました。』


『砂漠アリの甲殻×1』

『砂漠アリの牙×2』

『腐食液×1』

『土の魔石(極小)×1』

『スキル〈同族召喚(物理)〉』

『スキル〈トンネル建設〉』

『スキル〈溶解液噴射〉』

『スキル〈酸耐性〉』

『スキル〈熱耐性〉』


 ナビさんの声とともに、俺の目の前に白い文字が現れては消えていく。これはきっと、ゲームでよくある、戦闘後のリザルト表示だろう。経験値やゴールドが手に入りましたよ的なアレだな、うん。


 死体の消え方といい、このリザルト表示といい、いかにもゲームっぽい。あとは、この文字や言葉が理解できたら完璧なんだけどなー。


 ホッとした俺は、新たなスナハンドを呼び出すため、改めてメニューを開いてみた。


「(んん!? なんかアイコンが増えてるぞ!?)」


 スナハンドのアイコンの隣に、アリの絵が描かれたアイコンが出現していた。これって、もしかして!


 新たなアイコンに「開け!」と念じた。


『この魔獣の召喚には、20DPが必要です。よろしいですか?』


ナビさんの確認メッセージに続いて、俺の足元に再び、赤い魔法陣が出現した。


 魔法陣から現れたのは、思った通り、あのアリの化け物だった。ただ、さっきのアリが赤茶色だったのに対して、新たに出現したアリは、鈍い黒鉄色をしていた。


 どうやらこのゲーム、倒したモンスターを、仲間として召喚できるらしい。すげえ! よし、こいつはアリ太郎って名前にしよう!


 俺は新たに仲間となったアリ太郎に向かって、「こっちに来い!」と念じてみた。ところがアリ太郎は、一瞬こちらに触覚を向けたものの、砂山のまわりをウロウロするばかりで、全然俺の言う事を聞いてくれなかった。


 挙句の果てには、砂山から少し離れたところで、勝手に砂を掘り始めてしまう始末だ。こりゃあかん。


 あの強いアリで軍団を作れたらと思った俺の夢は、あっという間に崩れ去ってしまった。


 なんでアリ太郎は、言う事を聞いてくれないんだろう? もしかして、俺のレベルが低いからだろうか。ポケモンみたいに、レベルが低いと命令を聞いてくれないのかもしれないな。


 仕方なく俺は、スナハンドを呼び出すことにした。どうせなら、たくさん出しておいたほうが安全だろう。俺はアイコンを開き、次々とスナハンドを呼び出していった。


 ところが、3体呼び出したところで、急にアイコンが反応しなくなってしまった。


『現在の迷宮領域内の召喚上限に達しました。』


 ナビさんが何か説明してくれているけど、相変わらずまったく分からない。多分「これ以上、呼び出せないよ」的なことを言われているのだろう。


 スナハンド用のこん棒を3つ作り終えると同時に、また俺の脳内に警報が鳴り響いた。気配から、あのアリが現れたということが分かる。しかも、今度は2匹だ。


 俺は砂のかまくらの中に隠れると同時に、スナハンド部隊を迎撃に向かわせた。砂に隠れられるスナハンドたちは、アリに気づかれないように近づくことができる。


 一匹のアリを取り囲むようにスナハンドを配置し終えたところで、俺はスナハンドたちを、一斉に砂から飛び出させた。


 不意打ちを食らったらアリは、スナハンドの連続攻撃を食らって、あっという間に動かなくなる。


 もう一匹のアリが駆け寄って来るより早く、俺はスナハンドたちを、砂に隠れさせた。そして、不用意に近寄ってきたアリの後ろ足を、二匹のスナハンドにつかまえさせると、残ったスナハンドに攻撃させた。


 スナハンドの一撃が、身動きできなくなったアリの頭を捉える。しかし、硬い甲殻を持つアリを仕留めることはできなかった。


 アリは触覚を震わせながら、スナハンドに噛みついてきた。アリの鋭い牙を食らったスナハンドは、あっけなく砕け散り、元の砂に戻ってしまった。


 続いてアリは、自分の足を掴んでいるスナハンドに顔を向けると、大きく口を開いた。また、あの液体を吐き出すつもりだろう。


 あれをまともに食らったら、おそらくスナハンドたちは、ひとたまりもない。


 スナハンドがいなくなってしまえば、俺は身を守れなくなる。これはまずい!


 ところが、アリが液体を噴射する寸前、砂から飛び出してきた何者かが、アリめがけて、激しく体当りしてきた。


「アリ太郎!」


 アリ太郎は、敵のアリが噴射した液体をものともせず、相手の首の付け根に、その鋭い牙を突き立てた。そして、暴れる相手を強引に持ち上げると、豪快に砂の上に叩きつけた。


 衝撃で敵のアリの頭と胴体が切り離される。アリ太郎は、その頭を牙で噛み砕くと、そのまま、バリバリと音を立てて食べ始めた。


 アリ太郎は頭を食べ終わると、満足したのか、また勝手に砂を掘り始め、姿が見えなくなった。


 普段は素っ気ないくせに、俺がピンチになると、颯爽と駆けつけてくる。どうやら、アリ太郎は、ツンデレ属性持ちのようだ。


 こうして、俺は2回目のピンチも、何とか無事に乗り切ることができたのだった。







種族:迷宮核ダンジョンコア

名前:澤部十四郎

迷宮レベル:1


総DP:4980

獲得DP/日:10

消費DP/日:3


砂漠大アリデザートアント・ワーカー】

種族:昆虫魔獣族

属性:土属性

召喚コスト:20DP

保有スキル:〈同族召喚(物理)〉〈トンネル建設〉〈溶解液噴射〉〈酸耐性〉〈熱耐性〉

砂漠に住む社会性昆虫魔獣。ワーカーは働きアリに相当する階級であり、巣の建設・育児・食料確保などを担当している。彼らは、食料を捕食して栄養を蓄え、巣に持ち帰るために、腹部に素嚢すのうという器官を持つ。その際、食料を強い酸性の唾液で溶かして、液体状にする性質がある。外敵に襲われたときには、この唾液を吐き出して相手を怯ませ、その間に逃亡する。過酷な環境で生活しているため、食料を集めるときには、基本単独もしくは少数の群れで行動する。彼らは雑食性であり、有機物であれば、ほぼ何でも捕食することができる。魔法を操ることはないが、触覚から微弱な魔力を放出しており、これを使って、半径1km程度の場所にいる仲間を呼び寄せる事ができる。なお、砂漠大アリのワーカーは、そのすべてがメスである。

お読みいただき、ありがとうございました。

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