3 初めての召喚
今回から魔獣の説明がちょこちょこ入ってきます。本編には関係ないので、飛ばしても問題ありません。(私的にはこっちがメインコンテンツなのですが…)
【大陸歴1415年5月2日】
俺は確認メッセージ(?)に応えて、脳内で「YES」と返事を返した。すると、俺の足元(?)が急に光りだし、さあっと円形の模様が浮き上がった。
これ、ゲームでよく見る魔法陣ってやつだ!
さっきは、ゲームを進めたいわけじゃないって言ったけど、こういうの間近で見ちゃうと、やっぱテンション上がっちゃうよね。
何が起こるのかとドキドキしながら見ていたら、魔法陣の中心あたりの砂が、モコモコと動き、集まり始めた。そして、あっという間に、砂でできた人間の腕が出来上がった。
地面からニョッキリと突き出す砂の腕は、魔法陣が消え去った後、一人で勝手にその辺りをウロウロとうろつき始めた。
「いや、俺の腕じゃないんかい!」
てっきり、自分が自由に動かせる腕ができるのかと思いこんでいた俺は、勝手にうろつき回る砂の腕に、思い切り突っ込んでしまった。
すると、腕は一瞬、ピタリと動きを止めた。ん? こいつ、俺の声に反応してるのか?
俺は砂の腕に向かって、「止まれ!」と念じてみた。すると、腕はピタリと動きを止め、俺のいる方向に手のひらを向けた。
おお、やっぱり、俺の声に反応してる!
俺は嬉しくなって、砂の腕をいろんな方向に動かしてみた。すると、思ったとおりに動かすことができた。でも、見えない壁を越えることはできなかった。
『生成した魔法生物を、迷宮領域外に出すことはできません。』
なんかナビさんからも、注意されているようだ。あ、ナビさんていうのは、さっき俺がつけた女の声の主の名前だ。安直だって? 悪かったな、どうせ単細胞だよ。
せっかくなので、俺はしばらく、砂の腕を動かして遊んでみた。砂を掴んで投げたり、拳を振るったりという動きは、結構、素早くできる。ただ、じゃんけんみたいな細かい指の操作には、かなり時間がかかった。
それにしてもこの姿、すごい既視感がある。あれだ、ドラクエに出てくるマドハンド。あれにそっくりなのだ。まあ、こいつは泥じゃなくて砂だから、スナハンドなんだけどね。
もう少し、時間をかければ、このスナハンドを自由に動かせるようになるのかもしれない。けど、別にゲームを進める気はないので一旦放置しておくことにする。
俺は、スナハンドを勝手に動き回らせたまま、次のアイコンを試してみることにした。
次は左から3番目のアイコン。二つの円が横向きにくっついたように見える絵が描かれている。重なってる部分が多いから、実際は違うんだけど、∞(むげんだい)の記号に似てるなと思った。
アイコンを開いてみると、また薄緑色のウインドウが開いた。その中にあったのは、大きな丸が二つ。アイコンと同じ絵が示されている。
俺は描かれている丸に意識を向けてみた。でも、いくら念じても何も起こらなかった。
『魔獣合成・スキル付与を実行するには、迷宮レベルが不足しています。』
また、ナビさんに注意されてる気がする。どうやら、これ以上念じても無駄のようだ。俺は、このアイコンを諦め、次のアイコンを試してみることにした。
次は左から4番目。アイコンに描いてあるのは、山とつるはしだ。これは、多分、なんか作る系のやつだな、きっと。
ゲームからの脱出とは関係ないだろうなーと思いながらも、俺は一応、アイコンを試してみることにした。
開いた薄緑色のウインドウの中には、いろいろな絵が描かれたアイコンがずらりと並んでいる。ただ、そのほとんどは、グレーアウトしていて、念じてもなんにも反応しなかった。
唯一反応があったのは、一番左上にあった、つるはしのアイコンだけだ。
『迷宮オブジェクトの建築には10DPが必要です。実行しますか?』
俺はナビさんの確認メッセージに「YES!」と返事をした。その途端、また俺の足元に魔法陣が出現した。でも、前回の魔法陣が白かったのに対して、この魔法陣は緑色をしている。形も正方形だし。
正方形の大きさは大体一辺5m。ちょうど、最初に俺が出した立方体の底辺と同じくらいだった。
何が起きるのかとドキドキしていたら、魔法陣の内側の砂がモコモコと盛り上がり始め、みるみる間に小さな砂山が出来上がった。
砂山はほぼ円形で、大きさは、直径5m、高さ2mくらい。横腹に大人が、中腰で入れるくらいのトンネルが有り、中は空洞になっている。ちょうど、砂でできた、かまくらみたいな感じだ。
トンネルから中に入ってみると、薄暗くひんやりしていた。砂漠のギラギラ太陽から解放されて、ちょっとだけホッとする。
あと、砂山の床部分が少し低くなっているので、思ったよりも中は広く感じられた。昔、何かの資料で見た竪穴住居みたいだと思った。
思った通り、これは何かを作る系のアイコンだった。きっと、このゲーム内で、アバターが生活するための住居を作るために使うアイコンなのだろう。
おそらく、これは初期型の住居で、ゲーム内でのレベルが上がるか、何か素材が手に入れば、建築できる建物が増えていくんじゃないかな?
クラフト系のゲームってあんまりやったことがないけど、実際目の前でいろんなものが出来上がるのを見てると、ワクワクする。こういうのが好きな人の気持ちが、ちょっとだけ分かった気がした。
でも、俺の今の目的は、このゲームを続けることじゃない。脱出することなのだ。
俺は最後に残った、左から5番目のアイコンを試してみることにした。
ただ、試す前から、このアイコンは望み薄だろうと俺は思っていた。だって、アイコンに描かれているのが、剣と薬瓶なのだ。これ絶対、アイテム系のなにかだよね?
でも、だからといって、試さないわけにもいかない。もしかしたら、冒険の書みたいな、ログアウト専用のアイテムがあるかもしれないしね。
祈るような気持ちで俺はアイコンに「開け!」と念じた。しかし、その願いは虚しく裏切られてしまった。開いた薄緑色のウインドウには、四角形がたくさん並んでいるだけだったのだ。
これ多分、アイテムストレージ的なやつだろう。今、俺は何のアイテムも持っていないから、何も表示されていないに違いない。
すごくがっかりしたけれど、そのままアイコンを閉じるのも癪だったので、試しにそのうちの一つに視線を向けてみた。すると、ナビさんが俺に話しかけてきた。
『基本アイテム生成には5DPが必要です。よろしいですか?』
また確認メッセージのようだ。俺はナビさんに「YES」と答えた。すると、今度は、赤い色をした、円形で小さめの魔法陣が現れた。
魔法陣の中の砂がモコモコと盛り上がり、あっという間に小さな砂のこん棒が出来上がった。
なるほど、こうやってアイテムも作れるらしい。YATTAー!(棒)
最後のアイコンも見事に外れたことで、俺は見えない肩を、がっくりと落とした。現状、このアイコンの中には、このゲームから脱出する方法は、なさそうだ。
どうしたものかと考えた結果、俺は西の方に見える、集落のようなものに行ってみようと考えた。あそこに行けば、セーブポイント的な何かが見つかるかもしれないと思ったからだ。もしかしたら、そこでログアウトできるかもしれない。
それに、仮に今がゲームのチュートリアル状態なら、ある程度ストーリーを進めることで、ログアウトメニューが解放される可能性もある。
そうと決まれば、話は早い。まずは、ゲームの仕様に沿って、できることをやってみるだけだ。まずは、この砂のこん棒を、あのスナハンドに装備させてみたらどうかな。「武器は持ってるだけじゃだめですよ」って、よく言うしね。
そういえば、あのスナハンド、さっきから姿が見えないけど、どこにいるんだろう?
俺がそう考えたら、砂山の入口辺りの砂がモコモコ動き、中からスナハンドがぴょこんと飛び出してきた。こいつ、砂の中に隠れる事もできるようだ。こうやって見ると、結構愛嬌があるな。
俺はスナハンドに、こん棒を持たせてみた。どういう仕組なのかは分からないが、砂のこん棒は、カチカチに固まっていて、石くらいの硬さになっている。
スナハンドはこん棒をブンブン振り回して、砂山の入口あたりを行ったり来たりしている。まるで、おもちゃを貰って喜ぶ子どもみたいだと思った。
そういえば友里も小さい頃、魔法少女アニメの変身ステッキのおもちゃを、あんなふうに振り回していたっけ。あ、いかん、いかん。なんか急に泣きそうになってきた。
スナハンドの装備も完了したので、俺は集落に行くために、自分が移動できる範囲を広げることにした。
種族:迷宮核
名前:澤部十四郎
迷宮レベル:1
総DP:9985
獲得DP/日:10
消費DP/日:1
【砂の拳】
種族:魔法生物族
属性:土属性
召喚コスト:10DP
維持コスト:1DP/日
保有スキル:〈強打〉〈砂投げ〉〈砂隠れ〉
迷宮の魔力が、砂に宿ることで生まれた魔法生物。迷宮核及び守護者の命令に従って行動するが、精密な動作は得意ではない。また、その体は、布袋に詰めた砂程度の硬さしかない。そのため、強い衝撃を受けると体内の魔力が拡散して、すぐに元の砂に戻ってしまう。
【迷宮の生み出す魔法生物について】
魔法生物は、一般的な魔獣と異なり、核となる魔石を体内に持たない。そのため、自律的な行動はできず、迷宮核の魔力が届かない迷宮外に出ることもできない。迷宮核及び守護者の命令には忠実に従い行動するが、特に命令を受けていない場合は、迷宮核や守護者を守るために行動する。なお、魔法生物は魔獣と違い、戦闘によって成長することはない。
お読みいただき、ありがとうございました。




