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120 パトラの戦い

 今日は職場の飲み会でした。読み返す時間が無かったので、あとで手直しをするかもしれません。


 次回、1話分閑話をはさんで、121話から本編が始まります。

【大陸歴1415年11月6日 昼頃】


〈パトラ視点〉


 主様とユーリィ様を守りながら、人間たちの中を歩く。


 主様がお作りになったこの街には今、多くの人間たちがやってきている。


 最初はユーリィ様とそのお母様、仲間たちしかいなかったのに、今ではすでにその何倍もの数の人間たちがいる。


 主様はこの街にもっと多くの人間たちを集めたいと思っていらっしゃる。


 主様の願いは私の願い。


 主様の街を守るため、私は今このときも、ひたすらに眷属や分身体を増やし続けている。


 しかし、それには糧と時間が必要だ。


 主様の望みにお答えできないことへの、もどかしさを感じずにはいられない。






 眷属が増えるにつれ、私は様々な事を深く、広く思考することが出来るようになった。


 主様は「パトラは賢くなった」とよく褒めてくださる。


 けれど、それはすべて主様のお力によるものだ。


 私は主様の力によって誕生し、今でもその魔力によって命を繋いでいる。


 主様を守り、支えるため、もっと賢く、強くならなくては。最近、私はそのことばかり考えている。


 新しい分身体を生み出したのも、鉄の武器を欲したのも、すべてはそのため。


 力をつけるためには、人間たちの知恵と技術が必要。そう判断した結果だ。






 ここには多くの人間たちがいるが、その多くは私の脅威にはなり得ない。


 その気になれば、一瞬で命を奪うことが出来る脆弱な者たちばかりだ。


 これまで出会った中で私の脅威となりうるのは、あのバグラというオスと、マール、オリー、カムなど、ほんの一握りに過ぎない。


 もちろん、彼らを持ってしても、私の本体を守っている精鋭たちには遠く及ばないけれど。


 しかし人間の力は、単純な強さだけで測ることはできないと、私は考えている。






 ユーリィ様の仲間たちの畑を作る技術や火を使う技術。これらを取り入れることで、私は自らの巣を大きく発展させることができた。


 さらに、脆弱な身体を守るための技術。服や装備を作り出し、それを活用する方法は、私に備わっていた本能にはなかったものだ。


 学べば学ぶほど強くなるのに、それがさらなる自分の弱さの発見に繋がるという矛盾。


 人間という脆弱な種がこんなにも数を増やしたのは、本質的にこの自己矛盾を抱えているからなのだろう。






「迷宮周辺への配置完了。魔獣掃討の許可を要請する。」


 主様がおっしゃった場所へ配置した分身体から念話が送られてきた。


「主様、迷宮周辺の魔獣を排除する準備が整いました。はじめてもよろしいですか?」


「もう、終わったの!? 相変わらず、仕事が早いな。助かるよ、パトラ。」


 念話でお伝えしたら、主様にまた褒められてしまった。


 身体の奥から、喜びの感情と魔力が溢れ出し、私の全身を満たす。


 私は自らの分身体と眷属を従える最上位者。しかし同時に、巣という構造の中の一員でもある。


 より上位な存在のために尽くして喜びを得るというのは、私が生得的に持っている本能なのかも知れない。






「じゃあ、すぐに魔獣たちを排除してくれ。そろそろカムたちもそっちに行くはずだ。彼らを守ってほしい。」


『承知いたしました。」


「あ、あと、パトラは絶対に迷宮に近づかないで欲しい。君に迷宮の影響が及ぶのは困る。自分の身の安全を第一に考えるんだ。」


「主様・・!」


 喜びのあまり、一瞬思考が停止してしまった。


「承知しました。『安全第一』ですね。」


「そうそう! 『安全第一』でいこう!」


 主様の思考の中にあった言葉を使って返事をしたら、すごく喜んでくださった。


 今の主様は光の球の姿をだけれど、私が読み取る思考の中では、人間のオスの姿をしていらっしゃる。


 でも、その姿をはっきりと認識することはできない。あちこちがかけた、断片的なイメージだからだ。


 でも、私はどちらの姿も、とても好ましいと感じる。


 時々、流れ込んでくる思考を見る限り、主様はこの街よりも遥かに高い技術を持つ世界にいらっしゃったようだ。


 これがフーリアの言っている『神の世界』なのかも知れない。


 主様はいつか、この世界に帰りたいと願っていらっしゃるようだ。


 その願いを叶えるのが、私の望み。しかし、同時に私はそれを叶えたくないとも思っている。


 この矛盾を解決する手段は、未だ見つかっていない。






「総員、排除開始。」


 私は迷宮周辺に配置している48の分身体に対し、同時に魔獣の排除開始を告げた。


 目標は砂丘の谷間入口付近にいる黒い四足獣の群れ。狼に似た姿の魔獣。その数22。


 砂の中に伏せておいた16の分身体たちが、ザッと立ち上がり一斉に槍を放った。槍は狙い通り、群れに命中する。


 しかし、そのほとんどは硬い体毛によって防がれてしまった。


 魔獣の群れがこちらに向かって突進してくる。想定通りの動きだ。






「第一陣、戦列形成。第二陣、配置につきます。」


 投擲を終えた分身体が横帯陣、盾を構えた横一列の陣形を形成する。その後ろに槍を構えた同じ数の分身体たちが入った。


 ここに配置しているのは、一世代前に生み出した戦士たち。主様が「黒騎士」と呼んでいた分身体だ。


 黒い四足獣はある程度接近したところで脚を止め、身体をブルッと震わせた。


 直後、魔力を含んだ黒い体毛の塊が、弾丸となって一斉に放たれた。


 しかし、盾を傾斜をつけ、弾丸を軌道を逸らすことで、ほとんど被害を受けずにすんだ。


 私はぐっと戦列を前進させた。一列に並んだ分身体が、まったく同じ動きで整然と魔獣に迫る。






「突け。」


 第一陣の隙間を縫うように突き出された槍が、動きを止めた魔獣の身体を貫いた。


 崩れ落ちる魔獣たち。致命傷を免れた僅かな魔獣たちは、即座に撤退をはじめた。しかし、これも想定通り。


 攻撃が始まると同時に、魔獣の群れの後方に他の分身体部隊を配置してある。


「突撃。」


 残敵掃討はあっけなく終わった。非常に脆い。


 私は家畜化している砂漠アリたちを呼び寄せ、倒した魔獣たちを解体してその場から運び出させた。


 巣に持ち帰って、眷属や分身体の食料にするためだ。






 しかしその時、谷間の奥から魔獣の叫び声が響いた。


 ビリビリと空気が震える。


 やがて谷間から駆け出してきたのは、2頭の巨大な四足獣に率いられた、魔獣の群れだった。


 谷の奥には迷宮がある。これが迷宮周辺を守る本隊なのだろう。


 群れを率いる黒灰色の魔獣は、他の魔獣たちよりも二回りほど大きい。


 そしてそれに付き従う魔獣たちの数は48。さっきの倍以上だ。






「戦列形成、方形陣。」


 一個16の分身体で構成された部隊を4×4の方形になるよう密集させ、外側を盾の壁で固める。


「突撃。」


 3つの部隊はまるで一個の生物のように、魔獣の群れに向かって突進した。


 同一の思考を持つ分身体たちの動きが乱れることはない。一体で行動するときとほとんど変わらない速度で接敵を完了する。


 2体の巨獣が部隊を迎え撃つ。巨体を生かした体当たりで、前列の分身体たちが大きく姿勢を崩した。


 しかし、同時に後列から一斉に槍が突き出される。槍は巨獣の身体を捉え、少なくない打撃を与えた。


 巨獣たちが怒りの声をあげると、それに従う魔獣たちから、一斉に弾丸が放たれた。


 降り注ぐ弾丸を盾で防いだものの、外周を固めていた分身体は傷を負ってしまった。






「第3部隊、展開。小魔獣を遊撃にて掃討。第1、2部隊は巨獣との戦闘を継続。」


 密集陣を解いた部隊が、小魔獣たちに襲いかかる。


 弾丸を放った直後で動きを止めた魔獣たちは、槍と副腕を使った連続攻撃によって、数を大きく減らした。


 残敵数は巨獣2、小魔獣28。想定通り。


 巨獣は展開した遊撃部隊を狙おうと後退したが、私はそれを回り込んで防ぐことに成功した。


 ここにいる分身体は全員が私。部隊での連携攻撃は、私の最も得意とするところだ。


 その隙をついて、さらに遊撃部隊が小魔獣を減らす。その数残り16。


 ただ、こちらにも被害は出ており、遊撃部隊は8体にまで減少してしまった。


 次の攻撃への対処で、戦局が決まる。私はそう考えた。






 巨獣もそれを悟ったのだろう。突然、巨大な咆哮を放つと同時に、身体をブルッと震わせた。


 空気を揺るがすその声に、分身体たちと小魔獣の動きが止まった。想定外だ。


 巨獣たちの目が真っ赤に染まり、異様な光を放つ。


 全身の毛を逆立てた巨獣たちは、敵味方の区別なく、その巨大な爪でデタラメに襲い始めた。


 巨獣の爪を受けた分身体と小魔獣の身体が、灰色に変色する。


 爪に込められた石化の呪いが発動したのだ。


 脆い石に変わった彼らは、巨獣の攻撃によってあっけなく砕け散った。






「散開。距離を取れ。」


 密集陣を解いて攻撃を避けたものの、すでに半数以上の味方が、石化攻撃の犠牲になっていた。


 小魔獣はすべて倒され、相手は巨獣2体のみ。


 しかし、こちらの数も22まで減らされてしまった。


 あの爪は脅威だ。一度撤退すべき。


 そう考え、撤退を指示しようとした瞬間。私の目の前で信じられない事が起きた。






 倒れた私の分身体たちが、光の粒となって姿を消したのだ。


 そして光の粒は魔力の流れとなって、谷間の奥へと消えていく。


 吸われたと、はっきり分かった。


 その瞬間、谷間の奥からこちらを見つめられているような感覚が走る。


 間違いない。これは主様と同じ力。私の分身体は、谷間の奥に潜む迷宮に『喰われた』のだ。


 刹那、思考が停止する。


 次の瞬間、私は目の前が真っ赤になるほどの怒りを感じた。


 私の分身体。主様からいただいた、大切な私の力の一端。


 それを盗んでいったのだ。あの迷宮は!!






「長蛇陣。総員、突撃せよ!」


 11体ずつ、2部隊の分身体たちが2列縦隊となって巨獣に突撃する。


 2体の巨獣は大きく腕を振りかぶり、先頭の分身体を薙ぎ払おうとした。


「読み切っている!!」


 先頭の4体が身体を低くして踏ん張りながら、同時に盾を突き出した。


 石化の爪の攻撃を受け止める。


 そのすぐ後列にいた分身体が飛び出し、巨獣に槍を突き立てた。






 しかし、巨獣の鉄のように硬い体毛に阻まれ、槍の穂先は致命傷を与えるに至らない。これまでと同じだ。


 巨獣はすぐに後退しようと後ろ脚に力を込めた。想定通り!


 前傾姿勢なったところを狙って、最後列の分身体たちが盾を構えて飛び出した。


 彼らは前列の仲間を踏み台しにし、体ごと巨獣めがけて跳んだ。


 しかし、狙うのは巨獣ではない。目標は、槍を突き立てている味方だ。


 彼らは槍を突き立てた仲間ごと、巨獣にぶつかっていった。






 勢いをつけた突進によって、槍は体毛と外皮を貫き、巨獣の身体に根本まで突き刺さった。


 槍に貫かれた巨獣たちは、痛みと怒りによって咆哮を上げた。


 しかし、それはすぐに断末魔の叫びへと変わり、砂の上に倒れ伏した。


「排除完了。」


 私は眷属の砂漠アリたちを使って、倒した魔獣と分身体をその場から運び出した。


 その間中、私はずっと、谷間の奥から分身体たちを絡め取ろうとするような魔力の動きを感じていた。


 間違いなく迷宮の力だ。失った魔獣たちの代わりに、分身体を引き寄せようとしているのだろう。


 あの巨獣たちもこうして、引き寄せられたに違いない。


 主様がいなければ、私も引き寄せられていたかも知れない。


 迷宮が魔獣を狂わせるという話は、真実のようだ。


 これ以上、谷に近づくのは危険。私は本能的にそれを感じ取った。



 



 戦闘後の残存兵力は20体。少なくない被害を受けてしまった。


 今回失った兵力を回復するには、しばらく時間がかかるだろう。


 しかし同時に、強敵を倒したことで、多くの経験を得ることができた。


 そして、この巨獣たちの身体は、私の本体が新たな兵士を生み出す糧となってくれるはずだ。






「主様、迷宮周辺の魔獣の排除が完了いたしました。」


「すごい! もう終わったのか! さすが、パトラ。本当に頼りになる。ありがとうな。」


 主様から偽りのない感謝と称賛の気持ちが伝わってくる。


「そう言っていただけて光栄です。カムたちが来るまで、周囲の警戒を続けます。」


 私の心は、喜びと充足感で満たされた。


「私はもっと強くなります。主様のために。」


 私はそう呟いた。しかし、念話に乗せなかったその声が、主様の心に届くことはない。


 密かな決意を胸に、私は主様の後を守りながら、人混みの中を歩いていった。



石化の魔狼ストーンクロウ

種族:魔獣族

属性:土属性

召喚コスト:1800DP

保有スキル:〈狂化(任意)〉〈咆哮〉〈石化の呪い〉〈斬撃耐性(中)〉〈刺突耐性(中)〉〈打撃攻撃被ダメージ増(小)〉〈魔法耐性(小)〉

乾燥地帯に生息する肉食魔獣。石弾狼の上位種。体長3〜4mほど。針のような硬い毛に覆われた毛皮が特徴。石弾狼に比べ防御力が増した分、〈石弾〉の能力は失われた。魔力も向上しており、低位の呪文攻撃を無効化することが出来るようになった。また、魔力を乗せた〈咆哮〉によって、周囲の生物の動きを一瞬止めることが可能。〈石化の呪い〉によって、爪に触れた生物を瞬時に石へ変えることが出来るが、これは〈狂化〉発動時のみに限られている。〈狂化〉はダメージを受けた時にだけ発動できる能力であり、攻撃力を大きく向上させる代わりに、防御力が大きく低下し、敵味方の区別もつかなくなってしまう。

お読みいただき、ありがとうございました。

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