115 報酬と使い道 後編
そういえば、今日はホワイトデーでした。
*魔獣の名前を修正しました。
生きた鎧(誤)→空鎧の騎士(正)
修正の理由:不死者なのに「生きた」っておかしい?って思ったからです。
【大陸歴1415年11月4日 昼下がり】
〈十四郎視点〉
ドルガンが最初にパトラに差し出したのは、両刃の短剣だった。
先端が鋭く、ユーリィの物より刀身がやや長い。
「どうだ?」
パトラはその場で鋭く短剣を振り抜いた。
「少し軽いですね。」
「やはりか。ではこれはどうじゃ?」
彼が次に手渡したのは、先程よりも刀身が厚く、先端が広くなった片刃の短刀だった。
「! これはとても振りやすいです。全身の力が乗せやすい感じがします。」
パトラから驚きと喜びの感情が伝わってきた。それをユーリィから聞いたドルガンは満足そうに頷いた。
「見立て通りじゃな。あんたは近接での戦いが得意なようじゃ。これならあんたの戦い方に合うじゃろう。携帯性・隠密性が高く、一撃の威力もある。」
体つきと動きからそこまで分かるのか。武器職人、パねえ。
「他の投擲武器と組み合わせれば、撹乱や中距離戦にも対応できる。試してみるかね?」
「お願いします!」
パトラはすごく喜んでいるようだ。
それにしても、黒ずくめの彼女が投げナイフと小太刀を手にしていると、完全にくノ一にしか見えないな。
「くノ一? 主様、それは何ですか?」
「ああ、俺の国で最強の女戦士だよ。いろんな術を使って戦うんだ。直接見たことはないけど。」
くノ一の知識なんて、某有名忍者漫画くらいしかない。
「最強の女戦士・・! 私もそれを目指します!」
あ、しまった。俺が思い描いた漫画のイメージを、彼女は読み取ってしまったみたいだ。
「主様、くノ一が使う『手裏剣』が、私も欲しいです。」
「御使い様、パトラさんの言っていることがよく分からないのですが・・。」
パトラの念話を聞き取ったユーリィが困惑の表情を浮かべる。
俺は苦労して、ユーリィとドルガンに手裏剣の形と用途を伝えた。
「ふうむ。星型の投擲刀か。たしか、東方の魔法王国にそのような武器を使う密偵がおるという噂を聞いたことがある。」
おお、やっぱ、日本的な文化の国もあるのか。東の方にあるってのも、こういう世界のテンプレだよな。
「面白い。わしが作ってやろう。いくつ必要なんじゃ?」
「この短刀と手裏剣を合わせて、50組お願いします。」
「ご、50組じゃと!? 一個小隊規模ではないか! とてもじゃないが材料が足りんわい!」
ドルガンがとてつもなく大声を上げたことで、みんなの視線がパトラたちに集まった。
「この拠点内にいる私の眷属たち、全員分です。」
最初20人くらいだったパトラの分身体。それが少しずつ数が増えているのには気づいていた。
外壁の見張りや拠点内の警備など、今ではシャーレの至るところで見かける。
でも、全員同じ見た目だから、そんなに多くなっているとは知らなかったよ。
巣にいるパトラ本体、彼女本来の身体の防衛が心配になるレベルだ。
「まずは鉄を準備せねばならんが、仕入れのルートがまだできておらん。」
「鉄ってどこから仕入れるんですか?」
ユーリィの問いかけに、ドルガンが身振りをしながら答えた。
「鍋や鍬などの雑具を作るなら、南砂海道付近の山岳地帯からじゃな。ただ、武器用の質の高い鉄なら、北方の氷竜山脈か南の霊峰ウォート産の物が一番じゃ。値は張るが、それに見合うだけの価値はあるぞい。」
「ただどちらも販路がすでに決まっておる。ここに新しく販路をとなれば、商会との交渉や運輸業者探しで、数ヶ月はかかるじゃろう。」
リグドの言葉にドルガンも困り顔で頷いた。彼らはすでにマールに頼んで、北方への販路を持っている商会への手紙を出したあとだったらしい。
「こんなに大口の注文が入ると分かっておったら、もっと強気に交渉すればよかったわい!」
シャーレでの生産が軌道に乗るまでは時間がかかるだろう。
2人はそう予想して相談し、小口の取引交渉をしていたそうだ。
「他に鉄を手に入れる方法はないんですか?」
「砂海では天から降ってきた特別な『隕鉄』と呼ばれるものが、採れることがある。じゃが、それこそ一生に一度お目にかかるかどうかの希少品じゃ。」
「あとは、砂鉄を集めることかのう。ちょうど大雨の後じゃ。水の溜まった跡を探せば見つかるかもしれん。とはいえ所詮は砂じゃ。量は期待できんぞ。」
俺のアイテム創造スキルでも、おそらく鉱石を生み出すことは可能だ。
でも、あれはmpをかなり消費してしまう。
砂嵐・大雨対策でmpを使いすぎたせいで、今はただでさえmp不足。新しい魔獣も生み出せていない状況だ。
それにスキルである程度生み出せたとしても、焼け石に水。パトラたちの装備を整えるには、到底足りそうにない。
やはり正攻法で交易するのが一番確実なようだ。
残念だけど、パトラには今、準備出来る分だけで我慢してもらうしかないな。
そう思っていたら、聞き耳を立てていたらしいピノンが、声をかけてきた。
「魔獣の中には、鉄の原料となる外皮や外殻を持っている奴がいるらしいよ。ね、カム?」
ピノンに声をかけられたカムさんは、重々しく頷いた。
「確かにいるが、そのほとんどは特殊な迷宮にしか生息していないものばかりだ。普通に捜すのは難しい。」
「カムさんは、出会ったことがあるんですか?」
カムさんはユーリィに向き直って答えた。
「以前、古戦場に出現した『血錆の迷宮』で空鎧の騎士と戦ったことがある。朽ち果てた鎧に怨念が取り憑いて生まれる不死者だ。恐ろしい相手だった。」
なるほど。そういう入手方法もあるわけか。さすがはファンタジー世界。
「じゃあ、その手の魔獣が現れる迷宮を見つければいいね! おいらたちで探しに行く?」
ピノンにそう言われたカムさんは、途端に鼻先にシワを寄せた。
「そう都合よく迷宮が現れれば、苦労はしない。」
「迷宮って何ですか?」
おお、ユーリィ! ちょうど俺もそれを聞きたかったんだ。
「迷宮は、大地に突然出現する構造物だ。しかし、ただの建物ではない。それ自体が絶大な力を持つ人食いの化物。何の前触れもなく出現して、大地の恵みを奪い、様々な魔獣を生み出して人を襲う。」
カムさんの言葉に、ユーリィが怖そうに唇を噛む。すると、おどけた調子でピノンが後を続けた。
「でも反対に、すごい宝物や珍しい魔獣の素材が見つかることも多いんだ。だから、迷宮が発見されると、冒険者は皆、そこに集まってくるんだよ。」
「そうやっておびき寄せられた人間を食う。これまで幾つもの村や街が、迷宮に飲まれて消えた。」
そんなにおっかない化け物がいるのか。出来ればそんなのとは、一生出くわしたくないな。
でも、冷静に考えると、魔獣を生み出して人を集めるって、ちょっと俺に似てる気がする?
「主様は、食べるために人間を集めていらっしゃるんですか?」
「まさか! 俺が人を集めてるのは、街を発展させるためだ。」
「そうですか。承知しました。」
パトラはそう言って黙ってしまった。
もし俺が「そうだよ」って答えたら、一体どうするつもりだったんだろう。
想像するとちょっと怖い。
「迷宮は怖いですけど、やっぱおいらは、お宝ががっぽり欲しいなあ。ドルガンたちだって、鉱石がどっさり詰まった宝箱が見つかったらうれしいでしょ?」
「そんなもん、どの冒険者が喜ぶのよ!」
ピノンの言葉に、スパイアがすかさず突っ込む。彼女の手には、ガラスと金で作られた美しい髪飾りが握られていた。
「スパイア、それ買うの?」
「すごく欲しいけど、高くてとても買えないわ。ちょっと見せてもらってただけ。」
彼女は礼を言って、リグドにそれを返した。
「気に入ってもらえてうれしいわい。これは、わしとドルガンの合作でな。我ながら自信作じゃ! いつかお前さんが買ってくれるとうれしいぞい。」
「さすがに銀貨80枚は無理ね。でも、いいもの見せてもらったわ。」
2人の会話をベローがじっと見つめている。すると、ピノンが2人に声をかけた。
「やっぱり、おいらたちで迷宮を探しに行こうよ! そんで鉱石をどっさり手に入れてさ! そしたらスパイアだって、その髪飾り買えるんじゃない?」
スパイアは「何をバカなこと・・」と言いかけたが、それを遮ったのはベローの静かな声だった。
「そうだな。次の依頼が見つかるまで、魔獣を狩りながら迷宮を捜すのもいいかもしれん。」
「ベロー・・! あなた正気?」
スパイアに尋ねられたベローは、ふいっと顔を逸らせて言った。
「ピノンは間違ったことは言っていない。迷宮は育ち切る前に討伐したほうがいい。見つけられるなら、それに越したことはない。」
「へへっ。珍しく意見が合ったね、ベロー。」
ピノンがうれしそうにベローの腕に触れる。長身のベローと並ぶと、ピノンは本当に子どもにしか見えない。
スパイアはカムさんに目を向けた。
彼は、うれしそうなピノンを見ながら、フッと優しい笑みをこぼした。
「俺は2人の意見に賛成だ。迷宮が見つからないにしても、この街の周囲を調べるのは悪いことではない。」
スパイアは呆れた様子で両手を広げ、ピノンに降参の意思を示した。
「よし! これで決まりだ!! みんなで、鉄の湧き出す迷宮を見つけ出そう!!」
ピノンがそう叫ぶと、他の3人は顔を見合わせて笑顔になった。
「まあ、そんなに簡単に見つかるわけないけどね。」
スパイアがそう言った途端、ズシンと大きな地響きが響き渡った。
棚の中のガラス器が揺れ、慌ててリグドがそれを押さえる。
パトラはすぐに俺とユーリィを自分に引き寄せた。
獣人たちはさっと表情を引き締め、辺りを警戒する。
「な、なんだ!? 地震か?」
「いや、それほど揺れてはいない。もう、収まっている。」
カムさんの言う通り、ごく短い衝撃だった。警戒していた獣人たちもすぐに表情を戻し、軽口を叩き始める。
その時、俺の脳内にナビさんのアナウンスが唐突に流れ始めた。
『迷宮内部の人間種の強い欲望を検知。迷宮侵食機能により、複製核を生成しました。周辺領域の侵食を開始します。』
うん。相変わらず全然分からん。
カムさんたちの日常会話くらいなら、なんとか聞き取れるようになった俺でも、ナビさんの言葉は難しすぎるのだ。
なにしろ聞いたことない単語ばっかりだしね。
一通り武器見学も終わったので、俺たちはドルガンたちに礼を言って、その場を離れた。
もう辺りは夕闇が迫っている。
「あたしはそろそろみんなのところに帰ります。御使い様はどうなさいますか?」
「俺はもう少し、パトラと街を見回ってから戻るよ。あとでみんなの様子を見に行くから。」
ユーリィと一旦別れ、俺とパトラは外壁に昇って街を見下ろした。
桟橋に所狭しと停まっていた船の殆どは、もうすでにいない。
砂嵐が通り過ぎたことで、彼らはそれぞれの目的地へと旅立っていった。
今までが賑やかだっただけに、夕焼けとも相まって、なんともうら寂しい光景だ。
そのせいだろうか。俺はふと、胸の奥が冷えるような寒気を感じた。
なんだかカゼの引き始めみたいだ。身体が熱っぽいし、なんならちょっとだるい。
でも、すぐにそんな訳無いか、と思い直す。
今の俺には身体がない。ゲーム内アバターの光の玉だからな。
温度や匂いを感じることはあっても、さすがにカゼをひくことはないだろう。
しかし何気なくステータスを見た俺は、驚愕のあまり、心のなかで叫び声を上げてしまった。
「どうかなさいましたか、主様!?」
「mpが・・めっちゃ減ってる!!」
今朝まで30000以上あったはずのmp残量が、今では5000以下にまで減少していた。
こんなことはこれまでに一度も体験したことがない。もしかして、寒気の原因はこれか?
「何も心当たりはないのですね。」
「ああ。」
パトラの言う通り、原因はまったく不明だ。
今日はドルガンたちのところで武器を見ていただけで、積極的にmpを使う機会は一度もなかった。
不気味に思いながらも、俺は一度その場を離れ、ユーリィたちの共同住宅に向かった。
その後、みんなが寝静まってからも、俺の倦怠感は消えなかった。
パトラは俺を心配してくれていたが、俺にも彼女にもどうしようもない。
しかし、真夜中過ぎれば、またmpが回復するはず。そうすれば、このだるさも消えるだろう。
俺はそう思い、日付が変わるのを待った。
ところがこの期待は見事に裏切られた。
俺のmpは日付が変わっても、まったく回復しなかった。
それどころか、時間が過ぎるごとに、じわじわと減り始めたのだ。
mpは俺の力の源。これが無くなってしまえば、何も出来なくなってしまう。
更に言えば、このゲームにはhpに当たるパラメータが確認できていない。
mpがゼロになったとき、何が起こるのか。
ゲームオーバーになって、現実に戻れるなら、それは問題ない。もちろん、心残りはあるけどな。
ただ、これがもし、現実の俺の肉体の死に直結しているのだとしたら?
とてもじゃないが、それを確かめる気にはならなかった。
俺はその夜、原因を探ろうと、必死にステータス画面の解読を進めた。
しかし、幾つかの文字を読めるようになったばかりの俺に、すぐにそれを行うのはあまりにも難しすぎた。
夜が明けたら、すぐにでもレオニスさんに文字の読み方を教わりに行こう。
俺はそう考えて、時間が過ぎるのを悶々と待ち続けたのだった。
種族:迷宮核
名前:澤部十四郎
迷宮レベル:12
総DP:4870
獲得DP/日:39550
消費DP/日:40000
お読みいただき、ありがとうございました。




