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114 報酬と使い道 前編

 金曜日! でも、私は明日も仕事なのでした。お休みの皆様は、休日をゆっくり過ごせますように。

【大陸歴1415年11月4日 昼過ぎ】


〈十四郎視点〉


 カムさんたちに討伐報酬を支払うため、俺たちはレオニスさんの事務所を訪れた。


 魔獣討伐依頼を達成した翌日のことだ。


 同行しているのは、ユーリィ、ユミナさん、フーリアちゃん、そしてパトラの4人。


「今回の討伐で得られたのは、土の中魔石1個、火の小魔石6個。契約に従い、銀貨11枚の支払いとなります。双方、異論はありませんか?」


 俺たちの代表者ユミナさんと、獣人たちのリーダー熊人カムさんが同時に頷く。


 それを見たレオニスさんは、生真面目な顔で頷き、卓上の木箱から硬貨を取り出して並べ始めた。


「事前にお預かりしたドワーフ銀貨3枚を、私が両替させていただきました。一般銀貨11枚と銅貨40枚です。そこから手数料として銅貨3枚を引かせていただきました。カムさん、ユミナさんそれぞれお確かめください。」


 カムさんの前には11枚の銀貨が、ユミナさんの前には37枚の銅貨がそれぞれ並べられている。


 2人が硬貨を数え終わると、レオニスさんはユミナさんと俺に顔を向けた。


「今回は商業ギルドの規定に従い2%の両替手数料をいただきました。公正証書の作成料については、今回は相談役としての業務内と判断しましたので、別途いただいてはおりません。」


 え、それってサービスしてもらっていいことなの?


 俺がそう尋ねると、レオニスさんは面白そうに目を細めた。






「あなたは本当に神の使いらしくありませんね。もちろん、いい意味でですよ。」


 彼は小さく笑って続けた。


「月額で十分な契約料をいただいていますから。今後の冒険者ギルドとの折衝や契約に関する事務に関しては、別途事務手数料をいただくことになりますが、今回は結構です。」


 レオニスさんには相談役の報酬として、月に銀貨3枚を払うことになっている。あとは、必要に応じて成功報酬や経費を支払う契約だ。


 この世界の貨幣価値にはまだ慣れてない。でも、俺は彼がかなりサービスしてくれてるような気がしてならない。


 ただ、それを聞いても彼は「私は商人ですから、損をするような契約は絶対にしませんよ」と言って笑っているばかりなのだけれど。






「いやー、今回はかなり儲かったね! これでしばらくは遊んで暮らせるや!」


 レオニスさんの事務所を出た途端、草原小人グラスフットのピノンがそう叫んだ。


 スパイアは「大げさね!」と笑いながらも、彼に同意した。


「確かにいつもよりずっと懐が温かいわ。何日も無駄にしなくて済んだし、誰も大きな怪我しなかったもんね。ほんと、御使い様々だわ。」


「魔獣の討伐って、普段はあんまり儲からないんですか?」


 ユーリィがそう尋ねると、スパイアは蜘蛛の下半身をブルッと震わせた。






「儲からないなんてもんじゃないよ。普段は赤字ギリギリだね。」


「遠征となれば、人数分の水や食料、灯火油、消耗品、燃料なんかが必要になるから。危険な魔獣がいるところでは下級治療薬ポーションも欠かせないし。まあ、おいらたちにはカムがいるから、その分はかなり有利だけど。」


 ピノンの言葉にカムさんはちょっと照れたように笑った。


「そうそう。回復役ヒーラーのいないパーティは、ケガしたら教会や神殿で治療しなきゃいけないし、かなりの負担になるよ。でも、命には代えられないもんね。」


 スパイアの言葉に、蛇人ベローが無言で頷く。


「依頼の達成までの日数がかさむほど、おいらたちの赤字が増えていくんだ。すると当然、報酬はその分目減りしちゃうわけ。」


「そうだねー。あと『獣人割』もあるしねー。」


「『獣人割』?」


 フーリアちゃんが思わず聞き返した言葉に、ベローは露骨に顔を顰めた。






「獣人割ってのは、ギルドの職員が獣人おれたちから巻き上げる手数料のことだ。だいたい報酬の1割から2割。ひどいときには半分近く持っていかれることもある。」


「そうそう。おいらたち獣人や亜人は、人間に比べたらずっと命が安いんだ。」


「え、冒険者ギルドって、そんな決まりがあるんですか?」


 フーリアちゃんが聞き返すと、ベローはむっつりとした顔で答えた。


「そんなものはない。職員どもが好き勝手にやってるだけさ。」


「そんな! ひどいです!!」


 思わず声を上げたユーリィに、スパイアは優しい目を向けた。


「好き好んで獣人に対応する奴なんかいない。報酬の手続きをしてもらえるだけでもありがたいと思え。それが奴らの言い分だよ。」


 諦めたようなスパイアの口ぶりに、フーリアちゃんもユーリィも絶句してしまった。


 いくらこの世界ゲームの設定とはいえ、横で聞いてた俺の胸もかなりムカムカさせられる。


 すると、カムさんが穏やかな声で2人にこう話しかけた。






「だから、今回のレオニス殿の契約には本当に感謝している。獣人に対する扱いを改善してくれるという約束も、最初はあまり期待していなかった。だが、今では何か変わるのではないかと思い始めている。」


「御使い様は、人間じゃないからと言って区別するようなことはなさいません。レオニス様も、きっと御使い様の思いを汲み取ってくださるはずです。」


 フーリアちゃんの言葉に、ユーリィとユミナさんも大きく頷く。もちろん俺も、完全同意だ。


 俺にとって彼らは、この世界ゲームを攻略するための大切な仲間。種族で差別するような真似をするわけがない。


 第一、それを言い始めたら、パトラなんてそもそも魔獣だしね。


「私は主様の味方は全力で守ります。敵には一切容赦しません。」


 念話でパトラが返事をしてくれた。うん、俺も基本的にはそのスタンスだ。


 ただ、資源リソース領土キャパシティにゆとりがあるうちは、できるだけ味方を増やしておきたいけどね。






「さすがは神の使いが作った街だよね。ほんと、シャーレはいいところだよ。唯一の欠点は、金を使う場所がないってことくらい!」


 大げさに肩を竦めたピノンに、スパイアが突っ込む。


「金使うってどうせ酒とか、つまんない道具とかでしょ。いつも碌なことに使ってないじゃない。」


「つまんないとは失礼だな! ときには冒険しごとの役に立つことだってあるんだぞ!」


 漫才みたいなやり取りに、ユーリィはくすくす笑い出した。


 その後、ユミナさんとフーリアちゃんは獣人たちと別れ、共同住宅に戻っていった。


 ユミナさんは畑仕事、フーリアちゃんは中和剤づくりに取り掛かるためだ。


 ユーリィも一緒に帰ろうとしたのだけれど、俺が頼んで残ってもらった。


 さっき、ピノンたちの言ったことが気になっていたからだ。






「御使い様が、普段は皆さんがどんなことにお金を使っているのか聞きたいとおっしゃっています。」


 そう。聞きたかったのは彼らの金の使い道。


 彼らがどんな事を望んでいるのかが分かれば、今後の拠点づくりのヒントになるかもと思ったのだ。


 ユーリィの問いかけに、最初に答えたのはカムさんだった。 


「稼ぎのほとんどは、次の冒険の資金にしている。残りは、教会や神殿に寄進することが多いな。これでも神職の端くれだ。」


 カムさんによると、各地の神殿や教会は、ケガや病気の治療や、貧しい人たちの救済事業などを行っているらしい。


 医療や福祉の拠点ということか。それはぜひ、このシャーレにも欲しいところだ。作るならやっぱりシャーレ神殿だよね?


「ぜひそうするといい。フーリア殿にゆとりができたら、きっと喜ぶだろう。」


 カムさんはかなりの人格者のようだ。ただ、見た目が丸太を担いだ灰色熊だから、ものすごいギャップがある。


 彼はこの丸太の他には、大きな背嚢を背負っているだけで服すら着ていない。


 背嚢も仲間のための荷物みたいだし、本当に自分のためにはお金を使っていないみたいだ。


 俺がそう伝えると、カムさんは途端に目を泳がせ始めた。






「い、いや。私はそんな高潔ではない。ちゃんと自分の欲を満たすために金を使うこともある。」


 カムさんの言葉を聞いて、急にピノンが笑い出す。


「カムはね、甘い物が大好きなんだ。救護院の子どもたちにお菓子を届けるときには、必ず自分も一緒に食べているもの。」


 カムさんは照れて顔を伏せてしまった。笑い転げるピノンの頭を、スパイアは軽くひっぱたいた。


「あんただって、人のこと笑えないでしょ!? 報酬だっていつも使い切って『スパイア〜、めし奢ってくれよ〜!』なんて言ってるじゃない。一体何につぎ込んでんだか。」


「楽しいことにはいつも全力! それが草原小人おいらの生き方さ〜♪」


 ピノンはその場でくるりとトンボを切ると、ポースを決めてユーリィにウインクをしてみせた。


 目を丸くしたユーリィがくすくす笑い出すと、ピノンも満面の笑みでそれに答えた。


 そんな彼の様子を、カムさんは優しい目でじっと見つめていた。






「そういうスパイアは、何に使ってるのさ?」


「あたし? そうねえ、やっぱおしゃれかな。アクセサリーを買ったり、服を見たりするのが好きよ。あとは、武器や道具類かしら。ベローは貯金でしょ?」


「ああ。」


 ベローは小さく頷いた。


「将来のために貯めている。ギルドに手数料を払えば、金を預かってくれるからな。」


 聞けば、冒険者ギルドは組合員のために、預金や少額融資などの業務もしているらしい。


 この爬虫類イケメンは、実はかなり堅実な性格のようだ。


「もし俺が死んだら、仲間たちが受け取れるようになっている。」


 その言葉に、スパイアがハッとした顔で彼を見た。


「そんな、ベロー・・!」


 絶句するスパイア。


 しかし、一瞬冷えたその場の空気を破ったのは、ピノンの明るい声だった。


「任せてよ、ベロー! おいらがバッチリ受け取って、何倍にも増やしておいてあげるからね!」


「あんた! それ完全に、ギャンブルに突っ込むつもりでしょ!」


 たちまち始まるスパイアとピノンの追いかけっこ。


 2人のじゃれ合いはカムさんが「いい加減にしないか!」と叱るまで、ずっと続いたのだった。






 その後、俺たちはドルガンたちの工房へ向かった。


 スパイアが「蛇との戦いで双剣を傷めてしまったから、新しい武器を見てみたい」と言ったからだ。


 俺も冒険者である彼らの武器選びに興味があったので、同行させてもらうことにした。


 工房に近づくに連れ、金属を叩く音が次第に大きくなる。


 開け放たれた扉の奥から押し寄せてきた恐ろしい熱気に、俺は思わず身構えてしまった。


 鉄床では、ガンッガンッという音と共に、激しく火花が散っている。


「おおー!」


 それを見たピノンは目を輝かせた。


 ドルガンは槌を振るう手を止め、じろりとこちらに目を向けた。






「草原小人と獣人が、何の用だ?」


 あからさまに警戒した様子の職人たちに、カムさんは丁寧に頭を下げた。


「武器を見せていただきたい。」


 鍛冶師ドルガンとガラス職人リグドは、獣人たちと俺を何度も見比べた後、大きく息を吐いた。


「金はあるんじゃろうな?」


「もちろん!」


 ピノンが革袋を振ると、中で銀貨がぶつかり合う澄んだ金属音が響いた。


「入るがいい。御使い殿とユーリィもな。」


 俺たちは2人に案内され、工房の中に入った。






「すごい・・!」


 ユーリィが感嘆のため息を漏らす。


 工房の壁に作った棚には、武器とガラス器が整然と並べられていた。


 それにしても、随分とたくさん作ったものだ。


「当然じゃ。何しろ、水も火も使い放題じゃからな。砂嵐と大雨で閉じ込められている間、ずっと仕事をしておったわい。」


 リグドが胸を張る横で、ドルガンはスパイアとピノンに武器の説明をし、質問に答えていた。


「ふむ。お前さんの双剣、妙な癖が付いておる。左の方が扱いにくいようじゃな。」


「見ただけで、分かるのかい?」


「当たり前じゃ。わしを誰だと思っとる。誇り高きエンバーフォージの7代目じゃぞ? お前さんの身体に合わせるなら、これはちと重心が悪いようじゃ。鍛え直すか?」


「すぐにお願いするよ!」


 嬉しそうに声を上げるスパイア。


 そんな彼女を茶化すように、ピノンが言った。






「やっぱ、丘小人ドワーフはすごいね! 伊達に無駄に長いヒゲを生やしてるわけじゃないんだ!」


「ふん! さすがのわしでも、草原小人の口と手癖の悪さは鍛えられんがな。お前さんは、一体何がほしいんじゃ? 」


「おいら、新しい飛び道具が欲しくてさ。投石器スリングは持ってるんだけど、あれは撃つまでに時間がかかるから。」


「それなら、投擲刀スロウナイフじゃな。いろいろな形がある。」


「試してみてもいい?」


「ああ、構わん。ただし、あとでポケットを確かめさせてもらうぞ?」


「信用ないなあ。ちょっと黙って借りるだけだってのに。」


 軽口を叩き合いながら、武器を手にするピノンとドルガン。


 そんな2人を見ながら、ふとパトラが俺とユーリィに話しかけてきた。






「主様、ユーリィ様。私も武器を使ってみたいです。」


 ユーリィが「えっ!?」と声を上げ、驚いた顔でパトラを振り返る。


 それに気づいたドルガンがこっちにやってきた。


「どうかなさったかな? ユーリィ、御使い殿?」


 それをユーリィが伝えると、パトラは彼女の方を見ながら念話で話し始めた。


「もともと、この分身体オールパーパスユニットは、いろいろな武器を使うことを想定して生み出したものです。ですから、それを試してみたいのです。」


 ユーリィがドルガンにそれを伝えると、彼は女性型アンドロイドのような彼女の身体をじっくりと見つめた。






「今までに、どんな武器を使ったことがあるんだ?」


「以前は槍と円盾を使っていました。ただ、この身体には少し大きすぎるので、もっと小さくて使いやすいものがほしいです。」


 ドルガンの目がキラリと光る。


「じゃあ、一通り試してみるといい。」


 そう言って彼は、ピノンのポケットから小さなナイフを取り上げた後、俺たちを武器の棚の前に案内してくれたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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