113 獣人たちの戦い 後編
お話を書いていると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。スマホでポチポチ書いているので、移動中や待ち時間が苦痛じゃなくなりました。
※ 魔獣の説明を挿入しました。本編には一切関係ない内容です。ただのフレーバーテキストですので、読み飛ばしてください。
【大陸歴1415年11月2日 昼下がり】
〈十四郎視点〉
ミニピラミッドから見守る俺たちの前で、獣人たちは巨大な双頭の蛇と向かい合っていた。
砂の上で、長い胴体がゆっくりとうねる。赤く光る4つの瞳が細められた。
「来るぞ!」
熊人カムの低い声と同時に、二つの蛇頭が左右に分かれて突進した。
「うわっ、こっち来た!」
ピノンが横へ飛び退く。その前に、丸太を振り上げたカムが割って入った。
「俺の後ろに下がれ!」
丸太が唸りを上げ、蛇の顎を叩き落とした。大蛇の頭はそのまま、砂の中に消えていく。
「おおっ、ナイス!」
「油断するな、また来るぞ!」
砂の動きを見ながら警戒する2人。
一方、もう片方の頭は蛇男ベローへと襲いかかっていた。
「左!」
蜘蛛娘スパイアの声に、ベローが身をひねる。ベローの右肩をかすめて、大蛇の牙が通り抜けていった。
それに合わせて双剣が閃き、蛇の目をかすめる。
しかし、鱗に弾かれ、立て続けに鋭い2つの金属音が響いた。
「硬い!」
「俺が止める!」
ベローは長い腕を伸ばし、全身で蛇の首へ絡みついた。
それに合わせ、スパイアが地面を蹴った。動きの止まった頭目掛けて、双剣を振り下ろす。
「危ない、スパイア!!」
ピノンの叫びと同時に、彼女の真下の砂が爆ぜた。
上空の彼女目掛けて、ほぼ垂直に突き上がる大蛇の頭。
大きく開いた顎が、彼女の身体に迫る。
「スパイア!!」
振り向いた彼女の視界に、牙より先にベローの背中が飛び込んできた。
ピノンの声とともに拘束を解いていたベローが自ら牙の前に身体を晒す。
ガツンッという鈍い音と共に、ベローの身体が大きく弾き飛ばされた。
「ベロー!」
とっさに蜘蛛の下半身から糸を噴射し、空中で軌道を変えたスパイアは、ベローの側に降り立った。
砂の上に転がったベローの左肩は牙に貫かれ、黒い血が流れていた。
ベローが苦痛に顔を歪ませる。しかし、スパイアが触れようとしたとき、彼は激しく彼女を怒鳴りつけた。
「触るな! 毒だ!!」
ベローは肩を押さえて、素早く立ち上がった。
「俺にヘビの毒は効かん。お前が危険だ。それより、来るぞ!」
身構える4人に相対するように、双頭の毒蛇は、ゆっくりと身体を持ち上げた。
彼らの頭上から、四つの瞳が獲物を値踏みするように光る。
「まずいな。」
カムが低く呟く。
「このままでは押し切られる。」
「だったら!」
ピノンが突然前へ飛び出した。
「おいらが引きつける!」
「待て、無茶だ!」
「平気平気! こういうの得意なんだ!」
ピノンは砂を蹴り、蛇の目の前を横切る。
「ほらほら! こっちだ化け蛇!」
挑発するような動きに、2つの頭が同時に彼を追い始めた。
「よし、来た来た!」
「援護するわ!」
スパイアが糸を蛇の頭へ噴射する。彼女はそれを手繰って空中を素早く移動し、蜘蛛の頭に斬りかかった。
「助かる! 2人で時間を稼ごう!」
叫んだ直後、蛇が彼の頭に噛みついた。
「ピノン!」
「ふうー、危なかった!」
とっさに首を竦めて牙を躱したピノンは、地面をコロコロと転がり、おどけた様子で腰を大きく振った。
「まだまだ余裕! ちなみにこれ、スパイアの真似だよ。」
そう叫びながら、彼は蛇の周囲を大きく回り込む。
そして腰に下げたロープを引き抜き、投げ縄の要領で蛇の頭にかけると、それに掴まって飛び上がり、遠心力を利用してぐるりと2つの頭を絡め取った。
2つの頭を1つに縛られ、一瞬、蛇の動きが止まる。
しかし、大蛇はその怪力で、いとも容易くロープを引きちぎってしまった。
「ありゃりゃ、すごい馬鹿力だ。まるでカムみたいだね。」
目の前でくるりと宙返りをしてみせたピノン。
怒り狂った大蛇は、猛然と彼に襲いかかっていった。
ピノンはスパイアに守られながら、ジリジリと後退し、大蛇をカムとベローから引き離した。
カムは座り込んだベローの傍らに膝をついていた。
「深き森の護り手よ。我が祈りに応え、この掌に癒やしの力を宿し給え。〈大地の癒やし〉」
カムの手が淡く光り、ベローの傷を包み込んだ。
傷口がゆっくりと塞がり、やがて血が完全に止まった。
カムは一度だけ深く息を吐いた。
指の爪が僅かに震える。しかし、それを隠し、彼は再び丸太を握りしめた。
ベローは静かに立ち上がった。
「助かった、リーダー。」
カムが無言で頷く。同時に遠くで、ピノンが叫んだ。
「ねえ! そろそろ限界なんだけど!」
轟音を上げて繰り出される牙の攻撃を紙一重で躱すピノン。
スパイアが双剣や糸の動きで妨害しているが、段々と大蛇の攻撃は正確さを増してきていた。
カムが丸太を握り直す。
「ベロー。」
「ああ。」
二人は同時に走り出した。
「ピノン! そのまま真っ直ぐ誘導しろ!」
「了解!」
ピノンが大きく弧を描くように反転する。
それに釣られて、二つの頭が一直線に並んだ。
「今だ!」
カムが丸太を振り上げた。
「止める!」
ベローが蛇の首へ飛びつく。
二人は同時に蛇の頭に体当たりした。
丸太と腕によって首を抑え込まれた大蛇の動きが一瞬止まった。
その時、スパイアはすでに空中へ跳び上がっていた。彼女の噴射した糸によって、ピノンの身体が空中に持ち上げられる。
「右!」
「任された!」
空中で二人の影が交差する。
双剣が閃き、短剣が突き出された。
落下の勢いを生かした2人の攻撃は、硬い鱗を貫き、大蛇の頭に深々と突き刺さった。
苦悶する大蛇は全力で身体を揺り動かし、カムとベローを弾き飛ばした。
続いて力を振り絞り、長い身体を砂に叩きつける。巻き起こった衝撃波によって、獣人たちは砂の上に転がった。
しかし、大蛇の抵抗もそこまでだった。
必死に砂に潜ろうとする蛇に、獣人たちが追撃を加える。
大蛇は2つの口から紫色の泡を吹き出して痙攣し、やがてぐったりと砂の上に横たわった。
「やった! 勝ったよ!! 今の見てたかい、ユーリィ?」
砂まみれの顔でピノンが俺たちに向かって叫ぶ。
俺はユーリィに抱きかかえられたまま、彼らのもとに向かった。
「大丈夫ですか!?」
「うん、へーき! あとでうちのリーダーがちゃんと治してくれるからね。」
ピノンの言葉に、獣人たちは笑顔で頷く。それを見て、ユーリィはホッと表情を緩めた。
「すごいですね! こんなに大きな魔獣を倒してしまうなんて!」
「いやー、おいらもこんなデカいのは初めてだよ! 危うく蛇の昼ごはんにされちゃうところだった!」
おどけた様子にユーリィが小さく吹き出す。
「ピノン。さっさと片付けてしまおう。次の奴が来る前に。」
カムの言葉で、獣人たちはすぐに大蛇を解体し始めた。
「すごく丁寧に切り分けるんですね。」
彼らが牙や鱗を剥ぎ取る様子を見て、ユーリィがそう言うと、スパイアは照れたように微笑んだ。
「あたしはまだまだ上手じゃないんだけどね。魔獣の素材は高く売れるから。あたしたちはこうやって稼いでるんだ。」
しかし、すぐ後ろにいたベローが呟くように言った。
「いや、上手い。もう一人前だ。」
「べ、ベロー・・!」
スパイアは頬を赤らめて、ベローを見る。
しかし、彼はすぐに顔を伏せて、牙の毒腺を抜き取る作業に戻ってしまった。
あれ、なんかいい雰囲気。でも、種族違いの恋って、成り立つのかな?
蜘蛛と蛇って、だいぶ遠い気がするんだけど。
「ほら、魔石が取れたぞ。」
カムの声に、皆が一斉に視線を向けた。
「おお、デカい! さすがは中級だね!」
カムの手に握られていたのは、ユーリィの掌に乗るくらいの、透き通った小さな石だった。
まるで薄い金色の水晶みたい。
その周囲からは、ふわりと金色の燐光が浮かび上がっているように見える。
「これが魔石ですか? 初めて見ました。すごく綺麗ですね!」
「これは土の魔石だね。建築魔法なんかでよく使われるらしいよ。あたしはよく知らないけど。」
へーそんなんだ。建築魔法っていうのがあるのか。
やっぱ、俺の建築アイコンとは、違うのかな?
1時間ほどで素材の剥ぎ取り作業が終わり、俺たちは一度シャーレに戻ることになった。
カムさんの魔力が尽きてしまい、これ以上の戦闘が難しくなってしまったためだ。
「あのまま待ってたら、あの蛇の死骸をめあてに魔獣が来たんだろうけどね。でも、安全第一だからさ。」
そう言ったピノンの頭を、カムが毛むくじゃらの手でそっと撫でる。
「その通り。冒険者を殺すのは魔獣でも罠でもない。油断と慢心。昔からよく言われる金言だ。」
ピノンは頭を撫でられ、得意そうに胸を張った。
「あれ、あたしには『子ども扱いするな!』って怒ったのに、カムには何にも言わないんだね?」
「そりゃ、そうさ。カムはおいらたちの父ちゃんみたいなもんなんだから。」
ピノンの言葉に、ベローが無言で頷く。
種族はバラバラだけど、確かにこの4人、仲の良い家族みたいに見える。
「そういえば、あの蛇はあのままでよかったんですか?」
ユーリィがそう尋ねると、ピノンが答えた。
「ああ、残りは金にならないし。多分、砂漠アリやハゲワシたちが、きれいにしてくれるんじゃないかな。」
「街のすぐ近くだったら、きちんと燃やして処理するけど。ここは砂海のド真ん中だしね。」
スパイアの言葉にピノンが続ける。
「そうそう。危険がないなら放置でいいんだ。迷宮の中とかね。」
魔獣の死体は他の魔獣を呼ぶので、まともな冒険者たちは死体の処理まできちんと行うのだそうだ。
確かに、彼らは素材の剥ぎ取りが終わったあと、死体をできるだけ小さく切って、砂に埋めていた。
俺は今まで、他の場所でも倒した魔獣たちは勝手に消えると思っていたけど、どうやら違ったみたいだ。
そう言えば、俺の領土以外で倒した魔獣たちは、アリ太郎たちがバリバリ食べていたっけ。
魔獣を吸収できるのは、ナビさんの力が及ぶ俺の領土内に限られる。彼らのお陰でそれがはっきりと分かった。
また1つ、学びを得られたぞ。
ちなみに、彼らが大蛇の死体を埋めた場所は俺の領土内。
だからすでに、俺のmpに変換済みだ。ごちそうさまでした。
シャーレに戻った頃には、すでに夕方近くになっていた。
カムさんから報告を受けたレオニスさんは、ひどく驚いた顔で、魔石を彼から受け取った。
「こんなに見事な魔石を・・。しかも、まだ半日も経っていません。」
「俺たちの力だけじゃない。御使い様の助けがあって、成し遂げられたことだ。」
カムさんの言葉に、レオニスさんは手の中の魔石をじっと見つめた。
「・・自分の力を誇らないのですね。」
「なぜ、そんな必要がある? 俺は事実を言っただけだ。」
カムさんは訥々とそう答えた。
「私はあなたがたを過小評価していました・・いえ、それは公正な表現ではありませんね。」
レオニスさんはカムさんを真っ直ぐに見上げた。
「私は、あなたがたを偏った目で評価していました。それについては謝罪します。申し訳ありません。」
「頭を上げてくれ。俺たちは頼まれた仕事をこなしただけ。あんたに誤ってほしかったわけじゃない。」
「もちろん、それは分かっています。しかし、これは私自身のためのけじめです。」
レオニスさんはカムさんに右手を差し出した。
「改めて、依頼の継続をお願いします。今後は公正な目で、より厳しく判断させていただきます。」
真面目な顔でそう言ったレオニスさんに、カムさんはニヤリと笑った。
「どうぞ、お手柔らかにお願いする。」
2人は互いの手を取り合った。カムさんは自らの鋭い爪でレオニスさんの手を傷つけないよう、細心の注意を払っていた。
翌日、俺たちは朝から再び、獣人パーティと共にミニピラミッドへ向かった。
その途中で赤い狼の群れと遭遇し、これを討伐することで、無事依頼は達成となった。
実はこれ、俺の仕込みだ。
昨日の討伐で、だいたいの要領が掴めたから、みんなが寝ている間に、俺の魔獣たちに赤い狼以外の魔獣を狩らせておいたんだよね。
あの蛇は完全に想定外だったけど、赤い狼は今までに何度も見てるし数も多いから、誘導しやすかった。
もちろん、これは皆にはナイショだけど。
ちなみに、赤い狼から取れた赤い魔石は、小指の先くらいの大きさで、あんまり透き通っていなかった。
魔獣の強さによって、魔石の品質も異なってくるらしい。これもまた、新たな学びだな。
こうして俺は無事、薬の材料と、頼りになる新たな仲間を手に入れることができたのだった。
種族:迷宮核
名前:澤部十四郎
迷宮レベル:12
総DP:24890
獲得DP/日:39550
消費DP/日:38000
【双頭の毒蛇】
種族:魔獣族
属性:土属性
召喚コスト:1400DP
保有スキル:〈魔力衝撃波〉〈締め付け〉〈麻痺毒〉
〈麻痺無効〉
身体の両端に頭を持つ毒蛇。体長は20〜30m。乾燥地帯や荒地、沼地などに生息する、なお、沼地に生息する個体は夜行性である。牙に強力な麻痺毒があり、これで獲物を捕らえ丸呑みにしてしまう。また、身体を地面に叩きつけることで、同心円状の魔力衝撃波を発生させ、周囲の敵にダメージを与えることが出来る。この衝撃波は、高い魔力を持っている者ほど強い影響を受けやすく、まともに食らうと体内の魔素の動きが乱され、一時的に魔法を使えなくなるなどの障害を引き起こすことがある。
お読みいただき、ありがとうございました。




