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111 冒険者たち

 今日は残業で、書き始める時間が遅くなってしまいました。今、時計を見て驚いています。読み返す時間がなかったので、あとで少し手直しするかもしれません。すみません。

【大陸歴1415年11月2日 昼前】


〈十四郎視点〉


 俺は、レオニスさん、ユミナさん、ユーリィ、パトラ、フーリアちゃんとともに、シャーレの北側の外壁付近へ向かった。


 この辺りは、まだ手つかずの廃墟や畑跡がそのまま残っている。


 建物らしいものと言えば、ドルガンたちの工房がぽつんと建っているくらい。完全な未開発区域だ。


 ぬかるんだ道に顔をしかめるレオニスさんを先頭に、俺たちは外壁付近を目指した。


 そびえ立つ外壁の縁に寄り添うように、野営用の天幕が並んでいる。


 天幕の布に濡れた形跡がないので、おそらく雨が上がってからここに移動してきたのだろうと思われた。






「どうしてこんな場所に、天幕を立てたのかな?」


 不思議そうに尋ねるユーリィに、ユミナさんは少し困った顔で答えた。


「冒険者の方たちは・・他の人達に怖がられることが多いからじゃないかしら?」


 なるほど。つまり、人目を避ける必要があるような連中ということだ。


「誰が相手であろうと、主様たちには指1本触れさせません。他の分身体も、付近に集めておきます。」


 俺の思考を読み取ったパトラが、先回りして話しかけてきてくれた。


「ありがとうパトラ。あまり警戒されるのも困る。できるだけ目立たないように待機していてくれ。」


「承知いたしました、主様。」


 ハニワ防衛隊や自動人形たちを使うことも考えたけど、あいつらかなり目立つからな。


 パトラの分身体はこういう時、本当に役に立つ。






 俺たちが近づいていくに連れ、天幕の前で焚き火をしていた男たちがこちらに鋭い視線を投げかける。


 顔色の悪くなったユーリィの手を、ユミナさんは勇気づけるようにぎゅっと握りしめた。


「レオニス様は、冒険者の方との交渉には慣れていらっしゃるんですか?」


 フーリアちゃんが震える声でそう尋ねると、レオニスさんは自嘲するように唇を歪めた。


「冒険者ギルドの役員たちと交渉することは多かったですが、実際の冒険者と対面するのは、実はこれが初めてです。」


 彼はもう一度、冒険者をしっかりと見つめ、そして言った。


「彼らは思ったよりずっと荒んだ感じですね。そう・・まるで獣のようです。」






 冒険者たちまで数mまで接近したところで、レオニスさんは俺たちをその場に残し、1人で前に進んでいった。


 険しい表情で睨みつけてくる男に、レオニスさんは礼儀正しく話しかけた。


「少しよろしいでしょうか?」


「商人風情が、何の用だ?」


 低い声でぶっきらぼうに答える男。最初から喧嘩腰だ。


 この雰囲気、なんか既視感あるぞ。






「私はフラシャール中央商業ギルド取引認証局上級公証官、レオニス・ヴァルトランと申します。」


「中央ギルドの公証官だと!? お、俺たちは何も不正取引はしてねえぞ!」


 一気に浮き足立つ男たち。いや、絶対なんかやらかしてるだろ、こいつら。


 既視感の正体分かった。こいつらあれだ。繁華街に屯してるチンピラそっくりなんだ。


 こんな連中と、果たしてまともに交渉できるのか? 一気に不安になってきた。


 レオニスさんも、同じように感じてるみたいだ。少し冷たくなった目で、静かに切り出した。






「ギルドの任務できたわけではありません。あそこにいる御使い様の代理人として、あなたがたに仕事を依頼しにきたのです。」


「依頼だと?」


 あからさまに怪しむ様子を見せた男たち。でも、任務じゃないと聞いて、少し安心した表情を見せた。


 レオニスさんは彼らに、淡々と事情を説明し始めた。






「・・ということで魔獣を討伐し、魔石を手に入れていただきたいのです。取引に関しては、私が公証人として、あなたがたの不利にならないよう、取り計らいます。いかがですか?」


「・・依頼料は?」


「土の小魔石一つにつき銀貨1枚。中魔石なら5枚。低級魔獣から採れる小魔石なら適正。冒険者ギルドの販売価格とほぼ同額です。手数料なしなので、むしろ、あなたがたにとって損のない取引だと思いますが。」


「・・相談させてくれ。」


 レオニスさんが頷くと、男たちは天幕の中で相談を始めた。


 レオニスさん、事前の打ち合わせでは、相場の2倍までは譲歩すると言っていたけど。


 さて一体どれくらいふっかけてくるんだろう?






「全然足りねえな。銀貨10枚だ。」


 何と相場の10倍以上の値をつけてきた。でもまあ、これは想定の範囲内。


 レオニスさんが交渉しようと口を開きかけたその時、それを遮るように男たちが声を上げた。


「あとは女だ。あの女を一晩、いや、二晩貸してくれ。それなら受けてやってもいい。」


 は?


 なんとこのクズども、ユミナさんを要求してきやがった。マジで、話にならねえぞ。






「主様、この者たちを排除してよろしいですね?」


 俺の怒りを感じ取り、すぐにパトラが前に進み出てきた。


 いや、もうちょっと待てパトラ。まだレオニスさんが交渉しようとしている。


 完全に表情が消えた顔で、レオニスさんは彼らに切り出した。






「法外すぎますね。交渉になりません。もう少し、真面目に受け答えしていただけませんか?」


「俺たちは大真面目さ。こっちは命張ってるんだ。お前らこそ、真面目に考えな。」


 男たちは嘲るような表情で言葉を続けた。


「俺たちが受けなきゃ、他にやる奴なんかいないぜ。困るのはお前らのほうだ。」


「今後、このシャーレには、各種ギルドが進出してきます。今、そんな無理を通せば、ギルド内でのあなたがたの立場が悪くなる。そうは思いませんか?」


 レオニスさんの言葉を、男たちは嘲笑った。






「立場が何だ? 俺たちは冒険者だ。明日のことなんざ考えねえんだよ。」


「今日稼いで、飲んで、女抱いて寝る。それだけだ。」


「分かったら、さっさと金と女を差し出せ。」


 口々に好き勝手なことを叫ぶクズども。うん、ダメだこいつら。


「そんな条件は呑めません。交渉は決裂ですね。」


「じゃあとっとと帰りな。だが、次来る時は倍額払うつもりで来いよ。」


 背中を向けたレオニスさんに、奴らは嘲笑混じりの言葉を投げる。


 俺たちはパトラに後ろを守られながら、その場を離れた。






「すみません。交渉の仕方を間違えました。これでは到底、手数料をいただくわけには参りませんね。」


 廃墟の陰に入るとすぐ、レオニスさんはそう言って深く頭を下げた。


「いえ、レオニス様のせいじゃありません。あれじゃ砂賊と大差ないじゃないですか!」


 フーリアちゃんは目を怒らせながらそう言った。


 確かにひどい連中だったからな。ユーリィたちに被害が及ばなかっただけでも、御の字ってとこだ。


 俺がそう言うと、レオニスさんは小さく息を吐いた。


「冒険者に対する評判が悪いのは知っていましたが、あの様子なら頷けます。文字通りけだもの・・いえ、下劣な分、それよりもはるかに質が悪いですね。」


 レオニスさんは肩書から考えても、かなり上流の人のようだ。普段、あんな連中と絡むことはないんだろうな。


 でも、俺はあいつらの気持ちが少しは分かるのだ。






 何の保証もなく、毎日食べるために命懸けの生活をしていたら、きっと誰だってああなってしまうだろう。


 俺は現実リアルでは真面目にサラリーマンしてるけど、生活にゆとりがある方ではなかった。


 仕事がきつくて自暴自棄になりかけたこともある。正直、家族がいなきゃ、どうなってたか分からない。


 だからあいつらは、環境の被害者とも言える。だからといって、認めるつもりは1ミリだってないけどな。


 俺がそう伝えると、レオニスさんは俺の方をまじまじと見た。






「あなたは本当に神の使いなのですか? いや、その深い度量こそが、神の心というものなのでしょうか?」


 おかしなことで悩ませてしまった。


 そもそも俺、神の使いじゃないからね。ユーリィたちに誤解されてるだけだから。


 それはともかく。これからどうしたらいいんだろう?






「可能性は薄いですが、他の冒険者や傭兵がやって来るのを待つしかなさそうです。」


 確かにそれしか方法はなさそうだ。こうなると、マールを行かせてしまったのが本当に悔やまれる。


 でも、レオニスさんの手紙も急いで届けなきゃいけなかったし、マール自身もフラシャールに用事があるようだった。


 何のようなのかは、教えてくれなかったけど。あいつはあいつで、なんか企んでそうなんだよなー。






「行きましょうか。」


 ユミナさんに促され、俺たちはレオニスさんの事務所に戻るため歩き始めた。


 口では「仕方ない」と言いつつも、みんな明らかにがっかりしている。


 すると、廃墟の間を通り抜けようとしたとき、急にパトラが俺たちの前に立ち塞がった。


「主様、その物陰に何者かが潜んでいます。」


 パトラの念話を聞いたユーリィがさっと短剣を構えた。






「みんな、あたしとパトラさんの後ろに!」


 緊迫した雰囲気。俺たちはひとかたまりになり、周囲を警戒した。


 もしかして、さっきの奴らが待ち伏せしていたのか?


「そこにいる人! 姿を見せなさい!」


 そう叫んだユーリィが、短剣を握る手に力を込める。


 すると、物陰から小さな影が飛び出してきた。






「ま、まって! おいらは敵じゃないよ!」


 両手を上げて姿を見せたのは、ユーリィと同じくらいの背丈をした男の子だった。


「子ども?」


「いえ、違います。彼は草原小人グラスフットです。」


 レオニスさんの言葉に、少年(?)はニンマリと笑った。


「おいらたちのこと知ってるんだね。」


 少年が人懐こそうな笑顔でそう言ったが、レオニスさんは眉を顰めたままだった。






「(気をつけてください。盗人として有名な亜人種です。)」


 レオニスさんは俺たちにしか聞こえないくらいの声でそう囁いた。


 しかし、少年はすぐに両手を広げていった。


「ひどいなあ。確かにおいらたち、黙って他人ひとから借りることはあるけどさ。あんたたちには、まだ何にもしてないのに。」


「私たちに何の用です?」


 少年の声を無視して、レオニスさんが問いかける。すると少年は、両手を大きく広げて言った。






「そうそう! 忘れるところだった! 実はさっきの話が耳に入っちゃってさ。あんたたちに話があるのだ。おいらと一緒に来てくれないか?」


 彼は広げた両手を、手の平ほどもある大きな耳に当てた。


「どうします?」


 レオニスさんが俺に尋ねる。


「パトラ、他に仲間は?」


「この先の建物の中に複数。排除しますか?」


 明らかに罠だな。でも、もしかしたら解決の糸口になるかも知れない。


 ユーリィが俺の言葉を伝えると、レオニスさんは大きく頷いた。


「話は聞きましょう。ただし、私の事務所で、です。」


 その言葉に、少年は少し戸惑ったような表情を見せた。


「話を聞いてくれるのはうれしいけど・・。おいらたちの姿を見ても、嫌がらないでくれよ?」


 彼は「仲間を呼んでくる」と言って、その場から姿を消した。


 俺たちは先を急いでレオニスさんの事務所に行き、少年と仲間たちを待つことにした。






 座卓に座って待つことしばし。


 程なく姿を見せた少年の仲間たちを見て、レオニスさんはあからさまに顔を顰めた。


「獣人か・・!」


 現れたのは少年を含め4人。いや、1人と三体というべきだろうか。


 真ん中にいるのは、全身に短い毛が生えた小山のように大きな男。牙がむき出しになったその顔は、明らかに灰色熊グリズリーだ。


 その隣りにいるのは、緑色の爬虫類の肌を持つ痩せ型の男。色が青なら、有名なSF映画の主人公そっくりの見た目だ。


 少年をはさんで一番端にいるのは、美しい女性。ただし彼女の下半身は巨大蜘蛛のそれだった。黒と赤の縞模様がある。


 いろんな船が一気に来たとはいえ、こんな人間離れした連中がやってきていたとは、今の今までまったく気がついていなかったよ。


 驚く俺たちに向かって、巨大グマがゆっくりと頭を下げた。






「話を聞いてもらって感謝する。俺はカム。このパーティのリーダーをしている。」


 クマがしゃべった! しかも、めちゃめちゃ腰が低いぞ!


「面倒をかけてすまなかった。だが、俺たちの話をまともに聞いてくれる人間は少ないのでな。」


 俺の驚きをよそに、レオニスさんが彼に応えた。


「先程、そちらの草原小人から聞きました。私たちの話を聞いていたそうですね。それで、ご用件は?」


 なんか、冷たいと言うか、ぶっきらぼうな物言い。


 もしかしてレオニスさん、クマが嫌いなのだろうか?






「あんたたちの依頼、俺たちが引き受けよう。依頼料はそちらの提示した額でいい。ただし、条件がある。」


「条件ですか?」


「ああ、その前に一つ確認したい。ここには、いずれ冒険者ギルドができるそうだな。」


「ええ、おそらくは。それが何か?」


「ならば、条件は一つだ。あんたの力で、その冒険者ギルドに決まりを作ってもらいたい。」


 クマの声に熱が籠ったのが、俺にもはっきりと分かった。


「亜人や獣人を、人間と同じように扱って欲しい。」


 んん? 話が見えないぞ。


 同じ冒険者なんだから、そんなの当たり前じゃないのか?


 しかし、レオニスさんの返答は、俺の予想を大きく裏切るものだった。






「そんなことですか。出来るはずがありません。」


 え、なんで?


 俺がそう尋ねると、レオニスさんは眉を顰めて俺に説明を始めた。


「彼らは人ではありません。人語を話していますが、本質的には獣です。毎年、少なくない数の人間が彼らの手にかかっているのです。」


 彼は冷たい目でクマ男を見つめ、付け加えた。


「亜人は多少マシ、ですが。」


 彼の言葉を聞いて、クマたちは気まずそうに目線を下げた。


 差別意識丸出し。でも、彼の言葉通りなら、理由のない差別というわけでもなさそうだ。


 すると、クマが顔をあげ、両手を握りしめて語り始めた。






「確かに、追い詰められ犯罪に走る者もいる。しかし、それは人間とて同じではないか?」


「あたしたちは、普通に暮らしたいだけなんだ。通りを歩くだけで石を投げられたり、仕事の報酬を無かったことにされたりしないで、安心して暮らしたい。」


 蜘蛛女が震える声でそう言うと、その場に重い沈黙がおりた。


 俺はこの世界のことは何にも分からない。


 でも、少なくとも、さっきのクズどもと比べたら、クマたちの方が遥かにまともに思える。






「御使い様は、さっきの男たちのほうが、ずっと獣みたいだとおっしゃっています。」


 ユーリィから伝えられた俺の言葉に、フーリアちゃんとユミナさんは深く頷いた。


 でも、レオニスさんは、じっと黙り込み、身じろぎ一つしない。


 ただその視線は、わずかに揺らいでいるように見えた。


「レオニス様?」


「少し・・考えさせてください。」


 レオニスさんはそう言って、彼らに座卓に座るようすすめた。


 そう言えば、彼らはここに入ってからずっと、立ちっぱなしで話をしていた。






 席をすすめられたクマたちは、驚きを隠せない様子で席についた。


 蜘蛛女は長い脚を器用に折りたたんで、座っている。


 蜘蛛なのに妙に色っぽいのがちょっと不思議な感じだ。


 彼は小さく頭を下げた。


「ありがたい。一つだけ言わせて欲しい。もし、条件をのんでもらえるなら、俺たちはどんな事をしてでも、必ず依頼をやり遂げる。」


 クマの仲間たちは、リーダーの言葉に強く頷いた。クマは俺の方を真っ直ぐに見つめた。


「必ずだ。たとえ、命を落とすことになっても、な。」

お読みいただき、ありがとうございました。

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