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107 夏の終わり 中編その1

 長くなってしまったので、2つに分けました。

【大陸歴1415年10月23日 昼】


〈十四郎視点〉


 砂嵐は今朝さらに勢いを増し、拠点は白い闇に閉ざされていた。


 光を奪われた砂海は凍りつくように冷え、風がその寒さを容赦なく叩きつけてくる。


 実際、女神の泉の周辺には、薄く白い霜が降りていた。


 桟橋に係留してる小さい船は、吹き寄せてきた砂で半分ほど埋まってしまっている。


 ただ、埋まっているおかげで、吹き飛ばされたり、互いにぶつかったりすることはないようだ。


 掘り出すのはかなり大変そうだけどな。


 外壁では、ハニワ防衛隊が警戒を続けてくれている。


 半ば砂に埋もれながらも、彼らは忠実に任務を果たしている。けれど、周辺に動くものなどまったくいない。


 吹きすさぶ風に閉ざされた、冷たい死の世界。


 しかし、建物の中では、それとはまったく正反対の光景が繰り広げられていた。






「さあみんな、揚げたてよ。熱いから気をつけてね。」


 ユミナさんが座卓に置いた皿から、我先にお菓子を取り始める子どもたち。


 ハフハフ言いながら頬張っているのは、発酵させたヤギの乳とタカキビの粉で作った揚げ菓子だ。


 チュロスみたいな棒状のドーナツで、表面にはナツメヤシの樹液で作ったシロップがたっぷりとかかっている。


 この菓子の他にも、座卓の上には大皿に盛られた料理が所狭しと並べられていた。


 これらはすべて、ユミナさんとサラさんを中心に、年長の女の子たちが協力して作ったもの。


 どれも、砂嵐のときに食べる特別な料理なのだそうだ。






 昨日、俺とユーリィたちが桟橋での作業にかかりきりだった間、ユミナさんたちもずっと大忙しだったらしい。


 年長の女の子たちは大急ぎで畑にあった野菜類をすべて収穫し、それを保存するための調理していたそうだ。


 一方、小さい子たちは、ヤギと羊を家畜小屋に詰め込み、飼料を運び込む作業に追われていたという。


 そしてユミナさんとサラさんは、この日のために屠殺したヤギの処理にかかりきりだった。


 それがようやく一段落し、今日は皆でゆっくりと過ごす時間というわけだ。


 普段とは違う豪華な料理が並ぶ食卓を囲み、皆とてもうれしそうだ。






「今日は特別なんです。夏の終わりの砂嵐の間は、少しだけ贅沢してもいいって決まってるんですよ。」


 ユーリィが俺にそう教えてくれた。


 毎年、この砂嵐のあとには、すごい大雨が降るらしい。そうなると、これまで以上に農作業が忙しくなるそうだ。


 だからこれは、その前のお楽しみということらしい。


 お菓子や料理をつまみながら、女性たちはのんびりとおしゃべりに興じている。


 最近、部屋にこもりきりで、あまり姿を見せなかったフーリアちゃんも、今日ばかりは皆と一緒だ。






「フーリアおねえちゃん、薬作り、うまく行ってないの?」


 リナの無邪気な問いかけに、フーリアちゃんは少し困ったような笑みを見せた。


「調合の準備自体はほぼできてるんだけど、最終工程に必要な素材が足りないの。」


 素材って、パトラのキノコだけじゃなかったのか。一体何が足りないんだ?


「魔力中和剤です。属性の違う素材同士の調合には欠かせないんですけど、作るには魔石が必要なんです。」


「魔石って、魔獣の身体の中にあるきれいな石のことでしょう?」


 ユーリィの言葉にフーリアちゃんは、小さく頷いた。


「やってきた船乗りさんたちに聞いてみたんだけど、魔石を扱っている人はいなかったの。それに魔石は、冒険者ギルドを通さないと販売できないんですって。」


 俺の知らない単語がでてきたので、ユーリィに解説してもらった。


 その『冒険者』っていうのは、この拠点に来てないのかな?






「それらしい人たちを見かけたんですけど、1人で話しかけるのは、その、ちょっと怖くて・・。」


 フーリアちゃんの言葉に、ナズちゃんがうんうんと頷く。


「わかる! あの人達、ゴツい武器とか持ってて、ちょっと近寄りづらいよね。」


「そうそう。服装もなんか変わっててちょっと怖いし。」


 ナズちゃんとパリンちゃんは、フーリアちゃんを挟むようにしておしゃべりしている。


 この3人はとても仲が良い。やはり、年齢が近いからなのかも知れない。


 それにしても服装なら、マールが一番変わってると思うんだけど。


 まあ、それはともかく、冒険者というのはあまり一般受けが良くない職業のようだ。


 警察でも軍隊でもない連中が、これみよがしに武器を携帯してたら、そりゃ怖いよな。


 現代日本の感覚で言えば、拳銃やら機関銃やらを持ち歩いているようなもんだ。


 俺だって、そんな連中には近寄りたくない。






「嵐が過ぎたら、マール様に相談してみるつもりなの。だから、この嵐の間はちょっと休憩しようと思って。」


「それがいいよ、フーリアおねえちゃん! せっかくのお休みなんだもん。」


 ユーリィの言葉に皆も笑顔で頷いた。


「じゃあ、みんなであそぼう! あたし、おままごとしたい!」


「あら、いいわねニナ。ハナお姉ちゃんと一緒に遊びましょう。」


「僕は石並べがしたいな。リナ一緒にやらない?」


「ふふん! あたしに勝てると思ってるの? こてんぱんにしてあげるわ!」


 満腹になった子どもたちは、部屋の隅でそれぞれ遊び始めた。


 ちなみに、石並べというのは、いわゆる五目並べのような遊びだった。






「なんだかこうしてると、村のことを思い出しちゃうね。」


 ナズちゃんの言葉に、パリンちゃんは少し寂しそうに俯いた。


 でも両手でパチンと自分の頬を軽く叩くと、すぐに明るい調子でこう言った。


「ああ、湿っぽいのはなし。もう一生分泣いちゃったんだから。これ以上メソメソしてたら、ナマイに笑われちゃうわ。」


 ナマイさんというのは、パリンちゃんの許婚だ。幼馴染だった2人は、結婚する直前らしい。


 でも、ナマイさんはバグラの襲撃に遭って命を落とし、彼女は奴隷として村から攫われた。


「そうよね。せっかくのお休みだもの。楽しまなくっちゃ。ねえ、サラねえさん。歌ってくれない? あたし、ねえさんの歌、すごく好きだったの。」


 ナズちゃんの言葉に、パリンちゃんも頷く。


「そう言えば、収穫祭でよく歌ってたよね。ねえ、サラねえさん、いいでしょ? リュートがあれば、あたしも一緒に弾くんだけど。」


 声をかけられたサラさんは、少し困った顔をしている。


 ユーリィから今の話を聞かせてもらった俺は、ナビさんに尋ねてみた。






「ナビさん、アイテム創造アイコンで、楽器って作れるかな?」


『木材と魔獣の皮革、腱を使って創造できます。複数の素材と3000DPを消費します。よろしいですか?』


 おお、なんか出来るっぽい。けど、消費mpはかなり痛いな。


 それでも皆を楽しませるためだ。ここは大盤振る舞いしてしまおう。


 ナビさんに「YES」と伝えると、床の上に複数の魔法陣が現れ、そこから弦楽器と小さな太鼓、そして横笛が湧き上がるように出現した。


「御使い様が、皆に使ってほしいって。」


 ユーリィの言葉を聞いたナズちゃんたちは、すごく喜んでくれた。早速楽器を手にとって、音を確かめ始める。






「このリュート、すごく音がきれいね。」


「笛はあたしが吹く。フーリア、太鼓できるでしょ?」


「ええ、祭祀のときにお祖母様から教わったわ。」


「じゃあ、軽く合わせてみましょう。曲はやっぱり『祈りの歌』よね?」


 フーリアちゃんの太鼓のリズムに合わせて、パリンちゃんがリュートを、ナズちゃんが横笛をそれぞれ演奏し始めた。


 砂漠に吹く風を思わせるゆったりとしたメロディは、次第に速度を増していく。初めて聞くのに、なぜか懐かしい感じのする不思議な曲だった。


 部屋の中にいた皆は、それぞれの手を止め、太鼓に合わせて手拍子を始めた。


 やがて、ユミナさんが肩に手を置くと、サラさんがそっと歌い始めた。






 ああ偉大なる 大地の女神は

 地上に芽吹く すべてのものを

 我らに等しく 与えてくださる

 我らもまた  女神の愛し子

 その恵みは  風に満ち

 その愛は   水に宿り

 その思いは  大地を肥やす

 大地に感謝を 女神に祈りを

 女神が作りし すべてのものを

 我らが守り  愛せますように






 サラさんの歌と演奏が終わると、皆は一斉に拍手をした。


 何だが俺までジンと来ちまった。


 現実リアルにいる俺の家族は今頃なにをしているんだろう。ふと、そんな事を考えてしまう。


 ユミナさんは隣りにいたユーリィをそっと自分の方に引き寄せ、目の端に浮かんだ涙を拭き取っている。


「ああ、やっぱりサラねえさんの歌は素敵だわ。じゃあ、今度はもっと楽しいのにしましょう。『ヒジじいさんの山羊』はどう?」


 パリンちゃんの言葉に、みんなは笑顔で頷いた。軽妙で楽しい曲が流れ始めると、子どもたちはその場に立ち上がって、輪になって踊り始めた。






 サラさんとユミナさん、そしてユーリィは笑顔で手拍子をしている。


「なんだか、家に戻ってきたみたいね・・。」


 ユミナさんがポツリと呟く。


「本当にそうだね。ここはもう、あたしたちの家だもの。そうでしょ、お母さん?」


「そうね。そのとおりだわ。」


 2人はそっと肩を寄せ合い、微笑んだ。


 外は今も、冷たい風が石の壁に砂を叩きつけている。


 でも、この家の中には、みんなの温かい笑顔が溢れていた。


 そうだ。ここは今、守るべき俺の家でもあるんだ。寄り添いあう2人を見て、俺は素直にそう思えたのだった。

お読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
作者様 ご返信ありがとうございます。 > 拠点内の地図や周辺の地図は、実は私の手元にあり、見ながら話を考えることが多いです。これって、どうやったら公開できるのでしょうか? 以下に、小説家になろうで…
一週間かけて最新話まで追いつきました。 感想を書かせて頂きます。 ≪良い点≫ 毎日更新を続けられている事は素晴らしいです。 拠点の滞在人数が増えて話に膨らみが出てきました。 今後の展開が楽しみです…
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