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106 夏の終わり 前編

 少し長くなってしまいました。読みにくくてすみません。

【大陸歴1415年10月22日 早朝】


〈十四郎視点〉


「桟橋を作る様子も見ていましたが・・目の前で見せていただけると、改めて凄まじいですね。」


 俺が建てたばかりの公証人役場兼商業ギルド支部(仮)の前で、レオニスさんは呆然と呟いた。


 ここは中央広場の西側。ユーリィたちの共同住宅にほど近い場所だ。


 扉を開けて、皆で中を確かめる。






「うわー、かなり広いですね!」


 扉を入ってすぐ、ギルドの受付を見てユーリィが声を上げる。


 そりゃそうだ。まだ家具がなんもないからな。


 この一階には、入ってすぐあるギルドの受付と、その奥の幾つかの小部屋で構成されている。


 受付の近くには事務室と談話室。


 さらにその奥、裏口側にあるのは男女別のトイレと、自動コンロと水盤のある簡易炊事場だ。


「細かいところまで、私がお願いした通りに出来ていますね。いえ、これは想定以上の出来栄えです。」


 大まかな間取りは、レオニスさんが書いてくれた簡単な見取り図通りだが、俺なりに少しアレンジも加えてある。


 主に水回りの動線を意識して、ちょっと手を加えただけだけどね。






「こりゃ、2階も楽しみだ。早速見に行こう!」


 そう言うと、マールはさっさと受付の右手にある階段を昇っていってしまった。


 やれやれあいつ、家主のレオニスさん以上にはしゃいでやがる。あいつの家も作ってやったほうがいいんだろうか?


「おー、こっちもいいなあ! でも、1人で住むにはちょっと広すぎるんじゃないか?」


 マールの言葉にレオニスさんは、苦笑しながら頷いた。






 この建物は1階が事務所、2階がレオニスさんの住居になっている。


 ちなみに、住居部分は完全に俺のオリジナルである。


 話を聞いたら、レオニスさんは奥さんと娘さんがいるということだったので、家族でも広々住めるくらいの間取りにしておいたのだ。


「確かにこれは私には広すぎますね。住み込みの下働きか、間借り人でも捜すとしましょう。」


「レオニスさんは、ご家族と一緒にここに住まわれないんですか?」


「今のところ、そのつもりはありませんね。内砂海への旅は危険も多いですし、この拠点への航路もまだしっかり確立していません。いずれそうなる日がきたらよいなと思いますが・・。」


 レオニスさんはそう言って、意味ありげな視線をマールに投げた。


 でも、マールはそれをあえて無視し、ユーリィの腕を掴んだ。






「ほら見なよ、ユーリィ! この風呂場、デカい浴槽がついてる!」


 あいつ、嘘つくの下手くそだな。レオニスさんの視線を誤魔化したの、バレバレなんだが。


 でも、今の会話、なんかマズイことがあったんだろうか? 俺には、ごく普通の話に思えたんだけど。


 その後、一通り見て回ったので、俺たちはレオニスさんに後を任せて、お暇することにした。


「本当にありがとうございました。これなら、すぐにでも仕事を始められそうです。早速、フラシャール本部に報告して、必要な資料や物資を送ってもらうことにします。」


 そう言ってレオニスさんは、皮のカバンから封のされた封書と巻物を取り出してみせた。






「アッシャール提督、この拠点にはまだ、郵便船が通っていません。これをできるだけ早く、フラシャールへ届けていただけませんか?」


「商業ギルドからの正式な依頼なら、いつでもお安い御用って言いたいとこだけどね。残念ながら、しばらくは船を出せない。」


「・・理由を伺っても?」


 マールは南の空を指さした。


「空が濁ってるだろ? 昨日から地平線が消えかけてるのさ。」


「消えるとは?」


「空と砂の境がぼやけてる。ああなると3日以内に来る。もう、夏の終わりだからね。」


「ああ、もうそんな季節でしたか。話には聞いていましたが、実際に体験するのはこれが初めてです。」


「フラシャール暮らしなら、それが普通だろうね。」


 2人は訳知り顔で話しているが、俺には何のことなのかさっぱり分からない。


 俺はユーリィに何が来るのか、尋ねてみた。






「砂海では毎年、夏の終わりにすごい砂嵐が来るんです。そして、それが過ぎると空が割れたみたいに、大雨が降るんですよ。」


 なるほど、日本で言う台風みたいなもんか。


 じゃあ、なんか対策とかしたほうがいいんじゃないのかな?


「実は昨日くらいから、お母さんたちが準備を始めてますよ。あたしも今日の午後から参加する予定です。御使い様も、ご一緒なさいますか?」


 そんなイベントがあるなら、ぜひ体験したいところだ。


 俺たちは、レオニスさんと別れ、ユーリィたちの共同住宅に戻ることにした。






 共同住宅では、ユミナさんとサラさんが、子どもたちに指示を出して、砂嵐の対策をしていた。


 といっても、大したことはしていない。外においてあった道具類を仕舞ったり、収穫の終わったタカキビの粉やナツメヤシの樹液、ヤギの乳などを使って、いろんな料理を作ったりしているくらいだ。


 日本の台風対策のように、窓を補強したりはしていない。


 もともと、この集落の住居には、小さな通気用の窓しかないからだ。強い日差しと砂の侵入を防ぐ、砂漠ならではの工夫だな。


「砂嵐の間は外での仕事がぜんぜんできなくなるので、皆で家の中に入ってのんびり過ごすんですよ。」


 ユーリィは俺にそう教えてくれた。普段、忙しく農作業に打ち込んでいる彼女たちにとって、この砂嵐は数少ない休暇ということらしい。


 だから皆、すごくニコニコして、楽しそうに作業しているのか。災害対策と言うより、お祭りの準備をしているような雰囲気だ。


 家の外では次第に空気がざらつき、視界が白く曇り始めている。


 でも、和やかな皆の様子を見ているうちに、不安な気持ちはすっかりなくなってしまった。






 昼近くになると、少しずつ風が強くなり始めた。


 巻き上がる砂によって太陽の光も遮られ、徐々に気温も下がっているようだ。


 拠点の外に出現していた敵の魔獣たちも、ほとんど姿を見せなくなっている。


 俺のアリ太郎軍団も、何の指示もしていないのに、砂の中に潜ってしまった。


 もともと砂漠の魔獣たちだけに、砂嵐への備えは本能の中にちゃんと組み込まれているようだ。


 呑気にそんな事を考えていたら、不意にパトラに話しかけられた。


「主様、たくさんの人間たちの船が、こちらに集まってきています。」


 見張り塔にいるパトラの分身体からの報告。俺はユーリィと共に、すぐに桟橋へと向かった。






「おう、御使い殿、ユーリィ。ほら見ろ、船が続々と集まってきてるぞ。」


 俺たちの姿を見つけて、マールがすぐに声をかけてくれた。


 彼女が言う通り、桟橋はすでに多くの船でいっぱいになっている。そのほとんどは10m以下の小型船だ。


「避難してきたのでしょうね。サリハーネ村でも、砂嵐の前にはたくさんの船がやってきていました。」


 ユーリィが言う通り、やってきた船の乗組員たちは、懸命に船から荷を運び出し、強風に煽られながら帆をたたんでいる。


「御使い殿の桟橋のおかげで、作業がスムーズに進んでいるな。これなら相当に被害を抑えられそうだ。」


「でも、マールさん。あの人達、どこに避難するんでしょうか?」


「普通は、外壁の内側に寄り添うように天幕を張って、そこで嵐が過ぎるのを待つんだよ。どこの村でも、この時期には、宿なんかとれやしないからね。」


 てことは、外で過ごすってことか?


 それって、危なくないのかな。






「そりゃもちろん、命懸けさ。でも、砂海の船乗りなら、皆それくらい覚悟の上。気にすることないよ。」


 見れば、船乗りたちは運び出した荷を台車に積み込んで、西の外壁から中に運び込んでいる。


 ただ、一度に人が押し寄せているせいで、入口付近はかなり大渋滞していた。


 ていうか、わざわざ、あんな遠くまで運ばなくても、桟橋の中にある地下空間を使ってくれて構わないんだがな。


 俺がそう言うと、ユーリィからそれを聞いたマールは、途端に呆れた声を上げた。






「いや、勝手にそんな事するわけないだろ。それでもし、大事な荷を没収されたりしたら敵わないからね。そもそも、倉庫の使用料は取ってるのかい?」


 使用料? そう言えば、そんなこと考えたこともなかったな。


 ユーリィが俺の言葉を伝えると、マールは頭を抱えてしまった。


「御使い殿は、本当に人間の仕組みのことをなんにも知らないんだな。じゃあ、こうしよう。砂嵐の間は、荷の保証はしない代わりに、1隻あたり一律銅貨5枚で地下空間と倉庫を解放する。それで構わないかい?」


 銅貨5枚ってのが高いのか、安いのかも分かんないけど、俺としては異存はない。むしろタダで使ってくれていいんだけど。


 俺がそう伝えると、マールはすぐに首を横に振った。






「タダじゃだめだ。それじゃ却って、船員たちを不安にさせちまう。銅貨5枚なら、1人分の宿代にもならない額だし、タダ同然だ。けど、格安でも代価を取る方がいい。第一、そんなことしたら、またレオニスに叱られるぜ?」


 それは困る。この件についても、後からレオニスさんに相談しなきゃな。


 でも今回は、緊急避難のための特別解放ってことで、大目に見てもらうことにする。


 俺がそう伝えると、マールはすぐに自分の配下の船員たちを呼び集め、避難してきた船員たちに、特別解放のことを知らせて回ってくれた。






「マジで!? すげえ太っ腹だな! さすがは噂通りの『奇跡の村』だ!」


「ありがてえ。ペルアネゲラまで行くつもりだったけど、ついでにここで荷も捌かせてもらおうかな?」


「お、いいね! 俺は北砂海道までいくつもりだったんだ。よかったら交渉させてもらえねえか?」


 ユーリィとパトラ、マールを連れて通路の様子を見に行ったら、なんかすごい盛り上がってる。


 ざっと見ただけでも、300人くらいはいそうだ。






 小桟橋の中は、ちょうど縦横4m四方の長い廊下になっている。上から荷物搬入用のスロープを使って中に入れる構造になっているのだ。


 照明は特につけてないけど、壁自体がうっすら発光している。だから、完全な暗闇にはなっていない。


 文字を読むのは難しいかもだけど、人の顔を見分けるのは十分に出来るくらいの明るさだ。


 これが中央の大桟橋内の中央通路に繋がる構造。中央通路は高さ4m幅12m。


 こっちは小桟橋と違って、台車がゆとりを持ってすれ違えるくらいの広さがある。


 船乗りたちは、自分たちの荷を壁際に積み上げ、船ごとにグループを作って野営の準備を始めている。


 そこでハッと気がついた。


 ここただの通路だと思ってたから、給水とトイレのこと何にも考えてなかった!






「それは別にいいんじゃないか? あの連中だって、自分たちの飲水くらいは自前で準備してるし。便所は・・まあ、そこら辺で適当に済ませるさ。」


 マールはそう言ったけど、そういうことじゃないんだ。


 そりゃ確かに、彼らが出したものは、ナビさんが全部吸収してくれるから問題ないんだけどさ。


 でも、やっぱり気分的にちょっと嫌じゃん? 飲み食いしてるすぐ横で、色々出しちゃってる奴がいるのは。


 俺はすぐに建築アイコンを起動し、通路の壁の一部に水場とトイレを一定間隔ごとに作っていった。


 船乗りたちは、目を真ん丸にして驚いていたけど、注目が集まった分、説明の手間が省けてよかったかも知れない。


 もちろん、疫病対策のため、水場とトイレの場所はちゃんと離しておくことも忘れずに。


 ふう、これで一安心かな?


 そう思ったものの、船乗りたちはせっかくの水場にも、トイレにも近づこうとしなかった。






「あの、御使い様。多分、船乗りさんたちは、このトイレの使い方がわからないと思います・・。」


 ユーリィが気まずそうに言う。


 そう言えば、ユーリィたちも、洋式便器に慣れるまでかなり時間が掛かったっけ。


「水場にしても、使っていいもんか迷ってるんだろう。うちの船員たちに説明させるよ。それで、水代はいくらにするんだ?」


 水代なんて別にいらないんだが、そんなこと言ったら、またレオニスさん激怒案件だろうな。


 そう思っていたら、そのレオニスさんが息を切らしてこっちに走ってくるのが見えた。






「はあ、はあ。御使い様、アッシャール提督、これは一体何の騒ぎですか?」


 息も絶え絶えの彼の後ろには、苦笑いしているザッパさんの姿も見える。


 どうやらマールが気を利かせて、副長である彼をレオニスさんのところに行かせてくれていたらしい。


 俺は今までの事を、マールに説明してもらった。


「なるほど、事情は分かりました。今回は緊急措置ということですね。本来なら荷量や人数で細かく施設使用料を設定すべきでしょうが、一律で構わないでしょう。それで、集金業務はどうするおつもりですか?」


 そうか。それは全然考えてなかった。拠点運営って、思ったよりかなり大変だ。


 そう思っていたら、マールの方から積極的に申し出てくれた。






「集金業務も、今回はあたしの船員たちに担当させるよ。どうせ船出せずに、みんな暇してるしね。」


「ああ、それなら安心です。『紅玉女帝』の名前が使えるなら、治安対策にもなりますね。」


 レオニスさんがそう言うと、マールは少しバツが悪そうに、顔を背けた。


 なんだろう? やっぱ、こいつなんか隠してるのか?


 それとも、単純に厨二っぽい二つ名が恥ずかしいだけなんだろうか?


 それはともかく、船乗りたちの間で、マールは相当なカリスマらしい。


 さっきも、結構な荒くれっぽい連中がいる場所で作業したけど、絡まれるようなことは全然なかったもんな。






「あとは、交易税をどうするかですが、まだ正式に商業ギルドが存在していませんので、私の方で暫定的に関わらせていただいてよろしいですか?」


 もちろんです。よろしくお願いします。


 俺の言葉をユーリィから聞いたレオニスさんは、にっこり笑って頷いた。


「税を徴収するということは、彼らに対する責任を負うということ。それをお忘れなきように。もちろん、私もしっかり手数料をいただきますので。」






 その日の午後、俺たちはすっかり避難してきた船乗りたちの対応に忙殺されてしまった。


 野営の場所を巡るトラブルや、交易税に関する激しい交渉なども、多少はあったものの、マールとレオニスさん、それにパトラの無言の圧力で、無事に解決することができた。


 俺はその間、ナビさんにお願いして、通路内の換気をしたり、水場の設計を見直したりと、ユーリィと一緒に駆け回った。


 日が落ちて暗くなる頃には、次第に喧騒が静まり、あちこちで明かりを囲んで、談笑する声が聞こえるようになった。


 外はかなり強い風が吹き荒れている。細かい砂が激しく石壁を削り取り、視界が失われるほどだ。






 しかし、厚い壁の内側にはその音もほとんど響いてこない。


「本当にみんなありがとう。みんなのおかげで、なんとか落ち着かせることができたよ。」


 ユーリィが俺の言葉を伝えると、皆は満足そうに頷いてくれた。


「こんなに安心して、砂嵐の季節を乗り越えられるなんて、あたしもうれしいよ。こっちこそ、ありがとうな御使い殿。」


「私も、初めての砂嵐を心配していましたが・・この静けさはなかなか得難い体験ですね。」


 そのレオニスさんの言葉が、すとんと胸に落ちた。


 たしかにこの静けさ、悪くない。


 こうして長い砂嵐の1日目は、無事に終わりを迎えることができたのだった。



種族:迷宮核ダンジョンコア

名前:澤部十四郎

迷宮レベル:12

総DP:3540

獲得DP/日:39550

消費DP/日:33000

お読みいただき、ありがとうございました。

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