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びっくり屋本舗  作者: 百済 夜斗
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第二話   マグロ定食 おかわり

 その日隆志はお腹を減らし、びっくり屋ののれんを潜る。足を一歩踏み入れた瞬間、目の前に熊が・・・さすがびっくり屋である。でも、まさか熊がいるわけないよなぁ 隆志は目を擦った。ゆっくり目を開けると、人間であることに気づく。入り口近くにドーンと席を陣取って大男が座っていた。隆志は少し恐怖を感じたが熊男の斜め向かいのテーブルへ座る。

 隆志はその熊男が気になり、そっと視線を注ぐと、熊男はマグロの刺身をがっついていた。マグロの切り身を3つ挟むと、一口で食べてしまった。なんとも北海道から出てきたヒグマのようである。

 隆志がその熊男に見入っていると、横から「はぁ~、何にしまっかぁ?」と、はぁ~爺が聞いてきた。隆志は、びっくりした。なんともはぁ~爺は気配を消して近づいて来て、すぐ隣にいたのである。で、「ヒィヒィヒィ」と笑っている。隆志は慌てて、壁に貼られたメニューへ目をやり、「えーと、マグロ定食」と伝えた。特に、何を食べるかを決めていた訳ではなかったので、熊男のマグロの刺身を見て思わず発してしまったのである。

 すると「はぁ~~~?」と横から声がした。この前と同じリアクションである。客に対して「はぁ~~~?」とはいい度胸してやがる。まあ爺さんだし、しゃーないなぁと思い、もう一度隆志は言った。「マグロ定食」

 その瞬間、熊男の鋭い視線が隆志を射るように降り注ぐ。その視線は野生の動物が餌を取られまいと威嚇するような眼差しであった。隆志は、その殺気を感じ取り、「やっぱし、焼肉定食」と慌てて言い直した。「はぁ~~~?」と、またとぼけた口調のはぁ~爺のリアクション。

 隆志は「焼肉定食」と少し声を荒げて言った。

「はぁ~、焼肉定食ね」、はぁ~爺に通じたようである。その声を聞いて安心したのか、熊男は視線を自分のマグロの刺身へ戻し、また一掴みして口へほおばる。その食いっぷりはまさにヒグマだ。


 厨房からジューーという、肉を焼く音が聞こえてきた。そして、肉の焼ける美味しい匂いもしてきた。熊男は鼻をクンクンし、その匂いに引かれるかのように厨房へ目を向ける。と、その瞬間に立ち上がり、口をモグモグしながら厨房へと足を運ぶ。立ち上がった姿はまさにヒグマである。背丈は2mを越えているのではないだろうか。その熊男はカウンター越しに厨房を覗き込み言った。「マグロ定食 おかわり」

「あいよ」厨房で肉を焼いていたおばさんが答える。

その後、「大盛りで」と熊男が一言添えた。

「あいよ」とおばさんが答える。

隆志は思った、この熊男は魚が好きなんだなぁ・・・北海道のシャケがさぞかし懐かしいのだろう。


 しばらくして、隆志のテーブルに焼き肉定食が届く。いい匂いが食欲をそそる。隆志が箸を手に取り、食べ始めると、隣の熊男のテーブルにも「マグロ定食」が届く。そのご飯の盛りは、てんこ盛りなんてものじゃない、ちょっと突けば倒れてしまいそうなくらい高く盛ってある。それを見て熊男は、さぞ満足そうに微笑んでいる。すぐさま、マグロの刺身をつかむと口へ運び、飯をかっ込んでいる。真にいい食いっぷりである。こんなに食欲旺盛な男はめったに見られるものじゃない。てか、三日間、なにも食べてなかったの? という感じである。隆志は、いろいろ想像しながら、北海道の大地を頭に描きながら、焼肉定食を食べた。


 隆志が皿の焼肉を半分程たいらげた時、「おかわりー」と店内に声が響きわたった。これにはさすがのはぁ~爺も驚いたらしく、慌てて熊男のところへやってきて「はぁ~~~?」と言った。

「おかわりー」と熊男が言う。

目を真ん丸く見開いて「はぁ~~~?」と聞き返す。

「だから、おかわりだよ。マグロ定食」

「はっ、はっ~、マグロ定食 追加一丁」とかしこまって注文を受ける。厨房の奥から、おばさんが「あっ、あいよ」と驚きながら言った。その直後、「大盛りでね」と熊男が告げる。


 隆志が焼き肉定食を食べ終わる頃、熊男も三杯目の「マグロ定食 大盛り」を食べ終わり、満足げな顔をしている。それを見たはぁ~爺が熊男のところへやってきて「おかわりかな?」と聞く。さすがの熊男もお腹が一杯になったらしく、「もう食べられないよ~」とうめき声を発した。残念そうなはぁ~爺の顔、これをチャンスに儲けようと考えていたのであった。

 またしばらくして、「おかわり~」の声が店内に響いた。周りにいたお客が皆一斉に熊男へ視線を注ぐ。顔をほころばせながらはぁ~爺が飛んできて言った。「はぁ~~~?」 はぁ~爺が熊男の横でニタニタしていると、「お茶ね」と熊男が告げる。はぁ~爺は「はぁ~~~?」「はぁ~~~?」「はぁ~~~?」と気が狂ったように繰り返しながら、厨房へ戻って行ってしまった。それと入れ替わるように、厨房にいたおばさんが土瓶を持って出てきて、熊男の湯飲みへお茶を注ぐ。

 お茶を一気に飲みあげて、熊男は立ち上がり言った。「ごっつぉーさん」

厨房からはぁ~爺が出てきて「お勘定は300万円なり~」と言う。熊男は一瞬顔色を変え、獣のような顔になったが、はぁ~爺の「訂正~、300円です」って言い直しを聞き笑顔に戻った。隆志は思った、あんなに食べて300円かぁ~ さすがびっくり屋だ。熊男は100円玉を3つ渡し、ノッタノッタした足取りで店を出て行った。


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