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びっくり屋本舗  作者: 百済 夜斗
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第一話   はぁ~爺 登場

 「心機一転頑張りますので、よろしくお願いします」周りから拍手が響き、新しいスタートが始まった。隆志は、宮崎の事業所から東京の本社へ転勤になり、まさに今日がその初出勤なのであった。

 新しい職場であること、事業所時代にはほとんど着ることのなかったスーツのせいで、居心地の悪い一日を過ごしていた。初日ということもあり、5時の定時を知らせるメロディーと共にそそくさと帰路についた。乗り慣れない通勤電車に乗り、約1時間、やっと最寄り駅へ着く。これから、こんな毎日を送るのかと思うと、ちょっと気が重くなるのであった。


 職場での緊張をほぐしながら、引っ越したばかりのアパートへ向かう。その途中、ふと横の方からまばゆい光が目に入ってきた。

なんだこの店は・・・『びっくり屋』?

 それは、商店街から一歩入ったところにポツリと建つ薄汚い定食屋である。でも、なんだかとっても輝いているようにも見える。なんとも不思議な香りのする店である。

 びっくり屋かぁ~ ちょっと食べていってみるかぁ~

きっと、びっくりするほど綺麗な姉ちゃんがいるのかなぁ・・・そんなわきゃーないかぁ・・・と思いながら、店の扉を開け一歩入った。


 なっ、なんと そこにはこなき爺が居るではないかぁ~

これだな びっくりとは・・・

「はぁ~、らっしゃい」

初めてみる兄ちゃんやなぁ

わしのことを見て、びっくりしているな

ヒィヒィヒィ、そりゃびっくりするやろ~

 隆志は、おもわずのけぞってしまったが、冷静を装い、店の奥までゆっくり歩き、二人用のテーブル席へ腰を降ろす。

 メニューはどこだろう テーブルの上にはメニューは無い。やはり定食屋だ、壁にいっぱいメニューが貼ってある。

 えっと、え 隆志は、また目を疑ってしまった。


・カレライス 20円

・空揚げ定食 30円

・肉野菜定食 50円


 ひゃー 安過ぎるーと思ったのも束の間、そのまま、隣へ目を移すと


・トンカツ定食 23万円

・スペシャル麺 17万円


 ガーン、今度は高過ぎる。この店は、びっくりする程安い店なのか?はたまたびっくりする程高い店なのか? でも、高い料理は高級食材を使って美味しいんだろうなぁと隆志はいろいろ考えている。でも、今日は初めてだし、無難なのを頼もうと思い、「すみませーん、唐揚げ定食下さい」

「はぁ~~~」と奇妙な声を発しながらこなき爺が向かってきた。

「唐揚げ定食」隆志がもう一度言う。

「はぁ~ トンカツ定食ね」

「唐揚げ定食だよ」隆志は、声を強めて言った。「はぁ~ 空揚げ定食だね」

やっと通じたようだ。これを聞いていた厨房のおばさんが、「はいよ」と返事をした。

 このおばさんは、こなき爺の奥さんかなぁ、それにしては妙に若い。まぁなんでもいいやと隆志はテーブルの上に置いてあったスポーツ新聞を手に取る。


 しばらくすると、「はぁ~、おまち」という声がし、テーブルに定食の盆が載る。まぁ30円としてはまともだなと隆志は思い、割り箸を割り唐揚げを掴む。おっ何か妙に軽い感触だなぁと思い、箸に力を込める。するとパリッという音と共に、唐揚げに穴が開いた。中を覗いてみると空っぽである。

「おーい、これなんじゃい?」とこなき爺へ文句を言った。

「はぁ~、なんじゃい?」

隆志はとぼけた反応に怒りを込めて、「空っぽじゃないか」と怒鳴る。

「はぁ~、それがなにか?」なんとも流暢なこなき爺である。

「だ・か・ら・空っぽだって」

「はい、空じゃよ。メニューにも書いてあるじゃろ、『空揚げ』って」

 隆志は壁のメニューを見て、目を疑った。確かにそこには、『空揚げ定食』と書いてある。隆志が『唐揚げ定食』と思い込んでいたのだった。まぁ30円だし、しゃーないか。隆志は憤りを感じたものの、空揚げを口に放り込み、ご飯を詰め込んだ。一応、味噌汁と漬物も付いているので、晩飯として腹越しらいはできた。


 空揚げ定食を食べ終え「ご馳走様」と言うと、こなき爺が近づいてきて、「30万なり~」と言う。

「冗談だろ」と隆志が返すと、「は~、冗談です」と照れ笑いを浮かべながらこなき爺が答えた。そして10円玉を三つ渡し、隆志は店を出た。

 

 これが、はぁ~爺(こなき爺)と隆志の出会いであった。



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