序
※以前投稿した5話完結の作品「ブラック企業の社長、送られた異世界で死霊魔術『士』となる。」を少しだけ長めにしました。
と言ってもエピソード数は元の2倍ぐらいになった程度ですが、ところどころ変更点もありますし前回が物足りなかった方はぜひ。
何か言葉が聞こえます。
自然と体が起き上がって・・・目も開きます。
死霊魔術をかけられるとこのような感覚になるのですね。この時間はこんなにも心地が良いとは知らなかった。確かにとても穏やかな気持ちになれます。
魔術をかけくれたのは、目の前にいるのは私の一番弟子です。上手になりましたね。そのすぐそばには家族もいます。子供や孫は私に似ないで優しい子に育ってくれて本当に良かった。
皆、どうしてそんなに泣きそうにしているんでしょうか。『最期の言葉』を聞けるということは悲しいことではありませんよ。
・・・それでは。きちんと皆にメッセージを残さないと。
愛する妻よ。
愛しい息子よ。
愛くるしい孫よ。
技術を叩き込んだ弟子よ。
共に研鑽し合った仕事仲間達よ。
・・・。
言いたいことはあらかた言えたかな。もう後悔は無いですね。
自分で分かります。もうじき今かけられている死霊魔術は解除され、二度と私は目を覚ますことはありません。これが正真正銘のお別れでしょう。
・・・。
なるほど。
人生の最期というのはこんな気持ちになるのですね。私は恵まれています。晴れやかな気持ちで後悔など無い。もうじき天にいる両親や師に会えるのですから。むしろ嬉しいことですよ。
そうですね。それでは、皆に向かって本当にお別れの一言を。
「ここにいる皆よ。本当にありがとう。神よ。本当にありがとう」
私はもう老人になった。もう死んでしまった。だけど世界はとても広かった。
沢山の幸せな死を見ることができた。しかすそれ以上に、数え切れないほどの幸せではない死を見ることもできた。
神よ。私は間違っていました。この世界に送っていただいて本当に感謝しています。
人の死というのは。嗚呼、人の生涯というのは。
これほどまでに尊くかけがえのないものだっただなんて。
私は・・・知らなかった・・・。