闇祓い、黎明を迎える③
……若いけど、私が知ってるお父さんより若いけど!あれは絶対に私のお父さんだよね!?
「いやいや……でもお父さんがイロアスなわけないよね!?」
でもこめかみにやっぱり鍵があるし、ほかの人達もそうだ。何よりイロアスの隊服だし……。
私のお父さん……初瀬川 樹だと思われる人はイロアスの隊員と何やら会議をしているようだ。
お父さんがイロアスなんてそんな話聞いたことないし、それにお父さんは営業の仕事をしてるってお母さんからは聞いてたし……
「どうする?話しかけるべき?」
いやいや、でもいきなりあなたの娘です!とか言っても誰ですかって感じだし、ここが本当に現実世界なのかも定かじゃないし……
「また過去に来ちゃったとか?だとしたらこれで何回目なの?」
仮にそうだとしても過去なんてそんなにホイホイと行けるものかな?もしそんな道具とか力があるならやり直したいことなんてたっくさんあるんだけど!
「いやでもこのままここにいても何も解決しないし、ここから出ないと」
朝火とリンクルの事が心配だし、街のことも……
稀梨華は意を決して1歩を踏み出し、隊長と呼ばれる人に近づいた。
「あ、あの〜 …… すいません、イロアスの方達ですよ?迷子なんですけど助けて貰えたりしますか?」
恐る恐る声を掛けると隊長は稀梨華を見た。
すると隊長は瞬きを忘れ、乾いた瞳がその一点……稀梨華に吸い寄せられたまま動かなくなる。
しばらくしてハッとしたような素振りを見せたあと何かを振り払うかのように頭を左右に降り人当たりの良い稀梨華のよく知る笑顔を見せた。
「おう、そうだ。俺はイロアスの初瀬川樹」
「お嬢ちゃん、名前は?」
「私の名前は初……!」
稀梨華は安堵し名前を言おうと思った。
しかしそこで稀梨華の脳内にストップがかかり、口元を手で覆った。
危ない危ない、初瀬川稀梨華って名前を言ったらお父さんの娘だってバレるんじゃ?……そもそもこの時代のお父さんが既に結婚してるのかも不明だし、結婚してて既に私が生まれてる場合だとまずい。
とりあえずこのお父さんが何歳か分からないから偽名を使うほうがいいよね?
チラッとお父さんを見ると不思議そうに首を傾げている。周りの隊員たちも同じだ。
やばいさっき初って言っちゃったから初がつく名前……
「えっと……初見凛奈です」
咄嗟に稀梨奈の奈と凛音の凛をとって組み合わせた名前だけど意外としっくりくるよね?誤魔化せるよね?
「凛奈か、いい名前だな」
「ありがとうございます、お父さんとお母さんが一生懸命考えてくれたんです!」
稀梨華は両手を胸の辺りで組み健気で可哀想な少女を演出させた。
ここにリンクルがいたら、「よくそんなに嘘がペラペラ出てきますね 」とか言われそうだなぁ
「それでそんな優しい両親の元に早く帰りたくて……」
そしてここでうるうるした目で見上げれば一気に“迷子になった可哀想な子”感が出るはず!こういうのにお父さんは弱いし優しいから助けて
くれるはず!お願いお父さん私を助けて!
「なるほどな ……よし!任せとけ!」
お父さんもとい初瀬川樹はグッとサインを出して人懐っこい笑顔を見せた。
すると樹のそばに控えていた部下が慌てた様子で声をかけている。
「隊長!目的地まで後少しですよ?5年も探し続けたのに戻るつもりですか?」
「大丈夫だ。作戦開始の日没まで、まだ時間はある」
「そうですけど……」
「それに……」
樹は言葉に詰まる、そして稀梨華の事を見た。
稀梨華は何故自分が見られているのか不思議に思い首を傾げた。
すると樹はふっと笑ったあと言葉を続けた。
「それに……凛奈ちゃんはあの子に似てる」
樹の言葉に部下はハッとしたように稀梨華をまじまじと見た。
「確かに……言われてみればそっくりですね!」
そっくり?だれの事を言ってるんだろうかと稀梨華は疑問に思った。
「あの、あの子って?」
「あぁ、あの子は…… 俺の娘の事だ」
「娘!?」
「お、おう……そんなに驚く程意外だったか?」
危ない危ない、やっぱりもう結婚してるんだ。ん?でも待てよ、もしかして……
「もしかして目的地ってあの大きな施設の事ですか!?」
「あぁ……そうだがどうしてそんな事を聞くんだ?」
樹が何も言わない稀梨華に声を掛けるが稀梨華には聞こえていない。なぜなら頭をフル回転させているからだ。
娘、娘って私の事だよね?て事は稀梨奈が言ってたのって今日の事だったの!?
おさらいすると私は実験施設で生まれた誰かのクローンで、私はそのクローンの100番目だって事。稀梨奈はその87番で私の事を気にかけていてくれたってこと。
そして犯罪組織にその実験施設が攻撃されて、稀梨奈はその隙に私を安全な所に逃がしてくれて、私は誰かに助けられて今こうして生きてるって感じだけど……その誰かがお父さんなんだ!
きっと今日がその日であの大きな施設が私の生まれた場所なんだ……。でも稀梨奈曰く、私はエルピーダの力を使った時の姿?だったみたいだったから金髪のはずだけど、どうして私を連れて帰ったんだろう?
私はエルピーダの力を使うまで髪の毛を染めたことないから地毛は絶対黒髪のはずだし、だとしたらなんで金髪だったんだろ?
「もー何が何だか分かんない!!」
「おーい、凛奈ちゃん?」
「えっ」
「大丈夫か?」
お父さんは心配そうに私を見てる、そっか今は私は凛奈だもんね。
「大丈夫です、ちょっと気が動転しちゃって」
「そうか?それだけならいいが。じゃ、そろそろ行こうか」
「はい……」
お父さんは私のよく知る笑顔で私に手を差し伸べる。私はその手を取って頷いた。そこから2人は手を繋いで歩き、2人の後ろと前に隊員達が歩いている。
「凛奈ちゃんはどうしてここに来たんだ?」
「えっ、えーっと……散歩ですかね?」
何気ない解答だったと思った。でもその瞬間お父さんや他の隊員が驚いた顔で一斉にこっちを見た。
え?なんでみんなそんな顔するの、お父さんまで。
なんか変なこと言ったっけ?私ってそんなに散歩しに行くような人に見えないとか?それともめっちゃインドア派に見られてたとか?
「へぇ〜。自殺の名所に散歩だなんて中々肝が据わってるな凛奈ちゃん」
日が沈んでくると幽霊が出そうだからと樹は再び歩き始めた。それに他の隊員も続く、もちろん樹と手を繋いでいる稀梨華も。
……いや、自殺の名所なら先に言ってよ。というか自殺の名所って知ってるなら何か辛いことでもあったのか?くらい聞いてよ!
「はぁ……」
絶対変な子だと思われた。でも自殺の名所に実験施設を立てるのは頭いいのかも。誰も近づいてこないだろうし、自殺しに来た人を攫ってそのまま実験台に……とか。
するとその時後方で大きな爆発音が響いた。
「うわぁっ何!?」
「みんな動くな!」
稀梨華と慌てる隊員を樹が落ち着かせる。
「あっ……煙が出てるよ!あの実験施設から!」
稀梨華が指を差す方向にはあの大きな実験施設がある。そこからは煙が上がり施設は激しく燃えている。時折爆発もしていて花火のようだった
確か稀梨奈は犯罪組織の日月星辰があの実験施設を攻撃したおかげで稀梨奈は自由になって私を安全な所に逃がしてくれたんだ。やっぱり今日がこの日なんだ!
「オリバー、凛奈ちゃんを頼む」
樹は稀梨華と繋いでいた手をそっと離し、近くにいた、オリバーというハーフのような顔立ちをしたおそらく樹が信頼を置く部下に稀梨華を任せた。
「え、ちょっと隊長!?お一人で行くつもりですか!?」
部下が問いかける間も樹は自分の武器を取り出していた。
「あぁ。お前らはここで待機だ、俺達が来る前に派遣された部隊が全滅……そして大佐クラスの部隊も全滅したのは知ってるだろう」
「じゃあ中佐の貴方が行くのは無茶ですよ!」
「あぁ、確かに死ぬかもな。でもな……あの施設には俺の娘がいるんだ」
その声は重みのある声だった。今までこんな声聞いたこと無かった。
それだけ言うと樹は地面を蹴り跳躍し風のように森の間を切り抜けて行った。
「嘘だろ隊長……ん?君、体が……」
オリバーが驚いて稀梨華を見た。
「体?」
見てみるとなんと体が透けていた。
「ええぇ!?」
「まさか君って幽霊だったのか!?」
周りの隊員たちがありえない事態にざわつき始める。
「違うわ!」
なんでなんで!?なんで幽霊みたいに体が透けちゃうの!?
幽霊……幽霊……存在しない……存在しない?
「あっ……」
そうか、分かったかも。
「あの、オリバーさん!あの施設に私を連れてってください!」
「え、君を!?それに体は大丈夫なのかい!?」
「大丈夫です!あそこに行けば解決するはずなんです!」
「でも隊長の命令が……それに君が行ったところで何にもならない!あんな危険な場所に何しに行くんだ!?」
オリバーは必死に稀梨華を説得する。あんな場所にこんな子供を連れていくなんて無茶な話だ。
「危険なの分かってます、でも足引っ張らないように頑張ります」
稀梨華はポケットに手を入れペンダントの感触を確認した。
「私はあそこに行って運命を変えるんです!」




