闇祓い、黎明を迎える②
瓦礫の崩れる音が、濁った空に響く。
さっきまで人が住んでいたはずの街は、いまや形を失いかけていた。
オルドデール伯爵が叫んだ瞬間、機械兵たちは一斉に暴走をはじめ、制御不能となったから
だ。
リンクルは煙にまみれながら、稀梨華と朝火の前に立つ。
「恐らく機械兵を止めるには伯爵本人を倒すしかありません」
「伯爵に近づくには機会兵達をどうにかしねぇと……」
「でも伯爵の様子もちょっとおかしいよね、叫んでからずっと何かを呟いてるような……」
稀梨華の言う通り伯爵の両手が小刻みに震え、何かをぶつぶつと呟いている
しかし彼の声だけはゆっくりで、やけに落ち着いていた。
「……人間は……愚かだ……繰り返し……壊し……嘆き……また壊す……
ならば……滅ぼさねば、ならぬ……」
「人間は……人間は……!」
「愚かだ!!」
伯爵の叫び声とともに機械兵のコアがこれまでに無いほど光り、一斉に動き出した。
機械兵のエルピーダによる砲弾が稀梨華達を襲う。
「2人とも避けて下さい!」
リンクルの指示に稀梨華と朝火は従いすんでのところで砲弾を避けた。
「やばいぞ……完全に暴走状態だ」
「リンクルどうする?」
前方には機械兵達と伯爵、伯爵の後ろにはMs.ハルニアが控えている。
「僕が先陣を切ります」
「朝火は僕のサポートをお願い出来ますか?」
「おう!任せとけ!」
「じゃあ、私は?私は何をしたらいい?」
「稀梨華ちゃんには後方支援をお願いしたいです。」
「できるなら雷門隊長とやり合った時に使っていたあの技が使えるなら使って欲しいです」
「わかった、やってみるね!」
あの時の技……きっと"フォティアストロンティア"のことだよね。正直また使えるかは分からないけどやってみるしかない。
「じゃあ2人とも行きますよ!」
リンクルが先陣を切り、それに朝火と稀梨華が続く。
「朝火、右です!」
「任せろ!劫火鉄拳!」
リンクルの指示の元、3人は次々と機械兵を倒していく。機械兵は再生するがその再生する隙を与えないように攻撃を繰り返す。
伯爵は相変わらずぶつぶつと何かを繰り返している、その様子をMs.ハルニアはつまらなそうに見ていた。
「このままじゃ面白くないわね」
Ms.ハルニアが前に手を出すと、指先に糸の様なものを垂らしていた。
「もっと面白くしてあげる♪」
すると先程までぶつぶつと呟いていた伯爵の肩に糸のような物がぶら下がった。
「まずはあの指揮官を何とかしましょうか」
Ms.ハルニアが指先を動かすと、それに連動して伯爵の体も動くが中々歩きだそうとしない。その様子を見てMs.ハルニアは考えた。
そういえばこの伯爵って人間を襲うには襲うけど殺すことはないってあのお方が言ってたかしら。
面白いわね、伯爵の過去は私も覗かせてもらったけど人間時代のくだらない少しの良心が残っているせいで。
でもその感情は邪魔だわ
「ほら、ぜーんぶ壊してきて!……なんてね
♪」
その言葉を合図に伯爵の体はぎこちないながらにも動き始めた
「ねぇ、なんか伯爵が動き始めたよ!」
稀梨華の声に機械兵を倒すのを一時中断し、伯爵の様子を伺う。
「でも … なんだか様子がおかしくないか?」
「そうですね。動きが変です、まるで操られているような……」
すると伯爵の歩みが止まり、右手を振り下ろすと、次元が裂けたかのように、伯爵が右手を振り下ろしたところが裂け、そこから腕が4本の大きな機械兵が出てきた。しかし伯爵の様子がおかしいせいか機械兵の動きもどこかおかしい。
そしてその機械兵が大きな手を稀梨華達に振り下ろそうとしている。
「えっ!?」
「うおっ…まじか!」
「2人とも避けて!」
2人はギリギリ避けたが、機械兵がさっきまで稀梨華達がいた地面に手を振り下ろすと、地面に亀裂が入り、土煙がたつ
しかしその後すぐに左手で稀梨華達の立っている地面を薙ぎ払うように素早く横に動かした。
その衝撃で稀梨華と朝火は遠くに飛ばされ地面に打ち付けられた。
「稀梨華ちゃん!朝火!」
「っ……大丈夫!私たちの事はいいから」
「リンクル前!」
その時機械兵がリンクルに襲いかかった。
だがリンクルは既に防御の姿勢をとっており、氷の盾を作ろうとしているところだった。
しかしそこで時間が止まった。
この空間にあるものの時間が止まった。
そして今動けているのは糸を手繰り寄せて操るMs.ハルニアだけ。
「はぁ……期待はずれだわ」
「早く終わらせちゃいましょ」
Ms.ハルニアの瞳に冷酷な色が写った。
「奏でよ、死者の沈黙」
「第零楽章・終焉のフェルマータ」
Ms.ハルニアはヴァイオリンを構え演奏を始めた。静止した世界にヴァイオリンの音だけが不気味に響いている。
そして音が響く度に禍々しい色をした花が辺り一面に咲いている。大きさはそれぞれだが一際大きな花が1つ咲いている。それらは5本の線に繋がれている。
「ふふっ……これで十分ね」
Ms.ハルニアは演奏を辞めると指を鳴らした。
そして命あるものは再び動き出した。
稀梨華達の時間も再び動き出し、それぞれが状況を確認しようとした時、花が次々と5本の線がまるで導火線のように爆ぜた。
それは辺り一面を炎に変えていく。その様子をMs.ハルニアは満足そうに見ていたが、少しずつその表情は消えていった。
「…… 殺したと思ったのに、どうして貴女生きているのかしら、稀梨華ちゃん? 」
本来即死の攻撃だったがリンクルも朝火も重症だが命が危ないほどの重症ではない。そして2人の近くにいる稀梨華は、怪我もしているが意識を保てていてほかの2人と比べて軽傷だった。
稀梨華の指につけている指輪が即死を防いでくれたのだ。
「はぁっ……はぁ……」
何が起きたんだろう、急に体が動かなくなったと思ったら目の前が火の海になって絶対死んだと思ってたのに……
「リンクル、朝火……」
良かった、怪我は酷いけど脈はある。
「気を失ってるだけか ……」
でも早く何とかしないと……
「Ms.ハルニア!こんな事はもうやめ……」
稀梨華が振り返ると残酷に笑うMs.ハルニアの笑顔と目の前に迫るあの花があった。明らかに稀梨華だけを狙った攻撃だった。
「嘘……」
そしてそれは先程よりも激しく爆ぜて辺り一面に土煙がたった。
ここまでやれば流石に生きてないわよね。
でも……少しおかしい、さっきより花の数は少ないのにあんなに激しく爆発するなんて、別の何かと衝突したみたいだわ。
「あっ、そうだわ」
Ms.ハルニアは糸で動かなくなったリンクルと朝火を手繰り寄せ目の前に持ってきた。
「念の為指揮役とお友達は閉じ込めておかないとね」
あの子は特別だからもしかしたら生きてるかもしれない。念には念を、あの子も相棒とお友達が居なくなったら心を砕かれるだろうしね。
「まぁ……少しは楽しめたわね。ありがとう稀梨華ちゃん♪」
Ms.ハルニアは興味を失ったように操り人形とかしたオルドデール伯爵を糸で操り、リンクルと朝火をエルピーダで作った檻に入れ、その場を離れた。
数分後土煙が収まると、稀梨華は倒れていた。
しかし先程の攻撃による大きな傷はなかった。指に嵌められたブラックダイヤが輝いている。
「……ん、ここは……」
稀梨華は目を開けると見知らぬ場所にいた。鍵は外れ、いつもの制服姿でおそらく獣道だと思われる場所に倒れていた。遠くには大きな施設のようなものがある。
「……あれ?嘘、私死んでないの!?というかここどこ!?」
今度こそ絶対死んだと思ってたのに……あの死を覚悟した時、後ろの方が急に光ったと思ったら後ろから腕を引かれて……そして今に至るって感じだけど……
「誰かが助けてくれた?」
でも誰が?……いや、今はとにかくここが何処なのか把握しないと。
とりあえずあの施設?に行けばいいのかな。
「うーん……しばらく歩いたけどあんまり景色が変わらないな」
施設に行くと決めて結構歩いたけど施設まではまだまだかかりそうだった。
「はぁ……疲れてきた。どこかで休みたいな」
疲れ果てていると何やら美味しそうな香りが漂ってきた。
「あれ?いい匂い……どこかにキャンプ場でもあるのかな?」
人がいるかもしれないし、行ってみよう。
稀梨華は香りがする方へと歩いていくと、たしかにテントや小屋があったが、キャンプのような楽しい感じではなく野営のような感じの雰囲気だった。
「あれ?……あれは剣?」
キャンプに剣はいらないから……もしかして怪しい奴らの野営地だったりする?本当に勘弁して欲しいんだけど
するとテントから人が出てきた。その人達は誰もが1度は目にしてであろう服装をしていた。
「あ!イロアスの制服だ!」
良かった、ちゃんとした正規の組織だった。
ならイロアスに助けてもらえばいいんだ!
稀梨華は1歩を踏み出そうとした瞬間思いとどまった。
でも今東京があんな事になってるのにこんなところで野営なんてする?しかもここが現実かも分からないんだ。
もしかしたら前みたいに現実じゃない世界にいる可能性もある。
しばらく考えていると、テントから出てきたイロアスの隊員が「隊長!」と言ったのが聞こえた。
「隊長?もしかしたら私の知ってる人達かな?」
私が知ってるのはパラティシリィだけど、雷門隊長、皇隊長、白瀬さん。この3人の誰かがいてくれたらものすごく心強いけど、そんな人達が今野営なんてしてるはずないし……
「とりあえず言ってみよう、ここにいても何も変わらないし」
稀梨華は踏み出し、その隊長に会おうと歩き出した。
少し歩いたところで隊長と思われる陽気な声が聞こえてきた。さらに歩くと隊長が見えてきた。しかし稀梨華はその声も姿も知っていた。
「嘘でしょ……なんでお父さんがここに!?」




