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崩壊のヴァイオリン二スト〜急③〜


闇を裂くように、Ms.ハルニアのヴァイオリンが響く。

音色に呼応してエクロスが群れをなして押し寄せ、小学校を守る道を塞ぐ。



Ms.ハルニアは不気味に笑みを浮かべ、周りには真っ黒な闇が漂っている。黒い弦を奏でるたびに空気が裂けていく。


「まさか甘い過去から抜け出してくるなんて……少し見直したよ稀梨華ちゃん」


何故か安心してしまうような柔らかな少し低い声と、不気味なメロディと共にMs.ハルニアは闇の中からこちらへ歩いて来る。片手に何か大きなものを引きずっているようだ。



「おい、まさかアイツが管理人クラスの奴だったりするか?」


Ms.ハルニアの言葉に朝火が少し怯えたようにで稀梨華に話しかけた。


「うん……そうだよ」


「まじかよ…… しかもあいつ…… 何を引きずっているんだ ?」


稀梨華と朝火は近づいてくるMs.ハルニアから距離をとるように1歩ずつ後ろへ下がり、その2人を守るような姿勢をリンクルがとる。

しかし3人のその視線は引きずっている何かに向けられていた。


視線に気づいたようにMs.ハルニアは引きずっている何かに視線を向けて怪しげに微笑む。


「これが気になるの?じゃあ特別に見せてあげる」


そう言って、Ms.ハルニアは引きずっていた何かを闇の中から体の至る所から出血している一条少佐を取り出し、3人の前に放り投げた。



「なっ ……」


「お前 ……!」


「嘘 ……」


3人は驚愕の表情を浮かべ、一条少佐に駆け寄る。


「おい、しっかりしろ!」


「出血が酷い ……!」


朝火が一条少佐の肩を揺さぶり、稀梨華とリンクルが出血箇所を抑える。


すると呻き声が聞こえ、一条少佐の目が少し開かれる。


「…… なんでや、 君らまだ逃げてへんのか」


「危ないって言うたやろ ……」


一条少佐は肩を抑えて立ち上がり、剣を握り、Ms.ハルニアを睨みつける。



「へぇ…… まだ立てるんだ」


「でも、そのボロボロな体で何ができるのかな」


確かに一条少佐は立っているのがやっとだと言う様子で、肩で息をしている。


「ふふ …… まぁいいや、それじゃあ最後の曲を始めようか♪」


それを聞いた一条少佐は一気に警戒態勢に入る。


Ms.ハルニアが再び黒い弦が音を奏でると、黒色の闇が物凄いスピードでこちらに向かってくる。一条少佐の目の前まで闇が来たかと思うと、一直線に進んできた闇は一気にバラけた。


そしてその闇が狙う先は……


「アカン ……!」


「稀梨華ちゃん!朝火!」


稀梨華達3人を狙っていた。一条少佐が闇を切ろうと剣を振ったが間に合わず、闇は3人を取り囲むと、鳥籠のような物に形を変え、3人を閉じ込めてしまった。


「閉じ込められた!?」



「稀梨華ちゃん、あの時貴女に私の名前を教えるのは勿体ないと言ったけど撤回するよ」


「撤回……? 名前を教えてくれるって事?」



「そう。私はMs.ハルニア」


右手を体に添え、左手でドレスの裾をつまみ上げ、優雅にお辞儀をし、Ms.ハルニアは微笑む。


「私の演奏、その特等席で聴いてね」


闇が震え、鳥籠のような結界が3人を閉じ込めた。

黒い弦が唸るたびに、空気が裂けていく。


「下がれッ!」


朝火を助けたイロアスの隊員が声を張り上げる。


イロアスの紋章が刻まれた軍服。

それが、稀梨華たちが知る唯一の情報だった。


彼が誰なのか、名前も階級も知らない。

けれどその背中は、迷いなく“守る”という意志で立っていた。


「まだ立てるのね……」


Ms.ハルニアの声は、闇の中で柔らかく響く。


「でも、もうその身体じゃ音にも届かないわ」


男は肩から流れる血を無視して、剣を握り直す。


「アンタを、斬ってみせる……!」


剣が唸り、刃先から桜花が舞う


「――鬼桜葬舞(きおうそうぶ)!」


剣閃が残光を描き、桜吹雪と共に連撃を繰り出す。

一瞬、鳥籠の黒が揺らぎ、稀梨華が外の光を見た。


「リ、リンクル……!」


その声に、リンクルが焦りを含みながら応答する。


「……さっきからエルピーダでこの檻を破壊しようとしてますが…… 硬すぎて……!」


「そんな、じゃあ……!」


「大丈夫や!」


イロアスの隊員が叫ぶ。


「まだ、やれる!」


しかしMs.ハルニアはゆっくりと歩み出る。

その足取りは、まるで舞台を踏む演奏者のように美しかった。


「あなたね、イロアスの“夢見草の防人”。……そう、一条少佐」


「っ……」


その名を呼ばれた瞬間、稀梨華の目が大きく見開かれた。


いちじょう……?


一条――。

彼の名前が初めて、夜の闇に響く。


「へぇ……オレのこと、知ってるんか」


「もちろん。殺した貴方と同じ隊服を着た人達が言っていたもの」


ハルニアはヴァイオリンを構える。

弦が光を帯び、空気がざわめいた。


「それじゃあ――第七楽章を始めましょうか」


弓が走る。

黒い音の波が爆発的に拡散し、地面がえぐれた。

空間が歪み、耳を裂くほどの音圧が押し寄せる。


「ぐっ……!」


一条は歯を食いしばり、剣を地に突き立てて踏ん張る。


「これは……音が刃に……!」


リンクルの声が震える。

ハルニアの旋律は、音そのものを実体化させていた。


絶響・殲滅(ゼッキョウ・センメツ)序曲(ジョキョク)


闇が形を成し、刃となって一条を襲う。

剣で斬り返すが、弾かれる。

足が止まり、息が詰まる。


「……まだ、終わってない……!」


一条は再び立ち上がり、剣に桜花を纏わせる



桜花が闇を舞い、夜を華やかに彩る。

一瞬だけ、闇と華が拮抗した――


終桜絶華(しゅうおうぜっか)!」


千の桜が嵐となって舞う。花弁が血を吸収したように赤く染まり、天も地も紅く染まり、無限の斬撃が咲く。


「…… 綺麗ね」


ハルニアが囁く。

弦がひときわ高く鳴り、旋律が弾けた。




「第7楽章 ・ 終焉協奏(エンド・コンチェルト)



漆黒の波動が爆発的に膨れ上がり、花弁を飲み込む。

禁断の譜面に記された第7楽章。弓を引いた瞬間、世界が軋む。


終焉を告げる第7楽章。音の一滴が天地を崩壊させる。


一条の身体が宙に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。



黒い羽根のような光が舞い、ハルニアが一歩前に出る。

花弁は朽ち、剣が地に落ちる音が響く。


「…… 悪くなかったわ。

 あなたの桜…… ほんとうに綺麗だった」


ヴァイオリンの弦を、最後に優しく弾く。

透明な音が夜に溶けていった。


ーーこれにて完奏


そして、静寂が訪れた。

壊れた鳥籠の中で、稀梨華たちはただその音の余韻に凍りついていた。










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