表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/40

崩壊のヴァイオリン二スト〜序②〜

1部内容を変更しました

菖が体を奪われる少し前ー



「どうすっかなぁ……」


カーテンの隙間から陽光が差し込む風俗店の中朝火はスマホを眺めて姉が働く風俗店の休憩スペースのソファ付近をウロウロしていた



「何やってんの?邪魔なんだけど」


そこへ朝火の姉である四十川茜(あいかわあかね)が近寄り、肘鉄をいれる


「おわっ危ねぇな」


「そこに居るのが悪いんですぅ」


茜はソファに座りスマホを弄る


「悪かったよ」


朝火が軽い感じで謝る


「分かればよろしい」


それに茜も軽い感じで答えた


「そういえばさっきから何悩んでんの?」


茜がスマホを弄っていた手を止め、朝火を見る


「あぁ…それは……」


朝火は何かを言おうとしたが、言葉が詰まった様に出て来なかった


もし俺がイロアスに入隊するか悩んでると言ったら、姉貴はどんな反応をするのだろうか


前にイロアスに侵入して怪我した時、姉貴に

凄く心配をかけたし、怒られた。

あの時の姉貴は泣いていて無事でよかったと俺に言ってくれた。

俺にとっても姉貴にとってもお互いがたった一人の家族で、大切な人であると言う事を改めて実感した。



そんな言いずらそうな様子の朝火の事を察したのか、茜が話し始める


「あんたイロアスに入りたいんじゃないの?」


図星を突かれて驚いた


茜は朝火の言葉を待つようにじっと朝火を見つめている


「……そうだけど」


朝火は下を向いていた頭をぎこちなく上げて茜を見つめた


でもその瞳は不安そうに揺れていた


「なんで入りたいの?」


「え?」


「だからなんで入りたいの?」


意外だった

反対されるかと思ってたのに


「……俺はトリビアみたいな被害者をなくしたい

聞いただろう?トリビアがなんで死んだのか」


「だから、俺が原因を突き止めて、俺みたいな思いをする奴を少しでも減らしたいんだ」


稀梨華の両親には伏せられていたが、茜もトリビアの家族であるため、トリビアが死んでしまった事とその経緯を特別に知らされていたのだ


その知らせを聞いた時、茜は泣いていて

“助けてあげられなくてごめんね”

“私達を沢山助けてくれたのに”

と何度も泣いて謝っていた


それにつられて朝火もまた泣いていたのだった


「もちろん危険なのは分かってるし姉貴にまた心配をかけることになるけど……」


「いいんじゃない?」


朝火はまた驚き、茜を見つめる



「えっ」



「やりたいならやればいいじゃん

でもその変わり、やると決めたなら最後まで責任もってやりなよ」


茜は朝火を見つめ、いつもの様に力強い笑みで答えた


その笑みに朝火も緊張の糸が切れたように笑顔になる


「もちろん!必ず原因を突き止めてやるぜ!」


朝火はガッツポーズをして見せた


「はいはい頑張れー

でもさ、アンタそのエルピーダ使えないでしょ?大丈夫なん?」


「あぁその事なら平気だよ

そういう実験を担当する人達のほとんどはエルピーダを使えないらしいし、3等兵とかはエルピーダを使えない人が圧倒的に多いらしい」



「へぇ〜それなら良かったね」


「それじゃあ私小林さんと海の森公園で

ピクニックデートしてくるから」


小林さんと言うのは姉貴をよく指名しているという若い男性の事で、姉貴いわくイケメンで金持ちらしい


「だからそんなに気合い入ってたのか」


「可愛いでしょ」


茜は白のワンピースの裾を少し持ち、くるっと回る

巻いた髪がふわふわと揺れ、フレッシュな香りの香水が優しく香る


「はいはい可愛い可愛い」


「適当に言わないでくれる?」


茜はそう言ってまた朝火に肘鉄をいれる



「痛ってぇ

もう早く行けよ遅れんぞ」


「今行くところだったんです〜

昼ごはんは何か買って食べてよ」


「分かったよ

いってらっしゃい」


「いってきます〜」


静かになった店で朝火はソファに寝転んだ


「ふぁ……寝っむ」


緊張がほぐれたからか眠気に襲われた


そして夢を見た



なんだろう

花のいい香りがする

それに、目を閉じているのに赤色が見える

まるで太陽に照らされているかのようだ


朝火は手を動かす

すると、植物のようなものが朝火の手を掠めた


「何だこれ……?」


朝火は体を起こし目を開けた

そして目の前の光景に驚いた


あたりは草と白色の花が生い茂り、太陽がギラギラと輝いていた



「はぁぁ!?」


どうなってるんだ!?さっきまで風俗にいたはずだろ!?



慌てて当たりを見渡すが何も無い

ただ、草花が生い茂る草原が広がっている


「嘘だろ……」


朝火の顔には絶望が現れていた



「いやいやきっとこれは夢だ!

むしろ夢でこんな綺麗な景色を見れるなんてラッキーじゃねぇか!」


朝火は不安を紛らわせるようにわざとらしく大きな声で言う



そうだ!これが夢なら夢から覚めればいいんだ

きっともう一度寝れば夢から覚めているはずだ!


朝火は草原に寝転がり、目を閉じた






どれくらい時間が経ったんだ?


朝火は手を動かし、辺りを探る

今回は植物の感触はなく、代わりに毛布のようなふわふわとした物に触れた


もしかしたら随分と寝て時間が経って、帰ってきた姉貴が毛布をかけてくれたのかもしれない



朝火は安心したように体を起こし、欠伸をした



「ありがとな姉貴……」


寝ぼけた目で周りを確認する

やはり毛布がかけられていた


だが、周りは変わらず草原のままだった

そして先程より随分と目線が高くなっていることに気づいた


これによって朝火の目は完全に冴えた


「どういう事だ!?」


なんでまだここにいるんだよ俺は!


誰かにかけられた毛布、覚めない夢、謎が深まるばかりだった



いや待て、そもそもこれは夢なのか?まさか誘拐されたんじゃないよな?



朝火は慎重に自分の置かれている状況を整理することにした



まずは突然高くなった目線だけど……


冴えた目で周りを観察すると、どうやら自分は何かの上に乗っているようだ


そして朝火はその何かの背中で寝ていたらしい



「赤い……鱗だ……」


赤い鱗……赤い鱗を持った動物ってなんだ?

トカゲか?でも俺が寝れるくらい大きなトカゲなんているのか?


もう少し詳しく見るとその何かはとても大きな体をしている

そして俺から見て左側に頭があるようだ


「見て確かめるしかないのか……」


正直赤い鱗を持っててこんなに大きな体を持ってる何か……動物が現実にいるとは思えないし

それこそ恐竜とかだったりしたら……


その時、その何かが動いた


「っぶねぇ!」


落ちるかと思ったが何とか持ちこたえた


「というかほんとにこの動物はなんなんだ?」


朝火は不意に後ろを振り返った


すると、そこにあったのはなんとドラゴンの顔だった

首には綺麗な赤い宝石の飾りをつけている


「……は?」


朝火は驚いて固まる


そしてそのドラゴンは顔を朝火に近づけて行き、大きな口を開けた


その大きな口からは大きな牙が見える



「ぎゃぁぁぁぁぁ!夢なら早く覚めてくれぇ!」


朝火は思いっきり叫んだ


すると景色が徐々にぼやけていった

最後に見えたのはドラゴンの……



「はっ!」


朝火は飛び起きた


急いで周りを確認すると見慣れた風俗店だった


「戻ってきたのか……」


はぁ……なんかすごい夢を見たな


それにしてもあのドラゴンみたいなやつ……

なんであんな悲しそうな顔をしたんだ?


夢から覚める直前のことを思い出す

あのドラゴンはゆめからさめる寸前で、揺れる景色に少し頭痛を感じ顔を顰めた俺を見て悲しそうな心配そうな顔をしていた


「まぁちゃんと戻ってこれたしこれで一安心……」


胸を撫で下ろそうと手を胸に当てると何かが手に当たった


「なんだ?」


手に当たったものを確認する


「これは……ネックレス?ペンダント?」


首にアクセサリーが付けられていた

とても綺麗な赤い宝石が付けられていた


「うわぁ……高そうだな」


それは思わず見とれてしまうほど綺麗に輝いている


「はっ!いや待て!俺はこんな綺麗なやつなんて持ってないぞ!?」


もしかして姉貴のか?姉貴がふざけて俺に付けたのか?


スマホを見て時間を確認すると姉貴を見送ってから30分くらいしか経っていなかった


なら姉貴がふざけたと言う説は薄いか……


つけられているアクセサリーを手に取り眺める


この赤い宝石……あのドラゴンも似たようなの付けてたよな?



朝火はまじまじとそのアクセサリーを見つめる



ガタガタ


「ん?」


ソファの横にある棚が揺れている


ガタガタ


「まさか地震か?」


ガッシャン!


グラスが落ちて割れた

次々とグラスやら皿やらが割れ、棚や椅子、テーブルが激しく揺れる


そして棚の上にあった箱などが朝火に向かって落ちてくる


「ヤベッ!」


しかし立っていられない程揺れているため、上手く避けきれずバタン!と音を立てて転倒してしまった


「う゛……痛ってぇ」


ヴーヴーヴー


「スマホ……」


スマホに表示されている文字は震度5強と

大津波警報、そして埋立地にエクロスが現れ人を襲っているという文字だった


「お……大津波……エクロス……」


朝火はその文字を見た瞬間、風俗店から飛び出した




「はぁっ……はぁっ……」


走って走って走る


「おい、そこのお前!そっちは海だぞ!」

「津波に巻き込まれて死ぬぞ!?」

「エクロスもいるのよ!?」


通りすがりの、避難している人々が叫ぶ


「そんなこと知ってんだよ!」


朝火はその声を無視して海がある方向へ走る


落ちた電光掲示板、潰れている家、ブロック塀が壊れている


「はぁっ……はぁっ」


息絶え絶えになりながらも走り続ける


すると地面を揺るがす程の大きな衝撃が走った


「うわっ!」


そして何かが崩れるような音が聞こえた


音のした方向を見るとちょうど埋立地の辺り、海の森公園がある所から砂埃が上がっていた


そして津波が迫っていた


「ぁ……クソッ!」


朝火は止まっていた足を動かし走り出した


沢山走り、やっとの思いで海の森公園の近くまで来ることができた


しかし、そこは既に3センチほど津波が到達しており、エクロスが人々を襲い、捕食していてとても濃い鉄の匂いが充満していた


そして朝火の姉である茜が木の近くで、

体のあちこちから血を流して倒れていた


「姉貴!」


朝火は急いで茜の元へ駆け寄る


「おい!しっかりしろ!」


体を抱え揺するが、反応はない

手には姉貴の血がついている


「ぁ……あぁ……」


嫌だ、嫌だ!頼む死なないでくれ!


「おい!起きてくれよ!」


朝火は必死で茜に呼びかける


しかし、朝火は茜の事で気を取られ迫ってくるエクロスに気づく事が出来なかった



「頼む!目を開けてく……う゛ッ!


朝火はエクロスの攻撃で草むらに体を打ち付けられていた


そして茜はエクロスに捉えられてしまった


「姉貴!」


エクロスが集まり、茜を食おうとする


「やめろぉぉ!」


朝火は茜を助けようとエクロスに突っ込んでいくが当然ただの人間でエルピーダを使えない朝火は簡単にまた草むらに打ち付けられた


しかも今回は当たり所が悪く脳震盪を起こしてしまった


「クソッ……」


視界が揺れてる、体が動かない……


朝火は今にも気絶してしまいそうだ


「あ……あね…き……」


あぁこんな所で倒れてる場合じゃないのに

俺がエルピーダを使えたら……稀梨華やリンクルみたいにエクロスを倒せるかもしれないのに!

姉貴を助けられるのに!


あまりにも自分が無力で涙が零れる


姉貴は俺と違って頭が良くてしっかりしてた

高校だって偏差値の高い公立高校に進学した


でも家計を助けるために大学には行かないで風俗店で働く事を選んだ、俺の為に

姉貴ならきっと頭のいい国公立大学に行けたはずなのに……


それに比べて俺は中学もろくに行かないで、塞ぎ込んで、心配と迷惑ばっかり掛けて、高校にも進学しなかった馬鹿野郎なのに


力を振り絞ってエクロスを見る


茜がエクロスに腕を引っ張られ、今にも腕がちぎれそうだった


「姉貴!」

「やめろ!姉貴を離せ!」


しかし朝火の声などエクロスには届かない


涙がボロボロと零れる


「頼む!神がいるなら助けてくれ!

姉貴を助けられる力を俺にくれ!!」


力の限り思いっきり叫んだ


すると朝火の首にかけられていたペンダントが赤く輝いた





































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ