学園一の高嶺の花は俺の許嫁
「おはようございます。暁人くん」
「んぁ?…ふぁ〜おはよぉ〜」
目を開けると目の前に居たのは学園一の美少女。
彼女は湊紫苑。
スラッと長い黒髪を下ろしており、吸い込まれるように美しい紫色の瞳を持っている。
さらにスタイルも良くて品もある。
これ以上ない完璧美少女だ。
そんな彼女が何で俺の家に居るかって?
それは当然彼女が許嫁だからだよ?
それ以外に理由なんてないでしょ。(そんなことはない)
と、そんな訳で学園一の美少女と1つ屋根の下で住んでいる訳だが、当然誰にも言っていない。
というか、言ったら多分恐らく絶対殺される。
なので完全に秘密で同棲している。
「ほら、早く起きないと遅刻しますよ?」
「え〜学校行きたくない〜」
「そんな事言ってもダメです。めっ!ですよ」
そう言って指で罰を作っている。
可愛いな、君。
そんな顔をされては流石に準備しない訳にはいかないので、とりあえず立って準備を進める。
そして数分間準備した後、紫苑と共に朝食を摂る。
「暁人くん、本日は放課後にご予定は?」
「いや、何も無いけど」
「そうですか。なら、私に付き合ってくれませんか?」
「良いけど、何するんだ?」
「それは放課後のお楽しみです♡」
うーん、何だか嫌な予感がする。
まあ今考えても意味が無いのでとりあえず朝食を食べ進める。
「ご馳走様。美味かったよ」
「お粗末様です。それは良かったです」
朝食が終わり、最後の支度を済ませ、いよいよ学園に向かう。
2人で登校する訳にはいかないので、時間をずらして家を出る。
「じゃ、お先」
「はい行ってらっしゃい。あなた♡」
「…」
扉を締める直前に何か聞こえてきたが、気にせず足を進める。
エレベーターに乗り、1階を選択して扉を締めようとすると、奥から見覚えのある少女が。
「待ってくださ〜い」
「え゛ぇ!?」
慌てて扉を開けて彼女を乗せる。
「ふぅ〜何とか間に合いました」
「いや、間に合いましたじゃなくて。なに一緒に行こうとしてんの?」
「それはまぁ…許嫁だから…でしょうか?」
「いやいやいや、でも一緒に登校はマズイ…」
「いえ!そんなことはありません!私決めたんです!今日からは世界中の人々に私と暁人くんの愛を見せつけようと!」
大声でとんでもない事を言っている。
これがエレベーターの中じゃ無かったら、非常にマズかった。
とりあえずそこに安堵する。
いや、安堵してる場合か。
このままでは学園中の男子生徒の目の敵にされてしまう。
なので何とか紫苑を説得してみよう。
「そんな事しなくていいから。というか、ここままじゃ今までの努力が無駄になるぞ?」
中学3年の時に許嫁になってから2人の平穏を保つ為に外では干渉しないようにしてきた。
その毎日の努力が無駄になってしまう。
だが、紫苑はそんな事はどうでもいい様だ。
「無駄になっても良いのです!それよりも私はあなたへの愛を隠し切れないのです!」
ちょっと何言ってるか分からない。
重すぎるよ、この人の愛。
紫苑はこうなったら止めるのは無理。
幼馴染であり許嫁である暁人が1番よく分かっている。
なので暁人は諦めてしまう。
「ソウダネ…イインジャナイ?」
脳死で答える暁人に感謝の言葉を述べ、紫苑は抱き着く。
「ありがとうございます。あなたと出会えて良かった。あなたと結婚出来て良かった」
「ソダネー」
まだ結婚はしてないよ?
まだ…ね?
そうしてゆっくりしているとエレベーターの扉が開く。
目の前には住人と思わしき人が。
これは完全に誤解されただろう。
紫苑は抱き着くのに夢中だし。
コレは…平穏は無理だな。
暁人は諦めながら足を進めた。
◇
学園に着き、教室の扉を開く。
いつもなら誰にも気付かれることなく席まで辿り着けるのだが、今日は違った。
クラスメートからの視線が暁人と紫苑に集中する。
高嶺の花と呼ばれる学園一の美少女が男と手を繋いで登校してきたのだから、流石に見てしまうだろう。
「あら、皆さんから見られてますね」
「だな。まぁそりゃ見るだろ…」
「やはり私達がお似合いだからでしょうか…」
「ウーン、そうではないかなぁ」
こうして仲良く会話しているうちにもクラス中から噂する声が。
「え⁉︎どういう関係⁉︎」
「湊さんって彼氏いるの⁉︎」
そう言った声が多く聞こえてくる。
まぁ大体みんなが噂している事であってるよ。
だが流石に許婚とまで言う訳にはいかないので何とか誤魔化し方を考える。
既に手を繋いで登校してしまっているので、友達では少し無理がある気がする。
でも彼氏って言うのもなぁ…。
そんな風に思考を巡らせていると、突然紫苑がクラス中に響き渡る程の大声で語りかける。
「皆さん!実は私、こちらにいる暁人くんと付き合っているんです!」
「「「「え???」」」」
「ですのでそのように接していただくようよろしくお願い致します」
この場にいる全員が同じ反応をする。
その中には暁人も含まれている。
まあ急に恋人宣言されると流石に驚くだろう。
しかも相手はパッとしない一般的な男子生徒。
なので当然
「何であいつなの?」
「脅したりとかしてんじゃねぇの?」
という反応をされてしまう。
その声が紫苑に聞こえていたようで、表情がやや怖くなっている。
「私は本当に暁人くんのことが好きでお付き合いさせて頂いています。ですのでよからぬことを噂するのはやめて頂きたいです」
真剣な表情でその場にいる生徒に呼びかける。
その思いが伝わったのか、全員黙り込んでしまう。
そんな中、紫苑は暁人に明るい笑顔を向ける。
「さ、早く席に着きましょう?」
「あ、ああ」
紫苑に促され、席に向かう。
少し離れた席なので、途中で別れを告げてから席に着く。
「なぁなぁ、お前どういうことだよ⁉︎」
前の席の生徒が驚いた表情で暁人に迫る。
彼は一色龍平。
中学からの友達で、いつもアホみたいな会話ばかりしている。
そんな数少ない友達にどういう説明をすればいいのか。
「えーっとまぁなんというかなぁ…」
「どういう繋がりだよ⁉︎」
「んーと、まぁ普通に幼馴染で…」
「で⁉︎で⁉︎」
「そっからは流れで…」
「流れであんな高嶺の花と付き合えるか!!!」
とにかく早く話を終わらせたい暁人に、龍平が全生徒が思っていることを代弁している。
そして同時刻、紫苑の席の周りでは女性陣が10人ほど集まっていた。
「ねぇねぇ湊さんどういうこと⁉︎」
「いつから付き合ってたの⁉︎」
「もうキスしたの⁉︎」
とんでもない勢いで質問をされる。
これには紫苑も苦笑いで反応することしかできない。
「そんなに一気に言われても答えられませんよ。聖徳太子じゃありませんし」
その言葉で周りが一気に静かになる。
そして1人ずつ質問をする。
「2人はいつから付き合ってたの?」
「中学3年生の頃からですね」
「どっちが告白したの?」
「暁人くん…ですかね」
「もうキスしたの⁉︎」
「いえ…そこまでは…」
そうやって質問攻めにあう紫苑。
そんな彼女のことを可哀想だなぁと思いながら暁人はずっと眺めているのだった。
◇
騒がしい1日を何とかやり過ごし、いよいよ放課後となった。
朝紫苑と約束をしていたので2人で家に帰らずショッピングモールに来ていた。
そこで紫苑に連れて行かれた先は…
「指輪?」
指輪などがズラッと並んでいる店だ。
指輪には様々な宝石がはまっていて、どれもとても綺麗に輝いている。
「えーっと、どうしてここに?」
「それは当然、婚約指輪ですけど?」
「さも当然の事のように言われてもなぁ…」
「さぁ、どれが似合うか選んでくれませんか?」
楽しそうにそこら中を見て回っている。
まるで子供のようだ。
(あんまり気が乗らないけど、まあいずれ買うかもしれないし真剣に選ぶか)
そう考え、紫苑のもとに向かう。
「これとかどうでしょうか?」
「ん?」
指さしているのは紅く輝くルビーがついている指輪。
とても美しく、その指輪に引き込まれる。
だが、暁人は隣の指輪に目を惹かれていた。
「アメシスト…ですか」
紫色に輝く宝石に目を奪われてしまう。
その宝石は紫苑の瞳の色によく似ている。
「ああ…綺麗…だな…」
「そうですね。まるで…」
「紫苑の瞳の色、だな…」
無意識に心の声がこぼれ落ちる。
すると隣で紫苑が恥ずかしそうに頬を押さえる。
「暁人くんは…この宝石が良いのですか…?」
「ま…まぁ…」
別に良いからと言って買う訳でもないしプロポーズする訳でもないが、何だか恥ずかしくなってしまった。
だが、綺麗だというのは本当だし、これが良いというのも本当だ。
それはつまり、紫苑の瞳が綺麗でとても良いということでもある。
それを分かって言っているから恥ずかしいのだろうか。
多分、そうなんだろう。
こうして2人でイチャイチャしながら指輪を見ていると、急に店員さんが話しかけてきた。
「お2人とも恋人ですか?こちらの指輪、彼女さんにとてもよく似合うと思いますよ」
「あ、ありがとうございます…」
「こちらの宝石は愛の守護石とも呼ばれていて、これからご結婚されるお2人にはとてもお似合いだと思いますよ?」
「いや、別に結婚は…」
「なるほど…」
スゴいな、この店員さん。
物凄い勢いで紫苑のハートをつかんだ。
こうして2人の婚約指輪は決まった訳だが…
(高ッ⁉︎)
とても学生に手が出せる金額ではなかった。
「えーっと、とりあえず今はいいのでまた来ますねー」
「え゛ぇー」
「はい、お待ちしております」
ガッカリした様子で紫苑がこちらを見てくる。
普通に買えないのに学生がこんな店に居ても迷惑だろう。
暁人は紫苑を引き連れて歩く。
そして歩きながら暁人はあの指輪を思い出す。
(よかったな、あの指輪。美しくて綺麗で何より…紫苑によく似合いそうだ)
そんな事を考えながら店を後にする。
暁人の考えが紫苑に伝わることはないので、紫苑は未だに頭を下げてしまっている。
完全に紫苑の早とちりであるので少し反省して欲しいのだが。
そうして2人のショッピングデートは幕を閉じのだった。
◇
あれから時は流れ、高校を卒業した。
今は大学に通いながら彼女と同棲している。
本日は彼女とのデートがある。
心して準備し、早速出発する。
電車に乗り、少し遠い遊園地に向かう。
そこは前から紫苑が行きたいと行っていた遊園地で、今回あれをする為の良い場所になると思い、今回デートに誘った。
紫苑は家を出る前から機嫌が良く、ずっと暁人にくっついている。
まあ最近はいつもこうなんだが。
とにかく、今はデートを楽しもう。
2人は遊園地で様々なアトラクションを回った。
ジェットコースターにお化け屋敷など、日が暮れそうになるまで回った。
終始紫苑は楽しそうで、暁人はかなりホッとしていた。
「さて、そろそろ最後にしましょうか」
「だな」
もう夕焼けが綺麗に見える時間になっていて、そろそろ帰る客も増えてきている。
そこで暁人は最後にあるアトラクションを指名する。
「なぁ…最後に…観覧車乗らないか?」
「観覧車…良いですね!」
笑顔で承諾してくれ、早速観覧車の入り口へ向かう。
幸い客も少なく、案外すんなり乗ることができ、扉が締まったところで暁人が切り出す。
「紫苑、今日は楽しかったか?」
「はい、とっても楽しかったです」
満面の笑顔で答えてくれた。
暁人はそれがとても嬉しく、少し笑ってしまう。
「ならよかったよ。今日は、特別な日…だから」
「特別?今日って何かの記念日でしたっけ?」
いつも記念日は入念に覚えている紫苑が心底分からない表情でこちらを見ている。
それに暁人は外の景色を見ながら口を開く。
「いや、今日が特別な日になれば良いなって思っただけ」
「そうですね、今日はとても楽しかったですし、遊園地記念日としましょうか」
「ははは…それもいいな。けど…」
「?」
そこで紫苑の方をしっかり見る。
そして少し語気を強くして話す。
「もっと特別な日にしたい」
「?」
やっぱり理解が追いついていないようで、ポカンとした表情をしている。
そんな紫苑の事を無視して暁人は再び景色を眺める。
「…綺麗だな」
「そうですね」
「とっても綺麗だ。ホント、世界一綺麗だ」
「それは流石に言い過ぎなのでは…って…」
ここでようやく暁人が紫苑をじっくり見ているのに気づいたようだ。
そこで紫苑は驚いた様子で口元を両手で押さえる。
そんな紫苑に構うことなく暁人は少し顔を赤くしながら自分の素直な気持ちを伝える。
「宇宙一綺麗だ。紫苑が、この世で1番綺麗だ!」
「ッ⁉︎」
「俺はそんな紫苑の事が好きだ!大好きだ!!愛してる!!!」
「どどどどうしたんですか急に⁉︎」
完全に脳が混乱してしまったようだ。
だが暁人は躊躇う事なく自分の想いを伝える。
「俺は紫苑を愛してる。誰よりも愛してる。だから……湊紫苑さん。僕と…結婚してください」
片膝を地面に付け、指輪を差し出す。
そこには高校生の頃、あのデートで見ていたアメシストの指輪が。
それを見て紫苑の目からは涙が出ており、嬉しそうに泣いている。
「本当に…私で良いのですか?」
「ああ、紫苑が良いんだ。紫苑じゃなきゃだめだ」
真剣な顔をして冷静な声で答える。
まあ内心はまったく冷静ではなく、ヤバいほど心臓がバクバクしている。
それがバレていないかとても心配だ。
だが多分それは紫苑も同じはず。
今は多分、紫苑もドキドキバクバクしている。
そう思い、暁人は無理矢理笑顔を作って優しい声で言い直す。
「紫苑…こんな僕ですが…結婚してくれませんか?」
この言葉を聞き、更に紫苑の涙は増えていく。
そして紫苑は涙を拭くことも忘れ、満面の笑みで答えてくれる。
「はい!よろしくお願いします!」
「…ありがとう…愛してるよ。紫苑」
夕焼けに照らされる観覧車の頂上で、2人の若き青年と乙女は結ばれたのだった。