【短編版】僕をかばって死んでしまった幼馴染の彼女を救うため、二度目の世界では知識チートを活かした最強装備の機動兵器で守り抜く
長編の【蒼星のファンファーレ】を短編に編集しました。
よろしければ最後まで読んで頂けると嬉しいです。
「進路が違ったって幼馴染じゃなくなる訳じゃないんだからさ」
僕のその言葉に幼馴染のリオの表情が明るくなった。
彼女の頬が赤く染まっているのは夕焼けのせいだけではないだろう。
艶やかな黒髪。腰まで伸びるその美髪はまるで絹のような滑らかさだ。前髪からは形の良い眉毛が覗く。白雪の様な透明感のある肌、桜色の柔らかそうな唇。儚さを湛えたその翡翠色の瞳に今にも吸い込まれてしまいそうになる。
そんなリオが照れたように俯いて、その綺麗な唇で言葉を紡ぐ。
「そう……だよね。離れても繋がってる、よね」
「言い方がロマンチックだなぁ」
「ふふっ、けど本当のことだよ?」
そう言ってリオは笑う。
「リオの機体を僕が整備するんだ。それでリオは国を護る。すごく魅力的じゃない?」
「……ふふっ、そうだね」
「だろ? だから卒業したらまた会おう。たかが五年だよ」
「五年かぁ、長いなぁ」
そう、軍が運営する各学校の就学期間は五年。卒業を迎えた僕たちは二十歳になっていると言う事になる。
僕は日本の【防衛学園】へ。
リオはアメリカの【国際連合学園】にそれぞれ進学する。
お互いの夢を叶えて再び五年後に再会しようと約束する。
「……五年後、な」
「う、うん。五年後、ね」
僕がそう言うとリオは翡翠の瞳をふせて頷いた。そして僕は差し出されたリオの細くて美しい小指に自らの小指を絡ませる。
「……」
「……」
お互いに目は合わせられない。けれどしっかりと結ばれた小指を解く事なく僕達は歩き出す。
長く伸びた2人の影が仲良さげに揺れる。
僕は工学を学んで整備士になる為に。
リオは巨大人型機動兵器MKのパイロットになる為に。
リオへの想いはまだ伝えない。
僕自身がリオの重荷になってしまうのではないか。夢に向かって羽ばたくリオの足枷になってはいけない。
想いを伝えるのは夢を叶え合った五年後だ。
僕は小指から伝わるリオの体温を感じながら心にそう誓った。
こうして僕、コータ・アオイと彼女、リオン・シロサキは別々の道を歩むことになった。
◇
日本が所属する国際連合機構と北欧諸国連合軍、通称〝レイズ〟との戦争が終結してから五年。
僕は【防衛学園】を卒業し、今日行われる日本軍及び国際連合軍への入隊式典を控えていた。
防衛学園に入学した僕はひたすらに自分を磨いた。
卒業後、一部の卒業生にしか与えられない特別な勲章を勝ち取るために。
一般的な成績で軍隊に入隊したところで宇宙を含めて配属先は無数にある。その星の数程ある配属先がリオと同じになるなんて事は奇跡でも起こらなければあり得ない。
ただその勲章を与えられた卒業生の配属先はかなり絞られる。
僕はリオと同じ部隊に配属されたい一心で陰湿なイジメや不正が横行する防衛学園での五年間を耐える事が出来たんだ。
入学当時は皆それぞれの正義や信念などを持って入ってきたはずなのだけれど、実技などで明確にランク分けされる実力主義の教育方針だったために他者を蹴落としてまで上にあがろうとする者が現れ始めた。
多くの生徒はホントに最悪な奴らばかりだったけど、教授たちは素晴らしい人が揃っていた。中でもMK開発の第一人者と言われるアカギ博士やその他、著名な教授たちと仲良くなれた。それだけでも防衛学園に行った甲斐があったというものだと思う。
既存のMKの設計段階の裏話だったり、研究中の新素材のことだったり。在学中に僕もその研究に参加させてもらってもう少しでその素材も完成する。
まだまだ課題の残る素材だけど、それが完成すれば今後のMKの活躍の幅が飛躍的に広がるはず。
この五年間、僕は頑張ってきた。そう胸を張って言える。
それもこれも明日からのリオとの任務に就くため。
アメリカに渡ったリオもアカデミーで頑張っていたらしく、パイロットライセンスを取得することはもちろんの事、国際連合機構随一の名門校であるアカデミーをなんと首席で卒業した。
そんなリオに国際連合軍は新型MK〝ライラック〟を与えると発表した。
この〝ライラック〟は数機同時に開発された新型MKのうちの一機で他の何機かは既に任務についている何人かのエースパイロットが搭乗する事になっているらしい。
どのパイロットも前大戦時に活躍して教科書に載っている様な英雄級のパイロットばかりだ。
そこに名を連ねるだなんて、本当にリオは頑張ったんだなって思う。
僕も明日からはその新型MKとリオ達と月にある基地での任務に就く事になっている。
今から始まる入隊式典でその新型MKもお披露目されるらしい。
成長したリオに会える事を思うと気持ちが高鳴った。
◆
『コータ、早くっ……早く逃げて!!』
「リオっ……で、でもっ!!」
国際連合機構に参加する各国合同で行われていた入隊式典の会場、富士演習場は火の海になっていた。
突如現れた所属不明のMKを中心とした部隊、それと新型MKに搭乗していたリオ以外のパイロット二名が国際連合軍を裏切り、虐殺行為を始めたのだ。
英雄級のエースパイロットの裏切りに会場は一気に大パニックに陥った。
逃げ惑う新兵達に銃弾を浴びせ、踏み潰し、虐殺した。緊急出動してきた日本軍のMKも桁違いのスペックを誇る新型を、ましてや歴史に名を残すようなエースパイロットに敵うわけもなくひと薙ぎで鉄塊と化していく。
『コータ! 私が食い止めるから、その間に「リオも逃げるんだ! 早く!」ダメ! 私が逃げたら他の人たちは――』
二〇mを超える巨体の背中に庇われて僕は歯噛みした。
何故僕はリオに守られている!?
何故僕はリオを守ってあげられない!?
僕は彼女の隣にいる事しか考えていなかった。
隣を歩く事こそ幸せなのだと思っていた。
けど違う。僕はこんなにも無力だ。弱い。何もできない。圧倒的な力の前に、武力の前に僕は何もできない。
何かの破片が突き刺さった左眼の痛みなどとうに忘れた僕は、自分でも信じられない程の力で拳を握った。
『他の人たち? そんな者どこにいる。生き残っているのはシロサキ少尉、キミとそこの青年だけだ』
〝ライラック〟と対峙するMKの外部スピーカーから男の声が聞こえてくる。
『我々はこれから〝レイズ〟に出向き、新国家の独立のために動く。差別のない平等な政治を行う新たな国家だ。そのために武が必要となる。シロサキ少尉、キミと〝ライラック〟の力が必要だ。我々と来い。そして新国家の剣となり盾となるのだ』
『……私が行けば、この青年は逃して頂けますか?』
「リ、リオっ!?」
聖騎士の異名をもつ前大戦の英雄、ガーランド中将が駆る新型MKの鋭いツインアイが僕を捉える。
そして操縦者の動きをトレースしたかの様に少し首を振った気がした。
『……それは叶わない』
『何故です!』
『私も、そこにいるドゥカウスケート大尉も今ここで戦死した事にしなければならない。我々の存在を知ったまま返すわけにはいかない』
『で、では一緒に連れていく訳には――』
『無理だ。諦めろ』
冷徹にそう告げるとガーランド中将の新型MK〝ダリア〟が僕に巨大な銃口を向けた。そこから銃弾が吐き出されそうになった刹那、僕と〝ダリア〟の間に〝ライラック〟が立ち塞がった。
僕はその華奢で、しかし巨大で勇敢な背中を見上げた。右腕マニュピレータで光の剣、フォトンセイバーを引き抜いた。
そして〝ライラック〟は、リオは短く一言だけ告げる。
『コータ。……愛してる』
「やめてくれ、頼む、お願いだ、リ――」
懇願する僕。
しかし次の瞬間〝ライラック〟は〝ダリア〟に突撃を仕掛けた。
前大戦の英雄〝聖騎士〟ガーランド中将が駆るMKに。
勇敢にも、無謀にも、僕を守るために。
『うわぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!』
「――――――――――――――!!!」
僕が最期に見た光景。
確実に胸部を、コクピットをひと突きされた〝ライラック〟の姿だった。
〝ライラック〟の四肢は脱力して膝を突く。
コクピットがあったはずの場所の装甲は融解し、ぽっかりと穴が空いていた。
リオがいたはずのその場所に。
「あぁ……あ、ああああ、ああ……」
僕はその場に膝を突いた。リオには逃げろと言われたが、心を支配する虚無感に抗う事が出来ず、もはや立つことも叶わない。
リオに会いたい一心で、リオと幸せになるために、リオと夢を叶えるためにやってきた今までのこと。何もかもが暴力により奪われていく。
何故こんな事になってしまったのか、何故僕はリオに守られてしまったのか、リオに守られたのか、リオを守ってあげられなかったのか。
情けない、情けない、情けない。
ただただ僕は自分の無力さを思い知った。
そして僕は願った。心の底から。
輪廻転生があるとして、次の人生ではリオを守ってあげられるような力が欲しい、と。
この理不尽な暴力に抗う術が欲しいと。
〝ダリア〟に踏み潰されるその瞬間まで、僕は切に願った。
◆
急に目の前が明るくなり、僕は顔をしかめた。
長い廊下に並列したガラス窓。そこから夕陽だろうか、赤い光が差し込んでいる。
学校の廊下と見紛う、そんな見たことがある光景。デジャヴかと一瞬思ったけど違う。既視感とかそういう感覚じゃない。もっとリアルな。
僕は意識を失ったのか?
僕は、MKに踏み潰された……そう思っていた。けれどこうして立っている。生きて、いる。
「……」
……夢、だったのか?
何となく寝起きのような、モヤのかかったような感覚があるが何とか思考する。
何気なく自分の手を見つめてみる。
いつも通りの僕の手だ。心なしか肌ツヤが良い様にすら思える。
それと目に入るのは学生服の袖だ。
よく見ると僕は詰襟の学生服を着ていた。昔の陸軍軍服を模したとされる学生服。ボタンを確認すると母校の校章が刻印してある。
どうして僕はこの服を着ているんだ?
夢……なのか?
いや、夢じゃないよな、これは。
夢を見ている様な、でもしっかりとリアルな、そんな不思議な感覚が広がっていく。
僕はふと視線を上げる。
液晶モニター型のカレンダーが壁にかけてある。学校などの施設ではごく一般的なものだ。
もしかしてと思い、僕はカレンダーを見る。そして僕は思わず声を上げた。
「新暦0094年、5月18日だって……?」
0094年と言えば僕が中学三年だった年だ。
夢見心地で、自身の事なのにどこか傍観している。
混乱したまま視線を移すと、壁面に設置されている姿見が目に入った。僕は恐る恐るそこに近づき、自分の姿を確認する。
「………………」
僕は自分の姿を見て絶句した。
そこには当然ながら自分自身が写っていた。目を丸くして驚いた表情をした僕が。
けれど驚くべき事にその僕自身が中学時代の、少年の姿をしていたからだ。
「嘘だろ、そんな事って……え、こ、声が!?」
ようやくそこで自分の声の異変に気づく。声変わりする前の少年の様な、そんな声をしている事に驚いた。
僕は、富士演習場で……。
「う……」
あの光景が一気にフラッシュバックしてきて吐き気が込み上げてくる。それを口を押さえて必死に堪える。
思い出したくもない、思い出したくもないけど、あれは夢なんかじゃない。
あの痛み。夢なんかじゃ……?
「っ!? め、眼が……!?」
そこで僕は自分の左眼が見えている事に気付いた。
あの火の海と化した富士演習場で何かの拍子で飛来してきた金属片が僕の左眼に突き刺さった。
眼球は確実に潰れてしまっていたはず。完全に失明したと思っていた左眼が見えている。
時間が戻った、のか……?
いやまさか……でも、そうとしか考えられない。
学園で散々に理数科目ばかり専攻して学んだ。それなりに現実的に物事を考えられると思っているのだけど……。
やっぱり時間が戻ったのか?
一通り混乱して僕の頭をそんな事が過った。
いやまさか、でも、この状況をどう説明する……?
僕は国際連合軍の合同入隊式典に参加していた。そこでガーランド中将たちが裏切った。そこで僕は死んだはず。
「リオ……」
僕はリオの名前を呟いた。
無力な僕を守って死んでいった勇敢な幼馴染の名前を。
やるせなさが心を支配していく。僕は力の限りに歯噛みし、自身の拳を握る
『コータ。……愛してる』
そう僕に告げて散っていったリオのことを思うと自然に涙が出てきた。
リオに会いたい。リオに謝りたい。僕が無力で無能なばかりに。大切でかけがえのない幼馴染を、いや、大好きな女の子を死なせてしまった。
そしてもう一度、さっきよりも大きな声でその名前を呼んだ。
「リオ……!」
夕陽が差し込む廊下に僕の声が弱々しく響く。
「……なに?」
不意にかけられた声に僕は驚いて振り返った。
すると僕の後ろにセーラー服を着たリオが立っていた。
腰まで伸びた艶やかな黒髪、翡翠色の大きな瞳。形の良い眉毛と整った鼻筋。白雪のように透き通った肌と桜色の唇。
当時のままの、五年前のままの姿のリオがそこに立っていた。
◆
彼女は首をコテンと傾げ、言葉を失った僕を覗き込むように見つめている。
「あ、ああ……」
上手く言葉が出てこない僕はリオのつま先から頭の先まで視線を何往復もさせてしまった。
確実に貫かれた〝ライラック〟のコクピット。地獄のような風景がフラッシュバックする。
そんな僕をリオは訝しげにみて言う。
「どうしたの? 遅いと思って見に来てみたらすごい顔だよ? まさか先生に『防衛学園は無理だー』とか言われたの?」
僕は一歩、また一歩とリオに歩みよる。
「リオ、なのか……?」
「え、ちょ、本当に大丈夫「リオっ!!」――っ!?」
気づいた時には僕はリオを抱きしめていた。
僕のせいで……!
僕のせいで……!
「ご、ごめんリオ! 僕は、僕は……っ!!」
「え、ええ!? ちょ、こ、こここコータ!?」
突然の僕の行動にリオは目を白黒させて驚いたようだった。けれど僕はそんなリオにひたすら謝罪をする。
「リオが、僕を……う、うわぁ……ううっ……!」
「ちょ、も、もう。どうしたの、本当に。先生に何か言われたの?」
しばらくするとリオは、辿々しく、しかし優しく両手で僕を抱き返してくれた。そして今度は落ち着いた声で言う。
「……何があったか分からないけど、とりあえず落ち着いて」
僕とリオはしばらくの間、誰もいない校舎の廊下で抱き合っていた。次第に涙は止まり、気持ちがかなり落ち着いてきた。
「……どう? 落ち着いた?」
「う、うん。ありがとう、リオ」
僕がそういうとリオは僕から離れる。
泣き止むまでずっと抱きしめて頭を撫でていてくれたリオは少しだけ照れたようにそう言った。
「ふふっ、いきなり泣き出すんだもん。ビックリしちゃったよ」
「う、うん、ごめん……それと、その、抱きついちゃったことも」
「あは、あははっ。ま、まぁ仕方ないよ。その、イヤ……じゃないし……」
そう言うリオは真っ赤に頬を染めると、自身の黒髪を両手で掴んで口元を隠した。照れた時にやるリオの癖だ。
そうだった、僕たちはいつもこうだったな。
友達以上恋人未満。五年ぶりにこんなやり取りをすると、懐かしさが心に広がっていく。
結局、あの時リオに僕の想いを伝える事は出来なかった。そんな余裕は僕には無かったから。
そのリオが目の前にいる。そう思うだけでまた涙が込み上げて来そうになる。
今度は早めに気持ちを伝えないとな。僕はそんな事を思いながらリオに微笑みかける。
「リオは優しいな、ありがとう」
「ううん。私たちは家族みたいなものじゃない。困った時はお互い様だから」
理由や原因はどうであれ、こうして死んだはずのリオが目の前にいる。
僕はタイムリープした……と考えていいのか。
少し冷えた頭でそんな仮説を立てる。
もしそうだったとしたら、それはチャンスだ。
もしかしたら僕の行動ひとつであの地獄のような出来事を回避できるかもしれない。
1回目の人生を終えるその瞬間に願った事。守られてばかりだったけれど、今回はリオを守る事が出来るかもしれない。
この2回目の人生ではリオを幸せに出来るかもしれない。
そのために何をすべきか。何が出来るのか。
それにこうしてリオと再会出来たんだ、あの時に伝えられなかった想いを……。
「……? どうしたの?」
などと考えていると僕の視線が気になったのか、リオが首を傾げて僕の顔を覗き込んできた。
久しぶりに会うリオはやっぱり可愛くて、懐かしさも相まって見入ってしまった。
アメリカにいた頃はたまに電話で話したりするだけだったからな。お互いに訓練訓練で帰省もしてなかったし。
まさか見惚れていたんだなんて言えるはずもなく、僕は適当に誤魔化した。
「あ、いや、なんでもない」
「そう? それよりさ、聞いてよ。さっき部活でさ
……」
そうだ。とりあえず今は難しく考えるのはやめて久しぶりの再会を楽しもう。
そうして僕は五年ぶりにリオと一緒に下校した。
◆
リオと下校して久しぶりに帰ってきた孤児を預かる国営施設の自室のベッドに僕は寝転んでいた。
五年も経つと見慣れていたはずの天井すらもなつかしく思えてしまう。
「やっぱり……僕はあの頃に戻ってきてる」
僕はそう確かめるようにつぶやいた。
こうして口に出してみると今僕が置かれていることの異常性を再認識してしまう。
けどそうとしか思えない。
スマホやテレビ、新聞などの日付けは五年前のそれになっている。
決定的になったのは、施設の管理をしていた最年長の先生がご健在だったという事だ。
その先生は2年前……僕が18歳の時にご病気で亡くなられてしまった。僕は学校を休んでお葬式に参列させてもらったからよく覚えている。
けれどその先生が元気に働いていらっしゃった。思わぬ再会に僕はその先生に飛びついてしまった。あまりにも嬉しかったから。
リオと、その先生との再会で僕は時間を遡って来たんだと確信した。亡くなった人物と再会するというのはここまで衝撃的なのかと思った。
「……」
僕は天井を見ながら考える。
もし前回と同じように時間が過ぎていって軍に入隊するとしたら、また同じ事が起こるのだろうか。
僕とリオが死ぬ未来が待っているのだろうか、と。そうだったとしたら、僕はそれを全力で阻止しなければならない。あんな未来が待っているのなら軍になんか入らなければいい。
では整備士の夢を諦めるか。それは出来る。死ぬよりはマシだ。
けどリオはどうなる?
亡き両親の背中を追ってパイロットを夢見るリオになんて言って諦めさせる?
五年後にガーランド中将が裏切るからパイロットになってはいけないと?
まさか。目の当たりにした僕ですら未だに信じられない事をリオが信じるだろうか。それもまだ見ぬ未来で起こる出来事をだぞ。
そんな見てもない信じられない事を理由に唯一の目標と言っていいパイロットの夢を諦めさせるなんて出来るか?
僕が言えばリオは諦めてくれるかもしれない。それに命あっての物種だ。どれだけ頑張ってパイロットになったとして待ち受けるのはあの残酷な運命だ。
……だけど、なぜリオが夢を諦めなければいけない?
小さい頃からずっと願っていた夢を、リオが諦めなければいけない理由があるだろうか。終戦後、専用機の配備が決定し、月での任務にあたる事が決まったと言ったリオは電話口で涙を流して喜んでいた。
その夢を諦めさせるのか。
……理不尽だ。
確かに死んでしまっては元も子もない。けれど、だからと言って……。
「……そうか」
僕は身を起こすとそう呟いた。
もし、ヤツらが裏切らなかったら?
思い出せ。アイツらはリオになんて言っていた?
確か、新型MKを奪った後にレイズに渡り新国家建国のために動くと、そう言っていたよな。
国際連合に不満があるのか、思想か、単に金か。理由はどうであれ、裏切り自体を阻止出来れば……。
不可能だ。僕はただの学生。それも今はなんの力も持っていない中学生だぞ。そんな僕に何が出来る。
いや、待てよ。僕は防衛学園で何をしてきた、何を学んできた。
科学の最先端の現場でMKのノウハウを一から学んだじゃないか。
それに、あんなめちゃくちゃな学園だったけど僕には友人がいた。彼らの協力を得られればもしかしたら事態を動かせるかもしれない。
今はまだ出会ってないけど、1周目ではあんなに打ち解けていたんだ。もう一度彼らと友人になる事くらい出来るはず。
それにあの新型MKだ。あくまでも聞き及んだ範囲でだけど、あの機体のスペックは既存のMKのそれとは比べものにならないスペックだったはずだ。
完成したあれを奪うためにあの日を選んだ可能性もある。
あの新型MKを何とかしなければ。
通常、MKの開発には多大な資金と時間とマンパワーが必要となる。
さまざまな思惑と事情が入り混じった背景があるために僕個人の意見だけで開発を阻止するなんて出来るのか?
敵はあまりにも大きい。僕ひとりで動くには限界がある。
……待てよ。僕にあの新型が配備されるとしたらどうだ?
そうすれば最悪、あの事件当日にMKに搭乗できていることになる。
リオの機体と合わせて二機。新型が二機あれば何とか対応出来ないか?……いや、そんなことは無理だ、と思う。現実的じゃない。
相手は国際連合の英雄〝聖騎士〟ジョナサン・ガーランド中将だ。その実力はレイズの一個大隊に匹敵するなんて言われている人だ。
それにもうひとり、〝女傑〟エディータ・ドゥカウスケート大尉も。彼女も軍を代表するパイロットのひとり。
アカデミーを主席で卒業し、新型まで配備される優等生のリオですらあのガーランド中将の相手にすらならなかった。
残念ながら僕のMK操縦の技量は並だ。もし僕が運良くそこまで上り詰めることが出来たとして、僕が加わったとしてなにになる?
一騎当千のガーランド中将と〝女傑〟と名高いドゥカウスケート大尉に2人で立ち向かうだなんてそれこそ無謀だ。
しかし今はうまい作戦が思いつかない、だけど1周目の僕には力が足りなかった。
あのリオに守られている時の気持ちを思い出せ。まずは僕もそのステージに上がらなければならない。
僕が培った知識と、これからの5年間で“聖騎士”や“女傑”に負けない操縦技術を養うんだ。
今度こそ、必ずリオを守る。
僕が作った最強の機動兵器で、僕とリオの未来を僕自身で作り上げるんだ。
僕の初めての、2度目の人生が始まった。
最後まで読んで頂き誠に有難うございました。
久しぶりの執筆でしたが、如何でしたでしょうか。
もしお気に召しましたら、ブックマーク登録と下の広告下部にございます☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けますと、お一人12ptを入れて頂く事が出来ます。
評価ptは私のモチベーション向上に繋がりますので、是非ともよろしくお願いします。
また、ロボ物の長編も執筆開始しております。
書き溜めが出来次第投稿致しますので、作者のお気に入り登録も是非。
長々とお願いばかり申し上げましたが、最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。
宜しければ長編の方もご覧ください。