故郷
続 人魚はコバルトブルーの海が好きの前作を再投稿しています。
サキと太一の出会いを描いています。
ゆっくり楽しんでくださいね^^
六月の朝、太一は北へ向かう列車に揺られていた。窓の外に広がる田園風景をぼんやりと眺めていた。
父が亡くなったという知らせが届いたのは一週間前のことだった。忙しさにかまけて実家に顔を出せなくなって何年が経っただろうか。電話越しの母の声は静かだった。
「親父のこと、何もわかってなかったな……」
思わず独り言が漏れた。父は金沢の小さな町工場を営む職人気質の人だった。いつも言葉数は少なく、何かとぶつかることが多かった。
列車を降りると、潮の香りが懐かしさを思い起こさせた。故郷の金沢に向かう前に、太一は能登の海沿いに一泊することにしていた。子供の頃、父に連れられて訪れた温泉地。その記憶を辿るようにして、その町を選んだ。
駅前で小さな地図を確認しながら、予約していた老舗旅館へと向かう途中、太一は不意に誰かと肩がぶつかった。
「あ、ごめんなさい!」
振り返ると、白いワンピースを着た若い女性が立っていた。金髪に青い瞳、どこか日本人離れした美しい顔立ち。太一は一瞬、言葉を失った。
ふと足元に目をやると、ピンク色のイルカのペンダントが落ちている。
「これ、落としました?」
太一がペンダントを拾い、手渡すと、彼女は一瞬驚いて、にっこり笑顔でお辞儀をした。
「あ、ありがとうございます!すみません、助かりました!」
彼女の丁寧すぎる仕草に少し戸惑いながらも、太一は「どういたしまして」とだけ返した。
しかし、何かが引っかかる。
(あれ?この子、電車に乗ってたっけ……?)
車内はガラガラで、他にいたのは老夫婦くらいだった。もしこんな目立つ人がいたら、気づかないはずがない。それに、この金髪と青い瞳――日本人なのだろうか?
妙な違和感を抱きつつも、太一は歩き出した。彼女も重そうなキャリーバッグを引きながら同じ方向へ向かっている。
旅館に着くと、どうやら彼女も同じ宿に泊まるようだった。チェックインを済ませた太一は、部屋に入ると窓の外に広がる七尾の海に目を奪われた。夕陽が水平線に沈み、空と海が赤く染まっている。窓を開けると、潮風が部屋いっぱいに吹き込み、都会での騒がしい日々が遠いものに思えた。
太一はソファに腰掛け、しばらくその風景を眺めていたが、いつしか眠りについていた。