Chapter9 「ブログ作戦」 【地球】
Chapter9 「ブログ作戦」【地球】
私は佐山さやかに電話をした。事情を話して協力を得るためだ。服装は個人の自由だしとやかく言うつもりはないが、七海にロリータファッションは似合わない。とにかく目立つ。100m先からでも認識できる。ロリータファッションで部屋に出入りされても困るのだ。
翌日、佐山さやかと唐沢は渋谷で待ち合わせをして服を買いに行った。休日だったのが幸いだ。唐沢は袋をいっぱい持って上機嫌で帰ってきた。髪の毛も黒に染め戻している。服は何着も買ったようだ。佐山さやかのチョイスはバッチリだった。程よいお洒落で七海の雰囲気に合っている。さすが人事部の社員だ。日頃から女子社員の服装をチェックして観察しているのであろう。
「もーう、佐山さんはセンス抜群です。おかげでいっぱい服を買っちゃいました。大人のお洒落を楽しんじゃいます」
翌日の夜、私は佐山さやかと五反田のカラオケボックスにいた。曲は適当にリクエストした。カラオケボックスは私と佐山さやかの密談の場となっている。
「水元さん、びっくりしました、七海ちゃんが唐沢さんでした。いえ、唐沢さんが七海ちゃんでした」
「ああ、悪かったな、助かったよ。唐沢さんの服のセンスの振れ幅が極端で困ってたんだよ。
久しぶりに七海の姿を見てどうだった?」
「そりゃ嬉しいですよ! でも、確かに見た目は七海ちゃんなんですけど、なんか雰囲気というか、喋り方とか表情が違うんですよね。綺麗だしカワイイけど、七海ちゃんじゃないんですよ」
佐山さやかの感想は私とまったく同じだった。
「俺もそう思ったよ。七海の顔を見れるのは嬉しいけど、性格が本物とギャップがあって微妙なんだよな。逆に顔を見ちゃうと本物の七海が恋しくなるんだよ」
「はい、七海ちゃんの見た目だけじゃなくて、話し方とか、仕草とか性格にも惹かれてたんだなって実感しました。唐沢さんの七海ちゃんはいろいろと丁寧すぎるんですよ。昨日買い物の後、唐沢さんの七海ちゃんとラーメンを食べたんです。七海ちゃんの好物を知りたいって言ってました。でも「佐山さん、この店のラーメン美味しいですね。今スマホで調べました、〇〇家系列です。ネットの評判通りです。評価のポイントは3.78でした。私の評価は星3.5です。少しスープの塩気が強いですね。豚骨も煮すぎです。麺はもう少し細い方がこのスープと合って美味しいと思います。加水率は30%くらいですね。ニンニクを入れた方が美味しいようです。うん、美味しいです。この薬味スプーンに2杯が調度いい量です。試して下さい。2杯ですよ」って感じなんですよ。それと『佐山さん』じゃなくて『さやかお姉ちゃん』って呼んで欲しいです」
「七海は無邪気なのがいいんだよなぁ」
「そうなんですよ! 本物の七海ちゃんなら「このお店美味しいの。入って良かったの。さやかお姉ちゃん、ラーメンはニンニクをいっぱい入れると美味しいの。キャハハ! ・・・・・・さやかお姉ちゃん、入れすぎちゃったの、スープが臭いの、でも興味深いの」みたいな感じでカワイイんですよ。だから、温泉で背中流してあげる時にわき腹をコチョコチョコチョってすると「キャハ、キャハハ、さやかお姉ちゃんやめてよ~」って言うんです。それで今度は『脇の下』をコチョコチョするんです。そしたら七海ちゃんが「キャハハハ、キャハハハハ、もう~くすぐったすぎなの! さやかお姉ちゃん、やめて欲しいの~ そこはズルいの~ キャハハ、キャハハハ もう降参なの、笑いすぎてお腹が痛いの~」って言うんですよ、そしたら私が「スキあり!」って言ってもう一回わき腹をコチョコチョって」
佐山さやかの性癖は『くすぐり』のようだ。ラーメン屋から温泉で背中を流す状況になる展開もよくわからない。放っておくといつまでも喋っていそうだ。
「佐山さん、MZ会が大変な事になってるみたいなんだ」
『私は唐沢聞いた話を佐山さやかに全て話した』。
「水元さん、なんか怖いです。地球征服ですか? 私達はどうすればいいんですか? アメリカの裏政府って、私達の日常からかけ離れすぎてます。私達、暗殺とかされませんよね?」
佐山さやかは怯えているようだった。
「しばらくは静観したほうが良さそうだな。MZ会の内紛は俺達には関係ないよ。でも、とりあえず唐沢さんは匿うことにしたよ。あくまでも七海の事でお世話になったお礼だ」
「怖いですけど、地球征服には反対したいですよね」
「あたりまえだ! MZ会の日本支部は地球征服反対派だ。地球征服派の裏にはMM378の第1政府が絡んでる。第1政府は七海が倒してくれるよ」
「七海ちゃん、MM378で活躍してるみたいですね。凄いですよ。あんなに無邪気でカワイイのに軍人なんですよ。とにかく無事でいて欲しいです」
「七海は本当に凄いよな。MM378の運命や文化を変えるかもしれないんだ。ムスファってやっぱり凄いんだな」
「私も水元さんも七海ちゃんと出会って良かったですよね。もし七海ちゃんと出会ってなければ、つまらない人生でしたよ」
七海と出会わなければ私はただのうだつの上がらない中年サラリーマンだった。七海と出会ったことで超ド級美女と同棲することができた。楽しい経験もできた。デートをしたり、モデルデビューを支援したり、宇宙船にも乗ることができた。楽しくはないがこうして地球の危機というスリリングな状況にも立ち会っている。ホームレスのおっさんだった七海が二つの惑星の運命を握っているのだ。
私と佐山さやかは橋爪さんの事務所にいた。溝口先輩も同席している。
「七海ちゃんまだ体調が悪いのか。写真集は売れてるし、次の話もあるけど、まずは元気になって欲しいなぁ」
橋爪さんが心配している。写真集の発行は20万部を超え、さらに増版しそうな勢いだ。
「そろそろ正体を現さないとまずいんじゃないかな。いつまでも謎のモデルじゃ飽きられるよ。でも無理してもらう訳にはいかないよな。七海ちゃんの健康が第一だ」
溝口先輩も七海の心配をしている。
「七海ちゃんのお見舞いをしたいんだけど、どうだろう? 川根本町は遠いけど、ヘリコプターをチャーターすれば日帰りでも行けるだろ。撮影で使ったことがあるんだ。一日なら300万円もあれば借りられるよ。もちろん僕が払うよう。皆で行ってもいいんじゃないかな?」
さすが橋爪さんはセレブだ。橋爪さんは誰もが知る総合商社『ハシコー』の創業者の息子で、現在はお兄さんが『ハシコー』の社長でありオーナーである。橋爪さんは役員として名前だけ貸してるようだ。資産も沢山持っているようだ。
「すみません、見舞いは難しいです、面会謝絶なんです。なんか難しい病気みたいで。七海はお母さんの介護に疲れただけじゃなくて、もともと病気があったらしいんです」
「そうなの? じゃあ名医を紹介するよ。兄に頼めばどんな病気の名医だって見つけてくれるよ」
橋爪さんはやっぱり凄い人だ、色んな業界に顔が効く。
「とにかく休養するしか無いみたいです。きっと七海は回復します」
「残念だよな。写真集も売れて、ネットでも七海ちゃんの事が話題になってるのに。でも七海ちゃんの回復を待つしかないよな。七海ちゃん、本当に女神みたいな存在なんだよ。七海ちゃんの寝顔、もう一回見たいよ」
溝口さんも根は優しい人なのだ。
「うん、写真集とかどうでもいいんだ。七海ちゃんが元気になってくれればそれでいいんだ。七海ちゃんは本当に女神なんだよ。僕も七海ちゃんの寝顔が見たいよ。また皆で別荘に行こう。次は北海道でカニ三昧だ。沖縄で海水浴もいいぞ、七海ちゃんの水着姿見放題だ。この前の伊豆旅行、楽しかったよな」
橋爪さんは優しい。普段は厳しい写真家で忖度しない人だ。私には秘策があった。佐山さやかと考えたのだ。
「七海のブログを作りましょう。七海の普段の生活や、写真を公開するんです。日記みたいな感じです。そこで七海のプロフィールを少しずつ公開していくんです。写真は私がプライベート写真集用に撮った写真があります。橋爪さんがスタジオでお試しで撮った写真も使えますよ。文章は佐山さんに書いてもらいます。全体のプロットは私が考えます」
「私、自分のブログもやってるんです。人事関連の堅いブログですが、結構読者が多いんです。だから書くのは得意です。コメント欄の返信なんかも小まめに書きます。水元さん、是非やらせて下さい。七海ちゃんになりきります」
佐山さやかは頼もしい。一緒にMZ会の射撃場で拳銃を撃って『発射罪』という犯罪も共有している。レズビアンだが佐山さやかは素晴らしい女性だ。
「ブログかあ。七海ちゃんが活動している事をアピールするんだな。いいかもしれないなあ」
橋爪さんが興味を持ってくれた。
「溝口さんにはアイドルやモデルの掲示板で七海の事を書いて人気を煽ってもらいます。溝口さんは宣伝活動が上手です。七海のマネージャーって事にして七海のブログで記事を書いてもらってもいいかもしれません。溝口さんのプロデュ―ス力の見せどころです」
私は溝口先輩を持ち上げた。
「ガクちゃん、俺の才能にやっと気付いてくれたのか! いいよ、やるよ。俺の才能をガツンとぶつけてやるぜ! 七海ちゃんをプロデュ―スするよ」
溝口先輩がその気になった。
「でも、今まで撮った写真だけじゃ厳しんじゃないかな。ブログならリアルタイムな写真がいるだろ」
橋爪さんの指摘は予想していた。私にはもう一つ秘策があった。
「実は七海には双子の姉がいるんです。事情があって、7歳の頃、養子に出されてアメリカに行きました。七海は自分の事を一人っ子って言っていますが、実は双子のお姉さんがいたんです。七海の家庭はいろいろ複雑で、七海は姉が養子に出された事を恨んでいるんです。その姉が最近日本に帰って来たんです。この前私も15年ぶりに会ったんですが、七海にそっくりなんです。今は東京にいます。写真撮るくらいなら協力してくれると思います。小さい頃、可愛がっておいて良かったです」
七海の双子の姉は、私は考えに考えたシナリオだ。かなりムリはあるがやるしかない。
「おおーーガクちゃん、それは凄いな、七海ちゃんの双子のお姉さんか。会ってみたいよ」
「双子のお姉さんか、会ってみたいなあ」
溝口先輩も橋爪さんも信じてくれたようだ。仲間に嘘をつくのは気が引けるが、今さら本当の事は言えない。
「ただ、性格は七海と違います。厳しい家庭で育ったみたいで、堅い感じなんです。名前は美波って言うんです。美しい波で、美波です」
「えっ、写真ですか?」
「ああ、協力してくれ。ポートレートを撮りたいんだ」
「わかりました。水元さんにはお世話になってますし。写真くらい、いいですよ」
湯島天神の梅の花をバックに七海の写真を撮った。正しくは唐沢が変身したニセ七海だ。
「七海、笑顔だ」
私はファインダーを覗きながら指示を出した。ニセ七海の唐沢は笑顔になったが表情がぎこちない。
「七海、もっと楽しそうにするんだ」
「タケルさん、難しいです」
「あれっ、あの娘、もしかして天野七海じゃない?」
若い女性が七海に気づいたようだ。
「うん、きっとそうだよ、最近ブログ始めたんだよな、やっぱカワイイなあ、サインしてもらおうかな」
連れの男性も七海を知ってるらしい。
「へえ、ブログ始めたんだ。謎のモデルだったよね。やっぱ本物は綺麗だね、顔小さ」
通りすがりのカップルが七海の事を気にしている。
「えっ、私がカワイイ? 綺麗? やっぱりそうですよねえ~。嬉しいです! タケルさんもっと撮って下さい」
ニセ七海の唐沢は弾けるような笑顔になった。なんかムカついた。
【ブログ記事】
//寒い日が続いてますね。今日はスタジオで撮ったとっておきの写真と、プライベート写真をアップします。スタジオで撮った写真は水着だよーーん。キャハ。
寒いけど、頑張ったの。プライベートフォトは湯島天神の写真です。梅の花が綺麗なの。帰りに鍋焼きうどんを食べました。アツアツで美味しかったです。皆さんも風邪に気を付けて下さいね。//
【コメント欄】
@ゆずコショウ番長 1時間前
七海ちゃん、本当に可愛いいね。次の写真集、期待してます。もう待ってるよ。
【返信】ありがとうございます。待っててくださいね ←七海
【返信】待っててって事は本当に出るのかな? 決まったら教えて! ←ゆずコショウ番長
@えみちゃん 1時間前
水着、いいですねえ。本当に綺麗な体ですね、羨ましい。女の私でも憧れちゃう❤ 風邪引かないで下さいね。
【返信】ありがとうございます。お互いに風邪には気を付けましょうね ←七海
@クンタキンテ5世 2時間
写真集増版おめでとう。やっぱ七海ちゃんは凄いよな。うちのオヤジ、68歳なんだけど七海ちゃんのファンだよ。会社の女性陣にも人気だよ。もちろん私もファン。雑誌とかテレビに出て欲しいなあ。もっと露出増やしてよ、ファン爆増間違いなしだよ。応援してます。鍋焼きうどん美味しそう。七海ちゃんはもっと美味しそう。キャハ。
【返信】美味しいのかな? 食べてみて下さい。キャハッ! ←七海
@ケイン濃すぎ 2時間
綺麗スグルー、可愛スグルー。ネットでコメント書いたこと無いんだけど、今回のブログ見て条件反射で書いてしまいました。
【返信】ありがとうございます。これからも書いて下さいね。←七海
【返信】うおっ、返信来た。マジ嬉しいーーーー ← ケイン濃すぎ