Chapter7 「銃殺」【MM378】
Chapter7 「銃殺」 【MM378】
ナナミ大尉大尉は連合政府前線本部の休憩室にいた。ファントム司令は好意的であった。
「ナナミ大尉ですね? 緊急連絡です。レジスタンスキャンプが敵の急襲を受けたようです」
曹長の階級章を肩に着けた兵士が現れて報告した。
「どういう事だ? 被害は?」
「200個体以上が戦死した模様です」
ナナミ大尉は連合政府軍の高速ホバーでレジスタンスのキャンプまで送ってもらった。敵兵の出現に備えて手にはセミオートショットガン『SG―01/18』を持っている。ナナミ大尉のセミオートショットガンは箱型弾倉式で装弾数18発である。弾の種類はスラッグショット(1粒弾)とバックショット(9粒弾)を交互に装填している。ストックは折り畳み式で近接戦闘では取り回しがいい。この銃は試作品でナナミ大尉が地球を出発する際にMZ会から提供されたものである。その後の量産型のセミオートショットガン『SG―01/8』はチューブ式弾倉で総弾数は8発となっている。キャンプの会議室ではトージョー大佐とジュディ大尉、レックス少尉、ジーク少尉、ジャック少尉が待っていた。
「状況を報告します。昨夜、キャンプに5頭のギャンゴが侵入しました。ギャンゴとの戦闘で112個体が戦死しました。ロケットランチャーをありったけ撃ちました。100発以上です。ギャンゴは退去しましたが、その直後、第1政府が急襲してきました。5千個体以上の数です。敵は脳波攻撃と物理攻撃の両方を使ってきました。ジャミング装置は一定の効果が認められましたが、我が方は脳波攻撃と敵の銃撃で227個体が戦死しました。敵の損害は約3000個体です。残りの敵は撤退していきました。対ギャンゴ戦も含めてキルレレシオは10対1で数字的には我が方の勝利です。武器の差だと思います。しかし敵の大型宇宙船が3隻、突然現れて着陸し、5千個体以上が急襲してきたのです。我が方は300個体以上を失いました。60%の損耗です」
ジャック少尉が状況を報告した。
「レーダーはどうした? なぜ侵入を許したんだ! 飛んで来たのなら小型宇宙船で迎撃できただろ!」
ナナミ大尉は苛立っていた。
「敵は時空超越転移装置を使った模様です。大気圏内の狭い空間でも使える時空超越転移装置を開発したようです。元第1政府の技術士官で我が軍に転軍した士官の話では第1政府は短距離用の時空超越転移装置を開発し、実用段階の実験をしていたそうです」
時空超越転移装置は0.5光年以上の距離がなければ使用できないはずだった。飛行してきたのであれば小型宇宙船が迎撃できた。物理兵器を持たないMM378の宇宙船は現在のところ武装していないが、体当たりをすれば迎撃できるのだ。操縦士は体当たり直前に脱出装置で脱出するのだ。そもそもMM378では宇宙船を戦争に使うことは平和条約で禁止されていた。
「第1政府の科学力はやはり侮れないな」
第1政府は科学力で他の政府を圧倒していた。長い間、第1政府が科学力でMM378をリードしてきたのである。
「それとギャンゴも大型でした。通常のギャンゴの1.5倍の大きさでした。自然界には存在しない大きさです。おそらく特殊なホルモン剤を投与したものと思われます。連合政府軍令本部は『ドスギャンゴ』と命名しました。第1政府はギャンゴを操る電波も開発したようです。完全ではありませんが、最近のギャンゴは第1政府以外を攻撃するようです。以前は諸刃の剣で、ギャンゴは第1政府の兵士も襲っていました。しかし今は違います。第1政府の兵士は発信機を身に着けてギャンゴが襲撃しないようにしているのです」
ジャック少尉はギャンゴについても報告した。
「分かった、被害状況を見て回る」
ナナミ大尉はキャンプを見て回った。士官宿舎が潰れていた。ナナミ大尉は潰れた士官宿舎の撤去作業を指揮している伍長に話しかけた。
「ジョンニ等兵はどこだ?」
ジョン二等兵はナナミ大尉の従兵だ。
「ジョンニ等兵は戦士しました。敵の銃撃を受けました」
「待て、本当か? 遺体はどこだ?」
「遺体は消去設備で消去しました。ナナミ大尉ですね? ジョンニ等兵の遺品を保管しています」
MM378では死者を埋葬する習慣は無い。墓も無い。プラズマ焼却炉で高圧力と高熱で分解される。分解されるまでの時間は3分程度である。分解された遺体は、一握りの程度の砂になり、大地に撒かれる。キャンプには消去設備を積んだ大型ホバーが2機置かれている。
遺品はジョンニ等兵の日記だった。ナナミ大尉は日記に目を通した。MM378は科学が著しく発展しているが、文字で日記を残すアナログな習慣も持っていた。
<<「ナナミ大尉は素晴らしい上官だ。ナナミ大尉の従兵になって良かった。今日はナナミ大尉が地球の話をしてくれた。ラーメンという美味しい食べ物の話だった。興味深かった。ナナミ大尉はいつか地球に連れて行ってくれる言った。凄く興味深い。ナナミ大尉は戦闘能力も高く、部下にも親切だ。ナナミ大尉はギャンゴを8頭も倒している。ナナミ大尉の地球の話は新鮮だ。僕もナナミ大尉のように強くなりたい。そして地球に行きたい。ナナミ大尉の言う感情が少し分かってきた気がする。嬉しいとか楽しいとかだ。ナナミ大尉と一緒にいると嬉しくて楽しい気分になる。きっと感情っていいものなんだと思う。
もっと感情を持ちたい。ラーメンも食べてみたい。このところ我々は戦闘で勝利することが多くなった。ナナミ大尉の運んできた武器のおかげだ。僕も地球からの宇宙船が到着したらアラルトライフルを貰えるらしい。いよいよ実戦に出るのだ。ナナミ大尉と一緒なら大丈夫だ。早く活躍して第1政府を倒したい。何よりも平和なMM378を取り戻したい。ナナミ大尉は地球に大切な人がいると言っていた。どんな地球人なのだろう? 会ってみたい」>>
ナナミ大尉はジョン二等兵の日記を読みながら涙を流した。悲しくて仕方なかった。周りにいる兵士達は不思議そうにナナミ大尉を見ている。泣くとういう行為が理解できないのだ。
今回の戦闘で逃げ遅れた敵の捕虜達がチェーンで繋がれ、一列になって歩いている。その数は50個体程だ。見張りの兵士が4個体、銃を構えて捕虜達を連行している。
「おい、お前たちがジョン二等兵を殺したんだな! 許せん! 許せない! 許せないの!」
ナナミ大尉は捕虜に銃を向けた。
「ナナミ大尉、どうしたのですか?」
見張りの兵士たちが不思議そうに見ている。
「貴方達の事が許せないの! 同じ目に遭わせるの! 銃殺なの!」
「ナナミ大尉、捕虜の処刑は平和条約で禁止されてます」
見張りの兵士が注意した。
「そんなの関係ないの! 許せないの! 皆は悔しくないの? ジョン二等兵は勝利食を楽しみにしてたの。白米とお味噌汁と鮭の缶詰を楽しみにしてたの。地球にも行きたがってたの。ラーメンを食べさせてあげたかったの! 貴方達はその未来を奪ったの! 許せないの!!!」
ナナミ大尉は続けざまないショットガンを2発発砲した。一回目の発砲で一人の捕虜の腕を弾丸が抉った。2回目の発砲はバックショット弾でもう一人の捕虜の足に弾丸が3発食い込んだ。捕虜は二人ともその場に倒れたがその大きな一つの目は七海大尉を見つめて怯えている。
撃たれた捕虜はそれぞれ腕と脚から真っ青な体液を流している。MM星人の体液は青いのだ。
「ナナミ大尉、いったいどうしたのですか? 感情ですか? 冷静になって下さい、戦争です、仕方ないのです」
通りかかったジーク少尉がナナミ大尉を後ろから羽交い絞めにした。
「だから戦争はイヤなの!!! 第1政府が侵略を止めればいいの! みんなで平和に暮らせばいいの。地球侵攻なんて許さないの・・・・・・」
ナナミ大尉は力なくその場に両膝をついた。この出来事の噂はキャンプ中に広がった。徐々に感情を持ち始めたレジスタンスキャンプの兵士達に不安が広がった。感情を持つとMM星人が最も大切とする合理的判断が鈍るという噂が広がったのだ。