続々編の予告編2 Chapter2 「千客万来」
私とアイドルエイリアンの続々編の執筆を開始しました。投稿はまだ少し先になりますが、予告編として2話ほどアップします。『JKアサシン米子の第4部』の執筆も開始しましたので後日投稿を開始します。ご意見、ご感想があれば遠慮なくお寄せ下さい。
予告編2 Chapter2 「千客万来」
開院して1カ月、集患は上々だった。事前に配ったチラシの効果もあって、色んな悩みを持った人間が半信半疑で診療を受けに来た。初診料は2,000円でカウンセリングは30分5,000円。ポングを含んだ施術は難易度に応じて30分8000円~15000円の価格設定にした。七海の丁寧なヒアリングと誠実な姿勢が好評で、患者は満足そうに帰っていった。特に男性の患者は七海の美貌に目を輝かせ、毎週通って来る患者もいた。若い男性からお年寄りの男性まで、七海目当てに通って来る患者がどんどん増えている。宣伝したわけではないが、写真集の累計発行部数50万部を超える『かつての謎のモデル天野七海』がクリニックを開業し、自ら診療を行っているという情報がネットに出回ったせいで来患者は増える一方だ。週刊誌などからの取材依頼も多いが全て断っている。
ポングを使った施術は確実な効果があるので、患者は喜んで通ってくる。通ってくる患者の悩みは千差万別で、様々な恐怖症に加え、『不安症』、『緊張症』、『自己肯定感が低い』などメンタル的なものが多かった。仕事のストレスや学校や家庭での悩み等の相談事も多い。七海はイヤな顔一つしないで、熱心に聞き入り、親身に対応した。講習の成果もあるのだろうが、欲の無いMM星人が醸し出す雰囲気と優しい笑顔が患者の心を解していった。ポングによる暗示は効果が高く、高所恐怖症や暗闇恐怖症等のはっきりした症状には効果がすぐに現れ、患者は驚きなががら七海に感謝している。やる気の出る暗示も評判がすこぶる良かった。一般的に治療が難しいとされる『アルコール依存症』や『ギャンブル依存症』が一発で治ったと、患者の家族がクリニックを訪れ、泣きながら七海にお礼を言ってくる事もあった。
私は七海の助手や受付、経理や総務的な仕事も行った。会計士や税理士は橋爪さんが良心的な所を紹介してくれたので専門的な事は相談すればいい。唐沢にも施術の助手や受付を手伝ってもらっている。
唐沢は私が画像生成AIで作った17歳のアイドルの姿だった。健康的でカワイイ系全開のアイドルだ。七海の顔を作った経験とその時のデータを活かせたので僅か3時間で作った顔だったが、唐沢には1ヵ月掛かったと言ってある。唐沢はMZ会の仕事もあるのだが、顔を作る事を交換条件に休日を利用して週に2日手伝いに来ている。私が作った顔が気に入ったようで機嫌よく手伝ってくれている。最近では唐沢目当ての患者も多く、唐沢も気分が上がっている。唐沢もそろそろアイドルのオーディションを受けようと思っているらしく、仕草や表情がやたらとアイドルチックになってきている。唐沢の正体を知っている私でさえカワイイと思ってしまう。写真集が出版されたら買ってしまいそうで怖い。そんな唐沢も、かつてはゼロ戦のパイロットで、アメリカ軍機を40以上撃墜した撃墜王だったのだ。人生何が起こるかわからない。特にMM星人は寿命が800年と長いので猶更だ。
私と七海と唐沢と佐山さやかは、業務終了後に待合室でお茶を飲みながら打ち合わせをしていた。
「大盛況ですね。売上は事業計画書の目標の150%で利益は130%です。それにお金だけじゃなくて、患者さんがみんな喜んでくれています。この仕事、やりがいを感じますよ」
佐山さやかが嬉しそうに言った。
「私も自分で稼げるのは嬉しいの。この星で自立できるなんて夢みたいなの。それに患者さんが幸せになってくれるなら、こんなにいいことないの」
七海も凄く嬉しそうだ。美しい笑顔が輝いている。出会った頃は無表情だった七海は、最近、実にいい顔になっている。
「七海さんの施術が的確なのがいいんですよ。真摯な姿勢も好感が持たれてます。それに男性の患者さんは七海さんの美貌が目当ての人が多いですね。私もいろんな患者さんに受付でプレゼントを渡されました。もちろん受け取ってません。丁寧に断ってます。でも嬉しいですよ。皆さんにカワイイって言われるんです。スマホで写真を撮りたいっていう患者さんも沢山います。断ってますけどね。うふふ、困っちゃう。うふふ、うふふ、うふふふ」
唐沢は上機嫌だ。クリニックの方針として患者から診察料以外の物を貰うことはNGにしている。たとえ飴玉一つでも受け取るのはNGだ。これは七海のポリシーでもあった。MM星人の真面目さなのかもしれないが、私は大いに賛成だ。
「たしかにプレゼントやお土産を持ってくる患者さんは多いよな。七海や唐沢さんファンクラブみたいな患者さんがいるのも事実だけど公平に誠実に接するのがクリニックのポリシーだ」
「そうですよね、キャバクじゃないんですから。下手に受け取るとプレゼント合戦になりますよ」
佐山さやかが言った。
「そうだな。男はそういう下らない事で張り合うんだ。そして高価なプレゼントを受け取ってもらったらそれに見合った待遇や見返りを求めるんだよ」
「タケルさん詳しいですね」
唐沢が言った。
「まあキャバクではずいぶん金を使ったからな。でも金持ちが豪華なプレゼントを渡すんで勝負にならないよ。それにキャバ嬢の方が何枚も上手だ。結局男は上手いように転がされて貢いでるんだ」
「このクリニックではみんな平等なの。みんなに安心して来て欲しいの。だからプレゼントは受け取ったらダメなの」
七海は本当に欲が無い。私は七海と一緒にいると心が洗われる気がする。
「七海ちゃん、明日はお休みだから買い物に行かない? 開院からずっと忙しかったから息抜きも必要だよ。お洒落な服を買って、美味しいものも食べようよ。エアガンも見に行きたいね。『東京マルオ』から『沢村米子バージョン』のSIG‐P229が出たんだよ」
佐山さやかが言った。七海はこの1カ月、実に一所懸命働いた。モデル活動の時は受け身だったが、今回は主体的に動いている。きっと天職なのだろう。MM378では最強の軍人だった七海が地球では人を救っている。なんとも不思議である。
「さやかおねえちゃん、明日は猫を探すから買い物には行けないの」
「猫?」
佐山さやかが驚くように言った。
「お婆さんの患者さんがいるんだけど、大事に飼ってた猫が行方不明になったみたいなの。それで気分が塞いでるみたいなの。ポングで猫の事を忘れさせて、暗示で気分を上げる事もできるけど、それはダメなの。本当の解決ならないの。猫が見つかればお婆さんは本当に元気になれるの」
「ああ、あのお婆さんか。最近元気が出ないって言ってたな。あのお婆さんの猫を探すのか? 結構な手間だぞ。そこまでは診察や施術の範囲じゃないだろ」
私は苦言を呈した。私は診察で、元気が出ないと言って落ち込んでいた老婆を思い出した。
「でも猫が見つかればお婆さんは元気になるの。なんとかしてあげたいの」
七海が言った。
「七海ちゃんは真面目で優しんだね。猫探しか。どうすればいいんだろう。水元さん、なんかいい案ないですか? 資格持ってましたよね?」
「猫を探す資格なんか持ってないよ。俺が持ってのは情報処理とプロジェクトマネジメントの資格だ」
「肝心な時に役に立たないですね」
佐山さやかのいう事は尤もだ。IT系の資格なんて人生の狭い範囲でしか役に立たない。
「インターネットで調べたの。猫を探す専門の業者もあるけど料金が高いの」
七海はそう言うとタブレットPCを私達に見せた。業者のHPには猫探しのコツや、猫の特性などが掲載されていた。
「意外と行動範囲は狭いみたいだな。でも側溝の中や床下を調べるにはファイバースコープやモーションセンサーが必要みたいだぞ」
「タケルさん、MZ会の建築や土木関係の部署に相談すればファイバースコープは借りられるかも知れませんよ」
「そうなのか? MZ会はいろいろやってるんだな」
「国家を創るくらいの組織ですよ。建築部署は観音崎の施設の再建工事や鬼神島の工事なんかに参加している部署です。結構本格的なんですよ」
「それは有り難いの。貸して欲しいの」
「七海さんのお願いなら大丈夫ですよ。MM星人の信者にとって七海さんはMM378と地球を救ったヒーローのナナミ大尉なんです。きっと快く貸してくれますよ。さっそく担当部署にメールを送っておきます。明日には返信があると思います」
「七海はMM星人にとってヒーローなのか」
私は思わず呟いた。
「はい、モデルの天野七海ではなく、ナナミ大尉として有名です。ナナミ大尉のお願いならみんな耳を貸してくれると思います」
私は改めて七海の凄さを知った気がした。地球人にとっては七海はモデルだが、MM星人にとってはMM378と地球を救ったヒーローなのだ。
「七海ちゃん、私も猫を探すの手伝うよ。専門業者のサイトを読んで要点をまとめておくよ」
「さやかおねえちゃん、ありがとうなの」
「仕方ないなあ。猫探しやるか。でもどんな猫なんだ?」
私の覚悟を決めた。
「明日の朝8時にお婆さんがクリニックに猫の写真を持ってくる事になってるの。その時詳しい特徴も聞くつもりなの」
「へえ、じゃあ10時くらいから猫探し始めるか」
見つかるかどうか分からないが、やれるだけの事はやってみようと思った。
「私も10時来ますよ」
佐山さやかが言った。
「じゃあ私も10時来ます。人数は多い方がいいですよね」
唐沢も手伝ってくれるようだ。明日は休日だが、忙しくなりそうだ。七海の誠実さに対してイヤとは言えなかった。むしろ力になりたいと思った。佐山さやかと唐沢も同じ気持ちだろう。この仲間は良い繋がり方をしているのかもしれない。お互いを思いやる気持ちがあれば、生物としての種を超えて、知的生命体である地球人と宇宙人は仲間になれるのだ。
翌日、私は9時半にクリニックに入った。丁度お婆さんがクリニックを出る所だった。
「本当にすみませんねえ」
お婆さんが七海に深々と頭を下げた。
「見つかる保証はないけど、一生懸命探してみるの。仲間もいるの。頑張ってみます」
七海が頭を下げたので私も頭を下げた。お婆さんは整った身なりをした品のある老婆だった。
「七海、今の人が猫を探してるお婆さんだよな?」
「智子さんなの。75歳で一人暮らしなの。それに私達の住んでる小石川5丁目に住んでるの。だから探すのも簡単かもしれないの」
智子さんから預かった写真を見ていていると佐山さやかが現れた。佐山さやかも写真を覗き込んだ。
「トラ猫だ。よく見るタイプだよな」
私は見たままの感想を言った。
「これは茶トラですね。薄い茶色の縞が特徴です。一般的に茶トラは人懐っこくて、穏やかで、臆病とされてます」
「佐山さん詳しいな」
「ネットでいろいろ調べたんです」
「智子さんからヒアリングした情報を纏めたの」
七海がプリントアウトした用紙を配った。智子さんからヒアリングした猫に関する情報は以下の通り。
・名前:『ちい』
・年齢:2歳
・性別:雄
・性格:人懐っこく活発
・好物:ミート系ドライキャトフード、マグロの刺身
・その他:去勢済み。頻繁に外出するが暗くなる前には必ず家に戻ってくる。飼い主の呼びかけに反応する。
「頻繁に外出してるんですね。なんで家出したんでしょうね。猫の家出の原因は、好奇心が強くて外に興味がある場合や発情期にパトナーを求める場合らしいですけど、日頃から外には出てるし、去勢もしてますよね。猫は体調が悪い時も隠れる習性があるみたいんなんで心配ですね」
佐山さやかが言った。
「智子さんが猫を呼ぶ声を録音したし、いつも食べてる餌も貰ったから準備はいいと思うの。早く探したいの」
七海が言った。クリニックのドアが開いて唐沢が入って来た。その姿は10代のアイドルそのもので、髪型はポニーテールで、やたらとキラキラした服を着ている。
「タケルさん、MZ会から機器を借りて来ました。手伝ってくれる有志も3人いますから機器の扱いも大丈夫です。外のワゴン車に機器が積んであります」
外に出るとクリニックの前にシルバーグレーの大型ワゴン車停まり、その前に3人の作業着姿の男達が立っていた。3人とも体格が良かった。
「タケルさん、七海さん、MZ会の建築部署の方々です。3人とも地球生まれのMM星人です。
昨日関連部署にメールを送ったら今朝その部署の課長から返信があって、3名が手伝ってくれる事になったんです」
「水元と申します皆さん。ご協力ありがとうございます」
私はどう対応していいのか分からなかったがとりあえず頭を下げた。MZ会のMM星人は何人か知っているので緊張する事は無かったが、宇宙人である事には変わりないのだ。
「天野七海です。本当にありがとうございます。凄く助かります。嬉しいの」
七海も挨拶した。
「とんでもありません。この話が部署内のグループメールで回って来たんですけど、是非手伝いたいとこっちが勝手に志願したんです。気になさらないで下さい。私は刈谷と申します」
「私は青山です。私も志願しました。ナナミ大尉を一度見てみたかったんです。こうしてお手伝いできるなんて夢のようです。機器の取扱いには慣れてますんで頑張ります」
「私は黒川といいます。私も志願しました。戦況状況ニュースとナナミ大尉の活躍を描いたドキュメンタリー戦記小説を読んで活躍は存じ上げていました。まさかご本人に会えるチャンスがあるなんて思ってもいませんでした。どんどん使って下さい」
3人の男達は熱っぽく挨拶した。その目は輝き、生き生きとしていた。
「じゃあ遠慮なく手伝ってもらうの。猫探し、よろしくんなの。早速だけどファイバースコープとモーションセンサー担当の人を決めて欲しいの。」
「機器の操作は青山が適任だと思います。ナナミ大尉、できれば指揮官のように命令口調で指示して下さい。お願いします」
刈谷が言った。
「わかったの。まずは公園を探すの。猫の行動範囲は一般的には1Km程度なの。その範囲の公園をピックアップしたから手分けして探すの。飼い主が猫を呼ぶ声を録音した音声を共有サイトにアップしたからダウンロードして再生するの。好物の餌も用意したから各自適量携帯して公園に撒くの。ファイバースコープとモーションセンサー担当はここで待機。担当はアナライザーと命名するの。私もここで指揮を執るからもし側溝や入れない場所に猫の気配を感じたら私に連絡するの。すぐにアナライザーを急行させるの。以上、質問はある?」
「うおーー、小説と同じだ。テキパキとした明確な指示、まさにナナミ大尉だ!」
刈谷が激しく興奮している。七海は確かにいつになくテキパキとした話し方だった。MM378で指揮官だった様子が僅かながら想像できた。




