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続々編の予告編1  Chapter1 「七海クリニック開院」

私とアイドルエイリアンの続々編の執筆を開始しました。投稿はまだ少し先になりますが、予告編として2話ほどアップします。『JKアサシン米子の第4部』の執筆も開始しましたので後日投稿を開始します。ご意見、ご感想があれば遠慮なくお寄せ下さい。



予告編1 Chapter1 「七海クリニック開院」

 

 6月の初旬、朝から雨が降っていた。七海は窓を開けてずっと外を見ている。

「七海、ずっと外を見てるけどどうしたんだ?」

「雨を見てるの、雨は不思議なの。MM378は雨が降らないの」

「そうか、そろそろ梅雨だな。雨が降らないMM378の方が不思議だよ」

「だからMM378では水が貴重なの。雨を見ていると落ち着くの。雪も不思議なの。雪を見ると嬉しくなるの」

七海は雪が降ると子供のようにはしゃぐ。

「東京はめったに雪が降らないからなぁ。でも冬の豪雪地帯は大変なんだぞ」

「うん、知ってるの。ニュースで観たの。でも季節は興味深いの。寒い日がだんだん暖かくなって、暑くなって、涼しくなって、また寒くなるの。桜が咲いたり、紅葉が色づいたり、食べ物の旬も季節で変わるの。お祭りや、花火大会や、クリスマスにお正月なんかのイベントも季節毎にあるの。凄く興味深いの。MM378には無い文化なの」

七海は延べ3年ほど地球に住み、日本の季節的な行事は一通り経験している。

「日本は特に季節がはっきりしてるんだよ。日本の文化は季節の影響を大きく受けてるんだ。MM378に四季はないのか?」

私は素朴な疑問を口にした。如何に遠い星とはいえ、惑星であるならば恒星との位置関係で四季はあると思った。

「あるけれど、体感できるほどじゃないの。その代わり、一日の寒暖差が激しいの」

「俺は季節がある地球が好きだよ。特に日本の四季は素晴らしいんだ」

「うん、偶然だけど日本に着陸してよかったの。四季があって、食べ物も美味しくて、タケルとの思い出も季節毎にあるの。この国は素敵なの。Youtubeで見たけど、日本に来た外国人が日本の事を凄く褒めてるの。街の美しさや交通機関の便利さや、日本人の礼儀や規律や優しさ。日本の歴史的な建造物や食事とかみんな感心してるの。なんだか私も嬉しいの」

「七海はすっかり日本人だな」

「外国に行ってみたいの。きっと日本の良さがもっと分かると思うの」

「16万光年離れた星から来たのに、地球の外国に行きたいなんて不思議だな」

「うん、不思議なの」


 七海はセラピーの開業に向けて勉強している。メンタル系や医療系のセラピストになるには大学院や大学で必要な単位を修得し、国家資格の『理学療法士』や『臨床心理士』などを取得する必要がある。アロマテラピーやカラーテラピー等は講座の受講と民間資格が必要だ。七海が開業しようとしているのは民間資格で開業できる、リフレクソロジストだ。表向きはストレス解消や健康増進を謳っているが、かなり特殊な技能を使うつもりだ。MM星人の七海だけが使用できる『ポング』を使ったセラピーだ。ポングはMM星人の軍人のみが使える脳波を使った攻撃方法であり、その強さによっては相手の脳を破壊して死に至らしめる事ができる。出力を弱めて使用すれば相手を一時的に気絶させたり、記憶を消したりできるのだ。また、使用する際に暗示をかければ、その暗示を脳に定着させる事が可能である。高所恐怖症の人間に対して、『高い所は怖くない』との暗示を含めたポングを使用すれば潜在意識に刷り込まれ、高所恐怖症が軽減されるのである。幸福感を与える暗示を与えれば、多幸感を感じる事ができる。

七海はリフレクソロジストの民間資格の取るためにセミナーにも通っているのだ。MM星人の学習能力は非常に高く、特に苦労してる様子は見えない。日本語の読み書きも引き続き勉強している。何よりも七海自身が自発的に考え、この話を持ってきた時にはびっくりした。MM378では飛び抜けて優秀な軍人で、MM378の平和を取り戻し、MM378の第一政府の侵略から地球を守った七海がこの星でしっかり根を張って平和に生きようとしているのである。七海はモデルとしての写真集が50万部以上売れたが、芸能関係には興味が無いようだ。セラピーの開業資金については七海がモデルで稼いだ7000万円がある。居抜きの店舗でも探せば開業資金は足りるであろう。また、話を聞いた橋爪さんが保証人になってくれるとの事である。資産家の橋爪さんが保証人なら不動産会社もリース会社もOKを出すはずだ。橋爪さんは著名な写真家であると同時に、誰もが知る総合商社『ハシコー』の創業者の息子で役員でもある。また、お兄さんがハシコーのオーナー経営者でもあるのだ。写真家が本業であるが、資産家として本業を遥かに超える信頼を世間から得ている。


 不動産屋から連絡があった。希望に近い物件が見つかったのだ。元々は皮膚科が入っていたテナントだが、医師が高齢で廃院したことにより空いたようである。場所は文京区小石川2丁目だ。最寄り駅は丸の内線の『後楽園』と三田線の『春日』で、私と七海が住んでいる小石川5丁目からは丸の内線で1駅だった。小さな受付と待合室と診察室はそのまま使用する事にした。診察室には七海の使用する机と椅子、患者用の椅子と診察ベットを入れる予定だ。七海は無事に資格を習得し、事は開院に向けて順調に進んでいる。診察時間についても決めたばかりだ。

平日   午前9:00~12:00 午後は13:30~19:00

土曜日 午前9:00~12:00 

    日曜日、月曜日  休診  


 「七海、準備の方はどうだ? あと1カ月でオープンだろ」

「大丈夫なの。ヒアリング技術の研修にも行ってるし、いろんなクリニックのカウンセリングも受けて参考にしてるの」

「具体的にどんな診察をするつもりなんだ?」

「患者さんの悩みや不安を聞いて、どんな暗示を掛ければ効果的か判断してポングを使つもりなの」

「ヒアリングはいいとして、ポングの効果がどこまで有効か心配だな」

「タケルで試してみたいの。効果を判定してほしいの」

七海が言った。私は少し不安であったが、実験台になることにした。いろいろ考え、断酒するための暗示を掛けてもらう事にした。最近酒量が増えており、休肝日も作れていない。血液検査の肝機能の数値は基準値をかなり超えている。何回か断酒に挑戦したが上手くいかなかった。


 七海は私にポングを使う際に『酒は不味い』、『アルコールを飲むのは愚かな行為だ』というメッセージを私の脳に植え付けたようだ。ポング自体は痛みが無く、落ちるように一瞬で意識が無くなる。そして効果は絶大だった。試しに大好きな焼酎を飲もうしたが、グラスを口に運ぶのに躊躇した。飲む前から『不味い』というイメージが頭の中を覆った。アルコールは脳内の報酬系神経回路を活発にすることで依存度が増して行くのだが、『不味い』とういうイメージ情報が脳の報酬系神経回路を制御したようである。過去に口にしたもので特に不味かった物の記憶が再生された感じだった。また、私は犬が苦手だったのでこれも改善することにした。七海は、『犬は仲間だから怖く無い』、『犬とは意思疎通が可能』、『犬はカワイイ』というメッセージをポングで脳に焼き付けてくれた。これも効果てきめんで、以前は小型犬すら怖く、中型犬を散歩させている人が前から迫ってくると慌てて角を曲がったり引き返えしたりしていた。施術を受けた後はこちらから犬に近づいて頭を撫でたい衝動に駆られるのである。実際に撫でてみると気持ちが通じるのか、犬も喜んでいるように見える。まったく怖くなかった。今まで怖がっていた事が不思議に思えるくらいだった。私は実家の家業を手伝うという名目で半年間会社を休職した。


 私と七海は開院準備のためにクリニックの診察室の備品の点検をしていた。七海はナース服のような体にフィットした白衣を着ていた。スカートの丈は私のリクエストで少し短めだ。実に似合っている。写真集の1ページのようで、清楚で知的で、それでいて美しくてカワイイという反則級のコスプレだ。いや、コスプレではない。実務服だ。

「七海、凄い効果だぞ! あんなに怖かった大型犬が可愛く見えるんだ。このセラピーは流行るかもしれないぞ。効果はどれくらい持続するんだ?」

「高所恐怖症とかの恐怖系や苦手系を克服する暗示は2~3年は効果があるの。やる気が出たり、断酒とかダイエットとかの暗示は1年位なの」

「へえ、俺の断酒も1年は続く訳だな。それも我慢するんじゃなくて酒自体を欲しいと思わないのは凄いよ。きっと健康になれる。犬を散歩させてる近所の人達とも仲良くなれそうだ」

「それは良かったの。苦手な物を克服できれば生きやすくなるの。でもいきなり効果が出ると怪しまれるから、何回に分けて、少しずつ効果が出るようにしようと思ってるの」

「それはいいな。少しずつ効果が出ればリピートで通ってくれるだろう」

クリニックの玄関の扉が開いて佐山さやかが入ってきた。佐山さやかもいろいろと開院準備を手伝ってくれている。実際に開業したら休日は受付なんかも手伝ってくれるとの事だった。

「七海ちゃん、いよいよ来週に開院だね。白衣も似合うよ。休みの日は手伝うからね」

「さやかお姉ちゃん、ありがとうなの。さやかお姉ちゃんも苦手な物の克服したければ暗示をかけてあげるの」

「佐山さん、レズビアンを止める為の暗示をかけてもらったらどうだ?」

私は何気なく言った。

「それはイヤです。たしかレズビアンは一般の人から見れば特殊に見えるかもしれませんが私は悩んでるわけじゃありません。むしろ自分の個性だと思って大事にしたいです」

佐山さやかはきっぱりと言った。

「私も無理に変える必要は無いと思うの。MM星人は性別が無いからよく分からないけど、それがさやかお姉ちゃんの個性で本当の1姿ならそれでいいと思うの」

「七海ちゃんありがとう。私だって今さら他の人を好きになれないよ。男とか女とかそんなのどうでもいいの。私は七海ちゃんとの時間を大切にしたいんだよ」


いよいよ開院日を迎えた。玄関の前にはお祝いの立て花が並んでいる。ひと際大きな立て花は『ハシコー株式会社』だった。その横には橋爪さんの設立した『オフィス橋爪クリエイト』の立て花が並んでいる。その他には『MZ会関東支部』、『秀優堂』、『龍王軒』、『寿司 粋』の立て花が並んでいた。どれも七海を応援してくれる気持ちが嬉しかった。また、立て花とは別に『胡蝶蘭』も届いていたので受付に飾る事にした。七海は胡蝶蘭の花びらをチョンチョンと突いて笑顔で嬉しそうにしている。美しい笑顔だった。私はその笑顔に見入ってしまった。大マゼラン星雲の惑星MM378から逃亡してきた宇宙人が地球でクリニックを開院するのはなんとも不思議だ。そしてそれを応援してくれる地球人がいるのも不思議だった。


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