Chapter6 「前線本部」【MM378】
本作品『続 私とアイドルエイリアン『MM378戦記:革命士官ナナミ大尉』は、前作品『私とアイドルエイリアン』の続編です。本作品だけでもお楽しみいただけますが、前作品を読んで頂けると、より楽しんでいただける事とと思います。本編は週に2、3話(Chapter)を投稿していく予定です。ご愛読の程、宜しくお願いいたします。感想等書いて頂けると嬉しいです。
Chapter6「前線本部」【MM378】
「大尉、敵の前哨陣地です。一個中隊が配備されています。敵は脳波防御シールドを装着していると思われます。ジャミンングも強力です。近辺にはギャンゴも2頭いるようです。物理攻撃でいきましょう。敵の銃は『MM-01』だと思われます」
ジーク少尉が報告した。ナナミ大尉は敵の陣地を電子双眼鏡で見ていた。距離は300m。塹壕と小さな建物がいくつか見える。敵の配置も良く見える。第1政府の兵士の戦闘服は黒色である。茶色の大地では目立っている。黒い色は相手を威圧することが目的のようだ。連合政府軍とレジスタンスの戦闘服は保護色のオレンジブラウンだ。ナナミ大尉は敵の兵士達の動きから練度はあまり高くないと判断した。練度はB~Cクラス。最前線とはいえ敵は押し込まれている。士気も高くないはずだ。MM-01は第1政府が開発した銃だが単発式で命中精度もあまり良くない。
『味方【人数×武器係数×練度×士気×配置及び陣地係数】 対 敵【人数×武器係数×練度×士気×配置及び陣地係数】』
七海大尉は地球で覚えた『ランチェスター理論』を応用した独自の公式を使って計算した。キルレシオは1対8以上、勝てると判断した。武器係数と練度に大きな差がある。敵陣地までの地形も悪くない。ナナミ大尉は白兵戦を主体にすればキルレシオはさらに高くなると考えた。ナナミ大尉は自身の戦闘能力だけでなく『戦術眼』も優れている。戦術眼はムスファとして重要な能力なのだ。80歳の時、役割の適性を軍人と判定された後、80歳~100歳までの訓練期間でムスファの称号を得たのは飛び抜けた戦闘能力と天才的な戦術眼が評価されたからである。判定会では教授や教官達の満場一致で『ムスファ』のロールネームを獲得したのである。満場一致は過去に例を見ない快挙であった。
「あの陣地を占領しないと地球からの宇宙船が安全に着陸できないの。奥にある主要陣地は第6師団が全兵力の1万2千個体で攻撃するから手を出さなくていいの。他の前哨陣地や小型陣地も第7師団と第9師団が占領するの。私達は奇襲の第一波なの。敵を混乱させるの。私達の攻撃が成功したら第6、第7、第9師団が攻撃を開始するの。だから絶対に失敗は許されないの」
ナナミ大尉は自身に言い聞かせるように語った。
「ナナミ大尉、フォーメーションの指示をお願いします」
ジュディー大尉がナナミ大尉に指示を仰ぐ。ナナミ大尉はレジスタンスで連合政府軍の正式な軍人ではない。自分の部隊を持たない特別任務の大尉であるが、今回の作戦では依頼を受け、第8師団配下の中隊の戦闘指揮を執っている。各小隊の小隊長であるジーク少尉、ジャック少尉、レックス少尉も集まって来た。この3少尉もレジスタンスでありながら、今回は連合政府の作戦に参加している。ナナミ大尉の提言によるものだった。3少尉の能力は高く、ナナミ大尉に対する信頼と忠誠も絶大だった。
「狙撃隊は狙撃準備なの、敵の将校と士官を狙うの。第1小隊と第2小隊は合図と同時に前進なの、できるだけ散開するの、敵陣地の100m前からは匍匐前進なの。敵は単発銃だから頭を上げなければ大丈夫なの、修正に時間がかかるの。とにかく頭を低くするの。50mの距離になったら射撃をするの。第3小隊が射撃を始めたら敵陣に突入なの。白兵戦なの。イヤになるくらい訓練したから大丈夫なの、とにかく喉を狙うの。訓練で教えた通りなの。次に言うポイントを攻撃開始前に部下達に伝えるの。『まずは銃床での打撃かラリアットで喉を狙うの。掴み合いになったら目を3本の指で穿って押し倒して馬乗りになって掌で喉を潰すの』今話したのが白兵戦のポイントなの。小隊長、理解した?」
「はい、第1小隊内でブリーフィングを実施します」
「第2小隊も実施します」
ジーク少尉とジャック少尉はナナミ大尉の指示を理解した。
「ブリーフィングは第1小隊と第2小隊合同でやった方いいの」
「了解しました」
「第3小隊は迂回して右側面から攻撃するの、建物の陰からセミオートで射撃するの。フルオートは禁止なの、弾のムダだし、味方への誤射が増えるの。私達はギャンゴをおびき寄せて始末するの。今回は新しいアイテムを試すの。80分後に攻撃開始。以上なの」
「第3小隊、セミオート射撃の件、了解しました」
第3小隊のレックス少尉が答えた。
ナナミ大尉は左腕の腕時計を確認した。Hamiltonのカーキフィールド:ブロンズ、地球の腕時計である。MM378と地球では時間の単位が違うが、ナナミ大尉は頭の中で単位の変換を行っている。不便ではあるがナナミ大尉にとっては大事な腕時計でお守り替わりでもある。また、地球での大切な思い出の証でもある。ナナミ大尉は腕時計のガラス面に『軽くキス』をした。戦闘前のルーティンとなっている。タケルとのキスを思い出した。胸がキュンと痛くなった。『また、したいの』。
《【発:特任 ナナミ:大尉】【宛て:第1小隊、第2小隊、第3小隊】【同報:不可】
攻撃開始!》
『ナナミ大尉は攻撃開始のメッセージを発信した』
狙撃隊の発砲と同時に第1小隊と第2小隊は前進を開始した。狙撃により敵の将校が3個体倒れた。狙撃銃はMZ会から提供された『M110 SASS』でセミオートである。口径は7.62mm、スコープ倍率は3.5~10倍の可変倍率である。第3小隊は右に展開した。第3小隊のセミオート射撃は正確だった。第1政府の銃、『MM-01』は単発式で1発撃つ毎に弾を込めるため、連合政府の『AS―01』アサルトライフルに撃ち負けている。散開していた第1小隊と第2小隊は競うようにして脱兎のごとく敵陣に入り込み白兵戦を展開した。兵士達はナナミ大尉直伝の格闘術で次々と敵を倒した。ナナミ大尉は戦況を見届けテレパシー送った。
《【発:特任 ナナミ:大尉】【宛て:第1小隊、第2小隊、第3小隊】【同報:不可】
我、ギャンゴと戦う、2時間後に小マップ:R.8(エイト)で合流せよ》
『ナナミ大尉はギャンゴ討伐戦の開始と合流命令を発信した』
ナナミ大尉と3個体の兵士はギャンゴをおびき寄せる誘引周波数発信装置を起動した。ナナミ大尉と3個体の兵士はそれぞれワイヤー銃を3丁背中に背負っている。ワイヤー銃はライフル型である。単発式で次のワイヤーを装填するのに1分以上かかるため、連射できるよう1個体3丁を装備している。3時の方角に土煙があがった。ギャンゴの突進だ。突進してきたギャンゴ2頭は誘引周波数装置の手前で立ち止まって辺りを見回している。体色は真っ赤だ。岩陰の兵士達は息を潜めているが生きた心地がしない。ギャンゴ迄の距離は30メートル。
《ガスマスク装着、催涙弾の投擲準備をするの》
ナナミ大尉が至近距離用簡易テレパシーで兵士達に指示を送った。
《投擲用意、3、2、1、今!》
ナナミ大尉の合図で兵士達3人が催涙弾を投擲した。
『ボムッ』 『ボムッ』 『ボムッ』
催涙弾が鈍い音をたてて破裂した。緑色のガスが発生し、ギャンゴを包んだ。
『ギイ、ギイーーーー、ギギッ、ギギッ、ギギッ』
2頭のギャンゴは真上を向いてヨロヨロしている。体色は灰色になったり白くなったりしている。混乱状態だ。
《ワイヤー銃、各個に撃つの!》
七海大尉と兵士達は岩陰から躍り出ると狙いを付けてワイヤー銃を撃った。
それぞれのギャンゴの足に2本ずつのワイヤーが絡まった。異変を感じたギャンゴは走り出そうとしたがその場に倒れ込んだ。横倒しなったギャンゴは元気がない。催涙ガスが効いているようだ。ナナミ大尉は素早く一頭のギャンゴに近づき、頭頂部を狙える位置に移動すると狙いをつけた。
『ドッ!』
低い銃声が荒野に響いた。ギャンゴは横になったまま脱力して絶命した。
「貴方も撃ってみるの、90度の角度で当てるの」
ナナミ大尉は銃のボルト引いて排莢と次弾装填すると近くにいた兵士に銃を渡した。もう一頭のギャンゴの頭は地上1メートルの高さにあり、動きは少ない。兵士は慎重に近づき、頭頂部に狙いを付けると引き金を引いた。銃声が響いた。発射の反動で銃身が跳ね上がる。
「見事なの! それでいいの。今回は催涙ガスが効いたから楽だったの。ギャンゴが暴れてる時は注意するの。ワイヤー銃で倒してから30秒で撃てる位置につけなかったら、迷わず逃げるの。これは絶対なの! ワイヤーは1分が限界なの。逃げないとやられるの。『逃げる門には福来る、逃げて兜の緒を締めよ』なの。地球の諺なの、大きな声で復唱するの」
「逃げる門には福来る、逃げて兜の緒を締めよ!」
兵士は大きな声で復唱した。
「それでいいの。地球の諺はためになるの」
ナナミ大尉は満足そうだ。ナナミ大尉の諺は相変わらず間違っているが、この星では注意する者がいない。
「大尉、ありがとうございました! 初めてギャンゴを倒しました」
「これであなたもギャンゴキルスコア1なの、胸にギャンゴキルマークを着けるといいの」
「はい、光栄です。ギャンゴキルマークを胸に着けるのが念願でした」
ギャンゴを倒すと戦闘服の胸にギャンゴキルマークを着けることができる。撃墜マークのようなイメージだ。マークはダチョウのようなギャンゴのシルエットに赤でバッテンを書いた絵柄で大きさは1円硬貨程だ。ナナミ大尉は胸に8つのギャンゴキルマークを着けている。今回で9つになるだろう。ギャンゴ1頭を倒すことは敵兵100個体を倒したのと同じ価値とされている。ナナミ大尉の胸にはレンジャー徽章、山岳レンジャー徽章、格闘教官徽章、攻撃脳波超上級者徽章とギャンゴキルマークが着けられている。どの徽章も兵士達が憧れる物である。特に格闘教官徽章は金色で、白兵戦で500個体以上の敵を倒した証となっている。ナナミ大尉はこれまでに1400個体を倒している。ナナミ大尉の胸に着いたマークを見れば誰もが息をのみ、畏敬し、そして憧れる。近接戦闘のエキスパートでギャンゴ戦闘の第一人者でもある。ナナミ大尉の持って生まれた反射神経と瞬間的な判断力が強さの要因となっている。また、訓練もどの個体よりも行っている。
「大尉、ご無事でしたか」
合流地点でジーク小尉がナナミ大尉に声を掛ける。
「大丈夫なの、戦闘結果を報告するの」
「はい、敵陣地を制圧。敵の死亡は142個体、捕虜48個体。味方の損害は死亡12個体です。圧倒的な勝利です。キルレシオは1対10です。銃の性能と白兵戦の訓練の成果です」
「私達はギャンゴ2頭を倒したの、誘引装置と催涙弾が効いたの、予想以上の効果だったの、対ギャンゴ戦が楽になるの」
「素晴らしいですね。しかし噂では、1.5倍~2倍の大きさのギャンゴが確認されたようです」
「本格的に対ギャンゴ訓練を開始するの」
「大尉、私も参加します。第1政府に所属していた頃、私は大尉に鍛えられました。おかげで格闘教官の資格も得られました。まだブロンズですが、ナナミ大尉のように金色を目指します」
「MM星人はあまり殺さない方がいいの。感情を持った時に後悔するの。白兵戦よりギャンゴを倒すの」
「はっ、そうですか」
ジーク少尉はナナミ大尉の言葉を不思議に感じた。
「第1小隊はこの場所を占拠。他は撤収するの。捕虜は本部に連行するの」
【連合政府前線本部】
ナナミ大尉は連合政府軍の前線本部いた。連合政府軍前線本部は最前線から20キロ下がった場所にあった。
「ナナミ大尉、活躍は耳にしてるよ、一度会ってみたかっかった。地球人の姿か。どうも目が二つというのが慣れないな。肌の色も違う」
元第2政府のファントム中将はナナミ大尉を観察するように見ている。ファントム中将は連合政府の第6師団、第7師団、第8師団、第9師団の4つの師団を配下に置く南部方面第1軍の軍団長で前線の最高司令官でもある。
「閣下、光栄です。一刻も早く第1政府を倒す為に尽力いたします。これは『革命』だと思っています」
「ナナミ大尉が地球から持ち込んだ武器はたいへん有効だ。おかげで我が軍は攻勢に出ている。第1政府の物理攻撃兵器の前に兵士の士気は低かったが、今や我が方の兵器の方が遥かに高性能だ。兵士達の士気は極めて高い。それにナナミ大尉が倒した8頭のギャンゴの遺体は研究施設で解剖され、研究に役立っている。ギャンゴの体の構造が明らかになりつつある。噂通り、頭頂部の骨は薄いようだ。鼻の粘膜と呼吸器がアルカリ性に弱いことが判明したらしい。強アルカリ性の催涙ガスを開発中ということだ」
「催涙ガスは実戦で試しました、素晴らしい効果です。今までよりギャンゴと楽に戦えると思います」
「それは良かった。それと地球の食事や音楽もレジスタンスのキャンプでは流行っているようだな、連合政府にもぜひ広めて欲しい」
ファントム中将はナナミ大尉の行動に好意的なようだ。MM星人は基本的に変化を好まない。組織も極めて保守的であるがファントム中将は好奇心が強く、新しい物好きなのだ。
「はい、近々地球から大型宇宙船が到着します。大量の武器と食料を積んでます。地球生まれのMM星人の兵士も3000名来ます。物理攻撃兵器の戦闘に長けた猛者達です。新しい武器も運ばれてくるようです」
「それは頼もしいなあ。ナナミ大尉も引き続き兵士達の訓練と、特殊作戦に従事して欲しい。ただし無理はしないでくれ。ナナミ大尉が来て戦況が好転した。攻勢に転じている。おかげで連合政府軍の部隊間の連携が強化されつつある。兵士達にとってナナミ大尉は戦いのシンボルなのだ。もっと兵士達を鼓舞してほしい。決して戦死するような事はあってはならん」
「はっ、光栄です。地球の文化を広めてよろしいのですね? 地球の文化を広める事も『革命』なのです。MM378を変えたいのです」
「うん、大いに頑張ってくれ。ここだけの話だが、私は白米と味噌汁、それに缶詰が大好きだ。特に肉の缶詰はたまらん。それに地球のメッシュ(水)は実に美味しい。他の将軍達は敬遠しているが、もったいない話だ。音楽も実に良い。『ドウォルザーク』や『メンデルスゾーン』を聞いているとウルーンがなんともいい感じで震えるんだ。最近はウルーンが敏感になってきている。この本部にも音楽ボックスを作らせたよ。今回は新しい食品が届くらしいな」
「はい、レトルト食品です。調理済の地球の料理を温めるだけで食べられます。いろんな種類の料理があります。肉がお好きなのであればハンバーグやビーフシチューがお勧めです。カレーという食べ物も白米に合います」
「おお、それは待ち遠しいな。兵士達も士気も上がるだろう。ハンバーグにビーフシチューか覚えておこう」